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お世話になります

最終話

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 大夢は独身で趣味もなく、土日も仕事の社畜だった。だからお金の使い所も無くて、せめてもの贅沢で、賃貸マンションにしては割といい物件に住んでいた。

 だからといって、馬鹿正直に高額な家賃の支払いをしているワケではない。当然、家賃手当と、会社から斡旋される系列の不動産屋を介した、相場より安くなるグループ割引込みで、ありがたく借りれているのである。

 何が言いたいかというと、グループ割引、だ。

 佐藤はリビングのソファに座り、膝の上でグラビア雑誌を広げていたが、その内容がちっとも頭に入ってこなくて、話し声のするキッチンに目をやった。

 今や愛の巣となっている小さな部屋。その小さなキッチン。

「市井さん、これでいいですか?」

「はい。八木沢さま、上手ですね」

「ふふっ」

 そこでは、男として羨ましいほど均整のとれたスタイルのいい長身の家政夫と、家主の大夢が仲良く並んでサラダを作っていた。

(ちょっと……くっつき過ぎじゃね?)

 いつもどおりの週末の飲みをしようと誘われた自分の存在が、完全に忘れ去られている。

 拗ねた佐藤がソファに置いてあるクッションを枕に寝転ぶと、頭に違和感があった。首を傾げながらクッションを触ったらカバーの下に何か入っていて、チャックを下ろすとコンドームが出てきた。

 一瞬思考が止まったが、そっとチャックを上げて、何も見なかった事にして元に戻す。

(……市井さん……、やっぱXLサイズかっ)

 見なかった事に出来なかった。

(まぁ、幸せそうで何よりだよ……)




 お世話になります ♯ Final




 二人が先日付き合い始めた事は成り行きで知るところだが、その翌週の休み明け、つまり今週の月曜日に大夢の左手の薬指に指輪を見つけたときには、二人が濃厚な最初の土日を過ごしたのだと察し、酒を持って突撃訪問しなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしたものだ。

 キュウリのスライスをどこに配置させるかで楽しそうにイチャイチャしている二人を見て、佐藤の気分は男友達の疎外感というより、娘を嫁にやった父親のそれに近くて複雑になる。

(そう、グループ割引なんだよ)

 佐藤はクッションを触る前の思考に無理矢理戻した。

 市井が今つけている青い仕事用エプロンに視線をやって、大夢が家政婦が初めて訪問する日に見せてくれたパンフレットを思い出す。

 当時、よくこんなの見つけたな、と大夢に言った覚えがあるが、多分、大夢は社屋の玄関ホールや休憩所の隅に置いてある、グループ会社の紹介冊子がまとめられたラックから、たまたま家政婦のパンフレットを手に取ったのだろう。

(うちの会社も手広いよなぁ……)

 そのたまたま手にしたグループ割引のあるハウスキーパーサービスの子会社に、出会いに餓えた大夢がいっときの癒しを求めて契約の申し込みをしたのだが、そこに所属していた市井が派遣されて来たのは、たまたま……ではなかった。

 佐藤がその事実を知ったのは、週末の昨日。

 三月の初日となった金曜日の朝。出社すると上司に呼ばれ、辞令を受けた。

 佐藤は、自分が出世欲のある男なのだという事を、社会人になって初めて気付いた。学生の頃までは、周りと争わず日々楽しければそれで良いというスタンスでいたのに、成果と報酬で評価される場で、自分がチャンスに恵まれ、また、仕事のできる部類なのだと知ってからは、努力を惜しまず、掴めるチャンスは片っ端から掴んできた。だから二年前に、ワケ有りで上京してくる同僚を見張るような裏仕事を言い付かったときも、将来的にプラスになるだろうと割り切って受けたのが事の始まりだ。

 それが今や対象者に仕事として割り切れない情を持ち、築いた関係を壊したくなくて、仕事を辞退するに至っている。

 市井には特命を辞退した後も二人の前から消えたりしないで、これからも友人として関わっていきたいと宣言はしたものの、職場が異動になるくらいは覚悟していた。

 だから、今回の辞令は社の意向に沿わない自分を、どこかの地方支社にでも飛ばすのだろうと、諦めの境地で上司の手からペラ紙を受け取ったのだ。

 その用紙に指示され、呼び出された佐藤が数時間後に立っていたのは、勤め先の更に親会社、数多あるグループ企業の頂点。その本社ビル最上階の一室であった。

 だだっ広い重厚感ある部屋の佇まいに、武者震いではなく普通に身体を震えさせて立つ佐藤が目にしたのは、会長と名乗るおじいちゃんと、その脇に立つ、市井の姿であった――。

