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第八章
未来(さき)を創る者
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「気が済んだか?」
隣に立っているオーディンを見上げて、シオンはちょっと笑った。
「あの……ありがとうございました」
「じゃあもう帰れ。俺は闘いの続きが見たいんだ。送ってやる」
シオンは僅かに唇を噛んでから、首を横に振った。
「嫌です、私帰りません」
だって私は、もう誰にも死んで欲しくないんだもの。
黄金族人間も、白金族人間も。
オーディンは、ウンザリしたように溜め息をついた。
「お前、わかんねぇ女だな」
「そうかも知れませんけど、この世界を平和にして欲しいんです」
平和な世界を神に作れと頼むのか?
それは無意味だと気づかないシオンを、オーディンはイラついて見つめた。
それに……そうはいくか。
主神オーディンは、武力の神でもある。
彼にしたら戦いは格好の戦士集めの場なのだ。
気に入った兵士をヴァルキューレに伝え、その魂を連れ帰る。
オーディンは、より強い兵士を求めているのだ。
やがて来るであろう終末の大戦争のために。
「確かに私は、この世界の事情を何も知りません。でも人が死ぬのは嫌なんで」
「人は誰でも死ぬ」
シオンが言い終わらないうちにオーディンは言葉を被せて彼女を制した。
「早いか遅いかだ。そしてその人生が、濃いか薄いかは、生きた長さでははかれない。戦いに散る命を幸か不幸か何故お前に分かる?」
シオンは答えに詰まった。
「でもっ……!残された者はっ……」
オーディンは嗚咽を漏らすシオンを見下ろした。
……確かにそうだ。
本人よりも残された者の方が無念で、この女はそちら側に立ってものを言っているのだ。
「我が儘な女だな」
シオンは俯いた。
「あなたと話をしているうちに、いかに自分が無知で浅はかな考えしかないのかを思いしらされました。
ですが」
シオンはハラハラと涙をこぼしながら続けた。
「けれど戦うより、平和の方がいいに決まってます」
……平和……。
ホントに分かってねぇ。
オーディンはぞんざいな光を隻眼に宿らせ、シオンを見ずに口を開いた。
「お前にも見せてやるから一緒に来い。スレイプニル!!」
オーディンが聞きなれない単語を発した直後、背後で馬の蹄の硬い音と嘶きが響いた。
「スレイプニル」
見たこともないほど大きな馬の足は8本で、シオンは息を飲んで目を見張った。
オーディンは素早くスレイプニルにまたがると、シオンの腕を取り馬上に引き上げた。
二羽のカラスが素早くオーディンの肩に留まり直す。
「あの、何処へ行くの?」
オーディンは短く答えながら、手綱をさばいた。
「フリズスキャルヴへ戻る」
八本足の馬……スレイプニルは幅の広い壮麗な廊下を駆けた。
「こいつに乗らなきゃ、フリズスキャルヴは遥か彼方だ」
「……」
暫くの後、またしても立派な扉が見えてきたが、オーディンは馬の速度を落とさなかった。
「安心しろ、ぶつかったりしねーから」
オーディンの言葉通りだった。
扉は開くことがなかったのに、スレイプニルは大広間の中央で八本の足を止めた。
スレイプニルからシオンを降ろすと、オーディンはその頬をポンポンと二度優しく叩いた。
するとスレイプニルは満足そうに広間の隅へと移動し、置いてある水に口をつけた。
それを確認したオーディンは、チラリとシオンを見て、宝石の散りばめられた豪華な玉座に腰をおろした。
両肩の二羽のカラスがオーディンの耳元で鳴き、彼は頷くと右手の長い槍、グングニルを床に二度打ち付けて鳴らした。
「夜が明けたな。もう始めてるぜ」
「あ……きゃあ!」
足元が波打ち出したかと思うと、次第に闘いの光景が浮かび上がり、まるで床全体が映画のスクリーンのように変化した。
「大丈夫だ、落ちやしねーから」
入り乱れる兵士達。
怒号と炎、そして斬り結ぶ剣の硬い音。
倒れる兵士とそれを飛び越える騎兵隊らしき姿。
血と泥が混ざり合い、苦悶の表情で崩れ落ちる歩兵隊。
その時である。
シオンの眼にひとりの青年が飛び込んできた。
あ……!!
馬に乗り、右手に剣を携えて、鮮やかな長い羽飾りと一際派手なマントをなびかせているその青年は。
「ファル……!!」
シオンの胸に熱い想いが込み上げ、それが荒れ狂う風のように心の中をかき乱した。
「ファル、ファル!!」
オーディンは、激しく多色化するシオンの瞳を見つめながら口を開いた。
「呼んだって聞こえねぇよ」
オーディンの言葉にシオンは落胆した。
こんなに、こんなに近いのに。
見れば、ファルを援護する形でアルゴとジュードが控えており、城へと続く一際高い坂道に、マーカスの姿が見えた。
時折皆がマーカスを見つめ、彼は笛や仕草で皆に指示を出している。
その時である。
弾かれたようにマーカスが肩を震わせ、一方を食い入るように見つめた。
それから力いっぱい何か叫ぶと、ファルを始めその場の味方が全員マーカスと同じ方向を向いた。
怒号と悲鳴が飛び交っているが、確かにファルの声がシオンの耳に届いた。
「アーテス帝国国王、シリウスをみつけたぞ!!」
皆が高々と剣や槍を掲げた。
「皆、俺に着いてこい!!」
ファルは馬上で立ち上がると右腕を伸ばし、剣の切っ先を前方に向けて叫んだ。
雄叫びを上げながらファルに続く兵達。
シオンは白くなるほど両手を握り締めた。
今まさにファルは、シリウスと雌雄を決しようとしているのだ。
馬の蹄が砂埃を生み、霧のように視界を遮る中、ファルは弾丸のように一つの方向へと突っ走った。
怯む者はひとりもいず、皆が後に続く。
シオンは、食い込んだ自分の爪が皮膚を傷つけているのにも気づかず、ファルを見つめた。
その時である。
「お前達!!早くかかれ!敵を迎え討て!」
悲鳴のような声が響いて、シオンは息を飲んで床を見つめた。
見ると、シリウスが従えていた兵達が恐怖に顔を歪め、後ずさる瞬間であった。
シリウスの、驚愕に満ちた瞳が味方の兵の背中を捉え、彼は尚も叫んだ。
「待て!待てーっ!何処へ行くんだっ!」
手綱をさばきながらグルリと馬を回転させて確認するも、味方は逃げ去り、歩兵の一人として残っていない。
クソッ!
シリウスは、体を貫く程大きな自分の鼓動に苦しくなりながら、味方の背中を追いかけようと馬の腹を蹴った。
その時である。
一際砂埃が立ち込め、ザザッと地を擦る音が響き、馬が嘶いた。
続いて、凛としたファルの声が耳に届く。
「アーテス帝国国王シリウス!潔く我と剣を交えよ!」
アルゴにジュード、マーカスが取り囲み、シリウスの逃げ場を塞いだ。
大きく見開かれたシリウスの眼に、恐怖と絶望の光が浮かび、そんなシリウスの様子にシオンは愕然とした。
これが、あのシリウス!?
