雨空のひまわり

麗央

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合コンは引き立て役要員

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「ねぇねぇ、今週勤怠の締日じゃないですか?由佳さん、経費精算のチェック今月も大量ですよぉ。可哀想。」

後輩の絵梨子が、大量に出てきている精算書のデータを見て笑いながらこちらを向く。

「うわっ本当だ。残業確定じゃん。とりあえずランチ行かない?」

一旦頭をリセットし、現実逃避という名のランチへ向かう。
毎月の恒例行事なので、やるしかない。
特に夢もなく、やりたいこともなく、就活ではとにかく大手で安定して働けたら良い。なんて漠然とした理由で入社したこの会社。
気がつけば今年で29歳彼氏なし。実家暮らし。
特に焦ってない自分に危機感を覚え始めた。

ブスってほどではないけど可愛くはない。
ネイルとか、ヘアスタイルもこだわりはないけど、手を抜いてもない。
全てがそこそこの私。

「そういえば、由佳さん!金曜日ヒマですか?合コンあるんですけど、また参加してくれませんか??営業部と情報システム部の花の3人となんです!!逃せない!向こうが1人追加になって、こっちも1人呼ばなきゃで!」

「えー。またぁ?合コン好きだねぇ。今度は誰狙いなの?」

「もちろん営業部の高田さん!高田さんと付き合えたら、もう合コン行かない!」

「それ何回目?この前の弁護士さんたちの時も言ってたけど?引き立て役してる時、心臓抉れるくらい冷たい視線に耐えてるんだから本当に感謝して欲しいわ。」

「ありがとうございます!!愛してます!由佳様ぁ!」

「はいはい。お礼はいいから、今度ステーキ定食奢ってねー。」



合コンは正直苦手。
大人数で会話をしていると、全員の顔色を窺ってしまう。この人は、今どう思ったのか。楽しめているのか。嫌な思いをしていないか。
そんな事を常に考えてしまう為、終わる頃には疲労困憊。

今回は、会社の女子界隈では知らない人がいない程のイケメン3人
営業の高田さんは、32歳という若さで課長へ就任。仕事が出来ることはもちろん、営業事務への配慮も欠かさない人。

同じく、営業部の黒崎さん。30歳で重要なプロジェクトリーダー。とにかく明るくて、黒崎さんがいる場所は笑い声が絶えない。

そして、情報システム部の坂口。私の同期で、基本外面はいいけど、何考えてるのかわからない謎な人。

このメンバーの来る合コンとは、、
社内で呼びかけたら0.5秒で人員確保できると思うけど、私でいいのかな?

ま、絵梨子の引き立て役だしね。
大人しくしてよう。

前回は社外だったから、痛いぶりっ子キャラでどうとでもなったけど、今回は社内。
今後のことも考えて、あまりに印象がついてしまう事は避けたい。
しかも、1人は同期。今回は難易度が高い。ステーキ定食だけでは割に合わない。






合コン当日



定時で上がらなければならないのに、経費の修正箇所を営業部へ指摘しに行かなければならなくなった。

1番嫌な仕事。

舌打ちされたり、怒鳴られたり
営業と経理の埋まらない溝を更に深くする行為。

営業部のフロアについて、深呼吸をした。


「はぁーーーーーーーーー。



 経理の佐々木です。近藤さんいらっしゃいますか?」


全員の視線がこちらに集まる

消えたい。

「はい。近藤ですが。なんですか?」

明らかに怪訝そうな表情を浮かべる相手に、恐る恐る資料を見せる。

「あの、、こちらの接待交際費ですが、接待交際費は一度にランチは税別5,000円までと決まっていますので、560円オーバーしています。訂正印をお願いします。」

「あのさー。誰のおかげで給料もらえてると思ってんの?お前ら稼げない部署のくせに、人の粗探しばっかしてんじゃねーよ。こっちは忙しいんだよ!お前らみたいに、座ってカタカタしてたら給料貰えるわけじゃねーんだよこっちは。」

言われている内容よりも、皆んなに聞こえるような大きな声をやめて欲しい。
やめて。注目されたくない!!!!
みないで!!!!!

「すみません。ですが、規則ですので。通せません。お願いします。」

心のこもっていない謝罪と、事務的なやりとりをしてみるが、相手はなかなか引き下がらない。

「佐々木さんさぁ、人に頼む時はもっと丁寧にお願いしなきゃ。愛嬌って大事だと思うよ。女の子は。」

言わせておけば。訂正印を押せば終わる事を長々と周囲の視線を集めるように文句を言うこの人間を、脳内で3回蹴り飛ばした。
今日は残業ができないというのに、飛んだ厄日だ。

「近藤さん。そんなことでゴネてないで、早くして下さい。会議中じゃないですか!さては、、わざとサボって、、」
「そんなわけないだろ!て、なんでお前が勝手に訂正印押してんだよ!」
「だって、困ってるから。この人すごい顔してたから、近藤さん多分頭の中で5回くらい殺されてましたよ。」
「こわっ、やめよ。、、、っほら、悪かった。」

「いえ!ハンコさえいただければ!ありがとうございました。」

近藤さんの後ろから黒崎さんが出てきて、嵐のように近藤さんから訂正印を奪い、押印して去っていった。
おかげで助かった。これは確かにモテるの納得だな。
そんな呑気な事を考えながら、戻った私のデスクは、勤怠資料の山でキーボードさえ見えない。

定時まであと4時間。
頑張ろう。



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