「佐藤、お待たせ」

 サラダを盛り付けた皿を持つ大夢が、いつの間にか目の前にいて、テーブルの中央にその皿を置く。

「あっ、お箸がまだ出てなかった」

 座ろうと腰を下ろしていた途中で気がついた大夢が慌てると、その肩をやんわり押さえて市井が微笑む。

「俺が持ってきます」

「いや俺がっ」

 キッチンへ戻ろうとする市井に思わず立ち上がって声を上げたのは佐藤で、そんな佐藤を驚いた顔で大夢が見つめて笑った。

「あははっ。佐藤、突然何言ってんの?」

「ほんとに。どうしたんですか、佐藤さん」

 市井も笑い、そのままキッチンに箸を取りに行く。

 市井と料理したのが楽しかったのかニコニコして椅子に座って待つ大夢の背後で、キッチンから市井が佐藤にだけ向けて、唇に立てた人差し指を当てて笑顔を向けた。

(目が笑ってねーよ、市井さん)

 座り直し、大夢の作製したサラダのキュウリを指で摘んでパリパリ齧りながら、佐藤は昨日、会長室で見たスーツ姿の市井を思い出す。

 馴染みのない場所に馴染みのある人物がいた事に驚くばかりで、声も出せない佐藤に市井は「いつもお世話になっております」と頭を下げて、会長の孫だと自己紹介してきた。

 そして、佐藤の特命は、二年前、市井の祖父である会長がお忍びで立ち寄った地方の工場で、迷子になった近所の老人が敷地内を歩いていると思われ、その時親切にしてくれた青年の顔や腕に痣があった姿を目にして調査がなされたことに端を発し、その後の青年を心配した会長が被害者の報告を継続するよう指示し、市井も知らぬ所で少なからぬ縁があったことを教えてくれた。そして、大夢を陰になり日向になり支えてきた孫の友人の佐藤が、その仕事に苦悩していると市井から聞き、会長は直接伝えたいということで、頭を下げて謝罪と感謝の言葉を言われてしまい、昨日の佐藤は恐縮するばかりだった。

(人事部に立ち寄った時に聞いたことのある、創業者一族のめちゃくちゃ優秀な孫が反抗期で本社から出た……なんて冗談みたいな噂話がまさかの実話で、それが市井さんの事だったなんて……。そりゃ優秀な人材なら手放したくないだろうから、なんとしてでも流出しないよう交渉したんだろうけど、……なんで家政夫だったの?)

 市井の転職の事情までは聞かされなかった佐藤は、今のこの場になってもまだ混乱しているが、とにかく華麗なる一族の一人であった市井は、大人の事情でグループ会社内に留め置かれ、ハウスキーパーとなっていた。そして、月日が流れ、半年前、グループ割引を利用する系列会社の、しかも過日の工場人事刷新となった苛め問題の被害者で報告対象になっている若い男性社員が、担当家政婦を二十代指定というドスケベ条件で申し込みしてきたという事で、万が一の更なる問題や間違いが系列内で起きないよう対処できる人材として宛てがわれたのが、市井だったのである。ただ、実家に一切頼っていなかった市井が仕事を欲していたのは事実だったようで、面倒な裏事情を聞かされず、いつもどおり仕事に向かい、実力で大夢と契約を継続させるに至ったそうだ。

