上 下
54 / 98

54話

しおりを挟む
俺は劉備たちに挨拶を交わしてから事情を説明することにした。劉備はすぐに受け入れてくれたのだがすぐに行動を移すことはできなかった。その理由というのが現在この劉備軍に物資や兵があまり揃っていないことが原因となっていた。それを聞いていた曹操はすぐさま自分の所の兵の一部を援助すると約束していた。俺もそれに関してはありがたく思う。これで戦えるだけの用意を整えることができるかもしれないから。
劉備たちとは一度別れた後に俺達は移動を開始した。目指す先は徐州の中でも最西端に存在する陳宮の領地へと到着したのであった。そこは徐州の中で曹操の領土に近い位置にあるがそのせいもあってなかなかに強固な要塞を築いているような印象を受けるのである。
俺達はとりあえず陳珪を訪ねることを決めていてそれから話を始めたのだ。
するとそこで驚くべき話を聞いたのである。なんでもここにも黄巾賊がいるらしくそれがいつ来るかも不明な状態のため今の状態で戦うべきではないと判断して降伏することを考えているらしいということだった。しかもそこに追い打ちをかけるように、太守が病気で倒れてしまったため今は代理が代わりに行っているのだという情報を手に入れたのだ。それを聞き俺としてもこのまま何もしないということはありえないと思った。なので劉備に相談することに決めて彼の元に使いを出すことを決めた。もちろんそれは呂布のところにもだ。俺は曹操に協力してもらうために手紙を書くとすぐに曹操宛の手紙と関羽の兄への手紙を書いた。
それから呂布には援軍を送るから頑張ってくれと言う内容の書状を書いてそれぞれ使者を送って届けてもらうことに決めたのである。俺達が動くことによってもしかしたら事態が良い方向に向かう可能性も考えることができたのだ。それから徐州での戦況について聞くことにした。まず現在の劉備たちの状況を確認していった。その中で曹操に助けを求めたことを後悔したことがあったようだ。
なんとそこで曹操軍は漢全土の民を巻き込んだ乱が起こるのを止めようとせずに見捨てようとしているというのを聞いてしまったのだ。劉備はその言葉を信じてしまうことになる。そのことはおそらく袁紹陣営の人間が言っていたことなのだろうと考えられる。袁紹との繋がりもあるということが簡単に推測できるからである。つまりあの男はかなり頭が回る人間だということだと俺は判断することにした。そんな人間を敵に回すとなると相当苦戦を強いられることになる可能性があることも覚悟しておくべきことであるとも思った。
ただここでもう一つ気になることがあって、実は劉備の方には袁術からの誘いがあったのだがそれも断り、さらには袁紹との縁談まで破って呂布の元へ行ったということである。夏侯淵の言葉によると劉備にはそれなりの理由がありそうな雰囲気を感じられたと言っていたが果たしてそうなのだろうかと疑い始める。
だが今の状況下では何一つわかることがないのでこれ以上深く考えることを止めた。だが一つはっきりしたのは呂布の元に行かなければもしかすれば違った結果になっていたかもしれないということだけである。だからもしもを考えてみるものの、もう遅いということを理解しているだけにどうしようもないことだった。
曹操の決断では、どうにもできない。
とにかく俺達が出来る事をするしかないと結論づけるよりなかった。だがここで大きな問題が発生してしまうことになった。なんとその陳珪が殺されかけたと聞いてきたからだ。その時その場にいた呂布と高順のお陰で間一髪のところで助かったようである。ただ、それでもかなりの重傷であることに変わりはなかったのだが。
だが、俺は救いたいと思い魔法を使う決意をする
「『傷つきかの者に癒しの施しを』キュア」俺の詠唱によって光の粒が現れて劉備の元へと向かいそのまま彼に当たるとまるで光そのものが消えていくかのようにその部分が治っていったのである。
それを見た劉備も他の者達も驚愕に満ちた表情を浮かべていたがその中でも一番驚いているのはやはり当人の劉備だったようで呆然としたまま呟いていた。
そして劉備は改めて陳宮を助けることを宣言することになり、この城の防衛を引き受けることとなった。ただし兵力は多くないことから俺達が一緒に行動することになっている。またこの時陳珪からは黄巾の軍のことについて聞こうと思っていたが怪我の治療を優先してもらったこともあって時間がなくなってしまった。
