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127話
ギルドで報酬を受け取り、帰ろうとした時のことだった。
ガシッと、背後から無作法に右腕を掴まれた。
「おい、リルド。ちょっと面貸せよ」
振り返ると、そこには先日、黒角熊の討伐依頼を前に足踏みをしていた中堅パーティのリーダーが立っていた。苦々しい顔をした男に引かれ、僕はギルドの裏手にある人けのない路地へと連れて行かれた。
「……何だい? 急に怖い顔をして」
「とぼけるな。お前、あの熊をどうやって倒した? Fランクの細腕で一人なんてあり得ねえ。……何か特別な、国に禁じられてるような呪道具でも隠し持ってんじゃねえのか?」
男の背後には、仲間の冒険者たちも数人、威圧するように立っている。彼らにとって、自分たちが逃げ出した獲物を、万年Fランクの僕が「まともに」仕留めてきたことが、よほどプライドに障ったらしい。
「あはは、そんな物なんて持っていないよ。ただ、急所を少し突いただけなんだ」
「嘘をつけ! 吐かねえなら、その身体を調べさせてもらうぜ」
男が下卑た笑みを浮かべて手を伸ばしてきた。
僕は溜息をついた。本当なら、穏やかなお散歩の続きを楽しみたかったのだけれど。
「(……少し、痛い思いをしないと分からないかな)」
男の指先が僕の肩に触れる直前、僕は「視野拡大」で彼の重心の乱れを捉えた。
願って何かを出す必要なんてない。僕はただ、相手の突進する力を利用して、その手首を軽く捻り、関節を極めた。
「ぐああああっ!?」
男が悲鳴を上げて膝を突く。仲間の二人が慌てて殴りかかってきたが、僕は最小限の動きでそれをかわし、それぞれの首筋にある急所を、指先で弾くように叩いた。
ドサッ、ドサッ。
二人は声を出す暇もなく、地面に崩れ落ちた。
僕は手首を掴んだままのリーダーを見下ろし、いつもより少しだけ、冷たい声を出す。
「僕は、ただ静かに暮らしたいだけなんだ。お散歩の邪魔をされるのは、あまり好きじゃない。……これに懲りたら、もう二度と僕に構わないでくれるかな?」
「あ、あう……わ、分かった……分かったから……!」
僕が手を離すと、男は這うようにして仲間を引きずり、逃げ去っていった。
僕は少しだけ乱れた袖口を整え、何事もなかったかのような顔で路地を出た。
ギルドに戻り、心配そうにこちらを見ていた受付さんに軽く手を振る。
「ただいま、受付さん。ちょっと落とし物を探しに行っていただけだよ」
「おかえりなさい、リルドさん。……あ、顔色が少し晴れやかですね?」
「あはは、いい運動になったからね。はい、完了報告」
報酬を懐にしまい、僕は夕暮れの街を歩き出した。
「さて、今夜は少しだけ疲れたから、温かいお茶でも淹れて、ゆっくりと静寂を楽しもうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、無礼な闖入者に少しだけお仕置きをしながら、再び穏やかに更けていく。
ガシッと、背後から無作法に右腕を掴まれた。
「おい、リルド。ちょっと面貸せよ」
振り返ると、そこには先日、黒角熊の討伐依頼を前に足踏みをしていた中堅パーティのリーダーが立っていた。苦々しい顔をした男に引かれ、僕はギルドの裏手にある人けのない路地へと連れて行かれた。
「……何だい? 急に怖い顔をして」
「とぼけるな。お前、あの熊をどうやって倒した? Fランクの細腕で一人なんてあり得ねえ。……何か特別な、国に禁じられてるような呪道具でも隠し持ってんじゃねえのか?」
男の背後には、仲間の冒険者たちも数人、威圧するように立っている。彼らにとって、自分たちが逃げ出した獲物を、万年Fランクの僕が「まともに」仕留めてきたことが、よほどプライドに障ったらしい。
「あはは、そんな物なんて持っていないよ。ただ、急所を少し突いただけなんだ」
「嘘をつけ! 吐かねえなら、その身体を調べさせてもらうぜ」
男が下卑た笑みを浮かべて手を伸ばしてきた。
僕は溜息をついた。本当なら、穏やかなお散歩の続きを楽しみたかったのだけれど。
「(……少し、痛い思いをしないと分からないかな)」
男の指先が僕の肩に触れる直前、僕は「視野拡大」で彼の重心の乱れを捉えた。
願って何かを出す必要なんてない。僕はただ、相手の突進する力を利用して、その手首を軽く捻り、関節を極めた。
「ぐああああっ!?」
男が悲鳴を上げて膝を突く。仲間の二人が慌てて殴りかかってきたが、僕は最小限の動きでそれをかわし、それぞれの首筋にある急所を、指先で弾くように叩いた。
ドサッ、ドサッ。
二人は声を出す暇もなく、地面に崩れ落ちた。
僕は手首を掴んだままのリーダーを見下ろし、いつもより少しだけ、冷たい声を出す。
「僕は、ただ静かに暮らしたいだけなんだ。お散歩の邪魔をされるのは、あまり好きじゃない。……これに懲りたら、もう二度と僕に構わないでくれるかな?」
「あ、あう……わ、分かった……分かったから……!」
僕が手を離すと、男は這うようにして仲間を引きずり、逃げ去っていった。
僕は少しだけ乱れた袖口を整え、何事もなかったかのような顔で路地を出た。
ギルドに戻り、心配そうにこちらを見ていた受付さんに軽く手を振る。
「ただいま、受付さん。ちょっと落とし物を探しに行っていただけだよ」
「おかえりなさい、リルドさん。……あ、顔色が少し晴れやかですね?」
「あはは、いい運動になったからね。はい、完了報告」
報酬を懐にしまい、僕は夕暮れの街を歩き出した。
「さて、今夜は少しだけ疲れたから、温かいお茶でも淹れて、ゆっくりと静寂を楽しもうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、無礼な闖入者に少しだけお仕置きをしながら、再び穏やかに更けていく。
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