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「クリス、少し話があるんだけどいいかな」
アルヴィンからの招集を受け、クリスは王宮の小会議室へと足を運んだ。室内にはアルヴィンだけでなく、セシリアとレオンもそろっている。四人が一堂に会するのは、あの茶会以来だ。
「全員そろっての話し合いなんて、また妙な視線を浴びそうね」
クリスが皮肉交じりにつぶやくと、アルヴィンは苦笑いを浮かべる。
「確かに。でも、もう周囲の目を気にしてる場合でもないからさ」
セシリアは落ち着かなそうに椅子に腰を下ろすと、小声で呟いた。
「こんな場所に堂々と四人が集まれば、また変な噂が立つでしょうか」
「どうせ既に変な噂しかないんだ。今更気にしても仕方ないさ」
レオンがあっさりと言い放つ。その言葉にセシリアはクスリと笑ったが、それでもやはり緊張を拭いきれない様子だ。
「それで、本題は何なの?」
クリスが促すと、アルヴィンは少し姿勢を正す。
「僕たちは、いずれ公に婚約破棄をする。クリスにも君にも、それぞれの恋があるからね。問題は、その時期や手続きがまだ曖昧なままだということなんだ」
「陛下やアーサー様からも“慎重に”と釘を刺されているわね」
クリスが相槌を打つと、アルヴィンは苦い表情を浮かべる。
「時間をかけて形を整えた方が混乱は少ないだろう。でも、その間にセシリアやレオンが余計な中傷を受けるのは避けたい」
「それは私も同感よ。特にレオンは平民だから、貴族の陰湿ないじめを受ける可能性が高いもの」
レオンはそれに対し、肩をすくめて笑う。
「貴族の嫌がらせなんて、慣れてるけどね。多少のことは構わない。ただ、君が困るような事態になるのは避けたいよ」
セシリアもまた、アルヴィンの方へちらりと視線を送る。
「わたくしも自分への中傷より、殿下の立場が悪くなるのが耐えられません。周囲が“浮気王太子”なんて呼び方をするのを耳にするだけでも胸が痛い」
アルヴィンは小さく息をつき、テーブルの上に紙を広げる。そこには何やら日程や行事の予定が書き込まれている。
「実は近々、大舞踏会が予定されている。そこで何かしら発表をするつもりだ。王室関連の儀式は注目度が高いからこそ、思い切った宣言ができるのではないかと思ってね」
「大舞踏会で婚約破棄の発表……?」
クリスは思わず目を丸くする。あまりに注目の場で、そんな爆弾発言をしていいものか。
「父王もこの件については、最終的にうんと言わないかもしれない。だから僕としてはあくまで一つの選択肢として考えているんだ。それまでにアーサーの動向を見極める必要があるけどね」
レオンが紙を眺めながら口を開く。
「なるほど。大舞踏会なら貴族や各方面の要人が集まる。そこできちんとした形で“円満に解消”と宣言できれば、世間の理解も得られやすい……かもしれない」
セシリアは手を胸に当て、少し考えるように俯く。
「でも、それまで噂は続くのですね。わたくしは耐えられるかしら」
アルヴィンは彼女の不安げな表情に目を留めると、優しく声をかける。
「セシリア、君には負担をかけるけど、今は少し我慢してほしい。僕が君を守るから」
「わかりました。殿下がおそう仰るなら、わたくしは信じます」
一方、クリスは微妙な表情でアルヴィンの案にうなずく。
「私も構わないわ。その間にアーサー様への対応を進めて、レオンのことも守らなくちゃいけないから」
そうして四人は、お互いの立ち位置と今後の動きについて一通り意見を交換する。奇妙な関係だが、同じ方向を向いていることは確かだ。あとは大舞踏会という大舞台に向けて、どう準備を進めるか。
「僕は国王ともう一度話して、舞踏会での宣言を仰ぎたいと思う。クリスの父公爵にも協力をお願いするつもりだ」
「わかった。私もできる限りサポートする」
レオンとセシリアも、それぞれの立場で行動を始める覚悟を決めた。四人の直接対話は、表面的には波風立たなかったが、その裏には各々の覚悟と不安が入り混じっている。
こうして二組のカップルは、婚約破棄へ向けての新たな一歩を踏み出す。だが、この先に待ち受ける舞踏会こそが運命の分岐点となることを、誰もが薄々感じ始めていた。
