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「エリアーヌ、最近は王城によく通っているそうね」
夕暮れ時、王宮の廊下を歩いていると、ふいに王妃さまの声が背後から響いた。思わず振り返ると、そこには相変わらずの冷たい眼差しを湛えた王妃、ミラの姿がある。
「お、お疲れ様です。舞踏会の準備があると聞いて……」
「そう。舞踏会ではあなたも正式に紹介されるでしょう。王太子の婚約者として」
王妃さまは淡々とした口調で言う。まるで私がそこにいないかのような、事務的で冷ややかな態度。
「そ、それは……でも、私としては」
必死に言葉を紡ごうとするが、王妃さまの視線が圧力となり、うまく声が出ない。私が口ごもる間に、王妃さまはゆっくりと近づいてきた。
「私としても、あなたに期待しているわけではないの。だけど、王太子が選んだ以上、無下にはできない。それが王家のしがらみというもの」
「は、はい」
やはり、王妃さまはこの婚約に乗り気ではないのだろうか。期待していないと言われると、どこか傷つくような、不思議な気持ちになる。
「あなたは私に対してただ怯えているだけのようだけど、その程度で王太子と渡り合えると思う?」
「……思いません。だから、婚約を破棄したいとお願いしているんです」
一瞬の沈黙が廊下を包む。私は意を決して、再度破棄の意向を口にした。すると、王妃さまの瞳がかすかに揺れる。
「逃げることがあなたの選択なのね」
「はい。恐れ多いですが、怖くて仕方ないので」
もはや開き直りに近い。本音を押し隠してきたけれど、王妃さまの存在は私の中でトラウマ級の恐怖をかき立てているのだ。
「そう。だけど逃げるだけでは、いずれどこかで壁にぶつかる」
王妃さまが小さく息を吐き、私の目をじっと見据える。冷ややかなのにどこか悲しげな、そのまなざしに胸がざわついた。
「私は王家の務めがあるから、簡単には引き下がれない。あなたも同じ覚悟を持つべきなのに」
「持てません。私にはその覚悟がないからこそ、こうして婚約破棄を望んでいるんです」
そう言い返すと、王妃さまは何も言わず踵を返した。その背中には哀愁が漂っているように見えるのは、私の錯覚だろうか。
「……覚悟、か」
王妃さまは強い人、冷たい人というイメージがあったが、ほんの少しだけ“人間らしさ”を感じた気がする。もしかして、王妃さま自身も何か大きな不安や恐怖を抱えているのかもしれない。
「でも、そんなことを考えてる余裕はないわ」
私は自分に言い聞かせるように呟いた。舞踏会は間近に迫っている。王妃さまと真正面から向き合うには、あまりにも私の気持ちが弱すぎる。いずれ覚悟が問われるときが来るのだろうか。ふとそんな予感が頭をかすめるが、今はただ心を落ち着かせたい一心で廊下を後にした。
夕暮れ時、王宮の廊下を歩いていると、ふいに王妃さまの声が背後から響いた。思わず振り返ると、そこには相変わらずの冷たい眼差しを湛えた王妃、ミラの姿がある。
「お、お疲れ様です。舞踏会の準備があると聞いて……」
「そう。舞踏会ではあなたも正式に紹介されるでしょう。王太子の婚約者として」
王妃さまは淡々とした口調で言う。まるで私がそこにいないかのような、事務的で冷ややかな態度。
「そ、それは……でも、私としては」
必死に言葉を紡ごうとするが、王妃さまの視線が圧力となり、うまく声が出ない。私が口ごもる間に、王妃さまはゆっくりと近づいてきた。
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やはり、王妃さまはこの婚約に乗り気ではないのだろうか。期待していないと言われると、どこか傷つくような、不思議な気持ちになる。
「あなたは私に対してただ怯えているだけのようだけど、その程度で王太子と渡り合えると思う?」
「……思いません。だから、婚約を破棄したいとお願いしているんです」
一瞬の沈黙が廊下を包む。私は意を決して、再度破棄の意向を口にした。すると、王妃さまの瞳がかすかに揺れる。
「逃げることがあなたの選択なのね」
「はい。恐れ多いですが、怖くて仕方ないので」
もはや開き直りに近い。本音を押し隠してきたけれど、王妃さまの存在は私の中でトラウマ級の恐怖をかき立てているのだ。
「そう。だけど逃げるだけでは、いずれどこかで壁にぶつかる」
王妃さまが小さく息を吐き、私の目をじっと見据える。冷ややかなのにどこか悲しげな、そのまなざしに胸がざわついた。
「私は王家の務めがあるから、簡単には引き下がれない。あなたも同じ覚悟を持つべきなのに」
「持てません。私にはその覚悟がないからこそ、こうして婚約破棄を望んでいるんです」
そう言い返すと、王妃さまは何も言わず踵を返した。その背中には哀愁が漂っているように見えるのは、私の錯覚だろうか。
「……覚悟、か」
王妃さまは強い人、冷たい人というイメージがあったが、ほんの少しだけ“人間らしさ”を感じた気がする。もしかして、王妃さま自身も何か大きな不安や恐怖を抱えているのかもしれない。
「でも、そんなことを考えてる余裕はないわ」
私は自分に言い聞かせるように呟いた。舞踏会は間近に迫っている。王妃さまと真正面から向き合うには、あまりにも私の気持ちが弱すぎる。いずれ覚悟が問われるときが来るのだろうか。ふとそんな予感が頭をかすめるが、今はただ心を落ち着かせたい一心で廊下を後にした。
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