残忍で冷酷な眼差しを向けて私を刺したシリウス?!
「無様なものだぜ」
オーディンが薄ら笑いを浮かべた。
それからグングニルを肩に担いで両腕を絡める。
二羽のカラスが羽ばたき、広間を旋回した。
オーディンは視線を下げてニヤリと笑い、続けた。
「以前のシリウスは偉大な王だった。だが、こいつは放棄したんだよ、王の責任をな」
王の責任……。
オーディンは更に続けた。
「大勢の兵の血を流して奪取したケシアの都をいとも簡単に手放して、兵や民は納得するか?自分の右腕として支えていた側近を情け容赦なく処刑した王を信頼し慕えるか?」
シオンは何とも言えずに眉を寄せた。
「アイツは頼りすぎたんだ、自分以外の力にな」
自分以外の、力……。
その時である。
「何故カイルを殺した」
ファルの低い声がして辺りは嘘のように静まり返り、馬の蹄の音だけが響いた。
シリウスが浅い笑みを浮かべてファルを見た。
「……カイルが死んで黄金族人間が困ることなんかないだろ?なぜ知りたい?」
ファルは唇を引き結んだままシリウスの眼を見つめた。
シリウスは首を左右に振って溜め息をついた後、続けた。
「カイルは虜にする筈の『七色の瞳の乙女』を愛してしまい俺に背いた。アイツのお陰で計画が丸潰れだよ。ケシアも失い、『七色の瞳の乙女』にも逃げられて、手ぶらで俺の前に立つとは。こうなったのは全てアイツのせいだ!
……俺は孤児だったアイツを拾い人生を与えてやった。
いつも俺の傍らに置き、大切にしてやった!なのに、なのに……!!裏切ったんだ」
激昂を抑え込もうと、シリウスは一旦言葉を止めたが、諦めて続けた。
「……死ぬに値する裏切りだろ?」
「愚かな」
たちまちシリウスの瞳にギラギラとした憎悪が浮かび上がり、ファルを睨んだ。
「お前に何が分かる?……カイルはきっと俺を欺き、出し抜こうとしてたんだ。
だから俺の命令に背き、兵達を洗脳したに違いない!見ただろう?!たった今逃げていった兵達を」
声を荒げたシリウスに、もはや王の風格は無かった。
「兵が背を向け逃げ帰ったのは、お前に未来を見出だせなかったからだ。側近を虫けらのように殺すお前を恐怖こそすれど、信じられる訳がない。
お前は……もう王ではない」
みるみるシリウスの眼が血走る。
ち……くしょう……!
その時、オーディンが眉を寄せて玉座から身を起こした。
……これは……。
これを以前に見たことがある。
いつだった?
オーディンは、苛立たしげに眼を細めた。
「ファル」
シリウスがファルの名を呼んだ。
ファルが静かにシリウスを見つめると、彼は瞳を伏せて浅く笑った。
「黄金族人間と白金族人間の違いを知ってるか?」
シオンはスクリーンと化した床を見ながら眉をひそめた。
シリウスの、静かな声が流れる。
「先に作られた黄金族人間は、特殊な能力を与えられた。だが、白金族人間はどうだ。
なんの得技も能力も与えてはもらえなかった!!」
静かだったシリウスが徐々に高揚し、その声は震えた。
「神の……神の気まぐれで、こんな事が許されてたまるかっ!!」
シリウスが落ち着きなく辺りを見回す。
その視線は空をさ迷い、まるで見えない何かを探しているようで、ファルを始め、その場にいる全員が訝しげに眉を寄せた。
シリウスの瞳に狂気が浮かび、彼はうわ言のように呟いた。
「神は……どこだ。見ているんだろう?どこだ……?!どこから見てる?!」
これは……思い出したぞ!
オーディンはビクリと肩を震わせた。
これは、『遠魔眼』だ。
さては、ロキの仕業だな。
オーディンは以前にもこの眼を見たことがあった。
焦点が合わず、左右がバラバラに動き、真紫の膜に覆われたような瞳。
悪神ロキにたぶらかされ、良心を差し出す代わりに遠魔眼を手にした人間達は皆、不気味な眼に変化するのだ。
だが悪いことにそれを見抜けるのは神だけであり、普通の人間には眼の変化が分からない。
それ故に周囲の人間は、神に良心を差し出した事に気付かないのだ。
オーディンは苛立たしげに舌打ちした。
きっとシリウスは、『七色の瞳の乙女』を手放すという失敗を犯し、別の方法として悪神ロキと契約したのだ。
人が遠魔眼を手に入れたがる理由など限られている。
遠魔眼なら、神を見ることができる。
神の油断時を狙い、悪神に呪われた武器で葬ることも不可能ではない。
オーディンは咄嗟にシオンを見た。
「お前、後ろに下がってろ」
「……え……?」
なぜ?
突然そう言われ、シオンは訝しげに眉を寄せた。
オーディンは玉座から立ち上がり、足元のシリウスを凝視した。
シリウスが、俺という最高神にとって代わろうとしているのだとしたら。
オーディンは、神槍グングニルをギュッと握り締め、唇を引き結んだ。
その時である。
空をさ迷っていたシリウスの視線がシオンに向けられピタリと止まった。
え…………?
今、私、シリウスと眼が合ってるような……。
確かに視線が絡んでいる。
シリウスが狂喜に満ちた笑みを浮かべてシオンを凝視し、シオンは息を飲んで硬直した。
嘘でしょ?
オーディンが叫ぶ。
「下がれっ!」
「そこにいたんだ……」
シリウスの唇がグイッと上がった。
これ以上開けられないほどに眼を見開き、シリウスがシオンの姿を捉える。
「お前なんか、死んでしまえ」
シリウスは囁くようにそう言うと、素早く腰の短剣を引き抜いて、シオン目掛けて思い切り投げた。
やはり魔剣だ、ちきしょう!
「くっ!」
オーディンが、投げられた短剣を払い落とそうとグングニルを突き出す。
「きゃあああっ!」
バランスを崩したシオンを追いかけるように、魔剣と聖なるグングニルががち合い火花が散った。
その直後、
「うっ!!」
シリウスが瞳をギラッと光らせて息を飲んだ。
弾き飛ばした魔剣を眼の端で捉え、オーディンはシリウスの姿を確認する。
「…………!」
一方シオンも何とか立ち上がり、必死で床を見つめた。
ああ、嘘!!そんなっ!!
「香ー!!!」
シオンは思い切り叫んだ。
シリウスの後方、十数メートルに香をみつけたのだ。
馬に乗った香が弓を構え、泣いていた。
シリウスの右腕に深々と香の放った矢が刺さり、彼はフッと俯いてその矢を見た。
「……なんでだよ」
それからゆるりと馬を返すと、シリウスは香を睨み付けた。
「守護する者か……腹立たしいヤツだ」
シオンは全身がガタガタと震えたが、それを止める事が出来なかった。
香、香。
こんなの、香は望んでなかった筈だ。
前世で愛した人の生まれ変わりであるシリウスを、見たかっただけなのに。
なのに!!
ああ、こんなのは、本当に残酷だ。
それに香はもう『守護する者』じゃないのに、なのにどうして……!!
