歴史の裏側の人達

みなと劉

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45話

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俺は漠然とし過ぎた予想なんで言っていいことかと悩んだのだが。
「あの写真と同じ、絶対にあれは間違った事じゃない!この世界はもう……終わるんだ。」
いや彼は……俺が知っている松平君が言うのではななく
【俺の世界の松本殿】が言ったその言葉と口調を今……
俺は聞いているのだ 。
【平行世界】。
それは、もしもの、可能性の世界。
俺が知らない
【別の時間軸】に存在する世界があるとしたら?
それは俺が【新世界・新時代】を生きていることなど意味を持たないことで ……人はその間をそれこそ確かに夢を見ながらも過ごしているだけの事であろう。
そこには電気もあるかもしれないし、もしかしたら【蒸気機関】なんかもあるかもしれない それはとても便利で、 そして今ある時代よりずっとずっと進んだ世界だ……と思う。
しかしそれでも俺はこう思うのだ。
そんな世界を俺は知らない。
俺は この世界を知っている。この世界しか知らないし、この世界に生きる人間だから。
俺の世界では
【明治】は【大正】となりそして【昭和】が始まる。
だが
いまのこの【世界】は【明治】の後はよく分からない状態だ。
可能性としては別の道を歩む形となるのだろうと俺は思った。
どこかで世界線が崩れれば
それは違う方向へと向かうのだ。しかしそれがいつになるかなど俺には知るよしもないんだ!
だってそれは【今】かもしれないのかもしれないし
もしくは
【100年後】かもしれないんだ!
でも俺は
『その世界を知っている俺だから』
今この俺の周りがどれだけの【異変】を内包していて。そしてそれが今どんな風になっているのか、という事は多少なりとも理解だけは出来ていた。
(だからこそ 松平君をここで見つけて話を聞けたのがよかったのかもしれないが)
松平清彦という男。
彼は
【平行世界の彼】
なのだろうか?
それとも俺の知ってる
未来から松平清彦の名前を貰った俺の知ってる松平清彦なのだろうか?
それは定かでは無いが
彼は何かを知ってるのかもしれない。
「あの……松本殿」
「ん?なに……松平君」
「も、もう一度だけその……唇に……その」
「あー、はいはい……(やっぱこいつ俺の知ってる物欲しそうする松平君だわ)……っ……ちょ……」
俺が唇を合わせようとしたら頬を彼が掴み口づける。
「ん……んんぅ(舌は入れるなよ)」
口を離すと銀の糸が出る。
「松平君!!君ね……っ!!」
笑顔で舌を出す彼に
「もう……知らね」
と俺は俯き
「俺はもう行くな」
「分かった!お互い道は違えど成し遂げることは同じと信じてるよ」
と彼は最後まで俺を信用して言って俺と彼が生きる事はここで終わりなんだ。
そして彼は最後に言った。
「君のいる【この世界は……いや、僕のいる【この世界】が終るまで絶対に諦めないでいてくれ。」
俺は彼のその言葉でやっと 【俺の世界】の【松平君】に出会ったんだと確信したんだ。
ある日の午後
この大日本帝国にて【政治】というものを大臣として【任命】された。
【伊藤忠文】から食事の会合へ誘われた。
この人は俺の知ってる【日本(大日本帝国)】で言う所の【伊藤博文】のことだと思う。
彼は
「実は数日前になエンゲレス(この世界でのイギリス(イングランド王国の事)という国へ遠征に行って向こうの文化交流をしてきてな……そこで出された食事が上手いのなんの」
(これはビーフシチューとかかな?)
「それは料理人に作らせているのだよ」
(あ、これ今じゃ家庭料理の『肉じゃが』かな)
と 。
(また一つの方法を広げた……という事なんだろうなあ)
(皮肉だねえ全く!)
「君の商売の方もやはり色々な人が来てくれるんだよ」
(匂いには少し鈍い方がこの時代の時代は生きやすいってことはどの世界でも言える事だが……今を生きるこの男は天然道りに食肉加工業に勤め、そして昼飯を取っている。不思議なもんだよな)
【箸】というものを使い黙々と食べる男を見て俺はそう思うのであった。
「それでな、この【ビーフシチュー】をぜひ堪能してくれ」
(え?肉じゃがじゃない!?それにこの匂いはビーフシチュー!!?)
テーブルにはビーフシチューとスプーンにナイフとフォークまで用意されている。
「これはな向こうの文化交流で習った食器でな【スプーン】【ナイフ】【フォーク】という物だ。こちらの文化とは違い向こうでは【箸】で食べるという文化は無いそうで……豪に入れば郷に従えというではないか……だから向こうの文化を取り入れてみたのだ」
(こいつ何者だ?)
「商談だけでは話し足りないものがあったし、頭の切れる君を昼食に招いてみたくてね。それに……」
「この肉じゃがとな……この箸というものはとても便利なのだ」
そう言って彼は俺の目の前で箸を使い料理を食べる。
俺はそれを見て少し笑ってしまった。
しかし、この男には少し感心もするのだが。
──
この明治の世で箸を使うという事は、つまりは【フォークを使わない】という意思表示だ。
「君は箸という物は好きかね松本君?」
「箸でございますか?昔から扱っている食器ではありますがあまり好きでは無いです……苦手な方ですね」
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