幸福論 ~善意という名の洗脳~

武蔵

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闇のなかに消えた灯火の代わりに、淀んだ月光が障子越しに部屋を白く浸食していた。
​ソウスケは一言も発さぬまま、跪くヨシコの前に立った。その巨躯から放たれる圧倒的な威圧感は、もはや一個の男性という枠を超え、この土地を数百年支配してきた「高村家」そのものの重圧となってヨシコを押し潰す。
​「……顔を上げろ」
​短く、しかし拒絶を許さない声。ヨシコは震える指先で畳を掴み、ゆっくりと顔を上げた。次の瞬間、太い指が彼女の顎を強引に掬い上げる。
​ソウスケの瞳には、愛も欲も、そして疚しさもなかった。ただ、自らの領土を検分し、種を蒔く農夫のような、冷徹な義務感だけが宿っている。
​ソウスケの大きな掌が、絹の寝巻きの襟元に掛かった。
​「あ……っ」
​不意に肌を刺す冷気に、ヨシコは反射的にその手を掴もうとした。微かな、しかし本能的な拒絶。ユウイチへの貞節が、彼女の腕に最後の力を込めさせる。
​「嫌……です、やっぱり……っ」
​だが、ソウスケは眉ひとつ動かさない。彼はヨシコの華奢な手首を、まるで小枝を折るような容易さで掴み、頭上へと組み伏せた。
​「嫌だと言って、何が変わる。お前の実家も、ユウイチの立場も、すべてはこの瞬間に懸かっているのだぞ」
​その声は、耳元を震わせる「オスの咆哮」だった。文明の理屈など一切通用しない、暴力的なまでの支配。ソウスケが寝巻きを左右に引き裂くと、月光の下にヨシコの白い肢体が露わになった。
​「……まずは、その『外の人間の顔』を忘れさせてやる」
​ソウスケはヨシコを押し倒すと、獣のような荒々しさで彼女の唇を奪った。歯が当たるほどの乱暴な口付け。ヨシコは息ができず、もがくように身体をよじったが、ソウスケの重厚な体躯に押さえつけられれば、それは羽ばたく蝶の如く無力だった。
​ソウスケの指が、ヨシコの聖域を蹂躙し始める。
​「あっ……やめて、そんな……っ!」
​不慣れな刺激に、ヨシコの背筋が弓なりに反る。最初は恐怖に強張っていた肉体。しかし、ソウスケの指先は驚くほど精緻に、女性としての「弱点」を的確に突いてきた。何代にもわたって「器」を調律してきた家系の、血に刻まれた業。
​滑らかな指の動きが、ヨシコのなかの「拒絶」を、じわじわと「熱」へと書き換えていく。羞恥心という名の防波堤が、激しい愛撫の波に削り取られていく。
​「……準備はいいな」
​ソウスケが膝を割り、自身をヨシコの最奥へと導いた。
​「っ、あああああぁぁっ……!」
​裂けるような衝撃。ヨシコは白目を剥き、声にならない悲鳴を上げた。ユウイチのそれとは比較にならない、あまりに巨大で、あまりに重い「正解」。ソウスケはためらうことなく、腰を深く、深く叩きつけた。
​「……っ、ふ、あ、あああっ、そんな、壊れちゃう……っ!」
​「壊れはしない。そこが、高村の種を宿す場所だ。よく覚えておけ」
​ソウスケの動きは情け容赦なかった。背後から四つん這いにさせ、獲物を狩る獣のような姿勢で彼女を突き上げる。叩きつけられるたびに、ヨシコの脳裏からユウイチの顔が、実家の風景が、霧散していく。
​ソウスケの圧倒的な「オスの力」が、彼女の神経を塗りつぶしていく。ヨシコは自分の意志とは無関係に、ソウスケの腰の動きに合わせて背中を反らせ、蜜を溢れさせた。
​「あ、あ、あああああっ……! いく、いっちゃう……っ!」
​最初の一回。ヨシコは身体を激しく痙攣させ、快楽の火花の中で意識を飛ばした。しかし、ソウスケは許さない。
​次はヨシコを仰向けにし、その細い脚を肩まで担ぎ上げた。
​「……仕上げだ。一滴も漏らさず、注ぎ込んでやる」
​ソウスケの剛直が、子宮の入り口を直接叩く。その衝撃は、ヨシコの魂を直接揺さぶるような暴力的な悦びだった。
​「あ、ああああああっ……! そこ、そんなの……っ!」
​ヨシコは狂ったように首を振り、ソウスケの逞しい腕に爪を立てた。もはや「弟の妻」としての理性は消え失せ、ただ種を受け入れるための「雌の肉」へと成り下がっていた。
​ソウスケの腰の動きが最高潮に達する。
​「受け取れ、ヨシコ……!」
​「あ、ああぁぁぁぁぁぁっ!!」
​同時に絶頂を迎えた瞬間、ソウスケの熱い奔流が、ヨシコの最奥に迸った。一回目。高村家の「家格」を証明するかのような、濃厚で大量の種。
​だが、地獄は終わらない。ソウスケは賢者に戻ることなく、ぐったりとしたヨシコの身体を再び翻弄した。
​「まだだ。耕しただけだ、完全に書き換えねばならん」
​今度は横向きにさせ、一方の脚を持ち上げた不安定な姿勢で、再び彼女を蹂別した。疲弊したヨシコの肉体は、二度目の刺激に過敏に反応し、わずかな動きでも絶頂へと引きずり戻される。
​「……っ、ん、あああっ、もう、許して……もう、おかしくなっちゃう……っ!」
​「おかしくなればいい。それが『幸福』なのだ」
