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王子様の所有宣言
アレクシス王子の登場で、路地の空気は、一瞬にして凍り付いた。
ジュリアンは、目の前に現れた男が誰なのかを認識した瞬間、顔からサッと血の気を失わせる。
「お、お、王子、殿下……!?」
その声は、情けなく裏返っていた。
彼は、慌てて私に伸ばしていた手を引っ込めると、その場にへたり込みそうになる。
アレクシスは、そんなジュリアンには一瞥もくれず、まっすぐに私の元へと歩み寄った。
そして、私の肩を、強く、しかし優しく抱き寄せる。
その大きな腕に包まれた瞬間、ずっと張り詰めていた体の力が、ふっと抜けていくのを感じた。
「私の婚約者に、何か用か」
アレクシスの声は、静かだった。
だが、その静けさの下には、燃え盛るマグマのような、激しい怒りが秘められているのがわかった。
「い、いえ、その……これは、その……人違いで……」
ジュリアンが、しどろもどろに言い訳をする。
それを聞いて、アレクシスは、心の底から軽蔑した、という冷たい笑みを浮かべた。
「人違い? さっきまで、彼女の名前を呼び、悪女だと罵っていたではないか。私の聞き間違いだったとでも言うつもりか?」
「ひっ……!」
「自らの愚かさを棚に上げ、女性に当たり散らすとは。見苦しいにも、程があるな」
その言葉は、刃のように鋭く、ジュリアンのプライドを切り裂いていく。
「二度と、彼女の前に姿を現すな。次に同じような真似をすれば、この国の法が、貴様を裁くことになるだろう」
「……失せろ」
最後の一言は、絶対零度の響きを持っていた。
ジュリアンは、声にならない悲鳴を上げると、隣にいたリリアナの手を乱暴に引き、文字通り、這うようにしてその場から逃げ去っていった。
野次馬たちも、王子の威圧感に気圧され、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
あっという間に、路地には、私と、アレクシスと、そして、少し離れた場所で成り行きを見守っていたアナ殿下の三人だけが残された。
アレクシスは、アナ殿下に向き直ると、静かに告げる。
「アナスタシア。先に、王宮に帰っていろ」
「……はい、兄様」
アナ殿下は、何か言いたげな顔をしたが、兄の真剣な表情を見て、素直に頷いた。
そして、私にだけ聞こえるような声で、「チャンスですわよ、レベッカ様」と囁くと、小走りで去っていった。
アレクシスは、私の手を取り、待たせてあった馬車へと、無言で導く。
馬車に乗り込み、扉が閉められると、再び、重い沈黙が私たちを支配した。
私は、俯いたまま、口を開いた。
「……申し訳、ございません。また、ご迷惑を、おかけいたしました」
声が、震える。
情けなくて、悔しくて、涙がこぼれそうになる。
すると、アレクシスは、私の言葉を遮るように言った。
「君が、謝ることではない」
私は、驚いて顔を上げる。
彼は、私の目を、真っ直ぐに見つめていた。
その青い瞳には、今まで見たことのない、強い光が宿っていた。
彼は、私の手を、両手で、強く握りしめる。
「いいか、レベッカ」
彼の真剣な声に、私は息を呑んだ。
「君は、俺の婚約者だ」
「誰にも、君を傷つけさせはしない」
「君は、俺が守る」
それは、命令でも、取引でもない。
彼の、魂からの、誓いの言葉だった。
その力強い言葉と、眼差しに、私の心の奥底で、ずっと頑なに閉ざされていた扉が、大きな音を立てて、崩れ落ちていくのを感じた。
ああ、私は、この人に守られている。
この人は、私の居場所になろうとしてくれている。
その事実が、たまらなく嬉しくて、温かくて。
こらえきれなくなった涙が、一筋、私の頬を伝った。
それは、悲しみや、悔しさの涙ではなかった。
生まれて初めて知る、安堵の涙だった。
