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第5話 選ばれた四人の精鋭たち。
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* * * * * * * *
山道を歩く四人組の姿があった。
「ちょっと。足が痛くて、私、もう歩きたくないんですけど」
「まったく、面倒ですわね。もう少しまともな道はないんですの?」
「え、えへへっ。大変ですよね」
後方を歩く二人の言葉に、先頭を歩いている少女が苦笑いをした。
彼女たちは冒険者であった。
先頭を歩いているのが、小柄な少女。幼い容姿だが、その瞳には強い意志を感じる。責任感も強そうで、真面目そうな顔をしている。
白い服を着ているその少女は、回復役のヒーラー。治癒術師であった。
そして後方を歩く二人は、剣を装備して軽装といった剣士の装いをしている少女と、ローブに身を包み杖を持っている魔導師といった装いをしている少女である。
「…………」
そして口を開くこともなく、真ん中を歩いているのは、リュックを背負っている少女。
「ポーネさん、キツくないですか?」
「……問題ない。心配してくれてありがと」
「いえいえっ」
先頭を歩く治癒師の少女が、リュックを背負っている少女を気にかけた。
「でも、ポーネさんは凄いですよね。この歳で、有名な錬金術師さんなんですもんっ」
「うん」
とりあえず間を埋めるために、そんな話題を口にする。無口なリュックの少女がその話題に相槌を打っていく。
この二人は可もなく不可もなく、別に仲が悪くもない。
問題は、残る二人だ。
「ちょっと。そのデカい棒切れがさっきから私の体にぶつかってきて、煩わしいんですけど」
「あら、ごめんなさい。でもそれはお互い様よ。あなたの腰にある貧相な棒っきれをどうにかして欲しいですわ」
「棒っきれじゃなくて、これ、剣ね。剣。んまっ、あんたが死にそうになった時には、この剣で助けてあげるわ」
「期待してますわ。逆にあなたがピンチになったら、私の杖から放たれる魔法であなたの命を救ってあげますわ。特別に」
「「ふふふ……」」
と、憎まれ口を叩きあった二人は、互いに黒い笑みを零しあった。
(大丈夫かな……)
先頭を歩く少女はそれが心配で気が気ではなかった。
この二人は、ずっとこんな感じなのである。
でもそれも仕方がないのかもしれない。
この四人は、四人とも冒険者なのだが、仲間というわけでも、パーティーを組んでいるわけでもない。
ーー『お主たち四人に、頼みたいことがある。各分野のエキスパート。この国屈指の冒険者であるそなた達に、黒龍討伐を要請したいのである』ーー
拠点として活動している国の、国王直々からの要請。
その結果、こうしてソロで活動していた彼女達は一時的にパーティーを組むことになったのだ。
だから、性格もバラバラ。思考もバラバラ。
一癖も二癖もある、特に剣士と魔導師の少女。
仲良く行動しろという方が、おかしなものだった。
「でも、姫様にあんな顔でお願いされたら、断れませんもんね……」
最初は国王の勅命を聞き入れる気のなかった、特に剣士と魔導師の少女だったのだが、国の王女から頼まれたものだから断れなくなってしまった。
((((……あの顔はずるい))))
四人とも、それにやられてしまった。
王女の容姿は、思わず見惚れてしまうほどのもの。
魅了魔法でも使っているんじゃなかろうか?
かくして、こうして四人での行動が始まったというわけである。
目的は、黒龍の討伐。
近頃、王国付近で黒龍が目撃されている。幸いなことに、まだ被害といった被害は出てはいない。しかし、このまま放置してしまえば、王都にまで侵入を許してしまい、大惨事になる可能性もある。
だから、退けることは急務であった。
「本当なら、他国で活動しているクラウディアって人にも要請をしたかったそうですよ」
「確かSランクなのよね。隣国の」
「はい……。結局、難しかったそうです」
諸事情が重なり、今回は叶わなかった。
「でも大丈夫ですよね! 私たちが力を合わせれば!」
治癒師の少女が力強くそう言う。
各分野のエキスパートがいるのだ。つまり、パーフェクト!
