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26話

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そして、その隣の方を見ると、ミリアの姿がある。どうやら今行っているのはミリアの試験のようだ。彼女が右手を前に出すとそこに白い光が宿った。
それを的へ向けて放つ。その攻撃が当たると同時に爆発が起こる。
「よしっ!」
ミリアはそのことに満足していた。
(まさかこれほどとはな。さすがは俺の妹だ)
アルフレッドは心の中で感嘆の声を上げる。すると、彼は突然背後から話しかけられた。
「あれ、アルじゃない」
振り返るとそこには一人の少女がいた。その少女は茶色い髪と青い瞳を持ち、どこかおっとりとした雰囲気を漂わせている。
アルフレッドはその声に聞き覚えがあった。だが、その名前を思い出すことはできない。
彼は記憶を辿り、なんとか思い出そうとする。
(確かこの声の人は……いや、今はそんなことを考えている暇はない。とりあえずここは知らないふりをして、この場を切り抜けよう)
アルフレッドはそう判断し、声をかけてきた人物を無視することにした。彼は視線を前へ向けたまま、口を開く。
「えっと……誰でしたっけ?」
そう言われた瞬間、その人物は目を大きく見開いた後、頬を膨らませた。そしてアルフレッドに近付くと耳打ちをする。
「ひっどーい。せっかく会いに来たのに忘れてるなんて」
そこでアルフレッドはようやく相手のことを思い出し、思わず声を上げてしまう。
「あぁ、ごめん!……クレアちゃんだったね」
「やっと思い出してくれたんだね」
「うん、そうだね」
アルフレッドは苦笑いを浮かべる。だが、すぐに真面目な表情に戻った。
そして今度は彼が彼女に問いかける。
「それでこんなところまでどうしたの?」
「実はこの近くに来たから、ついでにアルに会いに行こうと思って」
「わざわざありがとう。でも悪いけどこれからまだ用事があるんだ。また今度会おうよ」
アルフレッドがそう言うと、彼女は残念そうな顔をする。
しかし、そこでこう言った。
「わかった。じゃあ次はいつ会える?」
「多分、明後日かな」
「本当!?」
彼女は目を輝かせる。
「うん、予定が空いてればだけど」
「全然問題ないよ。じゃあ、楽しみにしてるね!」
「ありがとう」
そう言ってアルフレッドが手を振ると、彼女は嬉しそうに手を振り返す。
そうして彼女は立ち去っていった。
その様子を見て、ミリアが彼のことを睨む。
「今の女の子って知り合いですか?」
「まぁ、そんなとこだよ」
アルフレッドは曖昧な答え方をした。
すると、そこで別の人物が彼に話し掛けてくる。
「久しぶりだな、アルフレッド」
「あぁ」
「なんだ? 随分と素っ気ない返事じゃないか。久しぶりに再会したんだからもっと喜べよ」
「別に俺は会いたくなかったけどな」
「相変わらずつれない奴だな。昔はあんなに仲良かったのに」
「お前の一方的な押しつけだろうが」
「でも、俺のこと好きだろ?」
「嫌い」
アルフレッドは即答した。
「ひどっ!」
男はわざとらしく傷ついたような仕草を見せる。
「冗談は置いといて、なんでお前がここにいるんだ?」
「さっきも話したが、試験の見学だ。本当はミリアちゃんの様子を見たかったんだけど、今はいないみたいだな。残念だ」
「おい、変なこと考えるなよ」
「分かってる。でも、もしそうなったら協力してくれないか?」
「断る」
再び即答する。
「相変わらず冷たいんだな。まあいいか。とりあえずよろしく頼むぜ」
「はいはいっと」
「じゃあ、そろそろ戻るわ」
「そうかい」
「また明日」
男は大きく手を振った。
「二度と来るな」
アルフレッドは冷たく言い放った。
こうして彼らは別れた。その後、ミリアとティナの元へ戻ると、ティナから試験について色々と聞かれた。
そのせいでアルフレッド達はなかなかその場を離れられずにいた。しかし、そこに現れた一人の少年によって、事態は変わることになる。

***
アルフレッド達がミリア達と話し合っている頃、別の場所ではとある人物と少女が話をしていた。
場所は校舎の一室である。
室内には二人の男女がいた。一人の女性の方は銀髪の少女であり、その瞳の色は赤みを帯びた紫だ。そしてもう一人は茶色の髪を持った背の高い青年であった。その顔つきはとても整っており、その服装と相まってどこか上品な雰囲気が漂っている。
そのことから二人は高貴な家柄であることが想像できた。
しかし今、二人は険しい表情を浮かべていた。
それは少女が口を開くと同時に現れる。
「まさか、このようなところで貴方に会うとは思いませんでした」
彼女は少し棘のある口調でそう言った。すると、その相手――金髪碧眼の男――は口元に笑みを浮かべて答える。
「それは私も同じですよ、姫様」
(やっぱり……この人が……)
アルフレットはその言葉を聞いて内心驚いた。
彼は先程まで自分の隣にいる少女が誰なのか知らなかったのだ。
だから、彼が彼女に対して疑問を口に出した時に戸惑ってしまったのも無理はない。だが今は事情を知っているため、落ち着いて話を聞いていた。そして、ようやく彼女の素性が明らかになる。
そうしているうちに話は進んでいく。
そして遂に話題はアルフレッドへと移っていった。
「それでアルフレッドのことはどう思っていますか?」
「えっ……」
突然の質問に思わず動揺してしまう。
しかし、すぐに立て直して言葉を返した。
「どうしてそのようなことを?」
「単純な興味です」
(嘘……ですね)
彼女はそう思った。しかし、それを指摘することはできない。すると今度は逆に彼女が問い掛ける。
「あなたはどう思っているんですか?」
「えっ……と……そう……ですね……私は彼のことが好きです。とても優しくしてくれるし……それに格好いいと思うから」
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