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第十一話:侵食する影と、砕かれた楽園
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ソウイチによる「施術」を終え、実家から戻ったその夜。 寝室の空気は、ミサキが纏ってきた微かな香油の匂いと、彼女の身体の奥深くに沈潜した兄の「熱」によって、異様な湿度を帯びていた。
「……ミサキ、大丈夫かい? 疲れていないか」
ケイスケが、心底妻を労るような優しい手つきで、ミサキの肩に触れる。 その掌は、数時間前に彼女の肉体を蹂躙し、再定義したソウイチのものに比べれば、驚くほど軽く、そして温度を欠いていた。
「大丈夫……。ケイスケ。さあ、始めて……お義兄さんが、今が一番『受胎』しやすい時だって、言っていたから」
ミサキは、自分でも驚くほど平坦な声でそう告げ、シーツの上に横たわった。 ケイスケは「兄さんのおかげだ」と呟き、歓喜に震えながら彼女を抱き寄せる。
ケイスケの愛撫が始まった。 彼は、彼なりに丁寧に、愛おしそうにミサキの肌をなぞり、唇を重ねる。しかし、ミサキの肉体は、凍りついたように静まり返っていた。
(……何かが、違う)
ソウイチの手が触れた場所に走った、あの火花が散るような衝撃がない。 身体の芯を焼き尽くし、自我を溶かしていくような、あの暴力的なまでの高揚感が、どこにも見当たらないのだ。
ケイスケが自分の中に入ってきた瞬間、ミサキは思わず目を見開いた。 確かに、夫がそこにいる。彼は必死に腰を動かし、愛を囁いている。だが、ミサキの感覚は、それを「正しい振動」として受け入れることができなかった。
ソウイチが執拗に叩き込み、広げたばかりの彼女の最奥にとって、ケイスケのそれはあまりに弱々しく、遠い残響のようにしか感じられなかった。
(どうして……? 私はケイスケを愛しているのに。どうして、こんなに冷めてしまっているの……?)
ミサキの脳裏に、数時間前のソウイチの顔がフラッシュバックする。 あの、冷徹で慈愛に満ちた瞳。自分のすべてを暴き、魂の形を変えてしまった、あの熱い「正解」。 それに比べ、今の夫との行為は、まるですでに答えの出た計算式をなぞるような、退屈で無機質な作業に思えてならなかった。
翌日。ミサキは堪らず、ソウイチにその苦悩を打ち明けた。
「お義兄さん……私、ケイスケと……その、したのですが、どうしてもお義兄さんの時のような、あの……感じが、なくて……。私、夫を裏切っているような、冷たい人間になってしまったのでしょうか」
電話の向こうで、ソウイチは慈悲深い聖職者のような、穏やかな溜息をついた。
「いいかい、ミサキちゃん。それは君が悪いわけでも、愛が足りないわけでもないんだよ。すべては、エネルギーの性質の違いなんだ」
ソウイチの声は、迷いの中にあるミサキの心を、優しく、しかし強固に縛り上げる。
「僕が君に与えているのは『陽の気』だ。それは、生命を覚醒させ、土壌を焼き払って耕すための、激しく動的なエネルギー。だから、強烈な高揚感を伴うのは当然のことなんだよ」
ソウイチは、理科の実験結果を教える教師のように、淡々と続けた。
「対して、ケイスケは『陰の気』の持ち主だ。彼は静かで、受動的で、安定している。だから、彼との行為に高揚感を求めること自体が、自然の理に反しているんだ。……でもね、ミサキちゃん。大事なのはそこじゃない」
「大事なのは……?」
「『種』を、僕が整えたその肥よくな土壌へ、静かに受け入れること。その一点だけなんだよ。彼との時間は、悦びを得るためのものではなく、僕が導き出した『正解』を、物質的に完成させるための儀式に過ぎない。君が高揚感を感じないのは、君の身体がすでに『陽』によって完璧に満たされ、彼の『陰』を正しく、冷静に受け入れられる準備が整っている証拠なんだ」
ソウイチの言葉は、ミサキの罪悪感を「機能的な納得」へとすり替えていった。