……しかし、実は問題もあった。
それも致命的な問題が。
(……まずいわ。ここにいる私以外の三人、とってもすごいって聞いてるわ……。なんか、昔から魔力だけは大きかったせいで、ちやほやされて、実力が伴わないまま、色々呼ばれるようになった私とは、全然違うのよね……)
鮮やかな紅色の髪を揺らしながら、堂々と剣をぶら下げて歩いている少女が、心の中で焦っていた。
……まずいと思った。
幼少期から、魔力だけは有り余っていた彼女。
おかげで、魔力量だけで神童だの、天才だの言われて育ってきた。
世界は彼女中心に回っている。そう言ってもいいぐらいに、彼女はちやほやされて育ってきた。
けれど魔力が多くても、魔法というもの自体はどうにも肌に合わず、使いずらかったから、とりあえず格好だけでも取り繕うことにした。じっと座って目を閉じていれば「瞑想している……」と勝手に勘違いしてくれるから、便利なものだった。
そしてどうやら、そっち方面に才能があったようで、自分の内に働きかける身体強化の魔法を極めることができた。
ついでに剣を握れば、それっぽくなるので、そのスタイルで囃し立てる周りの目を欺くことにした。
すると、どうだろう……。
周りはまた彼女を勝手に持ち上げてくれる。
次第にあちこちから彼女をスカウトする声が集まってくる。
そして、そんな彼女に相応しい装備を用意させてくれと、熱心な職人気質の者達が勝手に武器や防具や普段の洋服なんかを用意してくれるため、格好も一人前になった。
「私、一人前の冒険者っぽいわ……」
ーーけれど、忘れてはならない。
彼女は別に、剣術などを習っていたわけではない。
技術は皆無である。
大いなるその魔力量は、それ相応の鍛錬と経験を積んでこそ、輝くのだ。
かくして、中身の伴わない魔力量と瞑想と身体強化能力だけが優秀な、剣術のエキスパートと周囲から呼ばれている剣士が、ここに完成したのだった。
その美しさもあって、彼女はこれからも勝手にその名前が一人歩きして行くだろう。
けれど。
(……今回はやばいかもしれないわ。だってこんな少数で黒龍を倒せってどう考えても無理だもの……。だって、人間が龍に勝てるわけがないじゃない。……でも、今更私がそんなに強くないなんて、言えっこないし……)
怒られるだけでは済まないだろう。
(……こうなったら、この中で一番頼りがいのありそうな、隣の魔導師の子に託すしかないわ)
「あんた、せいぜい頑張りなさいよ」
「……!?」
震える手で、隣を歩く魔導士の少女の肩を叩いた。
すると、どうだろう……。隣の彼女はビクッと震え、驚いているように見えた。
(ビビった……。……この剣を持ってる子、目つきが悪いから怖い……。けれど、怯えてはダメよ。私の貫禄が削がれてしまうもの……)
ーー実は、魔導師の彼女も内心では焦っていた。
何を隠そう……この魔導師の彼女も同じなのである。剣士の少女と。
魔力が高いから、幼少期から勝手に持て囃されて、気づいたら実力以上の期待を背負わされ、今回の依頼に駆り出されたのである。
(でも、この子に任せたら、きっと上手くやってくれるわよね……。剣で切ってくれるんだもの)
「お、お互いに頑張りましょうね」
「ふ、ふん。当たり前よ」
「「ふふ……っ」」
((ほんとに、頼りにしてるんだからね……))
切実であった。
それを誤魔化すために、笑みを浮かべる二人。
「わぁ! お二人とも、なんか急に仲良くなりましたね!」
純粋な目をしている先頭の少女がホッとして喜んだ。
この中で評判通りの実力を有しているものは、彼女とその後ろを歩いている少女ぐらいである。
それが、本来は後方を歩くべき治癒師のはずの少女が先頭を歩くという、この位置関係を表している……。
「それにしても、この山、全然魔物いないですよね……。あの噂は本当なのかもしれません」
「あの噂?」
「あ、いえ、違うかもしれないので、気にしないでください」
((……普通に気になるんだけど))
……とは言えず、意味深なその発言に冷静さを取り繕う二人。
しかし、この山には魔物がいなかった。静まりかえっている。それが逆に、不気味さを醸し出していた。
「とりあえず、これからの予定をもう一度確認しておきます。私たちはこの山で、黒龍を迎え撃ちます。報告では、この山の上空を通過する予定です。そこを下から狙って撃ち落とす算段です。その後は地形を利用して、翻弄しましょう」
