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42話

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俺は思わず驚愕する。今の魔法を食らって無傷だと!?
一体どんな魔法を使ったんだ。あれは中級魔法に匹敵する威力はあるぞ。
それに……さっきの言葉を聞く限りあいつの使ったのは上級魔法……?それにしては少し違和感がある。
なんせ……あまりにも魔力量が少ない気がしたからだ。もしかして何か秘密があるのかもしれない。これはますます油断できないな。
「まぁ、今ので君の実力はよくわかったよ。どうだい、このまま続けるかい?」
俺は小さく息を吐いて答える。
「もちろん続けますよ」
そう言うと、男はニッコリと笑みを浮かべた。
「それは良かったよ。なら、少しだけギアを上げるから覚悟してくれよ」
彼はそう言ってから、体に纏っていた光をより強く発光させた。
そして一瞬にして姿を消し、そして気付いた時には目の前に姿を現していた。そこからはまさに一方的な展開になってしまった。
俺は何度も攻撃を繰り返すがどれも避けられたり、防がれたりするばかりでまったく当たらない。逆に俺の方も相手を捉えることができずにいた。俺は一度距離を取ると相手を見据えて考えを巡らせる。
どうすれば奴のスピードについていける? 速さが互角ならばあとは技術の差だ。それに、相手はまだ余裕を残しているように見える。
それに比べてこっちはすでにギリギリだ。
俺の思考はさらに加速していく。すると、一つ良い方法が思いついた。これを使えば少なくとも一瞬の隙を作ることができるはずだ。問題はその後だが……今はそんなことを考えている場合ではないな。
俺は意を決して相手との距離を詰めるべく、一気に駆け出した。それを見て相手が身構える。俺はそれを無視して相手の目の前まで辿り着くとそこで急停止をする。当然、相手の動きを封じるために足を狙って斬りつけた。相手はそれをなんとか回避するが、それでも完全には避けることができなかったようだ。足からは血が流れ出していた。
俺はそれにニヤリと笑って見せてから、相手に向けて拳を振るった。相手もそれを予想しており防御の態勢を取っていた。だが……その程度で防げるはずがない。
俺の一撃を受けた相手は大きく吹き飛ばされると壁にぶつかった。だが俺の攻撃はまだ終わらない。今度は足に強化魔法をかけてそのまま相手の方に向かって飛び上がった。そして、そのまま蹴りを叩き込むと、壁を突き破って建物内に入っていく。
だが、これで終わりじゃない。俺は再び身体強化をしてその場から消えると今度は建物の屋上に出た。するとそこでは彼が驚いた表情をしていた。その顔を見ると、なんだか心が晴れていく気がする。
「君……中々やるね。ここまで俺と対等に渡り合える人は初めてだよ」
彼はそう言いながらゆっくりと立ち上がった。その言葉に嘘偽りはないのだろう。彼の瞳には強い光が宿っている。そして……俺も負けじとその目を睨み返す。それから再び戦いが始まった。
お互いに一歩も譲らずに攻撃を続けていった。
相手は攻撃の合間に魔法を使い攻撃を放ってくる。
それに対して俺は攻撃の最中にカウンターを繰り出して反撃している。だが、相手の方が上手のようで、なかなかこちらの攻撃を当てることができないでいた。
そしてついにその時が訪れる。俺が彼の攻撃を受け止めた際に、剣を通して伝わってきた衝撃によって短刀が折れてしまったのだ。そのせいで俺の手から短刀が離れると同時に武器を失ってしまった。だが、まだ諦めてはいない。俺はすぐに腰に差していたもう一本の短刀を抜いて相手に突き刺そうとした。だが、それも相手に読まれておりあっけなく避けられてしまう。それから彼は俺に対して容赦なく攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを避けながら次の行動を考えていた。
(この男を倒すためにはやはり接近戦しかない)
そして一つの答えが出た。
俺はまだ魔法が残っているしまだやれる。だから、ここは……あえて接近戦で勝負を仕掛けよう。だが、ただ単純に突っ込んでいっても簡単に対応されてしまうのはわかっている。
だからこそ俺は、相手に攻撃をさせずにとにかく逃げ回った。少しでも時間を稼ぐために……その間に俺が狙うのはこの男の魔法の秘密を解き明かすことだ。そして遂に、この時が来た。俺は相手の隙を突いて一気に間合いを詰めた。
「くっ!」
さすがの彼もこの動きは読めなかったらしく、驚きの声を上げていた。
そして……ようやく俺にもチャンスが訪れた。俺はこの瞬間を逃さないように必死に食らいつく。俺はまず最初に魔法を使ってから一気に仕掛けた。彼はそれを見て後ろに下がろうとする。
だがもう遅い。
俺はその瞬間を見逃さずに一気に畳み掛けることにした。
そして……決着の時を迎える。
「……僕の負けだよ」
そう言ったのは俺の目の前に立つ人物……先程まで戦闘を行っていた俺のライバルであり親友でもある……ルーク・ノトスその人だった。
「まさかこんなに早く終わるとは思ってもいなかったよ……」
そう言って苦笑いするルーク。
「それは俺も同じ気持ちだ。まさかお前があの『英雄』の弟子だったなんて……世の中狭いもんだな」
俺の言葉にルークも深く同意するように首を縦に振った。
「本当に僕も驚いているんだ。まさか自分があの『神眼』の師匠の弟弟子だったんだってさ。しかもそれがあの『賢者』だったんだよ? そりゃあ誰だって驚くよ。まぁ僕はそれよりも驚いたことがあるんだけどね」
そう言って俺の顔を見る。
その顔はどこか誇らしげなものだった。
そして、そんな彼に俺は笑みを浮かべる。
「やっぱり俺もそう思うか?」
俺の問いかけに、彼はニヤリと笑って見せる。
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