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十三歳、淡い初恋、片想い
両手に花?
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木漏れ日の落ちる歩道を三人で並んで歩く。すでに両腕は解放されている。
右隣にルーク、左隣にテオを従えたエマは、二人の歩みに遅れまいと懸命に足を動かす。と、右肩にルークの肩が軽く触れた。
「そんなに急がなくても売り切れたりしねえよ」
「そうそう、ゆっくり行こうぜ。お前の荷物重いし」
同じように左からも肩をぶつけてこられ、エマはバランスを崩す。すかさずルークが支えてくれたので事なきを得たが、そうでなかったらつまづいていたところだ。
「テオ! いつも言ってるでしょ、馬鹿力なんだから加減して」
男女の体力差、体格差を無視した行いにエマは声を荒げる。
「悪い悪い、お前チビだもんな」
テオが反省した風もなく頭に肘をかけて体重を乗せてくるのでエマは首に力をこめ押し返した。
「ちょっと、重いっ!」
「それくらいにしとけよ。エマがそれ以上縮んだらどうする」
両手でテオを押しのけようともがくエマを見て、ルークが口を挟む。
「ルークまで……もう、首折れる!」
助け船を出してくれるのかと思えば追い打ちをかけるようなことを言い出すので、エマはいよいよおもしろくない。むっとしながらルークに恨みがましい視線を向けると苦笑が返ってくる。
「だな。今でも時々見失うもんな」
テオが頭上から腕をどけたのでほっと息をつき、ずれてしまったカチューシャを指先で直す。
「私、そんなに小さくないから」
クラスメイトの中ではエマの身長は平均よりもほんの少し低いくらいだ。体格だって健康的でか弱さとは無縁である。
反論を受けて、テオはエマの頭頂部に手のひらをかかげてみせる。
「そうか? ここ一年全然伸びてなくね?」
それを言われると弱い。ほんの数年前までは三人ともそう変わらない背丈だったのに、テオもルークもここ一年で急激に身長が伸びた。
対するエマの伸び率はここ一年横ばいだ。十二歳という年齢から、エマの成長はそろそろ止まりつつあるのだろう。彼らはこれからもっと伸びるに違いない。
二人との差を感じて切ないような気持ちになっていると、ルークが手を伸ばしテオの短髪に指を入れてぐっと押さえつけた。
「お前は伸びすぎ。そろそろ止めろ、新しい学校の寮はうなぎの寝床なんだからな」
ルークとテオは秋から隣町の全寮制パブリックスクールに通うことになっている。一二年次は大部屋でせせこまく暮らすと聞いているから、あまり育ちすぎると幅を取って邪魔なのだろう。
ルークの嫌味を受けてテオはにやりと片頬を上げた。
「俺に身長負けてるからって嫉妬するなよ」
「誰が。成長痛で毎晩泣いてるくせに」
「は!? 泣いてねえ」
男同士の気安い軽口にエマもそれ以上不機嫌を装うことを諦め、くすくすと笑い声を漏らした。
他愛もない話を交わしながら歩を進めるうちにアイスクリームワゴンが出ている大通りとは逆方向に進んでいることに気がつき、エマは二人の肘に手をかけた。
「二人ともどこ行くの? ワゴンは大通りでしょ?」
腕を引いて指摘するも、二人はちらりと横目を使うだけでまっすぐに歩き続ける。
「もっといい物食わせてやる」
「ええ……?」
「いいからついて来いって」
いつの間にか手先は彼らの肘で固定されていて抜け出せなくなっていた。
「ちょっと、歩きにくい。離して」
腕を振りほどこうとするも、がっちりと挟み込まれてかなわない。
「喜べ、両手に花だ」
「……なに言ってるんだか」
テオの軽口を完全に否定しきれない面があるのが小憎らしい。
女学校で同級生に彼らと幼なじみであることを羨ましがられることはこれまで何度もあった。
理知的な性格と育ちの良さを感じさせるルークはもちろん、テオも背が高くスポーツ万能であると人気が高い。本人たちは何も言わないが女学校の誰それに呼び出されていた、はたまた小間物屋の看板娘が想いを寄せているらしいなどという噂には事欠かない。
とはいえ二人とも特定のガールフレンドがいるような気配は見えず、今まで浮いた話の一つもないエマとしては引け目を感じずに済んでいる。
だいたい両手に花という慣用句は男相手でも適用されるのだろうか、なんて考えを巡らせながら腕から力を抜く。どうせ力では勝てやしない。
開き直ってしまえば幼い時分、三人手を繋いで遊びに出た頃の思い出がよみがえり、エマは口元をほころばせる。
このまま街の西側に向かうなら学校関係者に見つかる心配はないだろう。残り一年の学園生活、悪目立ちせず穏便に過ごしたい。
街の西側はエマや他の生徒たちが住む下町とは違い、いわゆる山の手と呼ばれる高級住宅地となっている。
