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第10話 呪いの加護
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気がつくと、俺は暗い場所に横たわっているようだった。
その場所の空気は澱んでいて、まず初めに目についたのは、鳥居のようなものだった。真っ赤な鳥居だ。それがいくつも立っている。
「…………ッ」
そして、立ち上がろうとして、体の感覚がないことに気づいた。
「あ、待って待って。まだ起きたらダメですよ? 今は、体を構築してるところだから、お待ちください。まあ、体がいらないっていうんなら、別にいいですけども……」
……声が聞こえた。
見てみると、俺のそばに一人の少女がいた。
銀髪で黒い巫女服を着ている少女だった。歳のほどは俺と同じぐらいに見える。
「どうも、こんばんわ。私はあなたにとっての神様です。死んだあなたをここに引っ張り込んで、元気にしてあげています」
死んだ……。
その言葉はすんなりと飲み込むことができた。実際にその時のことも覚えている。
俺は森みたいな場所に引き摺り込まれて、食われたのだ。直前の景色も思い出せる。どろどろとしたあの獣の口の中の景色だ。
「パリパリって、食べられてましたもんねっ」
「あ、う、お……」
「あっ、まだ喋ったらだめですよ。顔の方も完全ではありませんので」
俺の唇に指を当てて、「もう少し待ってください」と彼女は言う。
そして俺の体の部分のところにしゃがむと、両手をかざして、その手を光らせた。すると、自分の体が徐々に再生していくのが分かった。
「……っ」
それを感じながらの俺は……多分、笑っていると思う。
……どうしても感情が上手く、抑え込めないというか。
多分、気持ち悪い笑みを浮かべているはずだ。死んだ時のことが勝手に頭に思い浮かび、自然にそうなってしまう。
「うわ!? その笑顔、怖ッ!?」
ほら、やっぱり!
「でも、あなたの感情は今、クリアになっているのです。死んでしまいましたので、余計な抑制力が麻痺しているのです」
……麻痺している。
「はい。それが本来のあなたの感情……とも少し違うかもですけど、一部、私の感情も流れ込んでいると思います。ともかくあなたは疲れていますので、もう少しお休みしましょうか」
それっきり、彼女は言葉を発することはなかった。
俺も、何も言うことはなかった。ただ目を開けたまま、ぼんやりと暗い空間を見つめていた。その間、彼女は俺の体を直してくれていた。
とにかくここは暗い場所だった。天井が見えない。天井があるかも分からない。
真っ赤な鳥居が、怪しげに光を放っている。その鳥居と、彼女の黒い巫女服が映えて見えた。
それと、この場には、うっすらと森のような景色が見え隠れしている気がした。
「ここは、ロストの森の裏の空間です。ロストの森というのは、あなたが死んだあの森です」
彼女が教えてくれる。
確かに俺が死んだ時、森のような場所にいた。
そこの名前がロストの森……。
そして、そのロストの森の裏という場所にいるのが、彼女……。
一人なのだろうか。他には、誰にもいないのだろうか。
そう思いながら、なおも手に光を灯していて、俺の体を治してくれている彼女の姿を見ていると……本当に彼女が神様に見えた。
「完璧に直してあげますから、期待していてくださいね」
その後、俺は体が元に戻るのを待つことにした。
* * * * * *
そして、それからしばらく経った頃。
「終わりましたよ。まだ立ったらダメですけど、体の構築はもう大丈夫ですよ」
黒い巫女服の袖をひらひらさせながら、彼女が横たわっている俺の頭の方へとやってきた。
そしてペタリと女の子座りをしたみたいで、俺の顔が太ももで挟まれる。そうしながら、彼女は笑顔で俺の頭を撫でていた。
「えへへっ。特別サービスですよ」
「あ、ありがとうございます……」
「そうですよ。たくさん感謝してくださいね」
俺はお礼を言った。
さっきまで声も出せなかったけど、言葉はもう喋れるようになっていた。
そんな俺を見て得意げと言った風に、ぺたぺたと俺の顔も触り始める彼女。
顎とか触ってくる。頬とか、耳とかも。手のひらで顔を包み、撫でたりもしてくる。少しだけひんやりとした冷たさが、妙に心地よかった。
「それで、神様……。あなたのお名前は……」
「よくぞ聞いてくれました。私の名前はロスト。呪われた森、ロストの森の守り神。呪神ロスト・ルジアと呼ばれていると聞いたこともあります。王都でそれっぽいこと、聞きませんでしたか?」
「そういえば……聞いた気がします」
