転生したらとんでもないトコロをイケメンにされた

餅月ぺたこ

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1.カイト

第1話

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 漫才で物理的におもっくそスベって、頭部強打。

 三澄海斗は、二十歳で天国に来ました。






 1 カイト



「いやぁ、結構大きな賞レースでね。緊張しちゃって。足元見てなくてね。しかも床があんなにツルツルに磨かれるとか思わないじゃないですか。マイクの周り、あんなに艶出しをかけなくてもいいと思いません? スベって足が振り上がって脳天から床に落ちるとか、勢いつくにも限度があるでしょ」

 天国……というか、天空? みたいな青空の下。

 フカフカの雲の床、その床に盛り上がってできた雲のソファ。そこに徹子の◯屋みたいな配置でゲスト席に座った俺は、白い布の服を着た、淡く発光する大天使的なイケメンに悔しさをぶつける。

 大天使……いや、これ神様じゃね?

 その神様は俺の話を、優しくうなずいて聞いて、楽しそうに微笑んだ。

「体勢崩すほど床で滑った原因は、ネタでスベったからと。うまいこと言うね」

 いや全然うまくねーし! あっはっは、じゃねーし!

 俺と同年代くらいに見える、割とフレンドリーな言葉遣いの神様。淡紫にも金にも見える、虹色に輝く長髪金眼で日本語ペラペラだから違和感がすごい。かなり若そうだけど、まさか神様の見習いとかじゃないよね?

「くそぅ……。あーあー、そうですよ……。ネタがウケなくてズコーって足をズリ動かしたらバク宙してたバカですよ……って、やっぱ床のせいじゃない?」

「でも、そこが人生で一番ウケた瞬間第一位になっているね」

「マジで!? ソコ!? 今まで色々仕事してきたのにソコ!?」

 そんなのまでわかっちゃうって、やっぱ神様すげー。

 さすが神様、と拝んでから、俺はパサついた黒髪をかきむしる。

「くーっ、でもそんなウケた瞬間の記憶ないってことは、そん時にはもう頭打ってたのかぁ」

「コホン。あー、みんなからの感想、覗いてみる?」

「……感想?」

 一瞬見せた俺からの尊敬の眼差しがお気に召したのか、差し出された物を覗き込むと、ガラスであってガラスでない不思議な板に、スーツ姿の俺がバク宙してる瞬間の映像が再生されてて、その上を文字が右から左へ流れている。

 何コレ神チューブ? カミカミ動画?

「この勢い嫌いじゃない」

「ネタと自分で二回滑るという高等技術」

「つまんない空気を一瞬で変えやがった」

「こいつ突然キレ増しててwww」

「突然放送もキレましたけどね」

「これはきれいな一回転。尚着地は」

「助走なしで一回転は草」

「きれいな除草剤」

「除草剤ワロタ」

 以後、視聴者に除草剤のワードがハマって、俺へのお悔やみを込めてみんなが画面にwの草を生やしてくる。ぱっと見の絵面、すごい楽しそう。

「これが……俺の第一位……俺の最盛期……っ、ツラぁぁああ!」

 打ちひしがれる俺に神様が音もなく寄り添って、背中をポンポンと優しく叩いて慰めてくれる。てゆーか誰だ、つまんないって言ったの。

 ひとしきり落ち込んで己を弔ったあと、何とか気持ちを立て直した。

「大丈夫かい?」

「はい。どんなカタチでも誰かの記憶にちょっとは楽しく残ったんだって思うと、まあいい人生だったかなって……」

「うん。ポジティブなのはいいことだよ。雑草魂だ!」

「いや草の話は、今はまだちょっと……グスッ」

「ごめんごめんっ」

 不安定な俺の心を神様も気遣って、すぐに謝ってくれる。優しい。これが神対応か。

 目尻の涙を拭って俺は、はたと相方のことを思い出した。

「そういえば、佐田は……」

 ちっちゃい俺と、太っちょの佐田は、幼馴染の同級生コンビだった。

 施設で育った天涯孤独な俺を、小学生の頃からいつも気にかけてくれていた佐田は、心配性をこじらせたようで、結局、進路先まで俺についてきてくれた。

 ラッキーなことに、仕事はデビューまでトントン拍子で進み、10代という若さもあってか人気はそこそこ。といっても俺は、身長のせいか、大きな目のせいか、存在がマスコット的な扱いをされているようで、毎年開催される、「女装させたら抱ける芸人」という謎の枠を、不動だった先輩芸人からいきなり王座を掻っ攫い、佐田は「空気中からも栄養を摂ってそうな芸人」という、これまた謎枠を、第六位という微妙な順位ながらもランク・イン。新人で二人そろってランキングに殴り込んできたダークホースとして悲しくもネタ以外で一気に名を轟かせた。そんな凸凹コンビだった。

