嘘つきの君と弱い俺

勾玉

文字の大きさ
上 下
1 / 14

第1話 君との始まり

しおりを挟む
談笑に包まれ騒がしい空間に、俺はただ一人机に突っ伏していた。
今日は一段と騒がしい。
おそらく今日、席替えをするからだろう。
いつも一人で、なにも話せない俺には全く関係のないことだった。
というか、、、どうでもいいなぁ。
正直、誰が隣にきても誰とも馴染めることはない。
今までもそうだった。
それはきっと、これからもー
「ーじゃあ、くじを引いてくれ」
俺はいつもと変わらない表情で、そのくじをひいた。

ーーーーーーーーー

席替えが終わり、あちらこちらから声がする。
喜びだったり、呆れた声だったり、、、。
楽しそうな声が、俺の耳に届く。
、、、が、少し予想外なことが起きた。
俺の隣の席は、祖岩夢味(そいわゆめみ)になってしまったこと。
正直彼とは、隣になりたくなかった気もする。
というのも、彼は皆から少し距離をおかれていた。
文武両道、容姿端麗。
完璧なのとミステリアスさを兼ね備えていた。
感情も表に滅多に出すこともなく、その涼しげで感情の読めない瞳は、少し気味悪がられていた。
まさか、、、この人になるとは、、、、。
まぁ話しかけてこないだろうし、別にいいか。
「、、、」
「、、、」
「ねぇ」
俺の耳に聞き慣れない優しい低音が届く。
、、、えっ、、、こ、声をかけられた、、、。
動揺し困惑つつも、俺は声のしたほうへと顔を向け、視線を合わせる。
「君、清水君だよね?」
「、、、あ、あぁ、うん。そうだよ」
「これからよろしくね」
「、、、、、、うん、、、よろしく」
慣れないぎこちない挨拶をかわしたあと、再び沈黙が訪れた。
なんというか、、、ほんとうに、この人は掴めないな。
俺はその日も黙って授業を受けた。

ーーーーーーーーー

チャイムが教室になり響き、授業終了の時刻を知らせる。
教室はがやがやしているなか、俺は一人で帰る支度をしていた。
リュックに全ての荷物を詰め込み、それを背負う。
「ねぇ。清水君」
聞いたことのある声、俺を呼び止める聞こえた。
、、、も、もしかして、、、。
嫌な予感がするなか、俺は声のほうへと再び顔を向ける。
そこには授業中隣にいた顔がいた。
「途中まで、一緒に帰らない?」
「、、、え?」
思わずこの耳を疑う。
「だから、一緒に帰ろうか」
「あ、、、」
帰らない?が帰ろうかに変わった。
俺と帰るつもりなのだろう。
ど、どうしよう、、、断れない。
俺は首を縦に振るしかなかった。

ーーーーーーーーー

俺の帰り道に沈黙という言葉はない。
祖岩君が、かなり話しかけてくるからだ。
ほんとは一人で帰りたいのに、、、。
でも、そんなこと言えない、、、。
会話として成立しているか怪しいぐらいに不慣れな会話。
祖岩君は、話すのは俺よりかなりうまい。
なのに、それを俺が潰してしまっている。 
なんだかもう、胃がきりきりする。
「清水君、この後予定ある?」
「、、、ん?よ、予定、、、?えーっと、ないけど、、、」
「そっか。なら、少し本屋にいくんだけど、、、一緒にどうかな?」
「ぇ、、、、」
「ん?」
「あ、や、、、い、、、行くよ」
「ありがと」
もう、yesと言う回答しか出せない気迫すら感じる。
あぁ、やっぱり話すのも祖岩君も苦手だな。
心の底から、そう思うのであった。

ーーーーーーーーー

本屋のなかは季節問わず過ごしやすい。
別行動になった俺は、本屋に行くときににいつも見る売場に行った。
「えぇっと、、、」
そのなかから、俺が一番読みたい本を決める。
あ、これこの間広告でみたやつだ。
これにしようかなー
「へぇ~、、、そういうの読んでるんだね」
「ーーーッ!?」
俺の肩にぽんと刺激が入ると同時に、耳元で囁かれたその言葉に反応し、肩が跳ねる。
「『自分を変える六つの方法』か、、、清水君は自分を変えたいの?」
囁く声は変わらない。
ぐいっと祖岩君は俺に顔を近づけた。
吐息がかかるぐらい近く、感情の読めない瞳に捕らえられる。
「僕が変えてあげようか?」
「ーーーッ、、、」
心臓がどくんっ大きく跳ねて、自分の頬が林檎のように赤く染まり、熱するのを感じた。
「、、、なーんて」
祖岩君はそういうと、俺から顔を離して、普通に会話した距離に戻る。
「ウソ」
感情の読めない瞳は一切揺らがず、口元だけふわっと緩む。
「まぁ、、、今日からよろしくね、清水君」
「、、、ぁ」
あぁ、ほんとうに。
赤く染まる頬で、俺はこの人が苦手だと改めてそう思った。




しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

エリジウムズ・エッジ~楽園境界~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

後悔しても手遅れです。愚妹とどうぞ破滅してください。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:36

タカハシユウタ参上

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

お召し替え

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...