歴史の裏側の人達

みなと劉

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44話

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それはそれは気持ちよさそうにな!
いやまあ俺も人の事を偉そうに言えやしないんだけどさ!
でも俺は『今この松蔭寺』の光景をみて何故だか顔が綻んでしまっていたんだ。
(まさかこの世界に自分がいてもなんとも思わなくなってきただなんて、まるで『脚本』を読む事を楽しんでいるようだな……)
と自分に苦笑いをせざるを得なくなっていた そして俺がその人物に近づいて行ってもうんともすんともしない。しかし
「あれっ、あなたは……」
と俺の顔を見るなり飛び起きたんだ!
いやその驚き方とかまるで俺と同じじゃないか。
俺はこの男が誰なのかをすぐに悟ってしまった
そして彼は
「き、君は誰だ。びっくりしたぞ……ここへはあまり人は普段は来ないものだから」
「それは済まない。俺は松本良順」
「そうか。僕は松平清彦という」
【松平清彦】についての歴史。
主人公時代の彼の事はよく聞くぞ?
あれだ『トンネル』だの『ミニエー銃』の開発の為に有名になる人物だ。
もしここで松蔭寺の場所を聞きたかったら彼がとても親切に色々なこと
(構造の事や歴史、文化等々)
を話してくれた筈だ。
しかし松下村塾やザビエルの事を質問したりすると拳骨とかなんだかんだとかと急に怒り始めるため特に女性にはあまり好かれていないかわいそうなヤツである。
でもその歴史は確か
──
「松平君はどうしてここで寝ているんだい?」
俺がそんな事を気軽に聴いていた時、彼は顔を赤くして手をぱたぱたさせながら必死に否定した
「いや……そんな変態を見るような視線で僕を見るなよ!」
しまった!
顔に出てしまっていたか?
なんて思ったが特にそんな気配も態度も変だと感じるような場面が無かったことから
「本当に寝て居ただけか……」
俺は少し安堵して言った。しかし、松平は顔をさらに赤らめて
「い……いいい良いだろう別に。ここはとても落ち着く場所なんだ。そそそそそそれで……松本殿はどうしてここに」
「うん?……ここにこれば静かに色々と出来るし……それに【君】会えた」
その言葉で松平は一気に顔が真っ赤になる。
「え!?いや、ああああああのそそっそそそそそうですか……」
「君は何をやっているんですか?」
俺は少し冷たい口調で松平に投げた。
「つつつつまりここで僕は……住む」
なるほど……何を言ってるんだこの人は←(そうさせたのはお前の発言だ)
(俺はそんな他人の事で真剣になれるお前が好きそうだよホント)と
なんだかこの変態の将来が少し不安で心配になってきたんだ
──
そして松平清彦という人物は『変態である』という事も俺の【世界】ではそうであったから知っていたんだけど……。
しかし俺の【平行世界】での【松平清彦】は発明の【変態】。
そんな彼が俺に対して言う事は……
「松本殿には……その」
「僕には」
と俺と松平がほぼ同時に言葉を発し、また沈黙になった時──
「君はどうして……前の僕と同じ様なことを言うのか。僕の事をもう【変態】と呼ばなくなったし」
「ん?」
「あっ」
松平の言った言葉は俺の考えていた事と同じだった。
しかし俺はそれを悟られないように
「俺はもう松本良順としてここで生きる事にしたんだ。だから松平君、俺は君を【変態】だと思っていないけど」
「けど」
とさっ
「ちょっと!」
「こういう【意味では】【変態】だと思ってる」
切り株に俺は彼を押し倒す。
そして彼に口づける。
「…………っ……ん……は……」
口を離すと少しずれた眼鏡を直す松平君。
「そんな潤んだ眼で俺を見てもムダ」
まだ物欲しそうにしてる彼にそう言う。
「怖がらせるようで悪いんだが君は大正時代の生まれじゃないし、ここまで来た理由は君に会わなくてはいけない理由が俺にもあったからだ」
そして俺はこの人物にあった時に感じていた事。
(正直自分でも理由などとうに分かっているからあまり口にはしたくは無かったが、もうそんな説明に嘘をつく気力さえ俺は残されていないようだ)
『【世界】を救うにはまず自分を救うこと』
「俺は君と同じ世界から来ている人間だ。君と同じに」
「えっ?」
驚くのも当たり前か、 俺はもう既に松平君の知っている人間ではないし、ましてや俺の世界に彼は存在しない。
だから彼が今、目の前に俺がいるなんて事を信じられないのも無理はない でも、彼は言った
「僕は君の事は知らないが君の雰囲気や口調から感じるんだ……【君は僕の知らない人だ】……とね」
「ほう?」
俺は彼の言葉に少し驚いたが、まあその感覚も当たっていると言えば当たっているのかもしれないな
(俺は松平君に比べたら随分と立ち直るのが早かったと思うんだが……)
まあ人が他人に抱く最初の感情が恐怖と言ったあたり、彼が周りの評価で一体何をされたのかという事は一応理解はしていたつもりなのだが。
「すごいな俺の……俺と【松平君のいた時間】の差は1年とすこしだったと思うけど……そんなわずかな時間の間に君は俺の何をそう感じとったんだろうか?」
「君は僕の世界からきた人で僕とは違った生き方をした人。そうとしかいいようがないじゃないか……」
と彼は言った。
しかし俺はその言葉からは随分とつまらなさを感じたんだ。
(俺は『この松本良順という【人間】として生きる』なんて決めたけど)
彼は【松平君】として生きるつもりは、やはり無いんだろうなあ。
「僕はこの【世界】から消える」
「!?」
と松平君は言うんだ 。
「もう……この世界は終わる」
「どうしてそう思う?」
松平は俺に言ったのだ。
それは俺が
【俺の世界】の彼について知った時から思っていたこと。
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