この世界に召喚されてすぐの、鑑定の儀の時だった気がする。
呪神がどうとか、災いがどうとか。それはいい意味ではなく、悪い意味で、その名前を聞いていた。
あと、七宮さんも呪神のことは少しだけ調べたと言っていた。だけど彼女は、呪神は本当に悪い神様なのかな……という口調で、言っていたと思う。
「私は災いと呪いの力を持っております。そして、いろんなことを知っています。例えば、あなたのこと。あなたはスキルの鑑定の結果、とってもレアなスキルを手に入れていました。英雄(神)!」
「ど、どうしてそれを……」
「ふふっ。どうしてでしょう。私が呪いの神様だから、知っているのかもしれません」
怪しく笑うロストルジアさん。ニコニコと悪い笑顔を浮かべている。
「まあ……正直に言ってしまうと、さっきあなたの体を構築するときに、私の魔力を混合させたからです。その時にあなたの記憶が私に流れ込んできたのです」
「つまり、俺の今までのことは全部知っていると……」
「ええ、そうです。そして、その結果あなたは呪われてしまいました。ステータスも変わっていると思います。ステータスオープン♪」
【名前】紫裂しぐれ Level -0
【種族】人間(異世界人)
【スキル】ーー
【装備】
・武器 なし
・防具 なし
H P 1/1
M P ∞/∞
攻撃力 1/1
防御力 0/0
素早さ ー/ー
運 ー10000000
【呪神ロスト・ルジアの加護】
ロスト・ルジアの加護を受けし者。
命が呪われている。魂も呪われている。
呪いの神、ロスト・ルジアによって、あらゆる加護を吸収し、全てがロスト・ルジアの加護に染められる。
まったくの別物になっていた。
「つまり、あなたを生かすも殺すも、私の気分次第です。恨むなら、私をお恨みください。その恨みはいつか憎しみに変わり、呪いになるのです」
そう言った彼女の言葉はどこか自重気味で。
口元は笑ってはいるが、目はどこか切なく揺れていた。
どうしてそんな顔をするのだろう……。
でも、それは……こんな時にかける言葉といえば……。
「……その笑顔、怖!?」
「失礼な!」
ぺしッ! と俺の顔が叩かれた。
「……痛ッ!」
「ふふっ」
自分も、さっき俺の笑顔が怖いって言ったのに……!
と、そう思いもしたけど。
……正直に言うと、痛くはなかった。彼女は逆に、気遣う風でさえあった。
そんな彼女は、瞳を揺らしながら笑っていた。頬がほのかに赤くなっていた。その顔を見ていると、俺も安心できた気がした。さっきの切なそうに笑うよりは、よっぽどいいと、そう思ったのだ。
「まったく、あなたは失礼な人です。……そんな失礼なことを言うあなたには、呪いと災いをたくさん降りかかるようにしておきます。…………でも、こんな気持ちになったの、いつ以来でしょう……。人と喋ったのも久しぶりで……それがあなたで良かったです」
そう言った彼女は、巫女服の袖の部分を握りしめると、それで俺の顔をゴシゴシと擦り始めていた。
俺は彼女が満足するまで、そうされていたのだった。
その場所の空気は澱んでいて、まず初めに目についたのは、鳥居のようなものだった。真っ赤な鳥居だ。それがいくつも立っている。
「…………ッ」
そして、立ち上がろうとして、体の感覚がないことに気づいた。
「あ、待って待って。まだ起きたらダメですよ? 今は、体を構築してるところだから、お待ちください。まあ、体がいらないっていうんなら、別にいいですけども……」
……声が聞こえた。
見てみると、俺のそばに一人の少女がいた。
銀髪で黒い巫女服を着ている少女だった。歳のほどは俺と同じぐらいに見える。
「どうも、こんばんわ。私はあなたにとっての神様です。死んだあなたをここに引っ張り込んで、元気にしてあげています」
死んだ……。
その言葉はすんなりと飲み込むことができた。実際にその時のことも覚えている。
俺は森みたいな場所に引き摺り込まれて、食われたのだ。直前の景色も思い出せる。どろどろとしたあの獣の口の中の景色だ。
「パリパリって、食べられてましたもんねっ」
「あ、う、お……」
「あっ、まだ喋ったらだめですよ。顔の方も完全ではありませんので」
俺の唇に指を当てて、「もう少し待ってください」と彼女は言う。
そして俺の体の部分のところにしゃがむと、両手をかざして、その手を光らせた。すると、自分の体が徐々に再生していくのが分かった。
「……っ」
それを感じながらの俺は……多分、笑っていると思う。
……どうしても感情が上手く、抑え込めないというか。
多分、気持ち悪い笑みを浮かべているはずだ。死んだ時のことが勝手に頭に思い浮かび、自然にそうなってしまう。
「うわ!? その笑顔、怖ッ!?」
ほら、やっぱり!