 持ってきた箸をそれぞれの前に配り、大夢の横へ座った市井を半目で見遣って、佐藤は昨日知った事実と、新たに受けた特命にため息を溢す。

「佐藤、何かあったのか?」

 佐藤のグラスにビールを注いでいた大夢が目ざとく気づき、心配そうに聞いてくれた。

「あー……、腹が減り過ぎてるだけ。お前、キュウリの置く場所悩み過ぎっ。早く食いたいっ」

 市井が何も話していないのに自分から話せる訳がなくて、適当に誤魔化して答えておくと、素直に信じた大夢は食事の号令を急いでくれる。

「じゃあ、箸も来たし、いただきますっ」

「いただきます」

「ゴチになりますっ」

 久々の三人の食事に楽しそうな大夢と、いつも丁寧に両手を合わせお辞儀する市井と、やけくそ気味の佐藤。今夜の酒宴も、美味しい料理に酒が進み、空き缶の数がどんどん増えて宴もたけなわとなっていく。

 その終盤、いつもどおりなのか、佐藤に関しては新たな仕事のストレスからなのか。もはや様式美となった大夢と佐藤の泥酔展開は、今夜も市井のお世話になっている。

「だからっ、こいつに触ろうとする男が増えてきてんの~っ」

 さきいかを鞭のようにしならせ、ぺしぺしと大夢の頬に打ち付けた佐藤が、困り果てたように机に突っ伏した。

 佐藤の愚痴はまだ続く。

「それなのに、市井さんは、『仕事として阻止してください』……な~んて簡単に言うし」

 佐藤の新たな特命がこの件なのだが、会長室で市井に実際言われたセリフの部分だけ、佐藤は起き上がって、ちょっと眉をキリッとさせて再現している。

「さ、佐藤さん……?」

 特命を酔いに任せて大夢の前で喋ってしまっている事に、さすがの市井も笑顔がぎこちない。

 しかし、大夢は酔っている。佐藤だってそのへんはバレないように計算しているつもりだ。

「愛されてるなぁっ、八木沢ぁっ」

 うりうりとスティック型にカットされたニンジンで頬をまた攻撃される大夢は、そんな扱いでも佐藤の言葉にむしろご機嫌で、あはは、うふふと笑い上戸になっている。

 しかし、たまーに、泥酔している大夢だって、意識がしっかりする時もあるようで……。

「そーだ……佐藤ぉ、あの時ぃ、なんて言ったのー?」

 気になっていたことを質問したのだが、言葉と目の焦点はしっかりしていなかったから、佐藤と市井がむにゃむにゃ話す大夢に顔を寄せる。

「あの時ぃ?」

 どの時か分からなくて、聞き返したら、面倒くさそうに大夢が説明した。

「もー。ほらー、三課のぉ、背の高いー……」

「……あー」

 先週の月曜日の、大夢が市井に食べられ、唇を腫らし、キスマークいっぱいで出勤してきた日の事を聞いているのだと分かった。

 ずっと首を傾げたまま、話が分からない市井にも分かるように、佐藤が言葉を付け足す。

「先週、八木沢に言い寄ってきたぁ、ガチでソッチの噂がある奴を追い払ったときのことかとー」

「――あぁ」

 既に居酒屋で話していた件だったから、市井もすぐに思い出してくれて話が早い。

「あの時なぁ。あの人、お前に手ぇ出しそうだったからー、『八木沢のケツの穴の横にあるホクロは、俺にしか見せてくれないよ』って囁いてやったら引き下がってくれたんだよなー」

「――……え?」

 大夢と市井が一瞬動きを止めて、同時に佐藤へ問う。

 そして、大夢が慌ててリビングから走って出て行き、静まり返るリビングで市井が真顔で佐藤に尋ねる。

「確認ですけど、ほんとに見たわけじゃないですよね?」

 にっこりと笑んだ口元が余計に怖い。

「見てないっ」

 変な誤解を全力で否定したその時。佐藤の元へ、涙目で顔を真っ赤にした大夢が、ズボンのファスナーを下ろした、ベルトのバックルも外れたままの、着衣の乱れた状態で戻ってきて泣きついた。