香の頬に涙が伝った。
泣きながら再び弓を引いてシリウスを狙う。
「もう私は『守護する者』じゃない。けれど」
香は一度言葉を切ってから、しっかりとした声で続けた。
「私の親友を傷付けたら許さない」
止めどなく涙を流し、香はシリウスを見つめた。
「殺す」
僅かに眼を細め、シリウスはポツンと呟いた。
「ハッ!!」
それから素早く馬の腹を蹴ると長剣を構えて香へと突っ走る。
マーカスとジュードの隙をついてそこをすり抜け、シリウスはのめり込むように香を見据えた。
信じられない早さである。
「させるかっ!!!」
ファルとアルゴが必死で追う。
突っ込んでくるシリウスに、香は再び弓を放ったが、腕が震えて命中しない。
「ダメだ、間に合わない!香、逃げろ!」
マーカスが叫んだ。
その時、空で何かがキラリと光った。
なんだ、あれは。
まるで稲妻のような閃光を感じて、ファルは眼を細めた。
その直後、
「ぐああああっ!!」
天にも轟く断末魔の叫び声をあげて、シリウスは仰け反った。
シリウスの身体を貫いた閃光……それは紛れもなくオーディンが放った神槍グングニルであった。
シオンは咄嗟にグングニルを投げたオーディンを見上げた。
「これは俺の采配で、俺の仕事だ。シリウスは悪神ロキに心を売り渡したんだ。何処でも何でも見ることが出来る遠魔眼を手に入れるためにな。こうなるともう、人じゃねえ。心臓を止めるしかないんだ」
香……。
誰もが誰も、突如として現れた恐ろしく長い槍に眼を奪われ、動けなかった。
「……剣清(けんせい)……」
香がシリウスを見つめた。
シリウスがゆっくりと瞬きをした。
彼の瞳から邪悪な光が消え、無表情に変わる。
やがてシリウスはゆっくりと瞬きすると、香に向かって口を開いた。
「……君は……君とは……会ったよね?……いつだったか……どこだったか……君を、俺は知ってる……待って、思い出すから……」
言いながらフワリと微笑む。
それは柔らかくて温かく、まるで春の日射しを思わせる笑顔であった。
シリウスの瞳が潤み、涙が一筋の線となり、皆が眼を見張った。
「ああ……時間がかかってしまってごめん。静麗(ジンリー)……」
それは小さな小さな声であったが、誰もの耳に届いていた。
香が大きく息を吸い込んだ。
一方、シリウスは穏やかな表情で香を見つめ続けた。
「静麗……あの時伝えられなくてごめん……愛……してる」
言い終わるな否やシリウスの身体がグラリと傾き、崩れ落ちた。
「剣清っ!!」
転がるように馬から降りて、香はシリウスに駆け寄った。
「剣清、剣清!!」
香の切ない呼び掛けが辺りに響く。
「オーディン、私をみんなのところへ連れていって!」
香の側にいてあげたい。
守護する者としての役目を終えて尚、私をかつて愛した男から守ろうとした香を支えてあげたい。
シオンはオーディンに頭を下げた。
「お願い、今すぐ連れていって!」
オーディンはツンと横を向いた。
「やだね。グングニルなら勝手に帰ってくるし、いく必要ねー」
なら、こうするまでだわ。
シオンは身を翻してオーディンに背を向けた。
広いフリズスキャルヴを端まで走り、オーディンの愛馬、スレイプニルに駆け寄ると夢中で語りかけた。
「スレイプニル!お願いっ!!私に力を貸して!!」
な、なんだと?!
オーディンは驚いてスレイプニルに駆け寄るシオンの背中を見た。
「こらお前っ!スレイプニルは俺の馬だぞ!勝手に……」
知ってるわよ、あなたの馬なのは!
「後でちゃんと返すわっ!」
だけど、今私に出来ることはこれしかない!
それにスレイプニルが答えてくれるかはわからないけど、私は諦めたくない!!
シオンはオーディンなどお構いなしに、死に物狂いで走った。
「スレイプニル、どうかお願い!!」
オーディンは眼を見開いた。
「おい、マジかよ」
走り寄るシオンに、スレイプニルが膝をおったのだ。
身を低くし、乗りやすいように臥せたスレイプニルを、オーディンは信じられない思いで見つめた。
「スレイプニル、ありがとう!!」
シオンはスレイプニルの背によじ登ろうと、思い切り床を蹴って跳び上がった。
八本の足を窮屈そうに曲げて屈んだスレイプニルだが、それでも彼の背は高かった。
身体がスレイプニルの背まで届かず、ずり落ちそうになったシオンを、スレイプニルが鼻で押し上げ背に乗せた。
オーディンは眼を見張った。
スレイプニルが、自ら人間を背にのせるとは。
……アイツは後でお仕置きだ。
人間界へと駆け降りて姿を消したスレイプニルを見送り、オーディンは溜め息をついた。
二羽のカラスがいつの間にかオーディンの肩に戻り、何か囁く。
……ったく!
なんなんだよ。
◇◇◇◇
天界から人間界へと、スレイプニルは駆け降りた。
霧が晴れたように視界が開けると、そこに皆の姿が見えた。
「ファルー!香ー!」
皆が空を見上げた。
ファルが信じられないといったように息を飲み、アルゴが叫んだ。
「おい、なんだ、あの馬は!?シオン!」
「ありえない……!」
マーカスが八本足のスレイプニルを見て呟くように言った。
スレイプニルは、地に降りたって一度嘶くと、再び膝を折り曲げ背からシオンを下ろした。
ファルが馬を降りてシオンに駆け寄り、その身体を見て抱き締めた。
「無事だったか!」
「うん。私より香が」
シオンはファルから離れると、シリウスに寄り添う香を見つめた。
「香……」
そっと声を掛けると、香がシオンを見つめた。
「最後に、彼を見れたの」
「うん」
それからシリウスの胸に突き刺さったグングニルを見つめた。
「これは神の槍?」
シオンは頷いた。
「オーディンが言うには、シリウスは悪神ロキに心を売り渡し、それと引き換えに何処でも何でも見ることが出来る遠魔眼を手に入れたらしいの。こうなると手遅れらしくて……」
香がシリウスを見つめてから立ち上がった。
それからグイッと涙を拭い、少し笑った。
「……最後に剣清に会えて良かった」
空の遠くを見つめた、諦めと爽やかな感情が混ざりあった香の眼を、皆が見つめた。
「もう、終わったわ。やっと前を向ける」
その時である。
香の言葉を待っていたように、シリウスの身体が透け始めた。
「おい、見ろ」
マーカスの言葉に、皆がシリウスの亡骸を見つめた。
誰も驚かなかった。
「さよなら」
香りが小さくそう言うと、シリウスの姿は完全に消え、その代わり天から声が響いた。
「邪魔するぜ。お前、俺の馬を返せ。スレイプニル!!」
「オーディン」
二羽のカラスを肩に乗せたオーディンが、空に浮かぶように姿を現して、それを見たアルゴが叫んだ。
「こいつだ、あの時の魔性だ」
オーディンがあからさまにムッとして、アルゴを睨んだ。
「お前、無礼なヤツだな。俺はオーディンだ。主神……最高神であって魔性じゃねえ」
そういいながら右手を空に掲げると、ゆっくりと何かが輝き始めてオーディンの手にグングニルが戻った。
グングニルを片手でグルッと回してから肩に水平にして担ぎ、そこに両腕をのせるとオーディンは皆を見回した。