ーーその時だった。
大気を震わすような咆哮が鳴り響いた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ””””ッッッ!!!」
「「こ、黒龍、来てるんですけど……」」
それも、すでに見つかってるんですけど……。
そうして戦闘が始まるのだった。
山道を歩く四人組の姿があった。
「ちょっと。足が痛くて、私、もう歩きたくないんですけど」
「まったく、面倒ですわね。もう少しまともな道はないんですの?」
「え、えへへっ。大変ですよね」
後方を歩く二人の言葉に、先頭を歩いている少女が苦笑いをした。
彼女たちは冒険者であった。
先頭を歩いているのが、小柄な少女。幼い容姿だが、その瞳には強い意志を感じる。責任感も強そうで、真面目そうな顔をしている。
白い服を着ているその少女は、回復役のヒーラー。治癒術師であった。
そして後方を歩く二人は、剣を装備して軽装といった剣士の装いをしている少女と、ローブに身を包み杖を持っている魔導師といった装いをしている少女である。
「…………」
そして口を開くこともなく、真ん中を歩いているのは、リュックを背負っている少女。
「ポーネさん、キツくないですか?」
「……問題ない。心配してくれてありがと」
「いえいえっ」
先頭を歩く治癒師の少女が、リュックを背負っている少女を気にかけた。
「でも、ポーネさんは凄いですよね。この歳で、有名な錬金術師さんなんですもんっ」
「うん」
とりあえず間を埋めるために、そんな話題を口にする。無口なリュックの少女がその話題に相槌を打っていく。
この二人は可もなく不可もなく、別に仲が悪くもない。
問題は、残る二人だ。
「ちょっと。そのデカい棒切れがさっきから私の体にぶつかってきて、煩わしいんですけど」
「あら、ごめんなさい。でもそれはお互い様よ。あなたの腰にある貧相な棒っきれをどうにかして欲しいですわ」
「棒っきれじゃなくて、これ、剣ね。剣。んまっ、あんたが死にそうになった時には、この剣で助けてあげるわ」
「期待してますわ。逆にあなたがピンチになったら、私の杖から放たれる魔法であなたの命を救ってあげますわ。特別に」
「「ふふふ……」」
と、憎まれ口を叩きあった二人は、互いに黒い笑みを零しあった。
(大丈夫かな……)
先頭を歩く少女はそれが心配で気が気ではなかった。
この二人は、ずっとこんな感じなのである。
でもそれも仕方がないのかもしれない。
この四人は、四人とも冒険者なのだが、仲間というわけでも、パーティーを組んでいるわけでもない。
ーー『お主たち四人に、頼みたいことがある。各分野のエキスパート。この国屈指の冒険者であるそなた達に、黒龍討伐を要請したいのである』ーー
拠点として活動している国の、国王直々からの要請。
その結果、こうしてソロで活動していた彼女達は一時的にパーティーを組むことになったのだ。
だから、性格もバラバラ。思考もバラバラ。
一癖も二癖もある、特に剣士と魔導師の少女。
仲良く行動しろという方が、おかしなものだった。
「でも、姫様にあんな顔でお願いされたら、断れませんもんね……」
最初は国王の勅命を聞き入れる気のなかった、特に剣士と魔導師の少女だったのだが、国の王女から頼まれたものだから断れなくなってしまった。
((((……あの顔はずるい))))
四人とも、それにやられてしまった。
王女の容姿は、思わず見惚れてしまうほどのもの。
魅了魔法でも使っているんじゃなかろうか?
かくして、こうして四人での行動が始まったというわけである。
目的は、黒龍の討伐。
近頃、王国付近で黒龍が目撃されている。幸いなことに、まだ被害といった被害は出てはいない。しかし、このまま放置してしまえば、王都にまで侵入を許してしまい、大惨事になる可能性もある。
だから、退けることは急務であった。
「本当なら、他国で活動しているクラウディアって人にも要請をしたかったそうですよ」
「確かSランクなのよね。隣国の」
「はい……。結局、難しかったそうです」
諸事情が重なり、今回は叶わなかった。
「でも大丈夫ですよね! 私たちが力を合わせれば!」
治癒師の少女が力強くそう言う。
各分野のエキスパートがいるのだ。つまり、パーフェクト!
