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vol.3
腹黒男子降臨
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途端に風が、めちゃくちゃに私の髪を乱した。ここには容赦なく照りつける太陽を避ける場所もない。
もう、いいもん。日焼けなんか構うもんか。
私は屋上のコンクリートの上に仰向けに寝転がると、ハンカチを目の上に置いてハーッと息をはいた。屋上って、結構静かなんだな。
考えるのは、旬の事ばかりだ。
冷静に考えたら私、一度も旬に好きって言われていない。
身体を引き寄せられてキスされた時だって、旬は私に『好き』だなんて言わなかった。
……バカだなぁ、私。ハグだってキスだってその先のコトだって、私は好きな人としかしたくないし、みんなも好きな人とだけするものだと思ってた。
だから、てっきり旬もそうだと思ってたんだ。バカだ、本当に私はバカだ。
でも、幼い頃から好きだった旬にハグされてキスされて、私は幸せだった。
『アイツ、昔から俺に惚れてるんだ。確実にヤれる』
再び涙が込み上げそうになって、私は思わず唇を噛んだ。昨日、私は泣くだけ泣いた。だからもう泣かない。
旬はもう、私が大好きだった旬じゃなくなってただけ。だから仕方ない。
呪文みたいに繰返し心で呟いていたその時、
「サボりかよ」
低くて艶やかな声がして、私は慌てて起き上がった。
「ほら。やるよ」
「……雪野先輩……」
雪野先輩は、キンキンに冷えたペットボトルを私に差し出した。
「これで冷やせ。少しは腫れがひく」
「……ありがとう」
雪野先輩は私に背を向けると空を仰いだ。
「……先輩もサボりですか」
「お前といっしょにすんな。自習の小テストが終わった奴から図書室に移動可能」
……ここは屋上だっつーの。
内心突っ込みを入れながら、私は先輩の均整のとれた後ろ姿を見つめた。
「早く冷やせ」
「……はい」
私はペタンと地べたに座って、両目にペットボトルを押し当てた。
……気持ちいい。
「先輩。今日、先輩の用事に付き合えって仰ってましたけど、一体なんの用事ですか?」
私がそう言うと、雪野先輩は数秒の後、静かに口を開いた。
「お前に、頼みたいことがあるんだ」
「私に……ですか?」
「ああ」
「なんですか?」
私はペットボトルを両目に押し当てたまま、雪野先輩に訊ねた。当然、先輩の表情は見えない。
「もうすぐ、俺の誕生日がくる」
「そうなんですか!おめでとうございます」
「誕生日を迎えた次の満月に、俺は婚約しなきゃならない。人狼の王として」
ほう!まだ若いのにもう婚約!?そんなの校内の女子に知れたら、すぐさまSP付けないとヤバイね。狙撃されるかもよ、アーチェリー部か弓道部にな。
それからそんな不幸な女は一体誰なんだ、可哀想に。
先輩は続けた。
「……その婚約者になってもらいたい。お前に」
グハッ!
な……何ですって?!
驚きのあまり手から滑り落ちたペットボトルが、ガコンとコンクリートの地面に転がる。
婚約者に、なる?!
私が?!
なんで!!
「もちろん形だけだ。人狼の王……若くして即位する王は、18歳になると『満月の儀式』を受けなきゃならない」
昨日慰めてもらった手前、そんなの独りで受けろとは言えず、私は眼を見開いて雪野先輩を見つめた。
でも……やっぱ……。
「あの、無理です」
だって、怖いもん。儀式だよ、儀式。
狼はどうだか知らないけど、大体海外ドラマのヴァンパイアとか魔女の儀式って、ナイフで掌を切って血を垂らしたりするじゃない?
嫌だ、痛いのも怖いのも絶対無理。
なのに雪野先輩は断った私を凝視して低い声で言い放った。
「お前に拒否権はない」
はい?
今、あんた言わなかった?!『お前に頼みたいことがある』って。
頼んでるクセに、なんで上からなの!?それって頼んでるに入るの?!
