恋した彼は白金狼~プラチナウルフ~

友崎沙咲

文字の大きさ
26 / 28
vol.8

人狼王の覚悟《2》

しおりを挟む
「狼?!あははははっ!なに言ってんの、翔。からかってるの?!」

葉月が全然信じようとしないから、俺は意を決して狼に姿を変えた。
あの頃の俺は過信していたんだ。葉月の愛情は深く大きくて、俺が人狼だと知ってもそれは変わらないと。

「化け物っ……!嫌ぁ!!」

バケモノ。

今でも、眼を見開いて腰を抜かし、ガタガタと震えた葉月を覚えている。
……何故なんだろう。

『今見た事は全て忘れろ』

何故、俺は瀬里に暗示をかけなかったんだろう。
地味で言葉数の少ない目立たない瀬里なら暗示などかける程でもなく、脅しつけていれば十分だと思ったからか?
……いや、違う。
瀬里が……アイツが、狼の姿の俺と眼が合った時、怯えなかったからだ。そして俺は、あの時の瀬里の瞳が忘れられないでいた。
確かに瀬里は驚いていた。だが、それだけじゃなかった。

狼に姿を変えた俺が真正面から見据えると、瀬里は眩しそうに、それでいて神々しいなにかを崇めるように俺を見つめた。
驚きつつも僅かに憧れを含んだ眼差し。
そしてその瞳が俺の勘違いじゃなかったと知ったとき、俺は瀬里をもっと知りたかったのかもしれない。

そんな瀬里と桜花が重なる。
人狼だと知りつつ俺を好きだといった瀬里と、凰狼のために身を投げ出し命を懸けて守ろうとする桜花。
瀬里を毒で殺そうとする凰狼が、心底憎い。だが凰狼を殺す俺を、瀬里はどう思うだろう。
そして、桜花は?
凰狼の死は、桜花の死でもある。
やつを殺すと桜花もまた、生きてはいけないだろう。
瀬里も、もし俺が死んだとしたら。


『こんな争いは馬鹿げてる!天狼神の子孫だろうが真神の子孫だろうが関係ないわ!どちらも同じ人狼よ!』


俺の使命は……!

「翠狼!」

俺はグッと両目を閉じて決心した後、翠狼を見た。

「なんだ白狼」

翠狼が俺に言葉を返す。

「力を貸してくれ。場の収集を頼む」

翠狼はしばらく俺を見つめて唇を引き結んでいたが、やがてホッと息をついた。

「……分かった」
「それから、桜花」

桜花が涙に濡れた眼を俺に向け、掠れた声を出した。

「はい、白狼様」
「凰狼の傷の手当てをしてやれ」

人狼族は、息の根を止めない限りすぐに傷は塞がり癒える。
だが俺のつける傷は、たとえ人狼であったとしても治りが遅い。
凰狼が僅かに身を起こして俺を見上げた。

「白狼……なぜトドメをささない?!俺の爪を奪わなければ瀬里……お前の許嫁は助からないぞ」

俺は、翠狼から瀬里を受け取りながら答えた。

「お前の傷は深すぎる。今、お前から血清を取るとお前が元に戻るか分からない」

俺は固く眼を閉じた瀬里を見つめながら続けた。

「桜花の言う通りだ。天狼神の子孫だろうが真神の子孫だろうが俺達は同じ人狼だ。凰狼。王座は譲れない。だが俺が正式に王になった暁には、派閥をなくし真神も天狼神の子孫も差別はしない。俺達は全て平等だ」

息を飲んで俺の話に耳を傾けていた凰狼が、震える声で問いかけた。

「俺達を……罰しないのか」
「罰する理由がない」

言い終えた俺は、瀬里を抱いたまま祠の前まで歩き、そこに彼女を横たえた。
瀬里、今助けてやるからな。
俺には凰狼の毒の血清は作れない。
だが、毒を吸い取ることは出来る。暫くは苦しむことにはなるだろうが、俺が毒で死ぬことはない。

「瀬里、眼を開けろ」

俺は瀬里にそう話しかけて、彼女に口付けた。
深く口付けて、俺は瀬里の体内の毒を探した。なのに……。
フッと、凰狼が息だけで笑った。
俺は叫んだ。

「何故だ、凰狼!何故お前は……!!俺はもう少しでお前を殺すところだったんだぞ?!」

無かった、毒が。
瀬里の中に、凰狼の毒など一滴もなかったのだ。
声を荒げた俺に、凰狼が静かに答えた。

「俺は、命を懸けなきゃならなかった。お前が正真正銘、人狼王に相応しい器かを見極めたかったからだ。この先、俺達が付いていくに値する王なのかを、確かめたかった」

凰狼はここまで言うと、清々しい表情で天を仰ぎ眼を閉じてから再び続けた。

「……だが、命を懸けた甲斐があったというものだ……。白狼、許嫁……瀬里に手荒な真似をしてすまなかったな」

凰狼は辛そうに眉を寄せると、低い声で続けた。

「白狼、立てないんだ。悪いが瀬里を俺の傍へ連れてきてくれ」

凰狼に頷き、瀬里を抱き上げて傍へ寝かせると、凰狼は瀬里の腕の傷にフウッと息を吹き掛けた。

「これで傷はすぐに塞がる。しばらくすると目覚めるだろう。それまでゆっくり休ませてやってくれ」
「……ああ」

凰狼は尚も続けた。

「白狼。凰狼派は……今日を以て解散する」

凰狼のその言葉で、凰狼派のメンバーが静かに膝を折り、俺を見つめた後、敬意を表して頭を垂れた。
眼を見開いてその光景を見つめる俺に、凰狼は浅く笑った。

「白狼。満月の儀式で会おう」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...