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第25話 …また女が増えた
しおりを挟むついにこの時がやってきた。
「……ぐふふ」
我ながら素晴らしい出来だ。
「ねえ、その笑い方、嫌なんだけど」
そう言って、薄暗い小屋にやってきたのはクラウディアだ。光に溢れているドアの所から、暗闇の中にいる俺のことを嫌そうな目で見ている。
前世から一人で行動することが多かったため、一人の時の俺は大抵こんな笑い方だ。でゅふふ……、か、ぐふふ……。俺以外の人間も、一人の時はそんなもんだろう。
「クラウディアもきっとそうなはずだ」
「違うわよ」
勝手に、同じにしないでと、彼女は否定していた。
「そんな所で何してるのよ」
「いいや、なんでもないさ」
「どうせ、また一人で、いかがわしいことでもしてたんでしょ」
「しとらんわ!」
なんて子だ。変な疑惑をふっかけてきたぞ。
そしてそれを言った張本人は、くだらない……とでも言いたげな表情をしつつ、自分で言って恥ずかしかったのだろう、どこかよそよそしくなっていた。
しかし、別になんと思ってくれても構わない。今の俺は機嫌がいいからな。ついに、あれが出来上がったのだ。
この前から試行錯誤を繰り返していた鍛治だ。それが上手くいって、ついに愛刀が完成したのだ。
「まあいいわ。そろそろ村に作物を届けに行く時間だと思ったから、確認に来たんだけど」
「教えに来てくれてありがとう。すぐに行く」
「……村には私も付いていってあげてもいいわよ」
「ありがとう。クラウディア。頼む」
「……別にいいわよ。これぐらい」
そうして俺とクラウディアは、村に作物を届けに行く準備に取り掛かることにした。
家の畑の外に、作物の山が積み上げられている。
今日収穫した物だ。これを今から村に届けに行くことになっているのだ。
その村というのは、先日、赤龍が現れ、龍殺しのあの人と相対した所の、森の中にある村だ。
先日のあの一件は、あの後、何事もなく穏便に事が済んだ。
龍殺しさんは何やら用事があったみたいで、急いでどこかに転移していた。しかし龍殺しさんはクラウディアによって膝を付かされていた際に、足を挫いていたと思うため、去っていく前にポーションを渡しておけばよかったかもしれない。
いや。
どうせ、受け取らないか。
俺のことは警戒していたみたいだし、ポーションぐらいなら自前のがあるか。
そしてあの時結界に守られていた村とはあの後、多々あって親交ができ、うちの畑で作った作物を取引させてくれということになったのだ。
「それじゃあ村まで転移するぞ」
「ええ」
俺とクラウディアは作物とともに、村まで転移する。
すると、景色が一瞬で切り替わり、目前に広がるのは自然の中に形成されている村の景色。
等間隔で建てられている木造の家。その家を復旧している村人たち。その村人たちの頭には獣のような耳が生えている。
俺たちが転移してきたのに気づいたのだろう。一人の村人が杖をつきながら、ゆったりとした足取りでこちらへとやってきた。
「お前さんたち……よく来てくれたの。おお、もしやそれがお主が作ったという作物か」
年齢を重ねている村人の老婦人。皺の刻まれている瞼を開き、俺たちのそばにある作物を見て歓喜の声を上げた。
すると他の村人たちも集まってきて、我先にとその作物を目にしようと、ちょっとした騒ぎになっていた。
ーーありがたい。赤龍被害で村の作物はダメになってしまっていたから、これで食糧不足がどうにかなりそうだーー。
ーー食料があれば、あとは復旧作業をーー。
などなど。
この村には赤龍が現れた。その赤龍は、偽物だったけれど。そのせいで、村は半壊した。その赤龍自体は、龍の装備に身を包んだ龍殺しさんが対処してくれて、この村に結界まで張ってくれていたのだが、それでも出てしまった被害は元には戻らない。だから再び村を元通りにしようと、村人たちは団結して復興作業を行なっているのだ。
「おにいさん、おねえさん。さくもつ、ありがとう」
近くにやってきて、頭を下げたのは小さな女の子だ。この前、うちにやってきたあの子だ。この子も無事に村に帰すことができた。