「見事な戦いだったな、黄金族人間よ。西から攻め入ったダクダ軍が実によかったぜ。俺が見惚れたぐらいだからかなりなものだ。
まあ、王子様も頑張ってたっちゃ頑張ってたがな」
そこまで言うと旋回していた二羽のカラスがオーディンのグングニルに止まり、やがてスレイプニルがゆっくりとオーディンに歩み寄った。
そんなスレイプニルをオーディンが睨む。
「お前、人間乗せて勝手に消えんじゃねーよ」
スレイプニルは頭を左右に揺すりながらオーディンにすり寄り、八本の足の蹄を鳴らした。
シオンは慌ててスレイプニルを見上げた。
「スレイプニル、ありがとう」
「俺に礼はねーのかよ。……まあいいか、俺は行くぜ」
「待たれよ、最高神オーディン」
ファルが声を張り、オーディンを見上げた。
「あ?」
オーディンが隻眼でファルを見据える。
「なんだ」
「シオンを返していただきたい」
シオン……七色の瞳の乙女か。
オーディンは暫く唇を引き結んで考えていたが、やがてニヤリと笑みを浮かべた。
「七色の瞳の乙女は願いを叶えてほしいと言って、俺を呼んだんだ」
オーディンは不敵な笑みを浮かべたまま、ファルを見つめた。
鋭い隻眼を、ファルが見つめ返す。
「全く、わがままな女だぜ。カイルを生き返らせて欲しいとか言いやがってな。却下したが」
シオンは俯いた。
「もうひとつの願いが、この世界の平和だとよ」
ファルの反応を楽しむように、オーディンは続けた。
「こいつ、俺に身を捧げるってのがどういう意味か分かって言ってんのか知らねーけどな」
言いながら綺麗な片眼をシオンに向ける。
「分かってます」
ちょっと眼をあげて、オーディンを見つめる顔が以外と可愛い。
オーディンはクスッと笑った。
「わかったわかった。じゃ、望みを叶えてやる。この世界を平和にすりゃいーんだな。その代わり、もう二度と人間界には帰れないぜ。夜な夜な俺に抱かれるのも覚悟しろよ」
シオンはしっかりと頷いた。
「ダメだ」
オーディンの声を撥ね付けるようにファルが声をあげた。
「世界はいつか必ず俺が平和にする!シオン、俺を信じろ」
「そうだぜ、シオン!シリウスがいなくなった今、アーテス帝国と新しい関係を築くことも出来るかもしれないぜ」
アルゴがそう言い、マーカスも頷いた。
オーディンは、笑いが込み上げるのを必死で抑えた。
人とは善くも悪くも、単純である。
その時、ファルが地に膝をついて頭を垂れた。
「最高神オーディン。どうかシオンを俺に返してくれ」
……ほお。威風堂々とした未来の王、ファル。
こいつはいつか俺の軍人……アインヘルヤルに加えたい。
だが、今こいつを狩ると、この世界が乱れる。
ならばファルが王となり、こいつに優れた軍人を数多く育てさせ、それを頂いた方がいいか。
「シオンを返す見返りはなんだ?」
ファルは即答した。
「もしもその隻眼に嘆いておられるなら、喜んで片眼をさしあげよう。もしもこの黄金を作る腕を求められるなら、潔く切り落とそう」
オーディンはスッと笑いを消すとファルを隻眼で鋭く見据えた。
「それは随分と思いきった事を言うじゃねぇか」
「それでシオンを胸に抱けるなら安いものだ」
胸に抱けるなら……か。
オーディンは、ニヤッと笑ってファルを見つめた。
それから皆を見回して、声を張りあげた。
「暫く止まってろ!!」
言うや否や、素早くグングニルを片手で持ち、物凄い勢いで空気を裂くようにひと振りした。
「きゃあああっ!!」
閃光と共に荒々しい風が吹き、シオンは思わず顔を覆った。
身体に電流が流れたような感覚に、息が上がる。
なに、今のは!!
風がやんだ気配に、シオンは恐る恐る顔をあげた。
「う、そ……」
そっと辺りを見回すと、自分とオーディン以外、皆動きを止めて彫刻のように佇んでいた。
ファル、アルゴ、ジュード、マーカス、それに香、兵士達……。
そのうちの誰もがピクリとも動かない。
「やだ、大丈夫!?」
オーディンは、フッと笑った。
「大丈夫だ、暫くこのまま止まっていてもらう」
「どうして?!」
「アホなお前にだけ話があるからだ」
アホな、私にだけ……。
シオンはオーディンを見上げた。
「周りを落ち着いて良く見てみろ」
オーディンの言うとおり、シオンは辺りをゆっくりと見渡した。
戦いのために荒れた大地と、やっと顔を見せた太陽。
「まだ分からないか?」
シオンはオーディンの隻眼を見つめて口を開いた。
「私、本当にバカですよね」
「気付いたならまあ、いーんじゃねーか」
コクンとシオンが頷いた。
オーディンは、柔らかく笑った。
「平和な世界を創るってのは、時に犠牲を伴う。
平和を創るのは人間であって、神に頼むものじゃねーんだよ。
何年かかろうが、人の平和は人が作るんだ。それでなきゃ意味がない。
人が作るからこそ、人は心にその尊さを刻み、命を大切にしようとするんだ」
シオンの眼から涙が零れた。
「王子ファルを信じろよ。アイツは必ず世界を平和にするとお前に誓ったじゃねぇか。
お前は、惚れた男を信じねぇのか」
シオンは、動かないファルを見つめた。
いつでも真っ直ぐで潔いファル。
……そうだ、私の好きな人は中途半端な人じゃない。
シオンは泣きながら笑った。
「信じます、ファルを」
オーディンは、ニヤッと笑った。
「お前がこいつの隣にいてやれば、無敵だろうよ。男は、惚れた女にいつだってイイトコ見せたいんだからよ」
シオンは涙を拭きながらオーディンに問い掛けた。
「あなたも?」
オーディンが大きく笑った。
「俺の行動の全てが女を虜にするらしく、モテモテで苦労するぜ!
さあ、皆を起こすぞ!眼を閉じてろ!!」
オーディンが再びグングニルをひと振りした。
たちまち強風が巻き起こり、それがやむ頃には皆が動き出した。
それを確認すると、オーディンが口を開いた。
「黄金族人間の王子ファル!」
ファルがオーディンを見上げた。
「シオンはお前に返す。俺は今、他の事で手一杯なんだ。それにこの隻眼が気に入ってるしな!しかも黄金ならこの腕輪で十分だ」
オーディンはそう言うと、逞しい腕にはめた黄金の腕輪ドラウプニルをサラリと撫でた。
「さあ、もう俺は行く。スレイプニル!帰るぞ!」
「最高神オーディン!!」
ファルが名を呼ぶと、オーディンはニヤリと笑った。
「おっと、礼は要らねぇぜ!俺は今、七色の瞳の乙女に興味ねぇからな!」
ファル達が見守るなか、オーディンはスレイプニルにまたがると颯爽と天を駆け、消えていった。
誰もが暫くの間言葉を発することなく、オーディンの消えた空をみつめていた。
隣に立っているオーディンを見上げて、シオンはちょっと笑った。
「あの……ありがとうございました」
「じゃあもう帰れ。俺は闘いの続きが見たいんだ。送ってやる」
シオンは僅かに唇を噛んでから、首を横に振った。
「嫌です、私帰りません」
だって私は、もう誰にも死んで欲しくないんだもの。
黄金族人間も、白金族人間も。
オーディンは、ウンザリしたように溜め息をついた。
「お前、わかんねぇ女だな」
「そうかも知れませんけど、この世界を平和にして欲しいんです」
平和な世界を神に作れと頼むのか?
