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41話

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そしてその問いに対して返ってきた言葉は意外なものだった。
「えっとね。それは……ただ単純に君と戦いたくなかっただけかな」
彼女はそう口にした後で俺の方へ手を差し出してきた。俺は素直に手を取り立ち上がると再び頭を下げる。
「色々とすいませんでした」
俺の言葉に首を傾げると、クスッと笑みを浮かべる。
そして、ゆっくりと歩き出すとそれに続いて俺も移動を始めた。
「気にしないで。でも、今度はちゃんと戦ってくれるといいんだけど」
「善処します」
「それ……やるつもりない人の台詞よね」
「よくお分かりですね」
それからしばらくして、ようやく俺達の番が回ってくる。すると、さっきの女の人がまた話しかけてきた。
「あなた名前は?」
そう言えば名乗っていなかったっけ。「悠真です」
「悠真ね。私はアリン、よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
「ねぇ、悠真は近接格闘得意でしょ」「どうしてそう思うんですか?」
「勘よ」
「そうですか……まぁ当たっていますよ。あまり自信はないけど」
「嘘。あれだけのスピードを持っていながら、得意ではないなんてありえないわよ」
「買い被りすぎですよ」
「いや、これは本当のこ……と……っ!?な、何するのよ」
「いや、なんかムカついたんでつい……」
この女調子に乗り過ぎなんだよ。しかも無駄に強いときているからなおさら腹が立つ。
まぁでも、俺が弱いことは事実だし文句を言う権利もないのだが。
それでもやっぱり少し腹立たしいな。よし、決めたぞ。いつか絶対にぶっ潰してやる。
俺はそう心の中で誓うのだった。
それから、全員が一通り武器を選び終えた後にいよいよ実戦訓練が行われることになった。その方法は至って単純で、俺達一人ひとりを教師役である冒険者達がそれぞれ担当するというものだった。ちなみに担当することになったのはこの男だ。
「んじゃ……早速始めようか」
俺を担当する男は、そう言って腰に差していた剣を引き抜く。それを目にするだけでかなりの業物だとわかるほどに綺麗な剣だ。おそらく相当強いのだろうな。
「俺はお前に魔法を使うことを許可するが、それは構わないな?」
「問題ありません」
俺が返事を返すと、目の前の男は不敵な笑みを浮かべる。
「ははは!そうかそうか。まぁ……普通はこんな状況ではそんなこと言わないがな。だが……今の俺は気分がいい。だから教えておいてやるよ。俺はな……魔法使い殺しなんだよ」
どうやら本当にご機嫌な様子だな。それにしても……魔法使いを殺すとか言っているが……どう考えても俺の方が格上なんだけどな。
まぁ……いいか。とりあえず今は戦いに集中しておこう。
俺は一度息を大きく吐くと目の前に立っている男の目をしっかりと見据える。
「準備は整ったみたいだな」
「はい。いつでも構いませんよ」
「はは、中々威勢がいいじゃないか。それでこそ楽しみがいがあるってもんだぜ」
そう言い終わると同時に、彼の身体から魔力が立ち昇り始める。それと同時に殺気が一気に膨れ上がっていくのを感じた。なるほど……やっぱりかなり出来る奴なんだな。そう思っている間にも彼は動き始めていた。まず、初動で彼が取った行動とは……足への強化系の付与。そしてそのまま地面を強く蹴ると一瞬にして俺との距離を詰めてきた。
そして次の瞬間、彼の剣が迫ってくる。俺はそれに合わせて自分の持っている短刀で迎撃しようとした。しかし、相手の方が速かった。俺はそのまま腹部を切り裂かれてしまった。
痛みで膝を付きそうになるがなんとか堪える。だが、俺に休む暇など与えてくれるはずもなく再び斬撃が襲ってきた。俺がそれを避けると次は拳が飛んでくる。俺はその攻撃を避けるために大きく飛び退いた。そこでようやく距離が離れてくれたので俺も態勢を立て直す。
俺が着地するとほぼ同時に彼もまたこちらに向かって走ってきた。俺は再び攻撃を繰り出してきたが、俺はそれを難なく避けると相手の足を目掛けて蹴りを放った。だが、相手はその蹴りに対して自ら突っ込んでいき俺の攻撃を避けてしまう。
その結果、俺は勢い余ってしまいその場で転んでしまった。そこを逃すはずがない。
すかさず追撃してくるが俺はすぐにその場から離れそれを回避した。すると相手は再び走り出して俺へと迫ってくる。それから何度かそんな攻防が続いた後でついにその時が訪れる。俺の放った回し蹴りを腕でガードされたかと思うと、その足をそのまま掴まれてしまい思い切り投げ飛ばされてしまったのだ。
そして空中にいる間に今度は背中を思い切り殴られる。地面に倒れ込んだところでさらに追い打ちの一撃。そこでようやく俺の動きが止まる。それから彼はゆっくりと歩いてきて俺を見下ろすような形になる。
「いや~、なかなかやるね。正直ちょっと驚いているかな」
俺はそれを聞きながら立ち上がる。すると再び口を開いた。
「でも、まだ甘いな。確かに身体能力はかなりのものだけど、それだけじゃあまだまだだよ」
そう言った直後に彼の体が再び輝き出す。まさか……魔法を使うつもりなのか?俺はまだ動けない状態だというのに……。
そんなことを思っていてももう遅い。既に詠唱が始まっていた。その声を聞いてみると、それは女性のものだった。俺は耳を疑う。この男の声は明らかに男性のものだ。つまり……女性の声を出すことが出来るというのか。そして、魔法の発動が間近に迫り……とうとうその瞬間が訪れた。
『我に加護を与え給え。風の神より授かりし御力をもって我が敵を葬らん!』
その言葉の直後、強烈な風が俺を襲った。俺はそれに耐えられず、また地面に叩きつけられていた。だが、俺だって黙ってやられるつもりはない。
「【風弾】」
俺は素早く起き上がると、魔法を発動させる。
そして、俺の目の前に現れた複数の緑色の小さな球体が相手に襲いかかった。それらは相手を確実に捉えると……激しい衝撃音を周囲に撒き散らしながら爆散した。俺の目の前には砂煙が立ち込める。だが、それもすぐに消え去り視界が良好になった。だが、そこには……信じられないものが存在していた。それは、先程までの男の姿がまるでなかったかのように無傷で佇む彼の姿だった。
「へぇ、今結構本気で撃ったつもりだったんだけど……やっぱりすごいな君は」
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