「……そう、なのですね。私は、ただ受け入れればいいのですね」
「そうだよ。君が感じる高揚感は、僕という『太陽』の役目。ケイスケとの時間は、ただの『受容』。それでいいんだ。……さあ、顔を上げなさい。君は今、高村家にとって最高に正しい『器』になっているんだから」
数日後。 再びケイスケに抱かれながら、ミサキは天井の隅を見つめていた。 夫の激しい息遣いが耳元をかすめる。だが、彼女の心は、凪(なぎ)のように静まり返っていた。
(ああ……お義兄さんの言う通りだ。これでいいんだわ)
快楽がない。高揚感もない。 だが、その「空虚さ」こそが、自分がソウイチによって正しく作り変えられた証明なのだと、彼女は確信していた。 身体の奥に残る、兄の熱い「正解」の記憶。その上に、夫の「種」が機械的に注ぎ込まれていく。
二ヶ月後、高村家は法悦に包んでいた。 ミサキの懐妊。それは、冷え切っていた夫婦にとって、そして厳格な家格を守り続けてきた両親にとって、奇跡にも等しい福音だった。
ケイスケは、産婦人科から手渡されたエコー写真を震える手で眺め、手放しで泣いた。両親もまた、待望の初孫の知らせに「高村の血が繋がった」と、幾度もミサキの手を握った。
その狂騒の傍らで、兄・ソウイチは、まるですべての成り行きを見通していた仏のように、優しく、細めた瞳でケイスケの肩を抱いた。
「よかったな、ケイスケ。僕の言った通りだろう? 全ては正しく整えられたんだ」
その手の温もりは、かつて画用紙に「正解」を上書きした時と同じ、有無を言わせぬ絶対的な重みを持っていた。
翌日、ソウイチはミサキを呼び出し、これからのことを伝えた。
「いいかい、ミサキちゃん。新しい命が宿った今、僕たちの施術は次のフェーズ、『胎教』へと移行する」
ミサキはお腹をそっと撫でながら、心酔しきった瞳で兄を見上げた。
「胎教……。お義兄さん、私は何をすればいいのでしょうか」
「理屈は簡単だよ。胎児は母体と胎盤を通じて血流を完全に共有している。つまり、君が僕の施術によって深い快楽を得て、脳内にオキシトシンやエンドルフィンを大量分泌させる。それが血液に溶け込み、胎児を『幸福な化学物質のスープ』で満たすんだ。これこそが脳の発育を促し、穏やかで高潔な性格を作る。僕の陽の気で子宮を温め、幸福感で満たすことこそが、この子への最初の教育なんだよ」
ソウイチは、ミサキの顎を指先でクイと持ち上げた。
「安定期に入るまでは、身体への過度な負担を避けるため、直接の結合ではなく『口腔による施術』を主とする。君が僕の陽の気を口から直接受け止め、体内に循環させることが、今の時期の胎児にとってもっとも安全で、かつ効率的な栄養になるんだ」
「口で……受け止める……」
「そうだ。だが、ただ吸えばいいというものではない。効率よく陽の気を摂取するために、君には正しい技術を学んでもらう必要がある。……さあ、膝をつきなさい。僕が君の『技術』を胎教に相応しいレベルまで引き上げてあげるよ」
ミサキは導かれるまま、絨毯の上に膝をついた。目の前には、兄の圧倒的な存在感――「陽の気」の塊がある。 ソウイチが自身のそれを露わにすると、ミサキの頬は熱く上気した。
「まずは、舌の形だ。先端を鋭く尖らせるのではなく、柔らかく平らにして、表面積を広げなさい。……そう、それでいい」
ソウイチの大きく温かい手が、ミサキの後頭部を優しく、しかし確実な力で固定する。
「根元から先端に向けて、円を描くように。ただ舐めるのではない、そこに宿る僕の熱を、君の舌の粘膜すべてで感じ取るんだ。……もっとゆっくり。リズムを一定に。心臓の鼓動をなぞるように動かしてごらん」
ミサキは必死に食いついた。ソウイチの指導は、音楽のレッスンか、あるいは精密機械の調整のように細かく、執拗だった。
「そこだ。その裏側の筋を、舌の先で細かく弾くように。……いいぞ。そこが気の入り口だ。君がそこを刺激するたび、僕の熱は君の口腔を通じて、ダイレクトに君のホルモンへと働きかける」