横暴ぶりに驚く私を、雪野先輩は更に脅しつけた。
「お前、身の程をわきまえないと酷い目に遭うぜ」
な、なに?!
眼を見張る私に、先輩はニヤリと笑った。
「俺が『愛してる』のが、お前だと知れたら……お前、生きていけんの」
サアッと一気に血の気が引いた。
それから、あの日非常階段で先輩に抱き締められた記憶が蘇る。
『愛してる……心から。好きだ。一生お前だけを愛してる』
顔面蒼白になっているであろう私に、先輩は続けた。
「俺に弁当作ったのがお前だと知れたら……」
硬直している私が愉快なのか、先輩は益々悪い微笑みを浮かべた。
「挙げ句の果てに同棲中がわかったら……」
ど、ど、ど、同棲っ!
更に追い討ちを掛けて、先輩は私を見つめた。
その綺麗な瞳を見つめているうちに、ふとひとつの思いが胸に生まれた。
もしかして。
……先輩が……何もかも計算ずくだったんだとしたら……。愛華先輩が通り掛かった時、私を抱き締めたのは私を庇ったんじゃなく、脅して自分の思い通りにする為だったんだとしたら。
最初から、校内の女子達に今カノの存在を匂わせ、私を怯えさせて言うことを聞かせる計画だったとしたら……。
学校中の女子にバレたら、どんなに私が『違います、全て雪野先輩の策略です!』なんて弁明したって信じてくれる人なんて絶対いない。そんなのごめんだ。
私は波風たてずに地味に暮らしたいんだもの。
私は雪野先輩を張り付いたように見つめながら思った。昨日の優しかった先輩は一体なんだったの?今日はとんでもない腹黒男子だけれども!
もしかして、他人を踏み台にしてまで自分はのし上がるタイプとか……。私に心配なんかされなくないだろうけど、先輩の将来が思いやられるというか……。
「オラオラ、どーすんだよ」
「や、やります……」
先輩が勝ち誇ったかのようにニヤッと笑った。
「決まりな」
目眩がした。
もう、いいもん。日焼けなんか構うもんか。
私は屋上のコンクリートの上に仰向けに寝転がると、ハンカチを目の上に置いてハーッと息をはいた。屋上って、結構静かなんだな。
考えるのは、旬の事ばかりだ。
冷静に考えたら私、一度も旬に好きって言われていない。
身体を引き寄せられてキスされた時だって、旬は私に『好き』だなんて言わなかった。
……バカだなぁ、私。ハグだってキスだってその先のコトだって、私は好きな人としかしたくないし、みんなも好きな人とだけするものだと思ってた。
だから、てっきり旬もそうだと思ってたんだ。バカだ、本当に私はバカだ。
でも、幼い頃から好きだった旬にハグされてキスされて、私は幸せだった。
『アイツ、昔から俺に惚れてるんだ。確実にヤれる』
再び涙が込み上げそうになって、私は思わず唇を噛んだ。昨日、私は泣くだけ泣いた。だからもう泣かない。
旬はもう、私が大好きだった旬じゃなくなってただけ。だから仕方ない。
呪文みたいに繰返し心で呟いていたその時、
「サボりかよ」
低くて艶やかな声がして、私は慌てて起き上がった。
「ほら。やるよ」
「……雪野先輩……」
雪野先輩は、キンキンに冷えたペットボトルを私に差し出した。
「これで冷やせ。少しは腫れがひく」
「……ありがとう」
雪野先輩は私に背を向けると空を仰いだ。
「……先輩もサボりですか」
「お前といっしょにすんな。自習の小テストが終わった奴から図書室に移動可能」
……ここは屋上だっつーの。
内心突っ込みを入れながら、私は先輩の均整のとれた後ろ姿を見つめた。
「早く冷やせ」
「……はい」
私はペタンと地べたに座って、両目にペットボトルを押し当てた。
……気持ちいい。
「先輩。今日、先輩の用事に付き合えって仰ってましたけど、一体なんの用事ですか?」
私がそう言うと、雪野先輩は数秒の後、静かに口を開いた。
「お前に、頼みたいことがあるんだ」
「私に……ですか?」
「ああ」
「なんですか?」
私はペットボトルを両目に押し当てたまま、雪野先輩に訊ねた。当然、先輩の表情は見えない。
「もうすぐ、俺の誕生日がくる」
「そうなんですか!おめでとうございます」
「誕生日を迎えた次の満月に、俺は婚約しなきゃならない。人狼の王として」
ほう!まだ若いのにもう婚約!?そんなの校内の女子に知れたら、すぐさまSP付けないとヤバイね。狙撃されるかもよ、アーチェリー部か弓道部にな。
それからそんな不幸な女は一体誰なんだ、可哀想に。
先輩は続けた。
「……その婚約者になってもらいたい。お前に」
グハッ!
