幸福論 ~善意という名の洗脳~

武蔵

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第十話:奪われた子宮

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三ヶ月目。高村家の本家、静まり返った客間で、ソウイチは「仕上げ」の工程を告げた。

「これまでの二ヶ月で、ミサキちゃんの土壌は完璧に整った。最後に必要なのは、深部への直接的な刺激を伴う『運動療法』だ」

その言葉が意味するものを理解した瞬間、ミサキの全身から血の気が引いた。理性が、激しい警鐘を鳴らす。

「……そんなこと、できるはずがありません! それは、裏切りです。不倫です……っ!」

だが、ソウイチは眉一つ動かさなかった。彼は、末期癌の患者に唯一の治療法を提示する名医のような、冷徹で慈悲深いまなざしを彼女に向けた。

「誤解しないでほしい。これは医療行為の延長なんだ。女性の最奥には、指先や器具では届かない領域がある。粘膜を傷つけず、かつ最も効率的に骨盤底筋を収縮させ、受胎能力を最大化させるためには、男性器による刺激が不可欠なんだよ」

「ですが……お義兄さんとそんな……」

「僕は、遺伝的に弟に最も近い存在だ。高村家の血を引き、彼とほぼ同じ遺伝情報を持つ僕だけが、彼の『正解の代理人』になれる。これはケイスケを救い、君を真の意味で『母親』にするための神聖なプロセスなんだ」

ソウイチは畳み掛けるように、ミサキの逃げ道を塞いでいく。

「一日だけ、時間をあげよう。よく考えて結論を出してほしい。君が嫌なら、僕は無理に勧めない。ただ、ケイスケとの幸せな未来を、君自身の手で手放すことになるだけだ」

その夜、ミサキは隣で眠る夫の寝顔を、涙で見つめていた。

(愛している。この人の子供が欲しい。この人を父親にしてあげたい……)

頭の中を「裏切り」という文字が嵐のように駆け巡る。だが、二ヶ月間にわたるソウイチの周到な洗脳と、蓄積された快楽の記憶、飾られた「ケイスケの代わり」という欺瞞のロジックが、彼女を追い詰めていく。

(私が汚れれば、この人は救われる。私が耐えれば、すべてうまくいくの……)

翌日。ミサキは青白い顔でソウイチの前に立ち、蚊の鳴くような声で告げた。

「……お願いします。ケイスケさんのために」

「……いい子だ、ミサキ。目を閉じて」

ソウイチの囁きが、耳元で響く。

衣服が滑り落ち、シーツの冷たさが肌を刺す。だが、ソウイチの手が触れた瞬間、ミサキの肉体は、これまでの二ヶ月で刷り込まれた通り、反射的に悦びの予感に震えた。

「これは僕じゃない。ケイスケの手だ。……ほら、声も、似ているだろう?」

ソウイチは、ケイスケの口調、呼吸の速さ、声色を完璧にトレースしていた。ミサキの視覚が遮断される中、彼女の脳内では現実と幻想の境界が崩壊していく。

ソウイチは背後からミサキの華奢な身体を包み込み、獲物を吟味する捕食者のような、あるいは不調を正す調律師のような手つきで、彼女の乳房を掌に納めた。

「……まずは、母体としての感受性を高める必要がある」

ソウイチの低い声が耳元を震わせる。大きく温かい手が、乳房を圧迫するように揉みほぐしながら、親指でその先端を執拗に転がした。

「あ……っ」

ミサキの背筋が弓なりに反る。しかし、ソウイチのもう片方の手は、すでに彼女の脚の間――もっとも熱く、もっとも「正解」を求めて疼いている場所へと伸びていた。

巧みな指先が、衣類に守られていた小さな突起を、ローションの滑らかさを利用して弾き、擦り上げる。

「あ、あああっ……そこ……っ!」

「ここが君の『生命の源』だ。羞恥を捨て、ただ感覚を研ぎ澄ませなさい」

ソウイチはミサキを横たわらせると、その白く柔らかな膝を押し開き、彼女の聖域を露わにした。 そして、ためらうことなく顔を寄せ、熱い舌でその最奥を掬い上げる。

「あ、そんな……! いや……っ!」

医師が患部を診察するように、しかし驚くほど官能的な執拗さで、ソウイチは彼女のすべてを舐め、吸い上げた。

ミサキは自分の意志とは無関係に跳ねる肉体に翻弄され、最初の一回、激しく身体を震わせて果てた。透明な飛沫がシーツを濡らし、彼女の視界は快楽の火花で真っ白に染まる。

だが、ソウイチは休む間を与えない。彼は膝立ちになると、自身の逞しく硬く反り立ったものを、ミサキの口元へと押し当てた。小さな口には到底収まらないものが出し入れされる。

「これから……飲みなさい。僕の陽の気を一滴も漏らさず取り入れるんだ。君を、内側から完璧に体質を変えるには必要なことだよ」

逆らうことなど、最初から考えられなかった。ミサキは跪き、涙を浮かべながらそれを深く受け入れた。喉を鳴らし、命じられた通りにすべてを飲み下す。その服従の行為そのものが、彼女の脳内をさらなる快楽の色で塗りつぶしていく。

