【完結】恋人代行サービス

山田森湖

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第34話「美咲の誕生」

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第34話「美咲の誕生」

予定日の二日前の夜明け、陣痛が始まった。

「健一、始まったみたい」

二度目の出産だったが、やはり緊張した。

「美月、大丈夫?」

健一がすぐに飛び起きた。

「まだ間隔があるけど、確実に陣痛よ」

健太はまだ眠っていた。

「健太のことは母に頼んであるから」

「はい」

病院に向かう準備をしている間に、健一のお母さんが駆けつけてくれた。

「美月さん、大丈夫?」

「お母さん、健太をお願いします」

「もちろんよ。気をつけて行ってらっしゃい」

病院に到着すると、健太の時とは違う落ち着きがあった。

「二人目は早いことが多いですからね」

助産師の言葉通り、陣痛の進みも速かった。

「健一、そばにいて」

「もちろん」

健一の手を握りながら、陣痛の波を乗り越えていく。

「美月、頑張って」

「ありがとう」

そして昼過ぎ、美咲が生まれた。

「生まれましたよ!元気な女の子です」

美咲の泣き声が響いた。

「美咲」

涙がこぼれた。

「美しい赤ちゃんですね」

助産師が美咲を見せてくれた。健太とは顔立ちが違っていて、私に似ていた。

「美咲、ママよ」

美咲は目をつぶったまま、静かに呼吸していた。

「体重は3100グラムです」

健太より少し小さめだった。

数時間後、健太がお見舞いに来た。

「ママ、大丈夫?」

「大丈夫よ」

「美咲ちゃんは?」

私の腕に抱かれた美咲を見て、健太の目が輝いた。

「小さい」

「健太も生まれたばかりの時は、こんなに小さかったのよ」

「本当?」

健太は恐る恐る美咲に指を差し出した。美咲の小さな手が、健太の指を握った。

「握ってる!」

「美咲ちゃん、お兄ちゃんだって分かるのかもね」

健太は嬉しそうに笑った。

「僕、いいお兄ちゃんになる」

「きっとなれるわ」

一週間の入院を経て、私たちは家に帰った。

「美咲ちゃん、お家よ」

健太が案内するように話しかけている。

「これが君のお家だよ」

健一も嬉しそうだった。

四人での生活が始まった。

最初は大変だった。美咲は夜泣きが激しく、夜中に何度も起こされる。

「美月、僕も手伝う」

健一は積極的に育児に参加してくれた。

「ありがとう」

健太も小さなお兄ちゃんとして頑張っていた。

「美咲ちゃん、泣かないで」

健太が一生懸命あやしてくれる。

「お兄ちゃんが来たよ」

不思議なことに、健太があやすと美咲は静かになることが多かった。

「健太は天然の赤ちゃんあやし上手ね」

「僕、美咲ちゃんのお世話得意かも」

一ヶ月が過ぎる頃には、生活のリズムも整ってきた。

「美咲、少し落ち着いてきたね」

「はい。夜もまとまって眠ってくれるように」

美咲は健太とは違う性格のようだった。おっとりしていて、あまり泣かない。

「女の子は育てやすいって言うけど、本当ね」

健一のお母さんがお手伝いに来てくれた時に言った。

「健太はもっと活発でしたからね」

「でも美咲ちゃんも、しっかりした子になりそう」

美咲が二ヶ月になった頃、初めて笑った。

「美咲、笑ってる!」

健太が大興奮した。

「可愛いね」

健一も嬉しそうだった。

「美咲ちゃん、お兄ちゃんが面白い?」

健太が話しかけると、美咲はまた笑った。

三ヶ月の頃には、美咲は健太の存在をはっきりと認識しているようだった。

「美咲ちゃん、Hello」

健太が英語で話しかけると、美咲は手足をバタバタさせて反応する。

「美咲も英語が分かるのかしら」

「兄妹だから、なんとなく通じ合うのかもね」

美咲が四ヶ月になった頃、私は翻訳の仕事を在宅で再開した。

「美月、大丈夫?」

「はい。美咲が眠ている間にできそうです」

健太も小学校に上がる準備で忙しかった。

「僕、もうすぐ一年生」

「楽しみね」

「美咲ちゃんに、学校のこと教えてあげる」

健太は本当に優しいお兄ちゃんになっていた。

美咲が六ヶ月になった頃、寝返りを覚えた。

「美咲ちゃん、すごい!」

健太が一番喜んでいた。

「僕が教えたからかな」

「そうかもしれないわね」

美咲の成長を、家族みんなで見守っていた。

ある日、健太が美咲に本を読んであげているのを見かけた。

「昔々、あるところに...」

まだ小学生前の健太が、一生懸命物語を読んでいる。

「美咲ちゃん、分かる?」

美咲は健太の声を聞いているようだった。

「健太、優しいお兄ちゃんね」

「僕、美咲ちゃんが大好きなんだ」

兄妹の絆が、日に日に深まっていく様子を見ていると、胸が熱くなった。

「美月、いい家族になったね」

「はい。こんなに幸せでいいのかしら」

「いいんだよ。僕たちは幸せになる権利がある」

恋人代行から始まった関係が、今では四人の温かい家族になっている。

美咲の笑顔を見ていると、人生の素晴らしさを改めて感じる。

愛する人たちと過ごす毎日が、何よりの宝物だった。

第34話 完
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