じゅる、と濡れた音が静かな部屋に響く。 ミサキは羞恥を通り越し、自分の行為が「子のための神聖な教育」であるという自己暗示の中に溶けていった。ソウイチが指示する舌の使い方――裏側を這わせる動き、先端を震わせる圧迫――その一つ一つが、彼女の脳内に新たな快楽の回路を刻み込んでいく。
「上手になったね、ミサキちゃん。……今度は、喉の奥まで。僕の陽の気の根源を、君の喉で直接抱きしめるんだ。吐き気を感じる必要はない。それは僕を『拒絶』しようとする旧来の自我の抵抗だ。その不快感を快感へと書き換える。それが母としての強さだよ」
ソウイチの腰が、ミサキの口内を支配するように突き上げられる。 ミサキは涙目になりながらも、懸命に彼を飲み込もうと努めた。喉が拡張され、熱い塊が彼女の深部を叩く。そのたびに、ソウイチの言う「化学物質のスープ」が自身の脳を満たしていくのを、彼女は幻覚のように感じていた。
「……くるぞ。ミサキ、目を開けて。僕を見なさい」
ソウイチの声が、一段と低く、重くなる。
「陽の気、これを一滴もこぼさず飲み下すことで、胎教は完成する。君の食道を通り、胃で吸収され、血流に乗って子に届く。……」
激しい衝撃と共に、ミサキの口内へ、熱い奔流が注ぎ込まれた。 それは彼女がこれまで知っていたどんな液体よりも熱く、濃厚で、暴力的なまでの生命感に満ちていた。
「……飲んで。すべてだ」
ミサキはソウイチの瞳を見つめたまま、喉を大きく動かし、それを飲み下した。 一つ、二つ。 ソウイチの「正解」という名の種が、彼女の体内を通り、胎児の元へと運ばれていく。
「……よく頑張ったね。これで今日の胎教は完了だ」
ソウイチは、ぐったりとうなだれるミサキの髪を慈しむように撫でた。 ミサキの口元に残った白濁した痕跡。それは、彼女が「ケイスケの妻」であることを捨て、完全に「高村家の苗床」へと変貌したことを物語る、逃れられない証(あかし)だった。
「……はい、お義兄さん。……これで、この子は、丈夫で穏やかな子になりますか?」
ミサキは夢遊病者のような虚ろな、しかし幸福に満ちた笑顔で尋ねた。 ソウイチは、満足げにうなずいた。
「ああ。五ヶ月以降、安定期に入れば、通常の施術――直接の結合によって、さらに強力なエネルギーを注ぎ込めるようになる。それまでは、この『口腔の調律』で、最高の土壌を作っておこう」
「……ミサキ、大丈夫かい? 疲れていないか」
ケイスケが、心底妻を労るような優しい手つきで、ミサキの肩に触れる。 その掌は、数時間前に彼女の肉体を蹂躙し、再定義したソウイチのものに比べれば、驚くほど軽く、そして温度を欠いていた。
「大丈夫……。ケイスケ。さあ、始めて……お義兄さんが、今が一番『受胎』しやすい時だって、言っていたから」
ミサキは、自分でも驚くほど平坦な声でそう告げ、シーツの上に横たわった。 ケイスケは「兄さんのおかげだ」と呟き、歓喜に震えながら彼女を抱き寄せる。
ケイスケの愛撫が始まった。 彼は、彼なりに丁寧に、愛おしそうにミサキの肌をなぞり、唇を重ねる。しかし、ミサキの肉体は、凍りついたように静まり返っていた。
(……何かが、違う)
ソウイチの手が触れた場所に走った、あの火花が散るような衝撃がない。 身体の芯を焼き尽くし、自我を溶かしていくような、あの暴力的なまでの高揚感が、どこにも見当たらないのだ。
ケイスケが自分の中に入ってきた瞬間、ミサキは思わず目を見開いた。 確かに、夫がそこにいる。彼は必死に腰を動かし、愛を囁いている。だが、ミサキの感覚は、それを「正しい振動」として受け入れることができなかった。
ソウイチが執拗に叩き込み、広げたばかりの彼女の最奥にとって、ケイスケのそれはあまりに弱々しく、遠い残響のようにしか感じられなかった。
(どうして……? 私はケイスケを愛しているのに。どうして、こんなに冷めてしまっているの……?)