「彼ならキミを横で亡くしたショックで、痩せ細って素材の良さが引き出されてね。今後はイケメン俳優として太く長く活躍予定だよ」

「何ソレぇ! 佐田の人生の方が面白いんだけど! えぇっ、すごくない!?」

 俺のこれからより、みんなそっちの方が気になっちゃうじゃん! すごい主人公展開じゃん!

 相方の人生が眩しすぎて羨ましい。

「うわぁ、そっかぁ。佐田、これから活躍するのかぁ。良かったなぁ。すげぇ……」

 それを隣で見れないのは寂しいけれど。

 なんてちょっとしんみりしちゃうと、再び涙腺が緩んでくる。

 だめだ。楽しく生きるをモットーにしてきたんだから、この状況も楽しまなくちゃ!

 ……まあ、死んでから生きるモットーもなにもあったもんじゃないけど。

 零れそうになるため息をぐっと堪えて呑み込んだ時、どこからか優しい鐘の音が聞こえてきた。

 神様の手がそっと俺の背中から離れて、それから神様はおもむろに口を開くと、穏やかで、深く低く、浅く高く、男にも女にも聞こえる不思議な声で、告げてきた。

「選ばれし鐘の音の祝福を受ける人の子よ。次の生へ行く時間がきたようだね」

「……次? 別の何かに生まれ変わるんですか?」

 俺の質問に、神様は肯定の微笑みを浮かべている。

「希望があるなら聞いておくよ」

「う~ん……じゃぁ、草以外でお願いします!」

 あー、虫とかも嫌かも。でも案外虫になってみたらそれはそれで楽しいのかな?

「ふむ。……ヒトがオススメなんだけど、もう人は嫌になった?」

「えっと……いえ。俺、やっぱりまた俺がいいなぁ。芸人には向いてなかったみたいだけど、色んな人と、たくさん喋りたい。いっぱい喋って、笑いあえる……そんな人生を、また生きたいなぁ」

「若いくせに欲がないなぁ。久々にチカラの見せ所なのに、つまらないぞ」

 欲張りを望むなんて、随分俗っぽい。神様は暇を持て余していたんだろうか。

 ともかく。

 元芸人としては、つまらない、なんて言われるのは聞き捨てならない。

「欲かぁ。身長があともう十センチは欲しかったかなぁ……。そしたらモテただろうし……。あっ、まだまだいろんなものも食べたかったし、知らないところに、一人で旅とかもしてみたかったな」

 身長以外は、なんだかお金でどうにかできてしまう欲かな?

 結局、お金持ちになりたいって一言で終わっちゃう。これは確かに俺ってつまらない奴だ。

 いざ欲張れと言われると、結局お金くらいしか思いつかないことに気づいてしまった。

「ちっちゃい頃は、空を飛びたいとか、ヒーローになりたいとか、魔法を使いたいとか、楽しいこと色々考えてたのになぁ」

 誰でも持ってたキラキラした夢は、現実を受け入れる毎日に埋もれてしまって、夢は夢でしかないと知った、ただの大人になっていた。

「ほらほら、他には? 時間切れになるよ」

「わぁ! 待って待って!」

 急なタイムアップ宣言で、余計に思考がまとまらないのに、神様の姿がだんだんぼやけてくるし、俺の身体もなんか泡みたいになってきている。

 ほんとにもう時間切れみたいだ。

 何か、何か欲張って言わなくちゃ!

「お、俺と、お友達になってくださいっ」

「うん。お安い御用だ」

「マジですか!」

 別れ際に話を合わせてくれただけなんだろうけど、リップサービスでも間を置かずに快諾してくれたのはちょっと嬉しい。

 ほら、新生活で既に友達がいるのは、非常に心強いからね。

 これで思い残すことはないと、ほっこりとした気持ちで、しゅわしゅわと感覚が溶けていくような不思議な転生体験の最後に、俺ははっとなって、大声で叫んでいた。

「神様ぁっ、佐田に負けないくらいの、イケメンでお願いしまーす!」

 もう何も見えないし聞こえなくなっていたけれど、俺のお願いに神様が笑っている、そんな気がした。



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