それは無意味だと気づかないシオンを、オーディンはイラついて見つめた。
それに……そうはいくか。
主神オーディンは、武力の神でもある。
彼にしたら戦いは格好の戦士集めの場なのだ。
気に入った兵士をヴァルキューレに伝え、その魂を連れ帰る。
オーディンは、より強い兵士を求めているのだ。
やがて来るであろう終末の大戦争のために。
「確かに私は、この世界の事情を何も知りません。でも人が死ぬのは嫌なんで」
「人は誰でも死ぬ」
シオンが言い終わらないうちにオーディンは言葉を被せて彼女を制した。
「早いか遅いかだ。そしてその人生が、濃いか薄いかは、生きた長さでははかれない。戦いに散る命を幸か不幸か何故お前に分かる?」
シオンは答えに詰まった。
「でもっ……!残された者はっ……」
オーディンは嗚咽を漏らすシオンを見下ろした。
……確かにそうだ。
本人よりも残された者の方が無念で、この女はそちら側に立ってものを言っているのだ。
「我が儘な女だな」
シオンは俯いた。
「あなたと話をしているうちに、いかに自分が無知で浅はかな考えしかないのかを思いしらされました。
ですが」
シオンはハラハラと涙をこぼしながら続けた。
「けれど戦うより、平和の方がいいに決まってます」
……平和……。
ホントに分かってねぇ。
オーディンはぞんざいな光を隻眼に宿らせ、シオンを見ずに口を開いた。
「お前にも見せてやるから一緒に来い。スレイプニル!!」
オーディンが聞きなれない単語を発した直後、背後で馬の蹄の硬い音と嘶きが響いた。
「スレイプニル」
見たこともないほど大きな馬の足は8本で、シオンは息を飲んで目を見張った。
オーディンは素早くスレイプニルにまたがると、シオンの腕を取り馬上に引き上げた。
二羽のカラスが素早くオーディンの肩に留まり直す。
「あの、何処へ行くの?」
オーディンは短く答えながら、手綱をさばいた。
「フリズスキャルヴへ戻る」
八本足の馬……スレイプニルは幅の広い壮麗な廊下を駆けた。
「こいつに乗らなきゃ、フリズスキャルヴは遥か彼方だ」
「……」
暫くの後、またしても立派な扉が見えてきたが、オーディンは馬の速度を落とさなかった。
「安心しろ、ぶつかったりしねーから」
オーディンの言葉通りだった。
扉は開くことがなかったのに、スレイプニルは大広間の中央で八本の足を止めた。
スレイプニルからシオンを降ろすと、オーディンはその頬をポンポンと二度優しく叩いた。
するとスレイプニルは満足そうに広間の隅へと移動し、置いてある水に口をつけた。
それを確認したオーディンは、チラリとシオンを見て、宝石の散りばめられた豪華な玉座に腰をおろした。
両肩の二羽のカラスがオーディンの耳元で鳴き、彼は頷くと右手の長い槍、グングニルを床に二度打ち付けて鳴らした。
「夜が明けたな。もう始めてるぜ」
「あ……きゃあ!」
足元が波打ち出したかと思うと、次第に闘いの光景が浮かび上がり、まるで床全体が映画のスクリーンのように変化した。
「大丈夫だ、落ちやしねーから」
入り乱れる兵士達。
怒号と炎、そして斬り結ぶ剣の硬い音。
倒れる兵士とそれを飛び越える騎兵隊らしき姿。
血と泥が混ざり合い、苦悶の表情で崩れ落ちる歩兵隊。
その時である。
シオンの眼にひとりの青年が飛び込んできた。
あ……!!
馬に乗り、右手に剣を携えて、鮮やかな長い羽飾りと一際派手なマントをなびかせているその青年は。
「ファル……!!」
シオンの胸に熱い想いが込み上げ、それが荒れ狂う風のように心の中をかき乱した。
「ファル、ファル!!」
オーディンは、激しく多色化するシオンの瞳を見つめながら口を開いた。
「呼んだって聞こえねぇよ」
オーディンの言葉にシオンは落胆した。
こんなに、こんなに近いのに。
見れば、ファルを援護する形でアルゴとジュードが控えており、城へと続く一際高い坂道に、マーカスの姿が見えた。
時折皆がマーカスを見つめ、彼は笛や仕草で皆に指示を出している。
その時である。
弾かれたようにマーカスが肩を震わせ、一方を食い入るように見つめた。
それから力いっぱい何か叫ぶと、ファルを始めその場の味方が全員マーカスと同じ方向を向いた。
怒号と悲鳴が飛び交っているが、確かにファルの声がシオンの耳に届いた。
「アーテス帝国国王、シリウスをみつけたぞ!!」
皆が高々と剣や槍を掲げた。
「皆、俺に着いてこい!!」
ファルは馬上で立ち上がると右腕を伸ばし、剣の切っ先を前方に向けて叫んだ。
雄叫びを上げながらファルに続く兵達。
シオンは白くなるほど両手を握り締めた。
今まさにファルは、シリウスと雌雄を決しようとしているのだ。
馬の蹄が砂埃を生み、霧のように視界を遮る中、ファルは弾丸のように一つの方向へと突っ走った。
怯む者はひとりもいず、皆が後に続く。
シオンは、食い込んだ自分の爪が皮膚を傷つけているのにも気づかず、ファルを見つめた。
その時である。
「お前達!!早くかかれ!敵を迎え討て!」
悲鳴のような声が響いて、シオンは息を飲んで床を見つめた。
見ると、シリウスが従えていた兵達が恐怖に顔を歪め、後ずさる瞬間であった。
シリウスの、驚愕に満ちた瞳が味方の兵の背中を捉え、彼は尚も叫んだ。
「待て!待てーっ!何処へ行くんだっ!」
手綱をさばきながらグルリと馬を回転させて確認するも、味方は逃げ去り、歩兵の一人として残っていない。
クソッ!
シリウスは、体を貫く程大きな自分の鼓動に苦しくなりながら、味方の背中を追いかけようと馬の腹を蹴った。
その時である。
一際砂埃が立ち込め、ザザッと地を擦る音が響き、馬が嘶いた。
続いて、凛としたファルの声が耳に届く。
「アーテス帝国国王シリウス!潔く我と剣を交えよ!」
アルゴにジュード、マーカスが取り囲み、シリウスの逃げ場を塞いだ。
大きく見開かれたシリウスの眼に、恐怖と絶望の光が浮かび、そんなシリウスの様子にシオンは愕然とした。
これが、あのシリウス!?