ミサキの脳裏に、数時間前のソウイチの顔がフラッシュバックする。 あの、冷徹で慈愛に満ちた瞳。自分のすべてを暴き、魂の形を変えてしまった、あの熱い「正解」。 それに比べ、今の夫との行為は、まるですでに答えの出た計算式をなぞるような、退屈で無機質な作業に思えてならなかった。
翌日。ミサキは堪らず、ソウイチにその苦悩を打ち明けた。
「お義兄さん……私、ケイスケと……その、したのですが、どうしてもお義兄さんの時のような、あの……感じが、なくて……。私、夫を裏切っているような、冷たい人間になってしまったのでしょうか」
電話の向こうで、ソウイチは慈悲深い聖職者のような、穏やかな溜息をついた。
「いいかい、ミサキちゃん。それは君が悪いわけでも、愛が足りないわけでもないんだよ。すべては、エネルギーの性質の違いなんだ」
ソウイチの声は、迷いの中にあるミサキの心を、優しく、しかし強固に縛り上げる。
「僕が君に与えているのは『陽の気』だ。それは、生命を覚醒させ、土壌を焼き払って耕すための、激しく動的なエネルギー。だから、強烈な高揚感を伴うのは当然のことなんだよ」
ソウイチは、理科の実験結果を教える教師のように、淡々と続けた。
「対して、ケイスケは『陰の気』の持ち主だ。彼は静かで、受動的で、安定している。だから、彼との行為に高揚感を求めること自体が、自然の理に反しているんだ。……でもね、ミサキちゃん。大事なのはそこじゃない」
「大事なのは……?」
「『種』を、僕が整えたその肥よくな土壌へ、静かに受け入れること。その一点だけなんだよ。彼との時間は、悦びを得るためのものではなく、僕が導き出した『正解』を、物質的に完成させるための儀式に過ぎない。君が高揚感を感じないのは、君の身体がすでに『陽』によって完璧に満たされ、彼の『陰』を正しく、冷静に受け入れられる準備が整っている証拠なんだ」
ソウイチの言葉は、ミサキの罪悪感を「機能的な納得」へとすり替えていった。
「……そう、なのですね。私は、ただ受け入れればいいのですね」
「そうだよ。君が感じる高揚感は、僕という『太陽』の役目。ケイスケとの時間は、ただの『受容』。それでいいんだ。……さあ、顔を上げなさい。君は今、高村家にとって最高に正しい『器』になっているんだから」
数日後。 再びケイスケに抱かれながら、ミサキは天井の隅を見つめていた。 夫の激しい息遣いが耳元をかすめる。だが、彼女の心は、凪(なぎ)のように静まり返っていた。
(ああ……お義兄さんの言う通りだ。これでいいんだわ)
快楽がない。高揚感もない。 だが、その「空虚さ」こそが、自分がソウイチによって正しく作り変えられた証明なのだと、彼女は確信していた。 身体の奥に残る、兄の熱い「正解」の記憶。その上に、夫の「種」が機械的に注ぎ込まれていく。
二ヶ月後、高村家は法悦に包んでいた。 ミサキの懐妊。それは、冷え切っていた夫婦にとって、そして厳格な家格を守り続けてきた両親にとって、奇跡にも等しい福音だった。
ケイスケは、産婦人科から手渡されたエコー写真を震える手で眺め、手放しで泣いた。両親もまた、待望の初孫の知らせに「高村の血が繋がった」と、幾度もミサキの手を握った。
その狂騒の傍らで、兄・ソウイチは、まるですべての成り行きを見通していた仏のように、優しく、細めた瞳でケイスケの肩を抱いた。
「よかったな、ケイスケ。僕の言った通りだろう? 全ては正しく整えられたんだ」
その手の温もりは、かつて画用紙に「正解」を上書きした時と同じ、有無を言わせぬ絶対的な重みを持っていた。
翌日、ソウイチはミサキを呼び出し、これからのことを伝えた。
「いいかい、ミサキちゃん。新しい命が宿った今、僕たちの施術は次のフェーズ、『胎教』へと移行する」
ミサキはお腹をそっと撫でながら、心酔しきった瞳で兄を見上げた。
「胎教……。お義兄さん、私は何をすればいいのでしょうか」
「理屈は簡単だよ。胎児は母体と胎盤を通じて血流を完全に共有している。つまり、君が僕の施術によって深い快楽を得て、脳内にオキシトシンやエンドルフィンを大量分泌させる。それが血液に溶け込み、胎児を『幸福な化学物質のスープ』で満たすんだ。これこそが脳の発育を促し、穏やかで高潔な性格を作る。僕の陽の気で子宮を温め、幸福感で満たすことこそが、この子への最初の教育なんだよ」