「でも、あなたの感情は今、クリアになっているのです。死んでしまいましたので、余計な抑制力が麻痺しているのです」
……麻痺している。
「はい。それが本来のあなたの感情……とも少し違うかもですけど、一部、私の感情も流れ込んでいると思います。ともかくあなたは疲れていますので、もう少しお休みしましょうか」
それっきり、彼女は言葉を発することはなかった。
俺も、何も言うことはなかった。ただ目を開けたまま、ぼんやりと暗い空間を見つめていた。その間、彼女は俺の体を直してくれていた。
とにかくここは暗い場所だった。天井が見えない。天井があるかも分からない。
真っ赤な鳥居が、怪しげに光を放っている。その鳥居と、彼女の黒い巫女服が映えて見えた。
それと、この場には、うっすらと森のような景色が見え隠れしている気がした。
「ここは、ロストの森の裏の空間です。ロストの森というのは、あなたが死んだあの森です」
彼女が教えてくれる。
確かに俺が死んだ時、森のような場所にいた。
そこの名前がロストの森……。
そして、そのロストの森の裏という場所にいるのが、彼女……。
一人なのだろうか。他には、誰にもいないのだろうか。
そう思いながら、なおも手に光を灯していて、俺の体を治してくれている彼女の姿を見ていると……本当に彼女が神様に見えた。
「完璧に直してあげますから、期待していてくださいね」
その後、俺は体が元に戻るのを待つことにした。
* * * * * *
そして、それからしばらく経った頃。
「終わりましたよ。まだ立ったらダメですけど、体の構築はもう大丈夫ですよ」
黒い巫女服の袖をひらひらさせながら、彼女が横たわっている俺の頭の方へとやってきた。
そしてペタリと女の子座りをしたみたいで、俺の顔が太ももで挟まれる。そうしながら、彼女は笑顔で俺の頭を撫でていた。
「えへへっ。特別サービスですよ」
「あ、ありがとうございます……」
「そうですよ。たくさん感謝してくださいね」
俺はお礼を言った。
さっきまで声も出せなかったけど、言葉はもう喋れるようになっていた。
そんな俺を見て得意げと言った風に、ぺたぺたと俺の顔も触り始める彼女。
顎とか触ってくる。頬とか、耳とかも。手のひらで顔を包み、撫でたりもしてくる。少しだけひんやりとした冷たさが、妙に心地よかった。
「それで、神様……。あなたのお名前は……」
「よくぞ聞いてくれました。私の名前はロスト。呪われた森、ロストの森の守り神。呪神ロスト・ルジアと呼ばれていると聞いたこともあります。王都でそれっぽいこと、聞きませんでしたか?」
「そういえば……聞いた気がします」
この世界に召喚されてすぐの、鑑定の儀の時だった気がする。
呪神がどうとか、災いがどうとか。それはいい意味ではなく、悪い意味で、その名前を聞いていた。
あと、七宮さんも呪神のことは少しだけ調べたと言っていた。だけど彼女は、呪神は本当に悪い神様なのかな……という口調で、言っていたと思う。
「私は災いと呪いの力を持っております。そして、いろんなことを知っています。例えば、あなたのこと。あなたはスキルの鑑定の結果、とってもレアなスキルを手に入れていました。英雄(神)!」
「ど、どうしてそれを……」
「ふふっ。どうしてでしょう。私が呪いの神様だから、知っているのかもしれません」
怪しく笑うロストルジアさん。ニコニコと悪い笑顔を浮かべている。
「まあ……正直に言ってしまうと、さっきあなたの体を構築するときに、私の魔力を混合させたからです。その時にあなたの記憶が私に流れ込んできたのです」
「つまり、俺の今までのことは全部知っていると……」
「ええ、そうです。そして、その結果あなたは呪われてしまいました。ステータスも変わっていると思います。ステータスオープン♪」
【名前】紫裂しぐれ Level -0
【種族】人間(異世界人)
【スキル】ーー
【装備】
・武器 なし
・防具 なし
H P 1/1
M P ∞/∞
攻撃力 1/1
防御力 0/0
素早さ ー/ー
運 ー10000000
【呪神ロスト・ルジアの加護】
ロスト・ルジアの加護を受けし者。
命が呪われている。魂も呪われている。
呪いの神、ロスト・ルジアによって、あらゆる加護を吸収し、全てがロスト・ルジアの加護に染められる。
まったくの別物になっていた。
「つまり、あなたを生かすも殺すも、私の気分次第です。恨むなら、私をお恨みください。その恨みはいつか憎しみに変わり、呪いになるのです」
そう言った彼女の言葉はどこか自重気味で。
口元は笑ってはいるが、目はどこか切なく揺れていた。
どうしてそんな顔をするのだろう……。
でも、それは……こんな時にかける言葉といえば……。
「……その笑顔、怖!?」
「失礼な!」
ぺしッ! と俺の顔が叩かれた。
「……痛ッ!」
「ふふっ」
自分も、さっき俺の笑顔が怖いって言ったのに……!
と、そう思いもしたけど。
……正直に言うと、痛くはなかった。彼女は逆に、気遣う風でさえあった。
そんな彼女は、瞳を揺らしながら笑っていた。頬がほのかに赤くなっていた。その顔を見ていると、俺も安心できた気がした。さっきの切なそうに笑うよりは、よっぽどいいと、そう思ったのだ。
「まったく、あなたは失礼な人です。……そんな失礼なことを言うあなたには、呪いと災いをたくさん降りかかるようにしておきます。…………でも、こんな気持ちになったの、いつ以来でしょう……。人と喋ったのも久しぶりで……それがあなたで良かったです」
そう言った彼女は、巫女服の袖の部分を握りしめると、それで俺の顔をゴシゴシと擦り始めていた。
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