残忍で冷酷な眼差しを向けて私を刺したシリウス?!
「無様なものだぜ」
オーディンが薄ら笑いを浮かべた。
それからグングニルを肩に担いで両腕を絡める。
二羽のカラスが羽ばたき、広間を旋回した。
オーディンは視線を下げてニヤリと笑い、続けた。
「以前のシリウスは偉大な王だった。だが、こいつは放棄したんだよ、王の責任をな」
王の責任……。
オーディンは更に続けた。
「大勢の兵の血を流して奪取したケシアの都をいとも簡単に手放して、兵や民は納得するか?自分の右腕として支えていた側近を情け容赦なく処刑した王を信頼し慕えるか?」
シオンは何とも言えずに眉を寄せた。
「アイツは頼りすぎたんだ、自分以外の力にな」
自分以外の、力……。
その時である。
「何故カイルを殺した」
ファルの低い声がして辺りは嘘のように静まり返り、馬の蹄の音だけが響いた。
シリウスが浅い笑みを浮かべてファルを見た。
「……カイルが死んで黄金族人間が困ることなんかないだろ?なぜ知りたい?」
ファルは唇を引き結んだままシリウスの眼を見つめた。
シリウスは首を左右に振って溜め息をついた後、続けた。
「カイルは虜にする筈の『七色の瞳の乙女』を愛してしまい俺に背いた。アイツのお陰で計画が丸潰れだよ。ケシアも失い、『七色の瞳の乙女』にも逃げられて、手ぶらで俺の前に立つとは。こうなったのは全てアイツのせいだ!
……俺は孤児だったアイツを拾い人生を与えてやった。
いつも俺の傍らに置き、大切にしてやった!なのに、なのに……!!裏切ったんだ」
激昂を抑え込もうと、シリウスは一旦言葉を止めたが、諦めて続けた。
「……死ぬに値する裏切りだろ?」
「愚かな」
たちまちシリウスの瞳にギラギラとした憎悪が浮かび上がり、ファルを睨んだ。
「お前に何が分かる?……カイルはきっと俺を欺き、出し抜こうとしてたんだ。
だから俺の命令に背き、兵達を洗脳したに違いない!見ただろう?!たった今逃げていった兵達を」
声を荒げたシリウスに、もはや王の風格は無かった。
「兵が背を向け逃げ帰ったのは、お前に未来を見出だせなかったからだ。側近を虫けらのように殺すお前を恐怖こそすれど、信じられる訳がない。
お前は……もう王ではない」
みるみるシリウスの眼が血走る。
ち……くしょう……!
その時、オーディンが眉を寄せて玉座から身を起こした。
……これは……。
これを以前に見たことがある。
いつだった?
オーディンは、苛立たしげに眼を細めた。
「ファル」
シリウスがファルの名を呼んだ。
ファルが静かにシリウスを見つめると、彼は瞳を伏せて浅く笑った。
「黄金族人間と白金族人間の違いを知ってるか?」
シオンはスクリーンと化した床を見ながら眉をひそめた。
シリウスの、静かな声が流れる。
「先に作られた黄金族人間は、特殊な能力を与えられた。だが、白金族人間はどうだ。
なんの得技も能力も与えてはもらえなかった!!」
静かだったシリウスが徐々に高揚し、その声は震えた。
「神の……神の気まぐれで、こんな事が許されてたまるかっ!!」
シリウスが落ち着きなく辺りを見回す。
その視線は空をさ迷い、まるで見えない何かを探しているようで、ファルを始め、その場にいる全員が訝しげに眉を寄せた。
シリウスの瞳に狂気が浮かび、彼はうわ言のように呟いた。
「神は……どこだ。見ているんだろう?どこだ……?!どこから見てる?!」
これは……思い出したぞ!
オーディンはビクリと肩を震わせた。
これは、『遠魔眼』だ。
さては、ロキの仕業だな。
オーディンは以前にもこの眼を見たことがあった。
焦点が合わず、左右がバラバラに動き、真紫の膜に覆われたような瞳。
悪神ロキにたぶらかされ、良心を差し出す代わりに遠魔眼を手にした人間達は皆、不気味な眼に変化するのだ。
だが悪いことにそれを見抜けるのは神だけであり、普通の人間には眼の変化が分からない。
それ故に周囲の人間は、神に良心を差し出した事に気付かないのだ。
オーディンは苛立たしげに舌打ちした。
きっとシリウスは、『七色の瞳の乙女』を手放すという失敗を犯し、別の方法として悪神ロキと契約したのだ。
人が遠魔眼を手に入れたがる理由など限られている。
遠魔眼なら、神を見ることができる。
神の油断時を狙い、悪神に呪われた武器で葬ることも不可能ではない。
オーディンは咄嗟にシオンを見た。
「お前、後ろに下がってろ」
「……え……?」
なぜ?
突然そう言われ、シオンは訝しげに眉を寄せた。
オーディンは玉座から立ち上がり、足元のシリウスを凝視した。
シリウスが、俺という最高神にとって代わろうとしているのだとしたら。
オーディンは、神槍グングニルをギュッと握り締め、唇を引き結んだ。
その時である。
空をさ迷っていたシリウスの視線がシオンに向けられピタリと止まった。
え…………?
今、私、シリウスと眼が合ってるような……。
確かに視線が絡んでいる。
シリウスが狂喜に満ちた笑みを浮かべてシオンを凝視し、シオンは息を飲んで硬直した。
嘘でしょ?
オーディンが叫ぶ。
「下がれっ!」
「そこにいたんだ……」
シリウスの唇がグイッと上がった。
これ以上開けられないほどに眼を見開き、シリウスがシオンの姿を捉える。
「お前なんか、死んでしまえ」
シリウスは囁くようにそう言うと、素早く腰の短剣を引き抜いて、シオン目掛けて思い切り投げた。
やはり魔剣だ、ちきしょう!
「くっ!」
オーディンが、投げられた短剣を払い落とそうとグングニルを突き出す。
「きゃあああっ!」
バランスを崩したシオンを追いかけるように、魔剣と聖なるグングニルががち合い火花が散った。
その直後、
「うっ!!」
シリウスが瞳をギラッと光らせて息を飲んだ。
弾き飛ばした魔剣を眼の端で捉え、オーディンはシリウスの姿を確認する。
「…………!」
一方シオンも何とか立ち上がり、必死で床を見つめた。
ああ、嘘!!そんなっ!!
「香ー!!!」
シオンは思い切り叫んだ。
シリウスの後方、十数メートルに香をみつけたのだ。
馬に乗った香が弓を構え、泣いていた。
シリウスの右腕に深々と香の放った矢が刺さり、彼はフッと俯いてその矢を見た。
「……なんでだよ」
それからゆるりと馬を返すと、シリウスは香を睨み付けた。
「守護する者か……腹立たしいヤツだ」
シオンは全身がガタガタと震えたが、それを止める事が出来なかった。
香、香。
こんなの、香は望んでなかった筈だ。
前世で愛した人の生まれ変わりであるシリウスを、見たかっただけなのに。
なのに!!