「ホントにあったんだけどっ! いつ見たの!? 俺のこと、どこまで知ってるの!?」

 恥ずかしさを消したくて、佐藤に縋り付く大夢をベリッと引き剥がした市井が、自分に抱き付くように大夢を抱え上げる。

「大夢、どうやって見たんです? 鏡の前でどんなエッチな格好したんですか?」

「えっ……煌人さんも知ってたんですか!?」

 大夢が可愛くて仕方ない市井と、恥ずかしくて仕方ない酔っ払いの大夢がギューっと抱き合う。

 そんな二人を目の前にして、佐藤はだし巻き卵を口に放り込んで噛みしめ、白けた目で眺めてやった。

「わー……やっぱり名前で呼び合ってんのかよ……」

 大夢を言葉巧みに丸め込み、佐藤の前ではずっと苗字で呼び合うプレイを楽しんでいた市井は、後で佐藤に口止めして、もう暫くこの名前遊びを大夢と続けられるようにしようと考えつつ、とりあえず今は、羞恥と酔いの最中にいる大夢に念を押すことを優先させる。

「あとで、どうやってお尻のほくろを見たのか、俺に教えてくださいね……」

 抱き寄せ、甘い空気を作り上げていく市井に、佐藤が堪らずストップをかけた。

「俺が帰ってからで、お願いねっ」





 ソファで寝落ちてしまった大夢の寝姿を肴に、市井は一人で酒を飲んでいた。

 あれから程なくして帰って行った佐藤には、気を使わせてしまって反省している。

 その佐藤が帰る間際に、大夢の耳に入らないように玄関で市井に尋ねてくれた言葉を思い出していた。

『八木沢に仕事の事、言わなくていいの?』

 佐藤が気にしてくれているのは、今後を会長と話し合った市井が、家政夫業を縮小し、再び会社勤めに重心を置いていく事を伝えなくていいのか、という話だ。

 家族と向き合い、話をしてきたところまでは大夢に伝えていたが、未定だらけの今後を語るほど市井は若くない。

『何もかも中途半端で……、まだ情けないんで』

 弱気な苦笑を浮かべた市井に、佐藤は驚きを隠さなかった。

 市井は、佐藤に素性を話した上で仕事として、無防備な大夢に変な虫が付かないことを含めてサポートを継続して欲しいと頼んでいる。親会社に席を置くだろう市井からの依頼は、当然会社を通して佐藤に便宜が図られる。そんな立場を考えた佐藤が市井との関係を友人から一歩退こうと考えていることは、何となく感じたが、今夜の箸を取りに行くやり取りで佐藤が市井を上司として扱った動きを見せ、距離を取ることに決めたのだと確信した。だから市井は、大夢がトイレに行って席を外した時に、佐藤に今までどおりの付き合いでいて欲しいとお願いしたのだ。

 その時は戸惑ったような目を向けていた佐藤だったが、帰り際の今、市井にタメ口で話してくれたことで、友人として受け入れてもらえたのだとホッとした。

 そんな佐藤が、友人兼、部下として市井を励ます言葉を掛けてくれた。

『裏の仕事で、恋人のお世話させるとか、ワケ分かんないことやらせる俺の上司になったんだから、しっかりしてよ? あと、俺の出世もヨロシクね』

『ふはっ、……さすが佐藤さん。ちゃっかりしてますね』

 佐藤の軽口のおかげで、市井は笑顔で佐藤を見送った。

 柔らかな笑みを浮かべて、市井が大夢の寝顔を見つめる。

(隠し事を作りたくないのに、俺は貴方に格好をつけたくて仕方ないんです……)

 料理を褒めてくれる時のように、眩しいものを見るようなその眼差しを、これからの自分に向けて欲しい。

(好きになればなるほど、大切にしたくて、秘密が増えてく……)

 望んでしまうと、結果を出すまで言えなくなっている。

(待たせないので……。それまでは――せめて貴方だけの家政夫を、続けさせてください)

 溢れる想いに寝顔だけでは足りなくなって、市井は大夢が寝ていられなくなる口付けを仕掛けた。





 眠りから起こされた大夢の意識がはっきりしたのは、暫くしてからだった。その時には既にソファの上で仰向けに寝転がり、膝裏を抱え上げられて股をあられもないほど開いた姿勢で恋人を受け入れ、大夢は市井ののし掛かる身体の重みを全身で受け止めて、口づけに夢中になっていた。

 知らずのうちに市井の首に回して抱きしめていた腕が、キスと律動が続く長い時間、無意識に広い背中を摩ったり、爪を立てたりして市井の体の輪郭を撫でては、また首に戻って抱きしめている。

