ひだまりのFランク冒険者

みなと劉

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12話

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翌朝、リルドは窓辺で静かに光る七色苔を眺めながら、ゆっくりと支度を整えた。
ギルドに到着すると、相変わらず騒がしい掲示板の前で、彼は目立たない場所にある一枚の依頼札をそっと剥がした。
「今日は……これだ。『村に薬草を持っていく』。散歩がてら遠出するのにちょうどいいな」
リルドはその札を受付へと持っていく。
「おはよう、受付さん。今日はこの依頼を受けてくるよ」
「おはよう、リルドさん。行き先は『ソウマ岬のウテ村』ね。あそこは景色はいいけど、道中が少し長いから気をつけてね」
「うん、海の風を感じながらのんびり歩いてくるよ」
受付嬢に笑顔で見送られ、リルドは潮の香りが漂う方角へと歩き出した。
ソウマ岬へ続く道は、片側に切り立った崖、もう片側には深い森が広がる美しい街道だ。
リルドは途中で見つけた珍しい形の貝殻を拾ったり、崖に咲く力強い花を眺めたりしながら、自分のペースで進んでいく。
数時間後、岬の付け根にある「ウテ村」に到着した。
潮風にさらされた古い木の家々が並ぶ、静かな村だ。
「こんにちは。ギルドから依頼を受けたリルドです」
村の集会所を訪ねると、心配そうな顔をしていた村長が温かく迎えてくれた。
「おお、来てくれたか! 近頃、村で流行り病が出ていて、薬草が足りなくて困っておったんじゃ」
リルドは背負っていた籠から、丁寧に包んだ薬草を取り出した。
昨日自分が採取し、魔力を微かに通して鮮度を保っておいた特級品だ。
「これです。煎じて飲ませれば、明日には皆さん元気になるはずですよ」
「おお、なんと美しい薬草だ……。ありがとう、本当に助かった。これは村からの礼じゃ、海の幸を持っていってくれ」
リルドは村長から干した魚や珍しい乾物を受け取ると、「お大事に」と手を振って村を後にした。
夕暮れ時。
ソウマ岬の帰り道、潮騒に混じって激しい金属音が聞こえてきた。
リルドが岩陰から覗くと、そこではCランクの冒険者パーティーが、一体の巨大な魔獣「クリスタル・クラブ」と対峙していた。
硬い殻で覆われたその蟹は、並の剣では傷一つつかない。
冒険者たちは息を切らし、一人は盾を砕かれ、防戦一方の状態だった。
「くそっ! なんだってこんな街道沿いにこんな化け物が……!」
「攻撃が通じない! 魔法使い、まだか!」
絶体絶命の光景。
しかし、リルドは「あーあ。あんなところで暴れられたら、帰りの道が崩れちゃうよ」と、困ったように眉を下げた。
リルドは足元に落ちていた、ウテ村で拾った小さな貝殻を一つ、手に取った。
そして、冒険者たちが次の攻撃に備えて身を引いた一瞬の隙を突き、指先でその貝殻を弾いた。
シュンッ――。
貝殻は目にも止まらぬ速さで、クリスタル・クラブの厚い殻の継ぎ目、ほんの数ミリしかない隙間に吸い込まれるように命中した。
「カチッ」という乾いた音が響く。
ただそれだけだったが、魔獣の神経系は完璧に遮断され、巨大な蟹はまるで石像のようにその場で動かなくなった。
「……え?」
剣を構えていた冒険者たちが、何が起きたのか分からず硬直する。
リルドはその横を、気配を消したまま、のんびりと通り過ぎていった。
「さて、暗くなる前に帰って、村長からもらったお魚を焼こうかな」
夕闇が迫る中、リルドの影は長く伸び、静かな街道を街の方へと消えていった。
ギルドではまた「ソウマ岬の難敵が原因不明の突然死を遂げた」と騒ぎになるだろうが、彼にとっては夕飯のおかずのことの方が、ずっと重要だった。
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