「婚約破棄?あっはい……全然構いませんけど?」

ともえなこ

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「殿下、重大なお知らせがございます」

王宮の廊下で、侍従がアルヴィンに声をかける。疲れた表情のアルヴィンは、小さくため息をついて足を止める。

「またアーサーからの要望か。もう聞き飽きたよ」

「いえ、実は……公爵家の令嬢クリスティーナ様が、一刻も早く“破棄の正式発表”をするよう望んでいるとの連絡が入りまして。彼女自ら、国王陛下に直談判したそうです」

「何だって?」

アルヴィンは目を見開く。クリスが自ら動いたとは意外だった。先日まではアーサーの押し付けを嫌がっていたはずなのに、一体何があったのか。

「わかった。すぐに父王のもとへ行く」

アルヴィンは足早に国王の執務室へ向かう。扉を開けると、そこには既にアーサーと国王、そしてクリスがいた。クリスは深々と頭を下げていたようで、ちょうど顔を上げたところだった。

「クリス、どういうつもりだ。君はこんな結末を望んでいないって言ってたじゃないか」

アルヴィンが問い詰めるような口調で言うと、クリスは切なげな微笑を浮かべる。

「ごめんなさい、アルヴィン様。でも、私はもう決めたの。王太子妃になる責任を放棄した身として、一刻も早くけじめをつけたい。今なら父や国王陛下のためにも、最小限の混乱で済むかもしれない」

国王は渋面をつくりながらも頷く。

「クリスティーナがそこまで申し出るなら、もはや止める理由はない。アルヴィン、お前もいいな」

「父上、でもこれはあまりにも一方的すぎます。彼女ばかりが損をする」

アルヴィンの叫びに、クリスは苦い笑みを浮かべる。

「損なんて構わないわ。私はあなたと結婚する意思がない。浮気の事実は否定しないし、国の行く末を一人で背負う気概もない。そう言えば、国民も納得するでしょう」

「クリス……」

そこへアーサーが口を開く。

「では、すぐにでも宮廷内で発表の場を設けましょう。公爵家も了承済みです。殿下、よろしいでしょうか」

アルヴィンは悔しそうに唇を噛むが、クリスの強いまなざしを見て、結局うなずくしかなかった。

「ああ、わかった。……君がそうまで言うなら、もう止められない」

アーサーは満足げに微笑み、すぐに侍従を呼んで準備を始める。クリスはその姿を見ながら、小さく拳を握りしめる。これは本当に彼女が望む道ではない。だが、周囲を守るための“必要悪”として動くと心に決めたのだ。

(でも、これだけでは終わらせない。私はアーサー様の言いなりにはならないわ)

心の奥でそう誓いつつも、表には悲壮な覚悟を宿した表情を浮かべているクリス。アルヴィンは複雑な感情を抱えたまま、アーサーの指示で動き始めた侍従たちを見送る。

「まさかこんな形で終わるなんて、僕は納得できない」

「あなたは私が悪役で終わるのを望んでないのね。……でも、これは私の意思よ、アルヴィン様」

「……わかった」

そう絞り出すように言って、アルヴィンは走るように部屋を出て行く。国王もため息をつきながら席を立つと、「儀式の準備が整い次第、呼ぶ」とだけ言い残して去っていった。

アーサーと二人きりになったクリスは、静かに視線を交わす。アーサーは勝利者のように微笑んで見せる。

「ありがとう、クリスティーナ様。あなたの英断のおかげで、国は混乱を回避できるでしょう」

「いいえ、あなたの脚本通りに演じただけ。……でも最後の幕が下りるまで、安心しないでください」

アーサーは少し眉をひそめたが、すぐに余裕の表情に戻る。

「かしこまりました。存分に演じてください。あなたという役者の才能に期待していますよ」

そう言い放ってアーサーが立ち去ったあと、クリスは一人その場に立ち尽くす。胸には熱い衝動と、どうしようもない寂寥感が入り混じっていた。

(予想外の結末へ。これでみんなを救えるなら、私は悪役で構わない。でも、私にはまだ“最後の切り札”があるんだから)

瞳に一瞬だけ決意の光が宿る。これまで捜し集めてきた資料やレオンの情報、それらを組み合わせれば、アーサーが恐れる秘密を暴くことができるかもしれない。クリスは最後の一撃を放つ覚悟を固め、静かに部屋を後にした。
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