アレクシス王子の登場で、路地の空気は、一瞬にして凍り付いた。
ジュリアンは、目の前に現れた男が誰なのかを認識した瞬間、顔からサッと血の気を失わせる。
「お、お、王子、殿下……!?」
その声は、情けなく裏返っていた。
彼は、慌てて私に伸ばしていた手を引っ込めると、その場にへたり込みそうになる。
アレクシスは、そんなジュリアンには一瞥もくれず、まっすぐに私の元へと歩み寄った。
そして、私の肩を、強く、しかし優しく抱き寄せる。
その大きな腕に包まれた瞬間、ずっと張り詰めていた体の力が、ふっと抜けていくのを感じた。
「私の婚約者に、何か用か」
アレクシスの声は、静かだった。
だが、その静けさの下には、燃え盛るマグマのような、激しい怒りが秘められているのがわかった。
「い、いえ、その……これは、その……人違いで……」
ジュリアンが、しどろもどろに言い訳をする。
それを聞いて、アレクシスは、心の底から軽蔑した、という冷たい笑みを浮かべた。
「人違い? さっきまで、彼女の名前を呼び、悪女だと罵っていたではないか。私の聞き間違いだったとでも言うつもりか?」
「ひっ……!」
「自らの愚かさを棚に上げ、女性に当たり散らすとは。見苦しいにも、程があるな」
その言葉は、刃のように鋭く、ジュリアンのプライドを切り裂いていく。
「二度と、彼女の前に姿を現すな。次に同じような真似をすれば、この国の法が、貴様を裁くことになるだろう」
「……失せろ」
最後の一言は、絶対零度の響きを持っていた。
ジュリアンは、声にならない悲鳴を上げると、隣にいたリリアナの手を乱暴に引き、文字通り、這うようにしてその場から逃げ去っていった。
野次馬たちも、王子の威圧感に気圧され、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
あっという間に、路地には、私と、アレクシスと、そして、少し離れた場所で成り行きを見守っていたアナ殿下の三人だけが残された。
アレクシスは、アナ殿下に向き直ると、静かに告げる。
「アナスタシア。先に、王宮に帰っていろ」
「……はい、兄様」
アナ殿下は、何か言いたげな顔をしたが、兄の真剣な表情を見て、素直に頷いた。
そして、私にだけ聞こえるような声で、「チャンスですわよ、レベッカ様」と囁くと、小走りで去っていった。
アレクシスは、私の手を取り、待たせてあった馬車へと、無言で導く。
馬車に乗り込み、扉が閉められると、再び、重い沈黙が私たちを支配した。
私は、俯いたまま、口を開いた。
「……申し訳、ございません。また、ご迷惑を、おかけいたしました」
声が、震える。
情けなくて、悔しくて、涙がこぼれそうになる。
すると、アレクシスは、私の言葉を遮るように言った。
「君が、謝ることではない」
私は、驚いて顔を上げる。
彼は、私の目を、真っ直ぐに見つめていた。
その青い瞳には、今まで見たことのない、強い光が宿っていた。
彼は、私の手を、両手で、強く握りしめる。
「いいか、レベッカ」
彼の真剣な声に、私は息を呑んだ。
「君は、俺の婚約者だ」
「誰にも、君を傷つけさせはしない」
「君は、俺が守る」
それは、命令でも、取引でもない。
彼の、魂からの、誓いの言葉だった。
その力強い言葉と、眼差しに、私の心の奥底で、ずっと頑なに閉ざされていた扉が、大きな音を立てて、崩れ落ちていくのを感じた。
ああ、私は、この人に守られている。
この人は、私の居場所になろうとしてくれている。
その事実が、たまらなく嬉しくて、温かくて。
こらえきれなくなった涙が、一筋、私の頬を伝った。
それは、悲しみや、悔しさの涙ではなかった。
生まれて初めて知る、安堵の涙だった。
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