歴史の裏側の人達

みなと劉

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46話

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と俺は正直に答えた。

【フォーク】
……
西洋にはこれは残っているが、箸は俗に言う大衆芸能なんかから生まれた食器だしなぁ
そりゃもう使われなくなってるであろうさ? それをここ西洋にも実はスプーンなんかであっさりと簡単に来ているとなれば仕方あるまいよ わざわざ箸を使う意味がないだろうしねぇ。
「……箸か」
「それなら私はいつものようにこれで食べてしまおう。君はそれを使えばいい」と 彼は懐からナイフを出して肉じゃがを器用にナイフで切りながら食べていた。
(なるほどナイフとフォークね……でもなこいつは肉じゃがだから使うわけで……西洋人が箸を使う事は意地になってもおかしくはない)
彼はそれを随分と満足げに食べ、それを見て俺はすこし不思議な気分になる
(まあそれでも一応……自分が主君と認めた伊藤さんには強く出れるよな。だってこいつはそこまで誇れる名を出すほどの立場の人ってことなんだろうし?)
「そうかね。遠慮せずに使えばいいと思うが」
と肉を食べながら俺を見てくる男……伊藤忠文はたんたんと食べる。
伊藤忠文との会合が終わり
宿場の部屋で休んでいると
1人の来客人が来た。
「松本殿はお部屋に居ますか?」
「はい、居ますよ」
「入りますが」
「はい構いません」
戸が開き一人の男がやってくる。
彼の服は軍服姿で彼もまた日本人
しいてはこの世界の日本人達なのだろうと確信はついた。
その男は俺の事を見つけると懐から何か袋を出し俺に渡した。
(どうも?)
中身を除くとそれはなんと『銭』だった。
(金?)
(いやこれ金だよな金だよな?え?なにこれは金ってこと?)
(俺は今金持ちになったの?いや待てこれは……まあ確かに金だけどさ?いやだって……俺ってまだ必死こいて働いてるだけの人のはず)
「あのこれは」
「本日の伊藤忠文様の会合にお越しいただいた方への給金を支払うようにと仰せつかりまして」
(あ、そういうこと……なら受け取るか)
「ふむ……では有り難く……」
この時代の人にとってはこれはありがたすぎるものだろう。
俺は衣服の紐を解くとその場にくつろぎ始める。
それを見てから軍服の彼は頭を下げ一礼をして部屋を出ていくのであった。
(まあそれは【人として筋を通しておこう】か)
(今は多分これは宿場だが明日くらいには小屋かなんかを建てるか)
俺はベットに入り天井を眺め目を閉じこの明治の世界へとやってきてどれほどの時を過去で生きたんだろうと考えるのであった。
(これまでの平和な生活を送れたのは最大の救いなのかもしれない……あの【草壁昌高】君は泣いていたしね……)
最後の時の事を思い出すと自分でもひどいもんだと思ったが。
(次は皇海山戦で俺には何が出来るだろうか……?しかし……俺は)
『まだ俺は生きてていいのだろうか……』
この明治の世でも俺はこの松本良順という名をもらい、そして生きていくのだ。
俺はもう【明治10年代】から数えて【21年と8カ月】は生きている。
正確に言えば
1度未来に戻りその時代にその年に戻るというものである。
【明治31年】
この年になると世間は【高度成長期】という状態となるのだが
こっちの世界ではさてどうなるのだろうか?
いつものように仕事をこなしていると1報の伝達がくる。
『旧海軍の横須賀海軍航空基地が壊滅状態と判定。のちの4月の時点で横須賀の街は無政府状態となる』
という事だったので、これから来年にかけてどんどん状況が進行してゆくであろう。
そしてそれは日本が深刻な状態に陥り始めたという事でもある。
《日本が欧米に追いつかれ追い抜かれて 日本は『世界から取り残された』》
この連絡に俺も驚き、そしてこれからどう動いて行くかを考える。
「松本さん」
(……)
その俺の後ろから声がして 振り返ると1人の女性がそこにいた。
「ん?ああ、お千代さん。」
(ああもうそんな時期かぁ)
この女性は俺がここで生活しているときに知り合った女性で、この辺では珍しくも着物に髪を束ねた女性だった。
彼女の名前は【お千代】という。
「あまり何かに集中するのもいいですけど……あらまたどこかへ向かうんですか?」
お千代は松本さんと共に暮らした金丸と共に春野をしていた所為か松本良順を『先生』と呼んでいた。
「はい、今度は大阪まで行ってきますね」
大阪に俺の知る人物がいる。
1人は【西郷隆盛】その人だ。
(まあこの人は……もうこの時代には居ないから会うのは不可能だけどなあ……)
と彼は思ったのだが。
しかし西郷隆盛という人間がいるだけでそれはとても重要な事なのである。
歴史が変わるということであるからだ。
一応大阪へは行ってみることにする。
『関わった人間は何人かで助け出した方がいいだろう。』
と松本は頭の中で考えた。
「つまり商売を始めるためにまた人と会える場所へ……」
「そういうことだ」
……という所迄は彼女も知っている。しかし俺に加賀藩士というものが入っていることは彼女は知らないのである。
「鶴見さんと桂先生とやらがお詳しいようですね?」
「そうだねえ……どっちも藩から出て来たらしいが」
(ん?桂って誰だ……え?……もしや)
松本はこの下関の海の家の支払いを済ませると西郷のいる(確定では無い)大阪へと向かう。
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