アルヴィンからの招集を受け、クリスは王宮の小会議室へと足を運んだ。室内にはアルヴィンだけでなく、セシリアとレオンもそろっている。四人が一堂に会するのは、あの茶会以来だ。
「全員そろっての話し合いなんて、また妙な視線を浴びそうね」
クリスが皮肉交じりにつぶやくと、アルヴィンは苦笑いを浮かべる。
「確かに。でも、もう周囲の目を気にしてる場合でもないからさ」
セシリアは落ち着かなそうに椅子に腰を下ろすと、小声で呟いた。
「こんな場所に堂々と四人が集まれば、また変な噂が立つでしょうか」
「どうせ既に変な噂しかないんだ。今更気にしても仕方ないさ」
レオンがあっさりと言い放つ。その言葉にセシリアはクスリと笑ったが、それでもやはり緊張を拭いきれない様子だ。
「それで、本題は何なの?」
クリスが促すと、アルヴィンは少し姿勢を正す。
「僕たちは、いずれ公に婚約破棄をする。クリスにも君にも、それぞれの恋があるからね。問題は、その時期や手続きがまだ曖昧なままだということなんだ」
「陛下やアーサー様からも“慎重に”と釘を刺されているわね」
クリスが相槌を打つと、アルヴィンは苦い表情を浮かべる。
「時間をかけて形を整えた方が混乱は少ないだろう。でも、その間にセシリアやレオンが余計な中傷を受けるのは避けたい」
「それは私も同感よ。特にレオンは平民だから、貴族の陰湿ないじめを受ける可能性が高いもの」
レオンはそれに対し、肩をすくめて笑う。
「貴族の嫌がらせなんて、慣れてるけどね。多少のことは構わない。ただ、君が困るような事態になるのは避けたいよ」
セシリアもまた、アルヴィンの方へちらりと視線を送る。
「わたくしも自分への中傷より、殿下の立場が悪くなるのが耐えられません。周囲が“浮気王太子”なんて呼び方をするのを耳にするだけでも胸が痛い」
アルヴィンは小さく息をつき、テーブルの上に紙を広げる。そこには何やら日程や行事の予定が書き込まれている。
「実は近々、大舞踏会が予定されている。そこで何かしら発表をするつもりだ。王室関連の儀式は注目度が高いからこそ、思い切った宣言ができるのではないかと思ってね」
「大舞踏会で婚約破棄の発表……?」
クリスは思わず目を丸くする。あまりに注目の場で、そんな爆弾発言をしていいものか。
「父王もこの件については、最終的にうんと言わないかもしれない。だから僕としてはあくまで一つの選択肢として考えているんだ。それまでにアーサーの動向を見極める必要があるけどね」
レオンが紙を眺めながら口を開く。
「なるほど。大舞踏会なら貴族や各方面の要人が集まる。そこできちんとした形で“円満に解消”と宣言できれば、世間の理解も得られやすい……かもしれない」
セシリアは手を胸に当て、少し考えるように俯く。
「でも、それまで噂は続くのですね。わたくしは耐えられるかしら」
アルヴィンは彼女の不安げな表情に目を留めると、優しく声をかける。
「セシリア、君には負担をかけるけど、今は少し我慢してほしい。僕が君を守るから」
「わかりました。殿下がおそう仰るなら、わたくしは信じます」
一方、クリスは微妙な表情でアルヴィンの案にうなずく。
「私も構わないわ。その間にアーサー様への対応を進めて、レオンのことも守らなくちゃいけないから」
そうして四人は、お互いの立ち位置と今後の動きについて一通り意見を交換する。奇妙な関係だが、同じ方向を向いていることは確かだ。あとは大舞踏会という大舞台に向けて、どう準備を進めるか。
「僕は国王ともう一度話して、舞踏会での宣言を仰ぎたいと思う。クリスの父公爵にも協力をお願いするつもりだ」
「わかった。私もできる限りサポートする」
レオンとセシリアも、それぞれの立場で行動を始める覚悟を決めた。四人の直接対話は、表面的には波風立たなかったが、その裏には各々の覚悟と不安が入り混じっている。
こうして二組のカップルは、婚約破棄へ向けての新たな一歩を踏み出す。だが、この先に待ち受ける舞踏会こそが運命の分岐点となることを、誰もが薄々感じ始めていた。
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