【完結】お母さんの好きな人

山田森湖

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お母さんの好きな人

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お母さんの好きな人

リサは小学生の娘と一緒に、先日参加したダンスサークルの発表会のビデオを見ていた。
娘が指を差したのは、サークル内でも目を引く、すっきりした顔立ちの男の子。

「ねえ、ママ。この子、かっこいいよね。サークルのときも、つい見ちゃうんだよ。私、この子と結婚したいなあ」

夢見るように語る娘に、リサは思わず苦笑した。

「顔がかっこいい男はね、好きになるより追いかけるくらいがちょうどいいのよ」

「えー? なにそれ?」

娘は不思議そうに首をかしげた。

そんなアドバイスをするリサも、かつては“可愛い”と評判で、周囲からちやほやされる日々を過ごしていた。
学生時代にはしょっちゅう告白されては、「もっとかっこよくなってから来てちょうだい」と相手を振っていたのだ。

その冷たい振り方はすぐに噂になり、ある日、幼なじみのコウスケが忠告してきた。

「少しひどいんじゃないか? もう少し、柔らかく言えばいいのに」

「いつもあんたは私に文句ばっかり言ってくる」

リサがそう言い返せるのは、コウスケが唯一、遠慮なく意見を言い合える存在だったからだった。

大学を終えて社会人になっても、リサは変わらずモテた。
年上の先輩たちから食事に誘われ、告白されることもあったが、リサの“顔で選ぶ”基準は揺るがなかった。
気に入らない相手は、あっさりと断った。

ある日、隣の会社にリサの“どストライク”なイケメンが現れた。
経済的にも安定していそうと知ると、リサは迷わずアプローチ。
見事に成功し、デートにこぎつけた。さらには相手から告白までされ、リサは舞い上がった。

その報告をコウスケにすると、

「よかったじゃん。さすがイケメン好き」と茶化され、

リサは誇らしげに言った。

「顔で選んだから、当然でしょ」

けれど、数度のデートの後、リサは男性の何気ないひと言に違和感を覚えた。
「お父さんがさ……」と口にした瞬間、彼が既婚者であることが判明したのだ。

リサはすぐに関係を終わらせようとしたが、男はそれを受け入れず、家の近くや会社帰りに待ち伏せするようになった。
誰にも相談できずに悩み続けていたリサ。

ある日、ついに男がリサに抱きつこうとしたそのとき、彼女の前に立ちはだかったのは――コウスケだった。

「やめろよ。嫌がってんだろ。俺の彼女だぞ」

その一言に、男は黙って逃げていった。

「リサ、大丈夫だった?」

心配そうに尋ねるコウスケに、リサは涙を浮かべて答えた。

「ごめんね、コウスケ……」

「かっこいい男探しもいいけど、ほどほどにな」

そう言ってから、ふと真剣な表情になる。

「さっき、彼女とか言って悪かったな」

「ううん、ありがとう」

リサはそっと笑い、ふたりの間には少し特別な空気が流れた。

そして現在――。

リサと娘が発表会のビデオを見ていると、ふとコウスケがリビングに顔を出した。

「何の話してたの?」

「この子、顔がかっこいいって話してたのよ」

「そっか。じゃあ、アプローチしてみたら?」

「もう、変なこと言わないでよ」

リサは苦笑しながらも、どこか嬉しそうだ。

すると娘が、ふいに問いかけた。

「ママ、パパってかっこよかったの?」

リサは少しだけ考えてから、優しく答えた。

「パパはね、心がかっこいいのよ」

その言葉を聞いたコウスケは、ふたりを見守るように穏やかに微笑んだ。
静かに流れる時間のなかで、小さな幸せが確かにそこにあるようだった。
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