……しかし、実は問題もあった。
それも致命的な問題が。
(……まずいわ。ここにいる私以外の三人、とってもすごいって聞いてるわ……。なんか、昔から魔力だけは大きかったせいで、ちやほやされて、実力が伴わないまま、色々呼ばれるようになった私とは、全然違うのよね……)
鮮やかな紅色の髪を揺らしながら、堂々と剣をぶら下げて歩いている少女が、心の中で焦っていた。
……まずいと思った。
幼少期から、魔力だけは有り余っていた彼女。
おかげで、魔力量だけで神童だの、天才だの言われて育ってきた。
世界は彼女中心に回っている。そう言ってもいいぐらいに、彼女はちやほやされて育ってきた。
けれど魔力が多くても、魔法というもの自体はどうにも肌に合わず、使いずらかったから、とりあえず格好だけでも取り繕うことにした。じっと座って目を閉じていれば「瞑想している……」と勝手に勘違いしてくれるから、便利なものだった。
そしてどうやら、そっち方面に才能があったようで、自分の内に働きかける身体強化の魔法を極めることができた。
ついでに剣を握れば、それっぽくなるので、そのスタイルで囃し立てる周りの目を欺くことにした。
すると、どうだろう……。
周りはまた彼女を勝手に持ち上げてくれる。
次第にあちこちから彼女をスカウトする声が集まってくる。
そして、そんな彼女に相応しい装備を用意させてくれと、熱心な職人気質の者達が勝手に武器や防具や普段の洋服なんかを用意してくれるため、格好も一人前になった。
「私、一人前の冒険者っぽいわ……」
ーーけれど、忘れてはならない。
彼女は別に、剣術などを習っていたわけではない。
技術は皆無である。
大いなるその魔力量は、それ相応の鍛錬と経験を積んでこそ、輝くのだ。
かくして、中身の伴わない魔力量と瞑想と身体強化能力だけが優秀な、剣術のエキスパートと周囲から呼ばれている剣士が、ここに完成したのだった。
その美しさもあって、彼女はこれからも勝手にその名前が一人歩きして行くだろう。
けれど。
(……今回はやばいかもしれないわ。だってこんな少数で黒龍を倒せってどう考えても無理だもの……。だって、人間が龍に勝てるわけがないじゃない。……でも、今更私がそんなに強くないなんて、言えっこないし……)
怒られるだけでは済まないだろう。
(……こうなったら、この中で一番頼りがいのありそうな、隣の魔導師の子に託すしかないわ)
「あんた、せいぜい頑張りなさいよ」
「……!?」
震える手で、隣を歩く魔導士の少女の肩を叩いた。
すると、どうだろう……。隣の彼女はビクッと震え、驚いているように見えた。
(ビビった……。……この剣を持ってる子、目つきが悪いから怖い……。けれど、怯えてはダメよ。私の貫禄が削がれてしまうもの……)
ーー実は、魔導師の彼女も内心では焦っていた。
何を隠そう……この魔導師の彼女も同じなのである。剣士の少女と。
魔力が高いから、幼少期から勝手に持て囃されて、気づいたら実力以上の期待を背負わされ、今回の依頼に駆り出されたのである。
(でも、この子に任せたら、きっと上手くやってくれるわよね……。剣で切ってくれるんだもの)
「お、お互いに頑張りましょうね」
「ふ、ふん。当たり前よ」
「「ふふ……っ」」
((ほんとに、頼りにしてるんだからね……))
切実であった。
それを誤魔化すために、笑みを浮かべる二人。
「わぁ! お二人とも、なんか急に仲良くなりましたね!」
純粋な目をしている先頭の少女がホッとして喜んだ。
この中で評判通りの実力を有しているものは、彼女とその後ろを歩いている少女ぐらいである。
それが、本来は後方を歩くべき治癒師のはずの少女が先頭を歩くという、この位置関係を表している……。
「それにしても、この山、全然魔物いないですよね……。あの噂は本当なのかもしれません」
「あの噂?」
「あ、いえ、違うかもしれないので、気にしないでください」
((……普通に気になるんだけど))
……とは言えず、意味深なその発言に冷静さを取り繕う二人。
しかし、この山には魔物がいなかった。静まりかえっている。それが逆に、不気味さを醸し出していた。
「とりあえず、これからの予定をもう一度確認しておきます。私たちはこの山で、黒龍を迎え撃ちます。報告では、この山の上空を通過する予定です。そこを下から狙って撃ち落とす算段です。その後は地形を利用して、翻弄しましょう」
ーーその時だった。
大気を震わすような咆哮が鳴り響いた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ””””ッッッ!!!」
「「こ、黒龍、来てるんですけど……」」
それも、すでに見つかってるんですけど……。
そうして戦闘が始まるのだった。
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