だからその日の夜からさっそく情報収集を開始することにした。まずは城の守りを固めるようにしてから俺が魔法の明かりを作りだしそれを先頭にして移動を開始していった。
俺達の部隊は二百名程とそこまで大きな規模ではないため、俺と李典の部隊が中心となっているのが現状である。
そこでまずは劉備たちと合流してそれから話をしてみることにしたのだ。劉備たちと一緒に移動すると途中で趙雲と合流することに成功した。彼は今や呂布軍で将軍としての立場を得ていた。そのためかなり強敵として警戒しなければならなくなるほどの強さを手にしてしまったと言ってもいい。趙雲は俺を見つけると話しかけてきた。
「お久しぶりです。徐栄さん。あなたの噂はよく耳にしますよ?」
俺はその名前を聞いた時眉をしかめることになった。なぜならそれほどまでに有名な名前になってしまったことを悟ったためである。趙雲はニヤリとした笑みを見せてから俺に声をかけると俺の後ろにいる部下たちに視線を移していた。そこには以前俺が勧誘した面々がいるわけである。
「へぇ~こんな優秀な人材がいたんですね。これならば確かに董卓殿や李儒氏たちが目をつけるのは納得ですね」
「いや・・・それよりも何故お前のような人間がそんな噂になっているのかのほうが問題だぞ?一体どんな悪どい手を使ったんだよ」
その質問に対して趙雲はすぐに首を横に振って否定していた。なんでも彼が黄巾賊と戦った時に一人で数十もの敵を屠ったことがあったらしくそれで名前が知られてしまったということだった。しかもその中には当然のように華雄も含まれていたのである。
それを聞くと、ますますこいつが敵に回った場合の危険性を考えなくてはならなかったと思うしかなかった。それに他にも俺が声をかけた者が数多くいて今ではそれなりに強い武将に育ったということを知ることができていると聞いたのであった。これは非常にありがたく思うことであると確信することができた。これからの徐州との戦いに向けてこれほど強力な味方がいることは頼もしいとしか言いようがないくらいであり素直に感謝したいと心の底から思っている。だがそれだけではないと言うことを彼らは語っていたのである。なんと徐州では曹操の軍が救援に向かい徐州を守るべく戦う予定だと言っているのを聞いて驚きを隠すことはできなかった。まさか曹操が劉備を助けようとするとは思ってもいなかったのだ。
さらに詳しく話を聞いてみると、呂布軍と劉備軍が共同で戦わないかと曹操に持ち掛けられたらしい。これには流石の俺も絶句せざるを得なかったがそれは仕方ないことであろう。それこそ劉備に何の利益があるというのだ。曹操にしても袁紹との争いが激化してくる中わざわざ劉備に協力することなどあり得ないだろうとまで考えてしまうほどである。もし協力を要請されて劉備が受け入れた場合呂布との同盟という形にでもするつもりなのだということがわかる。ただ、それを受け入れてもらえない可能性が高いだろうことも容易に予測がつくことだった。
つまり曹操としてはあくまでも呂布を誘い出してそこで仕留めることこそが本命だと俺は考えているが果たしてどうなることやらと思っているところでもある。だがこの機会を逃すと次にまたこのようなチャンスが巡ってくる保証はない以上なんとしてもここで決着をつけたかったのが実情なのかもしれなかった。だがその思惑すらも呂布には通用することはないように思われた。ただでさえ戦力が乏しい劉備軍だけで曹操の軍と戦って勝てるはずもない上に下手すれば全滅することになってしまう危険性もあることを考えればいかに呂布とはいえ共闘するのは悪くないと思えるところもある。そう言ったことを色々と考慮した結果俺達は一旦合流した後に作戦を立て直すということで話しを終えることにしたのである。それからしばらく移動をすると城の前に布陣する曹操軍が見えてきてそこで劉備たちは合流するとそのまま話し合いを開始したのであった。もちろんその場に立ち会うことが許される立場にいた俺はその様子を静かに観察することにしたのだった。
