優秀すぎた俺が隠居生活を決め込んだ結果。〜鍛治とポーション作りを始めたら、思っていたのとは違う方向に注目を集めてしまっていたらしい〜

カミキリ虫

文字の大きさ
20 / 36

第20話 龍の病

しおりを挟む
「シェラ、少しここを任せてもいいかな」

「ん? 分かりました」

 俺はシェラにこの場を任せ、席を外すことにした。

 向かうのは家の外。庭に建てられている小屋だ。この小屋は最近になって建てたばかりの小屋で、主に倉庫代わりに利用している。収納ならマジックバッグを使えばいいが、俺が所持している物だと容量が少しオーバー気味になってきているため、道具とかはこっちに置こうということにしたのだ。

「でも、そろそろ新しいマジックバッグも手に入れた方がいいかもしれないな……」

 さて。
 俺は棚に並べてある物を物色しながら、必要な道具を揃えていく。

 今回使うのは、透明なガラス製の容器。形状は化学実験とかでよく使用されるビーカーのようなものだ。
 あとは、アルコールランプに似た器具も、ここには置いてある。昔、ポーション作りを嗜んだ時に使用していた物だった。

「……ねえ、何かするなら、私に手伝えることはないかしら?」

「クラウディアか」

 小屋を訪れたのはクラウディア。

 山道を歩いてこの家を訪ねてくれた彼女だ。疲れているだろうし、シェラたちとリビングでゆっくりお茶でもしてもらうつもりだったのだが、どうも逆らしい。

「……一人にしないでよ。私、子供あまり得意ではないし、あのシェラって子とも上手くやれる自信がないわ」

 バツの悪そうに、ぽつりと呟く彼女。

 ……俺の配慮不足だった。

「悪かった。それじゃあ、こっちで一緒に作業するか」

「……うん」

「お邪魔します……」と静かに小屋に入ってくるクラウディア。

 お淑やかな様子のその彼女は、ブロンドの髪を耳にかけていた。

「それであなたは何をするつもりなの? その道具は……ポーション作成の時に使う物よね」

 さすがクラウディアだ。
 見ただけで、容易くそれを判断するとは。

「……もしかしてさっきの獣人の子? あの子の内にある魔力のうねり。僅かなものだったけれど、私も少し気になったわ……」

「ああ。俺も見逃すところだったよ」

 あの畑泥棒の子だ。
 ぱっと見、ただの小さな獣人の女の子。
 お腹が減っていたようで、あの後、畑で採れた作物をいくつか調理して出したら、食べてくれた。

 その時に、俺は少し気になるところを見つけてしまった。

 ただの勘違いならいいけど、それでも一応対策ができるようにしておいた方がいいと思った。

 だから今からポーションを作ろうと思う。

「この小屋にあるのは……鍛治の道具とポーション作りの道具。あなた、器用なのね。ポーションまで作れるなんて」

 棚に並んでいる道具を見ながら、関心したように言うクラウディア。

「それに……これは龍の血……。飲んじゃダメよ。死ぬから」

「よくそれが龍の血だと分かったな」

 棚の端っこ。置いてあるのは、紅黒の色をした液体。黒龍の血だ。
 今は影で寝かせて、熟成させているところだった。

「私も前に飲もうとしたことがあるもの」

 龍の血を飲めば、その恩恵に預かることができる。
 嘘か誠か。そんな噂話が語り継がれていた時代がある。

「でも結局飲むことはなかったわ。そもそもそんな必要はなかった」

「龍の血を飲めば、苦しみ抜いて死ぬことになる」

 ……俺はそれを身を以て知っている。

 あれは確か、12、3歳だった頃のこと。
 当時の俺の首には『隷属の首輪』というものが付けられていた。それから解放されるために、当時の俺は力を欲していた。
 力をつけて、首にはまっていた『隷属の首輪』を力ずくで外そうと、藁にもすがる思いだった。

 そこに現れた、龍の血を飲む機会。
 当然、龍の血を飲んだらどうなるのかを知っていたのだが、俺はそれを飲んだ。

 その結果は……お察しの通りだ。

 結局、力も手に入らなかったしな。
 ただ、死ぬ思いをしただけだった。

 それが、禁忌に手を染めた、愚か者の結末ーー。

 けれどごく稀に、耐性がある場合は、そうならない者も存在する。

 例えば、シェラ。シェラの場合は、多分龍の血を飲んでもそうはならないはずだ。
 シェラには加護が付与されている。彼女は、クラウディアとは別方向に才能があって、天から祝福されているのだ。

 そしてクラウディアの場合は、多分アウトだ。

「あなた、少しこれ飲んでみてよ」

「それは遠回しに俺に死ねと言っているようなものだ」

「ふふっ」

 冗談っぽく笑うクラウディア。

 たまに顔を見せる毒舌クラウディアさんだ。

「そうだ。せっかくだし、クラウディアがポーションを作ってみるか」

「……私が? 素人だけど、平気なの?」

「うん。まずは、この葉っぱをすり潰したものを、こっちの容器に入れてから、水と一緒に沸かすんだ」

「こうかしら……」

 作業台へと移動した俺は、クラウディアに教えながら、ポーション作りを開始した。

 道具を使用しながら、元となる素材を加工していく。

 ポーションとは、魔力薬。主に素材になる植物から魔力入りの汁を抽出して、それを調合することで出来るモノである。

 やり方と、あと作成者の魔力の質が高ければ高いほど、その効果も底上げされる。

 だから、俺がやるよりも、今回はクラウディアの力を貸してもらったほうが、狙い通りの効果を跳ね上げさせることができるはずだと思うのだ。

「……次はどうすればいいの?」

「こっちの棒でかき回しながら、魔力を少しずつ込めていくんだ」

「難しいわね……」

 慎重に作業を進めるクラウディア。

 そして、数分後。

「……こんなものかしら」

 瓶の中にあったのは、鮮やかな翡翠色のポーションだった。

「どう? これでいいの?」

「完璧だ」

 俺は鑑定のスキルで、完成したポーションの状態を確認して頷いた。

 クラウディアも自分で鑑定したのだろう。

「……私にはポーション作りの才能もあるのかもしれないわ」

 誇らしげに言う彼女。

 あのクラウディアが、まるで子供のように得意げな顔をしている。

 その時。
 慌てて小屋にやってくるシェラの姿があった。

「せ、せんぱい……。あの子、急に体調が悪そうになりまして……」

「分かった。今ちょうど、出来たところだ」

 俺は知らせに来てくれたシェラにお礼を言い、一緒にリビングへと向かうことにした。

 そこにあったのは、熱に浮かされたように、虚空を見つめている獣人の女の子の姿。
 内に流れる魔力が不規則に脈動している。高熱のせいで、苦しみの感覚も麻痺しているように見える。

 龍病ーー通称ドグラトル。
 主に、龍の血が原因として発生する病だと言われている。

 この魔力の波長からすると、東の方に存在する赤龍が関係しているのかもしれない。

 けれど、問題ない。

「クラウディア」

「分かったわ」

 クラウディアの手にあるのは、先ほど彼女が作成したポーション。

 それを龍の病に侵されている子供へと服用する。

 すると、効果がすぐに現れる。

「……苦しいのがなくなったです……」

 熱に浮かされていた獣人の子供は正気に戻り、呆気に取られたように俺たちの顔を見たのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

処理中です...