な……何ですって?!
驚きのあまり手から滑り落ちたペットボトルが、ガコンとコンクリートの地面に転がる。
婚約者に、なる?!
私が?!
なんで!!
「もちろん形だけだ。人狼の王……若くして即位する王は、18歳になると『満月の儀式』を受けなきゃならない」
昨日慰めてもらった手前、そんなの独りで受けろとは言えず、私は眼を見開いて雪野先輩を見つめた。
でも……やっぱ……。
「あの、無理です」
だって、怖いもん。儀式だよ、儀式。
狼はどうだか知らないけど、大体海外ドラマのヴァンパイアとか魔女の儀式って、ナイフで掌を切って血を垂らしたりするじゃない?
嫌だ、痛いのも怖いのも絶対無理。
なのに雪野先輩は断った私を凝視して低い声で言い放った。
「お前に拒否権はない」
はい?
今、あんた言わなかった?!『お前に頼みたいことがある』って。
頼んでるクセに、なんで上からなの!?それって頼んでるに入るの?!
横暴ぶりに驚く私を、雪野先輩は更に脅しつけた。
「お前、身の程をわきまえないと酷い目に遭うぜ」
な、なに?!
眼を見張る私に、先輩はニヤリと笑った。
「俺が『愛してる』のが、お前だと知れたら……お前、生きていけんの」
サアッと一気に血の気が引いた。
それから、あの日非常階段で先輩に抱き締められた記憶が蘇る。
『愛してる……心から。好きだ。一生お前だけを愛してる』
顔面蒼白になっているであろう私に、先輩は続けた。
「俺に弁当作ったのがお前だと知れたら……」
硬直している私が愉快なのか、先輩は益々悪い微笑みを浮かべた。
「挙げ句の果てに同棲中がわかったら……」
ど、ど、ど、同棲っ!
更に追い討ちを掛けて、先輩は私を見つめた。
その綺麗な瞳を見つめているうちに、ふとひとつの思いが胸に生まれた。
もしかして。
……先輩が……何もかも計算ずくだったんだとしたら……。愛華先輩が通り掛かった時、私を抱き締めたのは私を庇ったんじゃなく、脅して自分の思い通りにする為だったんだとしたら。
最初から、校内の女子達に今カノの存在を匂わせ、私を怯えさせて言うことを聞かせる計画だったとしたら……。
学校中の女子にバレたら、どんなに私が『違います、全て雪野先輩の策略です!』なんて弁明したって信じてくれる人なんて絶対いない。そんなのごめんだ。
私は波風たてずに地味に暮らしたいんだもの。
私は雪野先輩を張り付いたように見つめながら思った。昨日の優しかった先輩は一体なんだったの?今日はとんでもない腹黒男子だけれども!
もしかして、他人を踏み台にしてまで自分はのし上がるタイプとか……。私に心配なんかされなくないだろうけど、先輩の将来が思いやられるというか……。
「オラオラ、どーすんだよ」
「や、やります……」
先輩が勝ち誇ったかのようにニヤッと笑った。
「決まりな」
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