嘘つきの君と弱い俺

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第十三話 賭け事

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目の前のスマホに表示されてるのは、祖岩君という文字だ。 
ピコンピコンとなる通知の音を一日にこんなにきくのは、俺にとって初めての経験。
…最近仲も徐々に深まった俺たちは、この間連絡先を交換したばかりで、結構な頻度でやりとりをしていた。
「楽しそうねぇ」
「?うん」
「友達でもできたの?」
母親がものすごく嬉しそうに声をかけてきた。
そりゃそっか…俺が友達とやりとりしてる姿を見せるのって…人生初めてかもだもんな…。
いやたぶん初めてか…。
友達…いなかったし…。
「どんな人と?」 
母の声のトーンが上がり、うきうきしている。
……どんな人、かぁ…。
祖岩君の改めてことを思い出してみると、全く感情が読めず、いつもニコニコしてる様子が浮かんだ。
「そうだなぁ…」
「…」
「いつもニコニコしてる人だよ」
ニコニコしてるとだけ伝えて、あえて全く感情が読めないということはいわないようにした。
「そうなのねぇ」
「うん」
たぶん友達であってるよね…いや、かなり変わった人だけど…。
こうやって連絡先交換したのも、祖岩君のごり押しだったからな…。
嫌じゃなかったけど、本当に何を考えてるのかわからない人。
その動きのない瞳で、何を映してるんだろう。
「そういえば明日出かけるって言ってたけど…その子と行くの?」
「うん、そうだよ」
「どこ行くの?」
「プールだよ」
「えぇ?プール?意外ね…」
「まぁ…うん…」
なぜか行くことになったし、という言葉を飲み込む。
実際本当によくわからない流れであぁなったしな…。
「明日は帰りがいつもより遅くなるから」
「わかった」
母との会話を終らせた俺は、明日の支度をするべく自分の部屋に行こうと母から背を向け、リビングをでようとする。
……一瞬。ほんの一瞬だけ、母親の方を振り返った。
そこにはやけに安心そうに胸を撫で下ろす母がいた。

ーーーーーーーーーー

光が水に反射されキレイな模様になっていて、肌には冷たい心地よい水の感触と冷たさが伝わる。
目の前には水着姿の青いゴーグルをおでこにひっかけた祖岩君がいる。
「ほら、もっと早く腕を動かさないと」
「う、うん…」
「…大丈夫?」
「まぁ…あまり慣れてなくて」
正直あまり泳いでこなかったから…全く泳げないわけではないけど、不得意なんだよな…。
かなり長い時間休憩もなしに教えてもらってるし…。
申し訳無さが俺の心にすこし芽生えていた。
「でも、だいぶよくなったね」
「!ほ、ほんと?」
「うん」
心地い評価の声が、俺の耳に優しく届く。
やった…すこし上達できたみたい。
「…僕さ」
「?」
「タイムをよくしたいんだよね」
「あっそうなの?」
「うん」
「そっかぁ…俺、応援するよ」
応援の意をとりあえず伝える。
そっかぁ、成績いいもんなぁ。
こだわってるのか…タイムとかも。
……けど。
祖岩君の目を見てみる。
…その瞳は熱意に溢れてるわけでもなにもない。
物静かで、すこしだけ寂しそう。
どうしたんだろ…。
「そこでさ」
祖岩君と俺の目線が交わる。
あっこの予感は間違いない…。
これは…。
「やる気だしたいから、賭け事しない?」
…予想が的中したみたい…。
必ず突拍子もないことや無茶ぶりみたいなものをするときは、必ず視線が交わる。
なんか一緒に過ごす時間が増えてくると、こんなこともわかるようになるのか…。
ある意味マイペースだなぁ…嫌ではないけど…。
「あそこの大きな時計があるでしょ?今から三回、クロールをする。タイムを更新できたら…明日は一日僕と一緒にいてくれない?」
「えっと…」
なにその賭け事…それでいいのかな?
そんなことをおもいつつも、そんなことをきいても「それでいい」と言われる未来が来るのをわかっていたため、なにも言わないでうなずいた。
「いいよ」
祖岩君の余裕があるいつもの涼しげな表情から、一瞬熱意のある視線に変わる。
俺はプールからでて、時計と祖岩君が見えやすいところに移動する。
「じゃああそこの時計みて、時間計測しておくから。正確には計れないかもだけど…」
「ざっとでいい」
「わかった。それじゃあ…」
すぅ、と息を吸い込む。 
「ースタート!」
俺の声と共に祖岩君が水に沈みこむ音がした。

ーーーーーーーーーー

「すごい…体力…だね」
「まぁね」
プールの水からでた祖岩君はあまりバテていないみたい。
…あれから数分経過した。
祖岩君はたった一回で記録更新をした。
それだけじゃなく、記録を更新し目標を達成した上で、さらに続けて二回やり記録更新し続けた。
「やる気がでたんだ。いつもより」
「………」
脳裏に数々の疑問が浮き上がってくるけど、俺は全て取っ払い無視する。
聞いても無駄なことはわかってる。
「んで、ね?清水君?」
やけに笑顔でこちらをみてくる。
あぁ…うん…。
「…わかってるよ」
ー明日は長い一日になりそう…。
俺は心のなかでそうおもった。










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