ルークの実家のような地主や銀行家、役人などが住居を構えているため、立ち並ぶ店も道ゆく人々もどこか高級感を感じさせる。
気が引き締まる思いでエマは背筋を伸ばした。
右隣にルーク、左隣にテオを従えたエマは、二人の歩みに遅れまいと懸命に足を動かす。と、右肩にルークの肩が軽く触れた。
「そんなに急がなくても売り切れたりしねえよ」
「そうそう、ゆっくり行こうぜ。お前の荷物重いし」
同じように左からも肩をぶつけてこられ、エマはバランスを崩す。すかさずルークが支えてくれたので事なきを得たが、そうでなかったらつまづいていたところだ。
「テオ! いつも言ってるでしょ、馬鹿力なんだから加減して」
男女の体力差、体格差を無視した行いにエマは声を荒げる。
「悪い悪い、お前チビだもんな」
テオが反省した風もなく頭に肘をかけて体重を乗せてくるのでエマは首に力をこめ押し返した。
「ちょっと、重いっ!」
「それくらいにしとけよ。エマがそれ以上縮んだらどうする」
両手でテオを押しのけようともがくエマを見て、ルークが口を挟む。
「ルークまで……もう、首折れる!」
助け船を出してくれるのかと思えば追い打ちをかけるようなことを言い出すので、エマはいよいよおもしろくない。むっとしながらルークに恨みがましい視線を向けると苦笑が返ってくる。
「だな。今でも時々見失うもんな」
テオが頭上から腕をどけたのでほっと息をつき、ずれてしまったカチューシャを指先で直す。
「私、そんなに小さくないから」
クラスメイトの中ではエマの身長は平均よりもほんの少し低いくらいだ。体格だって健康的でか弱さとは無縁である。
反論を受けて、テオはエマの頭頂部に手のひらをかかげてみせる。
「そうか? ここ一年全然伸びてなくね?」
それを言われると弱い。ほんの数年前までは三人ともそう変わらない背丈だったのに、テオもルークもここ一年で急激に身長が伸びた。
対するエマの伸び率はここ一年横ばいだ。十二歳という年齢から、エマの成長はそろそろ止まりつつあるのだろう。彼らはこれからもっと伸びるに違いない。
二人との差を感じて切ないような気持ちになっていると、ルークが手を伸ばしテオの短髪に指を入れてぐっと押さえつけた。
「お前は伸びすぎ。そろそろ止めろ、新しい学校の寮はうなぎの寝床なんだからな」
ルークとテオは秋から隣町の全寮制パブリックスクールに通うことになっている。一二年次は大部屋でせせこまく暮らすと聞いているから、あまり育ちすぎると幅を取って邪魔なのだろう。
ルークの嫌味を受けてテオはにやりと片頬を上げた。
「俺に身長負けてるからって嫉妬するなよ」
「誰が。成長痛で毎晩泣いてるくせに」
「は!? 泣いてねえ」
男同士の気安い軽口にエマもそれ以上不機嫌を装うことを諦め、くすくすと笑い声を漏らした。
他愛もない話を交わしながら歩を進めるうちにアイスクリームワゴンが出ている大通りとは逆方向に進んでいることに気がつき、エマは二人の肘に手をかけた。
「二人ともどこ行くの? ワゴンは大通りでしょ?」
腕を引いて指摘するも、二人はちらりと横目を使うだけでまっすぐに歩き続ける。
「もっといい物食わせてやる」
「ええ……?」
「いいからついて来いって」
いつの間にか手先は彼らの肘で固定されていて抜け出せなくなっていた。
「ちょっと、歩きにくい。離して」
腕を振りほどこうとするも、がっちりと挟み込まれてかなわない。
「喜べ、両手に花だ」
「……なに言ってるんだか」
テオの軽口を完全に否定しきれない面があるのが小憎らしい。
女学校で同級生に彼らと幼なじみであることを羨ましがられることはこれまで何度もあった。
理知的な性格と育ちの良さを感じさせるルークはもちろん、テオも背が高くスポーツ万能であると人気が高い。本人たちは何も言わないが女学校の誰それに呼び出されていた、はたまた小間物屋の看板娘が想いを寄せているらしいなどという噂には事欠かない。
とはいえ二人とも特定のガールフレンドがいるような気配は見えず、今まで浮いた話の一つもないエマとしては引け目を感じずに済んでいる。
だいたい両手に花という慣用句は男相手でも適用されるのだろうか、なんて考えを巡らせながら腕から力を抜く。どうせ力では勝てやしない。
開き直ってしまえば幼い時分、三人手を繋いで遊びに出た頃の思い出がよみがえり、エマは口元をほころばせる。
このまま街の西側に向かうなら学校関係者に見つかる心配はないだろう。残り一年の学園生活、悪目立ちせず穏便に過ごしたい。
街の西側はエマや他の生徒たちが住む下町とは違い、いわゆる山の手と呼ばれる高級住宅地となっている。
ルークの実家のような地主や銀行家、役人などが住居を構えているため、立ち並ぶ店も道ゆく人々もどこか高級感を感じさせる。
気が引き締まる思いでエマは背筋を伸ばした。
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