ああ、こんなのは、本当に残酷だ。
それに香はもう『守護する者』じゃないのに、なのにどうして……!!
香の頬に涙が伝った。
泣きながら再び弓を引いてシリウスを狙う。
「もう私は『守護する者』じゃない。けれど」
香は一度言葉を切ってから、しっかりとした声で続けた。
「私の親友を傷付けたら許さない」
止めどなく涙を流し、香はシリウスを見つめた。
「殺す」
僅かに眼を細め、シリウスはポツンと呟いた。
「ハッ!!」
それから素早く馬の腹を蹴ると長剣を構えて香へと突っ走る。
マーカスとジュードの隙をついてそこをすり抜け、シリウスはのめり込むように香を見据えた。
信じられない早さである。
「させるかっ!!!」
ファルとアルゴが必死で追う。
突っ込んでくるシリウスに、香は再び弓を放ったが、腕が震えて命中しない。
「ダメだ、間に合わない!香、逃げろ!」
マーカスが叫んだ。
その時、空で何かがキラリと光った。
なんだ、あれは。
まるで稲妻のような閃光を感じて、ファルは眼を細めた。
その直後、
「ぐああああっ!!」
天にも轟く断末魔の叫び声をあげて、シリウスは仰け反った。
シリウスの身体を貫いた閃光……それは紛れもなくオーディンが放った神槍グングニルであった。
シオンは咄嗟にグングニルを投げたオーディンを見上げた。
「これは俺の采配で、俺の仕事だ。シリウスは悪神ロキに心を売り渡したんだ。何処でも何でも見ることが出来る遠魔眼を手に入れるためにな。こうなるともう、人じゃねえ。心臓を止めるしかないんだ」
香……。
誰もが誰も、突如として現れた恐ろしく長い槍に眼を奪われ、動けなかった。
「……剣清(けんせい)……」
香がシリウスを見つめた。
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やがてシリウスはゆっくりと瞬きすると、香に向かって口を開いた。
「……君は……君とは……会ったよね?……いつだったか……どこだったか……君を、俺は知ってる……待って、思い出すから……」
言いながらフワリと微笑む。
それは柔らかくて温かく、まるで春の日射しを思わせる笑顔であった。
シリウスの瞳が潤み、涙が一筋の線となり、皆が眼を見張った。
「ああ……時間がかかってしまってごめん。静麗(ジンリー)……」
それは小さな小さな声であったが、誰もの耳に届いていた。
香が大きく息を吸い込んだ。
一方、シリウスは穏やかな表情で香を見つめ続けた。
「静麗……あの時伝えられなくてごめん……愛……してる」
言い終わるな否やシリウスの身体がグラリと傾き、崩れ落ちた。
「剣清っ!!」
転がるように馬から降りて、香はシリウスに駆け寄った。
「剣清、剣清!!」
香の切ない呼び掛けが辺りに響く。
「オーディン、私をみんなのところへ連れていって!」
香の側にいてあげたい。
守護する者としての役目を終えて尚、私をかつて愛した男から守ろうとした香を支えてあげたい。
シオンはオーディンに頭を下げた。
「お願い、今すぐ連れていって!」
オーディンはツンと横を向いた。
「やだね。グングニルなら勝手に帰ってくるし、いく必要ねー」
なら、こうするまでだわ。
シオンは身を翻してオーディンに背を向けた。
広いフリズスキャルヴを端まで走り、オーディンの愛馬、スレイプニルに駆け寄ると夢中で語りかけた。
「スレイプニル!お願いっ!!私に力を貸して!!」
な、なんだと?!
オーディンは驚いてスレイプニルに駆け寄るシオンの背中を見た。
「こらお前っ!スレイプニルは俺の馬だぞ!勝手に……」
知ってるわよ、あなたの馬なのは!
「後でちゃんと返すわっ!」
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シオンはオーディンなどお構いなしに、死に物狂いで走った。
「スレイプニル、どうかお願い!!」
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身を低くし、乗りやすいように臥せたスレイプニルを、オーディンは信じられない思いで見つめた。
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シオンはスレイプニルの背によじ登ろうと、思い切り床を蹴って跳び上がった。
八本の足を窮屈そうに曲げて屈んだスレイプニルだが、それでも彼の背は高かった。
身体がスレイプニルの背まで届かず、ずり落ちそうになったシオンを、スレイプニルが鼻で押し上げ背に乗せた。
オーディンは眼を見張った。
スレイプニルが、自ら人間を背にのせるとは。
……アイツは後でお仕置きだ。
人間界へと駆け降りて姿を消したスレイプニルを見送り、オーディンは溜め息をついた。
二羽のカラスがいつの間にかオーディンの肩に戻り、何か囁く。
……ったく!
なんなんだよ。
◇◇◇◇
天界から人間界へと、スレイプニルは駆け降りた。
霧が晴れたように視界が開けると、そこに皆の姿が見えた。
「ファルー!香ー!」
皆が空を見上げた。
ファルが信じられないといったように息を飲み、アルゴが叫んだ。
「おい、なんだ、あの馬は!?シオン!」
「ありえない……!」
マーカスが八本足のスレイプニルを見て呟くように言った。
スレイプニルは、地に降りたって一度嘶くと、再び膝を折り曲げ背からシオンを下ろした。
ファルが馬を降りてシオンに駆け寄り、その身体を見て抱き締めた。
「無事だったか!」
「うん。私より香が」
シオンはファルから離れると、シリウスに寄り添う香を見つめた。
「香……」
そっと声を掛けると、香がシオンを見つめた。
「最後に、彼を見れたの」
「うん」
それからシリウスの胸に突き刺さったグングニルを見つめた。
「これは神の槍?」
シオンは頷いた。
「オーディンが言うには、シリウスは悪神ロキに心を売り渡し、それと引き換えに何処でも何でも見ることが出来る遠魔眼を手に入れたらしいの。こうなると手遅れらしくて……」
香がシリウスを見つめてから立ち上がった。
それからグイッと涙を拭い、少し笑った。
「……最後に剣清に会えて良かった」
空の遠くを見つめた、諦めと爽やかな感情が混ざりあった香の眼を、皆が見つめた。
「もう、終わったわ。やっと前を向ける」
その時である。
香の言葉を待っていたように、シリウスの身体が透け始めた。
「おい、見ろ」
マーカスの言葉に、皆がシリウスの亡骸を見つめた。
誰も驚かなかった。
「さよなら」
香りが小さくそう言うと、シリウスの姿は完全に消え、その代わり天から声が響いた。
「邪魔するぜ。お前、俺の馬を返せ。スレイプニル!!」
「オーディン」
二羽のカラスを肩に乗せたオーディンが、空に浮かぶように姿を現して、それを見たアルゴが叫んだ。
「こいつだ、あの時の魔性だ」
オーディンがあからさまにムッとして、アルゴを睨んだ。
「お前、無礼なヤツだな。俺はオーディンだ。主神……最高神であって魔性じゃねえ」
そういいながら右手を空に掲げると、ゆっくりと何かが輝き始めてオーディンの手にグングニルが戻った。