 夢だと思っていて、思いきり甘えた気がする。

 僅かに戸惑い強張った、朱に染まる薄い皮膚の変化に、大夢が夢と酔いからようやく醒めたのだと市井は気づいて、大夢と自分を追い込むため、腰を振る速度を上げた。

「んっ、ぅあっ、ハッ、ハ……ァッ、……アァンッ」

 一番気持ちいいところを擦り、深い場所を何度も突かれて、足の爪先まで硬直させた大夢の太ももが、市井の腰を挟んで震える。

「凄い……、触ってないのに大夢の先端からトロトロになった精液が零れ出てる……っ」

「あ……、ごめ……さな、止まらな……アァ……、出ちゃう……ッ、ごめんなさっ……」

「謝るより、好きって言って……。どこが好きか、たくさん教えて……、ね?」

 腰を挟んでいた太ももの痙攣が治まりを見せると、また市井の腰がユサユサと大夢を大きく揺さぶる。

「やぁ……、ゆっくり動く、の……、腰が溶けちゃうっ」

「好きなんですよね……?」

「す……好きぃ。お願い……そのまま、ぱちゅぱちゅって、いっぱい、してぇ……っ」

「っ、音たててされるのがっ、……好きなのっ?」

「あっ、ア、ア! うんっ、うんっ、エッチな音、いっぱい鳴るのが、ンッ好きっ、アアァッ」

「俺も、それ、大好きっ」

 より大きく音が立つように市井の腰がしなやかに動いて、卑猥な重い水音を鳴らせる度に大夢の茎がビクビクと跳ねて白濁をだらしなく漏らす。

「ここを扱いてピュッピュッしなくても、お尻だけで満足?」

 エッチの時の市井は、大夢に言わせたいが為に言葉選びが甘えやすい淫らなセレクトをしてくる。

 そして毎回、その期待に見事に応える大夢に感動するのだ。

「ピュッピュッ……したいぃ。ここ、擦ってい? ねぇ、俺、煌人さん見てるのに、触ってもい?」

「うん……、見ててあげます。大夢のひとりエッチ、見てるから、気にしないでいっぱい扱いてあげて」

 射精感に逆らえない性は、男なら痛いほどよく分かっている。頭の中が吐精したい一心の大夢を手のひらの上で転がすように誘導して、組み敷いた細い身体を見下ろし、自慰を始めた陰部を視姦する。

 息を弾ませ、見上げてくる媚びて蕩けた視線に、征服欲を満たされて背中をゾクゾクと震えさせ、ずっと大夢の尻に埋まったままの男根を更に膨らませれば、甘えるみたいに肉壁が竿全体を絞るように噛んできた。

 ヌルヌルと指に精液を絡ませて、一番弱いプリプリに張らせたツルツルの先端四センチほどを、大夢は何度も何度も自分の手で可愛がる。

「あっ、あっ、ぅ……、あーっ出るっ、出ちゃうっ」

 あれだけ濃い先走りを垂らしたあとにも関わらず、自分の顔に飛沫が掛かるほど勢いよく三度飛ばして、大夢は腰を震えさせて果てた。飛ばす度に肉壁で市井を締め付け喜ばせた大夢が、くたりと脱力して肩で何度も息をする。その余韻の最中に、市井が締め付けのおかわりを求めて穿ち始めた。

「やっ、ちょ、待って……っ」

 休憩なしの仕打ちに慌てても、逆らう力が直ぐに出なくて、市井の欲しがるままに貪られる。あっと言う間にまた気持ち良くなってきて、市井の抜き挿しに身体が悦びに悶えて再燃した。

 お尻がこんなに気持ちいいなんて、未だに信じられないのに、意地悪に全部抜かれて指で襞を撫でられ焦らされたら、お尻を揺らして欲しがってしまう。

「抜か……ないでっ」

 はしたない事をしていると分かっているのに、後で恥ずかしさに後悔するのも分かっているのに、いつもそんな事どうでもよくなるほど、お尻にそれを挿れて欲しくて堪らなくさせられる。