「いい子だ。……次は、君が自ら『正解』を取りに行く番だ」

ソウイチが仰向けに横たわり、ミサキをその上に跨がらせた。 自分の手で、兄の巨大な熱を胎内へと導く。

「……っ、んんっ……!」

深く、あまりに深く。ソウイチの剛直が、子宮の入り口を直接叩くような感覚に、ミサキは叫び声を上げた。

「あ、あ、あああっ! 奥が……奥が、壊れちゃう……っ!」

「壊れはしない。そこが君の『冷え』の根源だ。僕が直接、そこを刺激することで温めてあげることができるんだ」

騎乗位での激しい上下運動。ミサキは、己の肉体がソウイチの一部と化していくような錯覚に陥った。奥に当たるたび、火花が散るような快感が脳を焼き、彼女は何度も、何度も絶頂を繰り返した。白目を剥いて、よだれを垂らしながら、彼女は悦びの淵で悶絶する。

しかし、ソウイチは許さない。

「まだだ。まだ神経の末端まで行き渡っていない。……休んではいけないよ、ミサキ」

彼女が快楽に力尽きそうになるたびに、ソウイチは下から突き上げ、彼女を無理やり絶頂の向こう側へと引きずり戻す。三度、四度と、果てても止まらないその「施術」に、ミサキはもはや人としての形を失い、ただの「受容する肉の器」へと成り下がっていった。

最後は、ソウイチが彼女を押し倒し、正常位へと組み伏せた。

「……仕上げだ。ケイスケが、そして高村家が待ち望んでいた『結果』を、君の中に授けよう」

ソウイチの瞳には、圧倒的な、暴力的なまでの慈愛が宿っていた。彼はミサキの脚を肩まで担ぎ上げ、最後の一撃を最奥へと叩き込んだ。

「あ、ああああああ……っ!! ぁ……っ!!」

ミサキが最大級の絶頂を迎える。

「ケイスケ君……ケイスケ君っ! 大好き、愛してる……っ!」

ミサキは涙を流しながら、夫の名を呼び、自らソウイチに縋り付いた。 ソウイチは弟になりきり、無慈悲なほど激しく、しかし慈愛を演じながら腰を動かし続ける。ミサキの胎内は、かつてない熱量で満たされ、彼女の意識は恍惚の極みへと突き落とされた。

「出すよ、ミサキ……高村家の、弟の命を……!」

何度目かの絶頂と共に、ソウイチの遺伝子がミサキの深部へと注ぎ込まれた。 それは、彼女の聖域を蹂躙する侵略であったはずなのに、今のミサキにとっては、最愛の夫との一体感を証明する「神聖な雫」のように感じられた。

行為後、ソウイチは賢者モードのような冷徹な表情に戻り、乱れた髪を整えた。

行為の余韻が漂う、静まり返った客間。ミサキはシーツの上で、まだ熱を帯びた肢体を横たえていた。魂を削り取られるような快楽の残滓に、思考は白濁し、ただ浅い呼吸を繰り返す。

そこに、衣服を整え終えたソウイチの、低く冷徹な声が降ってきた。

「いいかい、ミサキ。大切な約束がある」

ソウイチはベッドの傍らに立ち、慈愛に満ちた、しかし逆らうことを許さない絶対者の眼差しで彼女を見下ろした。

「この施術を受けた日は、家に帰ったら必ずケイスケと性交をしなさい」

ミサキは弾かれたように目を見開いた。

「え……? でも、今……ソウイチさんと、あんなに激しく……」

「それが重要なんだよ」

ソウイチは彼女の額に優しく手を置き、まるで幼子に理科の法則を教えるような淡々とした口調で続けた。

「今の僕の施術によって、君の子宮は通常の状態よりも下がってきている。血流は極限まで高まり、いわば排卵日以上に受胎しやすい『聖域』が作り上げられているんだ。この最高のコンディションを無駄にしてはいけない。今夜、君の胎内にケイスケを迎え入れることで、初めて僕の『代理行為』は完結し、新しい命が宿る」

「ケイスケを迎え入れる……」

ミサキはその言葉を、呪文のように繰り返した。 脳内では、今しがた自分を蹂躙したソウイチの感触と、愛する夫のイメージがドロドロに溶け合っていく。ソウイチによって「開発」され、熱を孕んだこの肉体は、すべて夫のために用意された「正解」なのだ。

「これを繰り返せば、間違いなく、君たちは親になれる。……すべては、ケイスケの幸せのためだ。わかっているね?」

「……はい。わかりました。……私、頑張ります」

ミサキは至福に満ちた表情でうなずいた。 彼女の体内には、まだソウイチの熱い痕跡が残っている。その「毒」を抱えたまま、彼女は今夜、純粋な愛を信じる夫の元へ帰り、彼を誘うだろう。

ソウイチは、自分好みの色に染まり、思考を停止させた「弟の妻」を見つめ、心の底から満足していた。罪悪感など微塵もない。あるのは、自分が調律した完璧な楽器が、予定通りの音色を奏で始めたことへの、歪んだ達成感だけだった。

その夜。 帰宅したケイスケは、出迎えたミサキの異様な色気に圧倒された。 潤んだ瞳、わずかに上気した頬、そして、どこか挑発的に揺れる腰つき。

「ケイスケさん……。今夜は、たくさん愛して……」

しなだれかかるミサキの首筋から、以前にはなかった芳醇な香りが漂う。ケイスケはそれを、兄の施術によって「健康」を取り戻した証だと信じて疑わなかった。

「ああ……ミサキ。君は本当に、綺麗になったよ」

彼女の瞳には、もう迷いも罪悪感もなかった。 ミサキの中で、ソウイチとの行為は「不倫」という汚らわしいカテゴリーから抹消されたのだ。それは、「弟との愛を深めるための儀式」であり、「夫の愛を肉体で確認する至高の場」へと完全に書き換えられた。

(ああ、完璧だ。……次は、どんな色をこのキャンバスに塗り重ねようか)

ソウイチの向上心は、更なる深淵へと向かっていた。
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