グングニルを片手でグルッと回してから肩に水平にして担ぎ、そこに両腕をのせるとオーディンは皆を見回した。
「見事な戦いだったな、黄金族人間よ。西から攻め入ったダクダ軍が実によかったぜ。俺が見惚れたぐらいだからかなりなものだ。
まあ、王子様も頑張ってたっちゃ頑張ってたがな」
そこまで言うと旋回していた二羽のカラスがオーディンのグングニルに止まり、やがてスレイプニルがゆっくりとオーディンに歩み寄った。
そんなスレイプニルをオーディンが睨む。
「お前、人間乗せて勝手に消えんじゃねーよ」
スレイプニルは頭を左右に揺すりながらオーディンにすり寄り、八本の足の蹄を鳴らした。
シオンは慌ててスレイプニルを見上げた。
「スレイプニル、ありがとう」
「俺に礼はねーのかよ。……まあいいか、俺は行くぜ」
「待たれよ、最高神オーディン」
ファルが声を張り、オーディンを見上げた。
「あ?」
オーディンが隻眼でファルを見据える。
「なんだ」
「シオンを返していただきたい」
シオン……七色の瞳の乙女か。
オーディンは暫く唇を引き結んで考えていたが、やがてニヤリと笑みを浮かべた。
「七色の瞳の乙女は願いを叶えてほしいと言って、俺を呼んだんだ」
オーディンは不敵な笑みを浮かべたまま、ファルを見つめた。
鋭い隻眼を、ファルが見つめ返す。
「全く、わがままな女だぜ。カイルを生き返らせて欲しいとか言いやがってな。却下したが」
シオンは俯いた。
「もうひとつの願いが、この世界の平和だとよ」
ファルの反応を楽しむように、オーディンは続けた。
「こいつ、俺に身を捧げるってのがどういう意味か分かって言ってんのか知らねーけどな」
言いながら綺麗な片眼をシオンに向ける。
「分かってます」
ちょっと眼をあげて、オーディンを見つめる顔が以外と可愛い。
オーディンはクスッと笑った。
「わかったわかった。じゃ、望みを叶えてやる。この世界を平和にすりゃいーんだな。その代わり、もう二度と人間界には帰れないぜ。夜な夜な俺に抱かれるのも覚悟しろよ」
シオンはしっかりと頷いた。
「ダメだ」
オーディンの声を撥ね付けるようにファルが声をあげた。
「世界はいつか必ず俺が平和にする!シオン、俺を信じろ」
「そうだぜ、シオン!シリウスがいなくなった今、アーテス帝国と新しい関係を築くことも出来るかもしれないぜ」
アルゴがそう言い、マーカスも頷いた。
オーディンは、笑いが込み上げるのを必死で抑えた。
人とは善くも悪くも、単純である。
その時、ファルが地に膝をついて頭を垂れた。
「最高神オーディン。どうかシオンを俺に返してくれ」
……ほお。威風堂々とした未来の王、ファル。
こいつはいつか俺の軍人……アインヘルヤルに加えたい。
だが、今こいつを狩ると、この世界が乱れる。
ならばファルが王となり、こいつに優れた軍人を数多く育てさせ、それを頂いた方がいいか。
「シオンを返す見返りはなんだ?」
ファルは即答した。
「もしもその隻眼に嘆いておられるなら、喜んで片眼をさしあげよう。もしもこの黄金を作る腕を求められるなら、潔く切り落とそう」
オーディンはスッと笑いを消すとファルを隻眼で鋭く見据えた。
「それは随分と思いきった事を言うじゃねぇか」
「それでシオンを胸に抱けるなら安いものだ」
胸に抱けるなら……か。
オーディンは、ニヤッと笑ってファルを見つめた。
それから皆を見回して、声を張りあげた。
「暫く止まってろ!!」
言うや否や、素早くグングニルを片手で持ち、物凄い勢いで空気を裂くようにひと振りした。
「きゃあああっ!!」
閃光と共に荒々しい風が吹き、シオンは思わず顔を覆った。
身体に電流が流れたような感覚に、息が上がる。
なに、今のは!!
風がやんだ気配に、シオンは恐る恐る顔をあげた。
「う、そ……」
そっと辺りを見回すと、自分とオーディン以外、皆動きを止めて彫刻のように佇んでいた。
ファル、アルゴ、ジュード、マーカス、それに香、兵士達……。
そのうちの誰もがピクリとも動かない。
「やだ、大丈夫!?」
オーディンは、フッと笑った。
「大丈夫だ、暫くこのまま止まっていてもらう」
「どうして?!」
「アホなお前にだけ話があるからだ」
アホな、私にだけ……。
シオンはオーディンを見上げた。
「周りを落ち着いて良く見てみろ」
オーディンの言うとおり、シオンは辺りをゆっくりと見渡した。
戦いのために荒れた大地と、やっと顔を見せた太陽。
「まだ分からないか?」
シオンはオーディンの隻眼を見つめて口を開いた。
「私、本当にバカですよね」
「気付いたならまあ、いーんじゃねーか」
コクンとシオンが頷いた。
オーディンは、柔らかく笑った。
「平和な世界を創るってのは、時に犠牲を伴う。
平和を創るのは人間であって、神に頼むものじゃねーんだよ。
何年かかろうが、人の平和は人が作るんだ。それでなきゃ意味がない。
人が作るからこそ、人は心にその尊さを刻み、命を大切にしようとするんだ」
シオンの眼から涙が零れた。
「王子ファルを信じろよ。アイツは必ず世界を平和にするとお前に誓ったじゃねぇか。
お前は、惚れた男を信じねぇのか」
シオンは、動かないファルを見つめた。
いつでも真っ直ぐで潔いファル。
……そうだ、私の好きな人は中途半端な人じゃない。
シオンは泣きながら笑った。
「信じます、ファルを」
オーディンは、ニヤッと笑った。
「お前がこいつの隣にいてやれば、無敵だろうよ。男は、惚れた女にいつだってイイトコ見せたいんだからよ」
シオンは涙を拭きながらオーディンに問い掛けた。
「あなたも?」
オーディンが大きく笑った。
「俺の行動の全てが女を虜にするらしく、モテモテで苦労するぜ!
さあ、皆を起こすぞ!眼を閉じてろ!!」
オーディンが再びグングニルをひと振りした。
たちまち強風が巻き起こり、それがやむ頃には皆が動き出した。
それを確認すると、オーディンが口を開いた。
「黄金族人間の王子ファル!」
ファルがオーディンを見上げた。
「シオンはお前に返す。俺は今、他の事で手一杯なんだ。それにこの隻眼が気に入ってるしな!しかも黄金ならこの腕輪で十分だ」
オーディンはそう言うと、逞しい腕にはめた黄金の腕輪ドラウプニルをサラリと撫でた。
「さあ、もう俺は行く。スレイプニル!帰るぞ!」
「最高神オーディン!!」
ファルが名を呼ぶと、オーディンはニヤリと笑った。
「おっと、礼は要らねぇぜ!俺は今、七色の瞳の乙女に興味ねぇからな!」
ファル達が見守るなか、オーディンはスレイプニルにまたがると颯爽と天を駆け、消えていった。
誰もが暫くの間言葉を発することなく、オーディンの消えた空をみつめていた。
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第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
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