 大夢を見下ろす市井の眼差しは優しいのに、こんな時の市井は、いつも少しの意地悪を混ぜた、エッチなお願いをしてくるのだ。

「お尻のほくろ、どうやって見たのか教えてください」

 お願いを聞かないと、続けてくれない。

 それは、逆に言えば、お願いを聞けば、市井は必ず大夢のして欲しいことを、望む以上に叶えてくれるということなのだ。

「あ……、あ……ぁ」

 だるい身体をゆっくり起こして、まるで催眠術にかかったみたいに、大夢の身体が市井のお願いを聞くために動いていく。

 市井に背中を向けて四つん這いになり、小振りの尻を突き出すと、大夢は左手を尻に伸ばして丸い丘に沿わせる。そして、窄まりのそばに指先を置くと、クイッと肉を持ち上げ、ヒクつく穴が丸見えになる格好で、恥ずかしい場所を曝け出した。

 市井の目に、赤く熟れてパクパクと口を動かす襞のすぐそばに、可愛いほくろがよく見えた。

「こんな淫らな格好で、鏡に映して見たんですか?」

 市井の言葉に煽られて、恥ずかしさがどんどん増してゆくのに、それが気持ち良くて大夢をゾクゾクさせる。

「ここ……俺だけの秘密だったのに」

「――あぁっ!」

 市井の顔が大夢のお尻に近づき、ほくろにキスをされて、大夢が堪らず声を上げた。

 ビクンと腰を震えさせ、大夢の身体を固まらせると、逃げられないように尻を両手で掴み、ずっと物欲しそうにしている窄まりに予告なく舌をずぶりと挿し込んで、遠慮なしに舐め回し唾液を絡めて、いつも気持ちよくしてくれるお返しとばかりに愛撫する。

「やっ、そんなとこっ、舐めないでっ、アァッ、アーッ!」

「れも、舌を離さないのは、大夢れすよ?」

「も、やぁっ……。煌人さんのっ、太いのくださいっ」

 半泣きでお尻を振りながら求められては、応えるしかない。名残惜しそうに舌を離した市井が、新しいゴムを探して身体を離すと、大夢が先程と同じように、しかし今度は襞を広げるように両手を添えて、お尻を差し出してきた。

 淫猥な小さい穴が、紅く、暗く、市井を欲しがってぱくぱく蠢いて戦慄く。

「お願いっ、もう挿れてっ。そのままでいいからっ、奥まで突いて!」

 散々焦らされたお尻の奥に、理性の飛んだ市井の塊が一気に押し入って、全てが満たされる。

「ア゛ァッ、あ゛ぅっ、ンー……ッ、アァ!」

「大夢……っ、大夢……っ、……大夢!」

 ビュッと大夢の先端から快楽が飛び散っても止まらない市井の腰に、大夢は全身を震えさせて終わらない絶頂を繰り返し与えられ続け、突かれる毎に吐精を繰り返す。

「ひ……んっ、精液っ、止まらな……っ、も、苦し……ッ、ン゛ァ、またっ……出てるっ……あーっ、奥ぅ好きッ――気持ちいい゛っ」

「ッ……大夢っ、……出すよっ、中にっ、全部出すからっ」

「うんっ、……うんっ、全部、欲しいっ、俺に、ちょうだいっ」

「――くっ!」

 ぐっと膨れ上がった市井が大夢の中で爆ぜ、収まりきらないものが溢れ出て、大夢が散々落としていたものと混ざってソファを汚す。

 一気に体温を上げて汗だくになった市井が大夢の背中に落ちてきて、その重さを背中で受け止めて大夢はソファに沈んだ。

「頭が……おかしくなるくらい、……気持ち良かったです……」

 大夢の上にいる市井が、大夢の背中に唇を付けながら満足げに言葉を紡ぐ。

 その言葉は自分の方だと思いながら、大夢は答えられずに眠りに落ちていった。






 大夢に恋人が出来て、初めての春が来た。

 佐藤から見れば、大夢の頭の中は真冬から春爛漫であったが、やっと季節も追いついてくれた。

「困るんだけどっ」

 四月の、風の爽やかな日。

 相変わらずのいつもの飲み会は、いつもの三人が小さな部屋で、いつもどおりに酔っ払う。

 今日は佐藤がご立腹だった。

「八木沢を可愛がるの、しばらく禁止っ」

「なんでですかっ」

 理不尽な注文に、ビール片手の市井も黙っていられない。

 しかし、佐藤は市井の膝枕で寝落ちている大夢を指差して、ストレスを爆発させた。

「だって、悪いムシ付かないようにしなきゃなのに、コイツ色気駄々漏れなんだけどっ。日増しに磨かれて、悪いムシ湧くの止まんないんだけどっ。市井さんさ、自分好みに育ててんだろうけど、ソレ、他の男も好きだからっ! ほらっ、今もお尻撫でないっ。もうプリンップリンッなんだから、これ以上育てないでっ」