劉備たちもいきなりやってきた俺達に困惑気味ではあったが一応説明をしておくことにする。俺の口からではなく高順や関羽達からの伝令という形で劉備たちに伝えていくのである。その内容は黄巾の乱の後処理のために呂布が動き出したためこちらにもその情報が流れてきているためにこうしてやってきましたというものであるが実際はもっと複雑なことになっているのは間違いがなかったりする。まず、ここに俺が来ることになった経緯を説明するにあたって最初に劉備が助けたことを説明していなければならなく、さらには今回の目的が陳珪であることを伝えてある必要があったのである。その上で陳珪が殺されかけていたところを偶然通りかかったことで劉備たちと行動を共にすることとなったと説明した上で劉備に協力を求める形にしたのだった。それについては劉備と趙雲も異論はなかったようだ。しかし問題は誰が俺が言ってきたことに信憑性を持たせるかということだ。俺の言葉ではそれほど説得力を持つことができないというのが俺自身の考えだったため、ここはやはり信頼度の高い人を使う必要があると考えていた。その結果白羽の矢が立ったのは意外な人物だったのである。それが夏侯淵だった。彼は弓の名手でその武勇も相当なもので知られていた。
そこでまずはこの場で弓による狙撃を行い的を外した場合に限りそれを口実に信用させることにした。ちなみに李典にはあらかじめ魔法を発動させてもらっているのでまず成功する確率は高くなっていると言えるだろう。そのため俺の役目はその成功率を上げつつ失敗した時に劉備たちを守るために張遼と馬超の部隊に待機してもらうことになるわけである。後は俺が合図をして成功させればいいだけであるがそんな単純な話でもないところが少し厄介だと思うのだった。
ただ、ここで失敗するということは万が一俺達が負けた場合に劉備の命がないということを暗示しているわけである。だからこそ気合を入れて行うべきなのである。そんなわけで始まったこのくだらない遊戯だったがあっさりとその勝敗を決めることに成功した。李典の目から見てほぼ100%成功することがわかっていたらしい。だがそれもそのはずである。実は先ほど使用した魔法に仕掛けを施しており命中率を上げることに成功していたからだ。そのおかげでほとんど狙いを外すことなく目標を撃ちぬくことに成功している。
その証拠に大声を出して驚いている劉備の顔を見て成功したことを実感しながら内心ホッとしていた。いくら黄巾賊との戦いにおいて劉備の活躍を知っていると言っても、実際に戦場に出ていない者が信じる可能性が低いからである。むしろあの場にいなかった者から見れば俺は嘘つきとして見られている可能性があるだけに、こうでもしないと協力を取り付けることはできないだろうとも思ったのだが予想以上に簡単にいったのには素直に嬉しく思うものである。だがここからが正念場だと感じながら目の前の陳登をどう説得しようかと悩むこととなったのであった。陳宮さんからの手紙が届き、そこには呂布軍が徐州に攻め入る準備を整えていることが記されていた。おそらくではあるがこの戦いが徐州の歴史を大きく変えることになることは確実であると思われると同時に大きな波乱が起こるのではないかと感じざるを得ない内容が書かれている。呂布という武将がどのような戦いを行うのか興味深くもあった。それと共にその対策を考えるべきだとも考えたのだがそれは呂布と戦う前に考えるべきことであると考えを改める。今は少しでも兵力を集めておくべきであり曹操軍を誘引し、その戦力を利用する他なかった。その為にも呂布に負けるようなことがあってはならない。そこで呂布に勝つために劉備軍と共同戦線を組むことを決めたのだ。
そして俺達は兵を集め曹操軍に備えるための準備を行っているところである。流石というべきか集められた兵の数は二万人近くまで膨れあがっている上に食料や水の確保、武具などあらゆるものが揃っていた。さらに言えば武器についても徐州軍の予備を貸してもらえることになりなんとかなりそうである。これほどまでの兵を用意した劉備たちの力を借りることができたのは本当に助かったと言うしかない。さてそうなると今度はどのくらいで曹操軍が攻めてくるのだろうかと言うのを気にしていたところで高順からの報告が入ったのである。なんでもすでにこの近辺に近づきつつあるとの事で曹操軍の動きは非常に早いものだったと俺は考えていた。そう考えていると高順の案内によって一人の人物が現れる。そう曹操その人である。しかも何故か袁紹の姿もある。正直なぜここに袁紹がいるのか全くわからないのだが何かしら理由があるということだけはわかった。
「お初にお目にかかります。私は徐州の太守をしている者です。劉備殿ですね」