​ソウスケの言葉は呪文のように彼女の脳に染み込み、二度目、そして三度目の種が、ヨシコの聖域を濁らせていった。
​……三時間が過ぎた。
​部屋には、激しい情事の余韻である甘ったるい匂いと、獣のような荒い息遣いだけが漂っていた。
​ソウスケは悠然と立ち上がり、乱れた衣服を整えた。その瞳は、目的を達した達成感と、冷徹な秩序の色を取り戻している。
​「……よく務めたな。これで、お前は高村のものだ」
​ソウスケは一度も振り返ることなく、寝室を去った。
​後に残されたのは、純白だったはずのシーツの上で、人としての形を失ったかのように横たわるヨシコだった。
​彼女の視界は天井の木目を虚ろに追っている。身体中が熱く、節々が痛み、そして何より、腹の奥に重く、異質な熱が沈殿しているのを感じた。
​「……ぅ……」
​ヨシコがわずかに足を動かすと、せり上がった大腿の間から、ソウスケの「精」が、どろりと溢れ出した。透明な太腿を伝い、シーツに黒い染みを作っていく。
​それは、彼女がユウイチへの愛を、自分自身の尊厳を、そして「外の人間」としての人生を完全に奪われたことの、無慈悲な証拠だった。
​ヨシコは、何も言わなかった。叫ぶ気力も、恥じる力も残っていない。
ただ、その空虚な瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
​涙は頬を伝い、ソウスケの精液が混じったシーツへと吸い込まれて消えた。
月の光に照らされた彼女の表情には、絶望という名の、完成された「平穏」だけが宿っていた。
​高村家の「器」は、今、完璧に調律されたのである。
​ソウスケが去ったあとの静寂は、死の匂いよりも冷たかった。
​ヨシコは、もはや自分のものとは思えない重い四肢を動かし、震える手で衣類を身に纏った。
​深夜二時。
本家から自宅へと続く闇夜の道は、まるで底なしの沼のようだった。
​一歩進むたびに、股の間から溢れ出すソウスケの「正解」が、彼女がかつて持っていた矜持を、愛を、そして人間としての輪郭を、容赦なく削り取っていく。
​家のドアを開けると、リビングには明かりがついていた。
​そこには、妻を「地獄」へ送り出したはずの夫、ユウイチが、幽霊のような顔をして座っていた。
​「……ヨシコ。おかえり」
​ユウイチの声は、情けないほどに震えていた。
彼は椅子から立ち上がり、労わるような、あるいは赦しを乞うような手つきでヨシコの肩に触れようとした。
​その瞬間だった。
ヨシコは、弾かれたようにその手を振り払った。
​「触らないで……っ!」
​剥き出しの拒絶。
ユウイチは、言葉を失って立ち尽くした。
​ヨシコがゆっくりと顔を上げる。
そこにあったのは、かつてユウイチが愛した穏やかな微笑みではなかった。
​髪は乱れ、瞳は赤く充血し、そこには言葉にできないほどの激しい憎悪と、底知れぬ哀しみが渦巻いていた。
​ヨシコは、血を吐くような思いを込めて、夫を強く睨みつけた。
​(どうして、止めてくれなかったの)
(どうして、私を売ったの)
​声にならない叫びが、視線となってユウイチを射抜く。
ユウイチは、その眼差しに耐えきれず、視線を床へと落とした。
​「……すまん。本当に、すまないと思っている」
​絞り出すような謝罪。
だが、その後に続いた言葉が、ヨシコの心に最後の一止めを刺した。
​「でも、わかってくれ。これが……この家で俺たちが生きていくための、唯一の道なんだ。……こらえてくれ。一度だけでいいんだ。俺も、辛いんだ……っ」
​「こらえて、くれ……?」
​ヨシコは、乾いた笑いを漏らした。
頬を伝う涙が、止まらない。
​「あなたは、自分の弟としての立場を守るために、私に『こらえろ』と言うのね。……私の体が、心が、お義兄さんに蹂躙されても……それでも、『こらえて』、あなたの隣で笑っていろと言うのね」
​「ヨシコ、それは……」
​「絶望したわ。ユウイチさん。……あなたに、そして、この家に」
​ヨシコは、幽鬼のような足取りで寝室へと向かった。
ユウイチが何かを言いかけ、その背中に手を伸ばそうとしたが、彼女は振り返ることもなく、扉を乱暴に閉めた。
​カチャリ、と内側から鍵がかかる乾いた音が響く。
​それは、彼女が「ユウイチの妻」であることを辞め、心の扉を永遠に閉ざした音だった。
​部屋の中に閉じこもったヨシコは、暗闇の中で床に崩れ落ち、声を殺して泣き続けた。
嗚咽が漏れるたびに、ソウスケの残した熱い残滓が、彼女の内で「高村家の毒」として拍動を始める。
​壁一枚を隔てたリビングでは、ユウイチが頭を抱えて座り込んでいた。
彼は、自分が何を守り、何を失ったのかを、まだ本当の意味では理解していなかった。
​夜は、まだ明けない。
高村家という名の檻の中で、二人の愛は、たった一夜にして、修復不可能な灰へと姿を変えたのである。
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