「その節は、うちの孫が世話になったようで、なんと言っていいか……」
そして老婦人はこの子の祖母らしい。
この人はこの村の村長のようで、この人経由で、うちの畑の作物を取引することになったのだ。
「それと、あの方にもまたお礼を言いたい。赤龍からこの村を救ってくださり、結界を張ってくれたあの剣士様に……」
「あれ以来、この村には訪れていませんか?」
「いいえ、定期的に来て、結界の維持をしてくれているようです。けれど、いつもお礼を言う前にいなくなられる……」
龍殺しさんはストイックな人なのだ。
龍を殺すことだけが生き甲斐で、そのためだけに生きていると言われているほどの人なのだ。
「これは作物の代金です。僅かばかりですが、どうぞお納めください」
「確かに受け取りました」
俺は作物の代金を、村長から受け取った。
村も大変だし、タダか、後払いでもいいと思ったのだが、こういうのには色々ある。村長もそっちの方がいいようなので、ここはありがたく受け取っておくことにする。
「では俺たちはこれで帰ります。今度はまた数日後に持ってきます」
「どうぞ、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる村長。礼を言う村人たちに囲まれながら俺とクラウディアは転移して、家に帰った。
「ただいま。今帰った」
「お帰りなさい、せんぱい」
家に帰ると、留守番をしてくれていたシェラが出迎えてくれた。
「お疲れさまです。今、飲み物出しますね」
「ありがとう」
気の利く子だ。俺がテーブルに着くと、シェラが冷たいジュースを出してくれた。
「クラウディアさんも、はい、どうぞ」
「悪いわね」
クラウディアがくいっとジュースを飲んで、喉を潤す。いい飲みっぷりだ。
「……って、なんで当たり前のようにこの人がいるんですか!」
そして、シェラが不本意だというようにそう切り出した。
「なんでって、何よ」
「どうしてクラウディアさんがこの家に居付いてるのかと、私は、聞きたいです」
「別に理由なんてないわ。許可も取ってあるし。ね」
クラウディアがこちらに確認を取って、「そうよね」と聞いてくる。
「まあ、な」
「何が、まあな、ですか! いやぁぁぁあああ! せんぱいが差別する!!!」
シェラが頭を掻きむしらんばかりに、取り乱していた。
「私がこの家に泊まるって言った時は、あんなに嫌そうだったのに!!」
「……あの時は悪かった。でも、色々状況が変わったんだ」
「そうよ。彼は今、龍殺しに命を狙われているの。だから私が守ってあげないといけないの」
……不本意だけどね、とクラウディアはしょうがなさそうな顔で言った。
クラウディアは俺の護衛をしてくれるらしいのだ。それだけではない。この家にはシェラもいるため、何かあった時も、クラウディアとシェラ、二人も二人で互いに護衛できる形になる。
「せんぱい……。私に出て行けって言ったりしませんよね……?」
シェラは一変して、不安そうな顔でこちらに聞いてくる。
「この人がいるから、私は邪魔で、出て行けって言いませんよね……?」
追い出されると思っているらしい。
だから俺は彼女の目を見て言った。
「言わないさ。シェラもここにいろ」
「せん、ぱい……」
「私がいなければ、それは素敵なセリフだったわね」
「ほんとですよッ!」
バチバチバチ……ッ。
火花が散る。この二人は犬猿の仲だから。けれど、息はぴったりだ。
この二人が打ち解ける日も、そう遠くはないのかもしれない。
そんなある日のことだった。
トントントンと、聞こえてきたのはノック。我が家に来客がやってきたようだ。
「この前ぶりね。あ、あのね、少し頼みたいことがあって来たんだけどね……」
「……ねえ、王都に興味はない?」
ドアを開けた先。そこにいたのは、二人の少女。確か以前の黒龍の件の時にこの山へとやってきていた四人組のうちの二人。
セリカ・ロードライト、と、ジュリア・ルピナス。
「「……また女が増えた」」
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