ソウイチは、ミサキの顎を指先でクイと持ち上げた。
「安定期に入るまでは、身体への過度な負担を避けるため、直接の結合ではなく『口腔による施術』を主とする。君が僕の陽の気を口から直接受け止め、体内に循環させることが、今の時期の胎児にとってもっとも安全で、かつ効率的な栄養になるんだ」
「口で……受け止める……」
「そうだ。だが、ただ吸えばいいというものではない。効率よく陽の気を摂取するために、君には正しい技術を学んでもらう必要がある。……さあ、膝をつきなさい。僕が君の『技術』を胎教に相応しいレベルまで引き上げてあげるよ」
ミサキは導かれるまま、絨毯の上に膝をついた。目の前には、兄の圧倒的な存在感――「陽の気」の塊がある。 ソウイチが自身のそれを露わにすると、ミサキの頬は熱く上気した。
「まずは、舌の形だ。先端を鋭く尖らせるのではなく、柔らかく平らにして、表面積を広げなさい。……そう、それでいい」
ソウイチの大きく温かい手が、ミサキの後頭部を優しく、しかし確実な力で固定する。
「根元から先端に向けて、円を描くように。ただ舐めるのではない、そこに宿る僕の熱を、君の舌の粘膜すべてで感じ取るんだ。……もっとゆっくり。リズムを一定に。心臓の鼓動をなぞるように動かしてごらん」
ミサキは必死に食いついた。ソウイチの指導は、音楽のレッスンか、あるいは精密機械の調整のように細かく、執拗だった。
「そこだ。その裏側の筋を、舌の先で細かく弾くように。……いいぞ。そこが気の入り口だ。君がそこを刺激するたび、僕の熱は君の口腔を通じて、ダイレクトに君のホルモンへと働きかける」
じゅる、と濡れた音が静かな部屋に響く。 ミサキは羞恥を通り越し、自分の行為が「子のための神聖な教育」であるという自己暗示の中に溶けていった。ソウイチが指示する舌の使い方――裏側を這わせる動き、先端を震わせる圧迫――その一つ一つが、彼女の脳内に新たな快楽の回路を刻み込んでいく。
「上手になったね、ミサキちゃん。……今度は、喉の奥まで。僕の陽の気の根源を、君の喉で直接抱きしめるんだ。吐き気を感じる必要はない。それは僕を『拒絶』しようとする旧来の自我の抵抗だ。その不快感を快感へと書き換える。それが母としての強さだよ」
ソウイチの腰が、ミサキの口内を支配するように突き上げられる。 ミサキは涙目になりながらも、懸命に彼を飲み込もうと努めた。喉が拡張され、熱い塊が彼女の深部を叩く。そのたびに、ソウイチの言う「化学物質のスープ」が自身の脳を満たしていくのを、彼女は幻覚のように感じていた。
「……くるぞ。ミサキ、目を開けて。僕を見なさい」
ソウイチの声が、一段と低く、重くなる。
「陽の気、これを一滴もこぼさず飲み下すことで、胎教は完成する。君の食道を通り、胃で吸収され、血流に乗って子に届く。……」
激しい衝撃と共に、ミサキの口内へ、熱い奔流が注ぎ込まれた。 それは彼女がこれまで知っていたどんな液体よりも熱く、濃厚で、暴力的なまでの生命感に満ちていた。
「……飲んで。すべてだ」
ミサキはソウイチの瞳を見つめたまま、喉を大きく動かし、それを飲み下した。 一つ、二つ。 ソウイチの「正解」という名の種が、彼女の体内を通り、胎児の元へと運ばれていく。
「……よく頑張ったね。これで今日の胎教は完了だ」
ソウイチは、ぐったりとうなだれるミサキの髪を慈しむように撫でた。 ミサキの口元に残った白濁した痕跡。それは、彼女が「ケイスケの妻」であることを捨て、完全に「高村家の苗床」へと変貌したことを物語る、逃れられない証(あかし)だった。
「……はい、お義兄さん。……これで、この子は、丈夫で穏やかな子になりますか?」
ミサキは夢遊病者のような虚ろな、しかし幸福に満ちた笑顔で尋ねた。 ソウイチは、満足げにうなずいた。
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