いきなりのことで困惑する劉備に代わって俺は前に出ると丁寧に頭を下げ挨拶を行った。劉備と曹操の関係を良好にするにしても俺が出ていけばそれで充分であるはずだ。そもそも劉備は名家の出であるとは言っても下賤の出身ということであまり良い印象を持ってくれるかどうかは分からない。下手をすれば俺達の陣営に入るようにと言われるかもしれないのだから下手なことを言うよりこちらに任せてもらった方が都合が良いのである。それに今回ここに来たことに対して劉備が責任を感じる必要はないと思っている。今回の目的は劉備ではなく呂布の方にあるとしか言えない状況である以上、俺としては劉備が責任を負うことはないと思うのだ。ただそれでも劉備が納得しない可能性もあると思っていたところで劉備はあっさりと受け入れてくれただけでなく俺のことを歓迎してくれたのである。これなら上手くいくだろうと安心できたが問題はまだ残っていた。
もちろんそれは呂布のことである。まずはどうしてこの場所に現れたのか説明する必要があるだろう。だがそれを聞く前に先に動いたのは意外と早かったのである。
呂布の率いる本隊がこの徐州城へ向かって進軍を始めたという報告を受け俺達はすぐに行動を起こすことにした。まずは張遼と李典が呂布軍に攻撃を仕掛けることで時間を稼ぐことになったのである。しかしそれを邪魔するものが現れた。袁術軍と鮑信の軍による妨害を受けたのだ。
とはいえこちらは二万もいる大軍で数的にも優勢ではあるのでそのまま押し通ることも不可能ではなかったのだが俺の考えではそれをするのはあまりにも悪手だった。まず間違いなくその策は失敗するのが目に見えているからである。ここで焦って強引に突破を試みた場合、俺達が敗北した時に追撃をかけられればひとたまりもない。俺達には劉備の援軍がいるが敵には曹操の配下がいることを考えた場合はどちらの方が脅威であるかはわかりきったことだったからだ。そこで李典と相談したところ少数精鋭部隊を編成し、敵の陣中へと侵入することで張遼たちに気付かせることを優先した。これはあくまで陽動であることをはっきりさせておきたかったからだ。そこで曹操軍に混乱をもたらしておく必要があったのだが、やはりと言うべきか曹操の軍は強かったようで簡単に撃退することになってしまった。
これには李典も舌打ちしていたが、この程度であれば俺が出る幕はないと判断し、張遼と合流させることを優先する。だがこの直後異変が起きた。突如現れた賊に呂布たちが襲われているという報告が舞い込んできたのだ。そしてそれを助けた者が何とも驚くべき相手だったわけである。まさかの人物がその場にいるとは思わず俺は唖然としたが、そんな暇がないことを思い出すとその人物に向かって話しかけたのである。そんな風に話し掛けてはいるものの内心俺は目の前にいる少女が何故こんなところにいるのか疑問でしかなかったが。
だがそのおかげで劉備たちと話す機会を得ることにも成功していた。そんな劉備たちは俺達に加勢して一緒に戦うべきだという意見だったが当然却下しておく。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

モブの強姦って誰得ですか?

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:798

グッバイ、親愛なる愚か者。

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

スコウキャッタ・ターミナル

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

隠れた花

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

乳白色のランチ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:6

甘い寄り道

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:23

五十の手習い

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

あなたの落とした指輪はどっち?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:56

処理中です...