 認めたくないのに、市井に抱かれてから大夢のふとした表情や仕草、身体つきが、明らかに男の欲情をそそるカタチになってきていて、このままではいつか自分も籠絡されそうで困ってしまう。

 そんな佐藤の言い分も分かるのだが、市井にだって癒しは必要なのだ。

「……補給しないと、枯れます」

「いや、枯れそうなの月曜日の八木沢だからっ」

 悲しそうに言ってみたが、速攻で言い返された。

 おまけに、仕事の前日は回数を控えろとまで言い出され、身に覚えがあり過ぎてたじたじになってしまう。

「とにかく、市井さんはもう既にいくつか結果も出してんだし、いい加減自分に満足するゴール決めて、スーツ姿を八木沢に見せてやってよ。きっとコイツ喜ぶから」

「……佐藤さんは、俺を焚きつけるの上手いですね」

「お? 仕事のやる気、出た?」

「めちゃくちゃ出ました。大夢をちょっとだけ控えて、その時間を仕事に使います」

「……ちょっとだけかぁ」

 大夢がブレーキにも燃料にもなってしまっているが、何も手を打たないよりかはマシだと思う事にした。

 そんな話が一区切りついた時、思い出したように佐藤が時計を見て、大夢に声をかけた。

「八木沢ぁ、寝てたら起こせって言ってた時間だぞー」

 大夢が自分ではなく佐藤にしていた頼み事に、市井は首を傾げながら時計を見る。時間はちょうど日付けが変わったところだった。

 佐藤の声に素直にむくりと身体を起こした大夢が、眠い目を擦って時間を確認すると、既に日付けが変わってしまっていることに慌て、市井の方へ向き直り、可愛い寝ぼけまなこでにこりと微笑んだ。

「お誕生日、おめでとうございます」

 それだけを言うと、驚いた顔の市井に満足して、佐藤から紙袋を受け取る。

「コレ、佐藤と俺からの誕生日プレゼントです」

 まさかのサプライズに、市井は大夢と佐藤を交互に見る。

 嬉しそうな市井に、大夢も嬉しくなってソワソワした。

「市井さん、早く中身開けてみて。実は俺も知らないんです。俺一人じゃ全然決められなくて、佐藤が絶対市井さんが喜ぶもの用意できるから任せろって言ってくれて」

 紙袋から箱を取り出し、包装紙を解く間に語られる大夢の言葉に、市井はそれがどう考えても下ネタ一直線の前振りにしか聞こえなくて佐藤の表情をそっと伺い見る。

(佐藤さん、さっきは控えろって言ってたけど……)

 佐藤は市井が視線を向けてくることを予測していたように市井と目がパチリと合った途端、グッ、と親指を立てて健闘を祈ってきたので、市井はありがたい思いでその気持ちを受け取り、コクンと深く頷いた。

 果たして包装紙の中から出てきた夜の営みセットの数々に、大夢は驚き呆れて、佐藤の名を呼んで勢いよく振り向いたのだが、その時には既に佐藤は姿を消した後で、イリュージョンを見せられた状態に混乱している大夢が今度は市井の方を見ると、オレンジのキャップを外してブチュブチュと透明な粘液を手のひらにぶちまけながら迫って来ている。

「え……? え?」

「さすが佐藤さん。俺が絶対喜ぶ、最高のプレゼントです」

 色気たっぷりに微笑むイケメンにのし掛かられて、大夢はシャツの上から優しく乳首を摘まれた。

「今夜も、――お世話になります」

 市井の声で、蕩けるような夜が始まった。




 ☆END☆

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