紅の月 - 物語を紡ぐモノ -

ぼんぼり

文字の大きさ
19 / 20
第弐夜

09

しおりを挟む
「筆頭局長である芹沢鴨はここに呼ばないのですか?」

 現在の浪士組には、局長が3人いるはずだ。ここに来るまでに調査で、そう結果が出ている。正義感溢れ、慕われている近藤と真逆な存在である芹沢という男。昼間から酒を飲み、時には暴れ金子を巻き上げる。最近になって、強引な金策が目立っていた。幾ら新撰組の為とは言え、やり過ぎた行為だ。近藤と山南がお互い無言で顔を見ていた。その行動は、煌妃に何かあると伝えるのに十分だった。その沈黙を壊すかのように、土方が話し出そうとしたのを煌妃は割って入った。

「大和屋のこともそうですが、最近の暴挙は特に酷いですね。」
「「「!!」」」

 3人の驚いた表情を見て、煌妃は満足そうに笑った。どうやら、当たりらしい。

「どうし・・て。」
「いけませんよ。こんな事で動揺しては。見てる人は見ていますし、気づいている人は気づいてます。それとも、水戸学を学び、天狗党の尊王攘夷思想の流れをくむことを危険視してのことですか?」

 そのとき、土方の刀が煌妃の首に向けられた。しかし、煌妃は1つも表情を変えず、これは何の真似だと言うような目を土方に向けた。

「・・・私を斬りますか?もしここで死んでしまったら、怒濤のように押し寄せてきますよ?肉のひとかけらも、血の一滴さえ残らずに・・・存在さえ消されるでしょうね。」

 煌妃の冷徹な瞳は、近藤や山南、土方さえも震え上がるほどである。これで人殺しまでしていないって信じられないぐらい。煌妃は、この世の絶望を知っている。だからこそ、できる瞳だと自負している――。

「歳。」

 近藤は、土方に刀を引くように命じると、土方は納得しない表情を浮かべながらも刀を鞘に戻した。

「さてと、近藤さん、私が入隊するにあたりお話があります。土方さんはどうしてもこっちの話題の方がいいと思っているし、本当は芹澤さんよりもこっちの話をしてほしそうでしたものね。」

 今までの空気をかき消すように姿勢を正し、ふぅっと肩の力を抜くと固く決意した瞳で、近藤と山南を見つめた。

「私は、東北の奥地にある忍の一族です。情報戦は任せてください。多分、いいえ絶対昨夜のような事態に陥ることはごく当たり前のことになるでしょう。それでも近藤さん。本当に私を入隊させますか?」

 再び選択の余地をここで与えることにした。それは、頭としての判断を知りたかったからだ。ついていくに値する人なのかとーーだって、別に浪士組でなければいけないことはない。

「天城くん、男に二言はないよ。君が何者であれ、私は君の入隊を許可した。」

 優しく微笑む近藤に、涙が溢れそうになるがグッと堪えた。その替わり、自然と笑みがこぼれる。

「あっははは、折角、最後の選択肢を与えたのに・・・ありがとうございます。」

 煌妃は、自然に感謝の言葉を発した。それは、どんな意味でなぜ言ったのか自分でも分からなかったが、近藤の言葉がとても嬉しかったのは間違いない。

「過去があって、今がある。この先の道を造るお手伝いを致しましょう。我が一族の名にかけて――。」

 煌妃は、丁寧に言うと近藤に頭を下げた。そして、土方にさっきの腹いせをすべく挑戦的な笑みを向けた。

「土方さん、さっきの太刀筋はまだまだですね。せめて首の皮一枚ってところですか?というより、実践向きなんですね。・・・ねぇ、歳三はん。先日はおおきにどした。お陰様で助かりました。もう、頬は大丈夫どすか?」
「――・・・っ!お前、あんときの女かっ!?」
「ダメですよ。近藤さん達にばれちゃうじゃないですか。クスクス。では、私は失礼しますね。沖田さんとも刀を交えなければなりませんから。準備万全で臨みたいので傷も治してきます。」

 煌妃は出来るだけ笑いを堪えながらも、一礼すると部屋を出て行った。なにやら、残された部屋で土方の怒鳴り声が聞こえたが聞こえないふりをする。ケンカを売ってきたのは、土方なのだから後始末はやるべきだ。
 白狼として会う前、偶然女子の格好をしていた煌妃は、土方に出会っていた。というより、柄の悪い男達に絡まれていたのを助けて貰ったのだ。着物を着ていたため、下手に動くことも出来ずに困っていた。そんなとき、土方が柄の悪い男との間に入ってくれたのだ。しかし、良かったのはそこまで。手が早いというのは、噂で聞いていたがそれが自分の見に降りかかろうとしていたなどとは思ってもいなかった。

『おおきにどした。お陰様で助かりました。あたしは、桜と申します。』
『いいや、ケガがないようで良かった。・・・桜か。いい名だな。』

 男の手が頬に伸びる寸前に、悪気もなく話しかけた。

『お名前をお伺いしてよろしいどすか?』
『土方歳三だ。』

 印象は、別に悪くはなかった。その後、甘い言葉を囁いたり、抱きしめてきたり大変だったのは覚えている。助けた見返りをこんな風に求めてくるなんて、どうかと思う。だからあまりにもしつこいので、両頬を思い切り叩いてやった。

「今、思い出したら意外と笑える。あの時の表情・・・面白かったわ。」

 土方に出会った時のことを思い出しながら、昨日の後始末をしに八木邸を後にした。2匹目が入ってこようとした空間のひずみを修復しておかないと、後々面倒になる可能性がある。それに、沖田と試合をしなければならないので、早めに済まさなければならない。しかしその前に、傷を癒せるところを探さなければ、と煌妃は思っていた。実は、姿を変えられる秘薬があるのもそうだが、煌妃には特殊な事情がある。

 煌妃は東北の奥地の忍――龍の末裔言われている。そのおかげか体の作りも通常の人間より優れている部分もある。例えば綺麗な水があれば治癒能力が上がるとか。ただ大量の綺麗な水があれば、傷が綺麗に治るのだから奇跡に近いけどね。

「おいっ!どこに行く。」

 急に、後ろから土方の声が聞こえた。どうやら、逃げてきたようだ。意味深げに残してきたからこそ、質問されるのは目に見えている。

「オレ《・・》は、“おいっ”っていう名前じゃないです!!」
「はぁ・・天城。」
「なんです?土方さん。・・・数人つけられていますが?」

 煌妃は、ありったけの笑顔を土方に向けた。その気配に、土方も気づいたのか深いため息が漏れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

キメラスキルオンライン 【設定集】

百々 五十六
SF
キメラスキルオンラインの設定や、構想などを保存しておくための設定集。 設定を考えたなら、それを保存しておく必要がある。 ここはそういう場だ。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...