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90話

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(おそらくだがあの体は本体ではない。恐らく魔王核と呼ばれる心臓のようなものがあってそれが体の再生をさせているのだろう。しかしそれを壊さない限りあいつを倒す事は出来ないだろう)
「はぁ……どうした?この程度なのか?ならば次は我の番だ。暗黒魔法ダークブラスト!」
すると魔王の手から闇が現れそれは徐々に形を成して行った。
その大きさは5メートル程だった。
「あれはまずい!」
リリアがそう叫ぶと皆がリリアの方を向いた。
「何がまずいんですか?リリアさん」
するとリリアが説明してくれた。
「あれは魔族に伝わる技の1つで闇の波動と呼ばれるものです。威力は凄まじく、受けたらひとたまりもないと思います」
僕はその話を聞き魔王を見ると魔王はその手をこちらに向けていた。そしてその手を前に押し出すようにして構えるとそこから先ほど見たものよりも大きい闇の波が僕たちを襲った。
そしてそれはそのまま僕たちに直撃し辺りを真っ暗な闇が覆った。
(ヤバい!これはかなりまずいぞ)
僕はそう思いながらリリア達の無事を祈っていた。
(頼む……リリア!リリィ!クレイ!みんな!どうか生きていてくれ!)
僕はそう願い目を閉じた。
~リリア視点~
リリアは今自分が生きているのかすら分からない状況にいた。
(ここはどこなの?暗い……何も見えない……怖いよ……僕死ぬの?いやだ……零くんと一緒にいたい……優斗として存在したい)
リリアは心の中で泣き出していた。
その時、何処からともなく優しい女性の声が聞こえてきた。
「泣かないでください。貴方は死なせません。それにまだ貴方の本当の力に気づいていないでしょう?」
「え?僕の本当の力?」
「そう、本当の力」
リリアが困惑していると女性が続けた。
「私が教えてあげましょう。私の後についてきてください」
「分かりました」
リリアは素直に従う事にした。
すると暗闇がだんだん晴れる
そこには僕
小此木優斗としてのリリアがいた。
(待ってた)
(え?)
(リリア……いや……優斗)
(どうして僕の名前を?)
(今はそんな事どうだっていい)
(そうだね)
(行こう!今から)
(うん!)
(いくよ……僕!今こそ本当の力を解放してやるんだ!そしてこの世界を救って見せる!そして僕たちは帰るんだ!あの人のところに!!)
(行くよ!!)
その時、リリアの心の中からもう一人のリリアが現れた。そして二人同時に叫んだ。
「「ユニゾン・イン!!」」
「なんだ!?これは!?」
魔王は突然、自分の周りを眩いばかりの光が包んでいるのを見て驚いた。
するとそこから声が聞こえてきた。
「よくも……零くんを傷つけてくれたな……」
「まさか……これは!?」
魔王はそう呟いたが既に遅かった。
なぜならそこにいたのは
勇者小此木優斗だった。
「僕はリリアであり!そして、勇者小此木優斗だ!!」
(本来の優斗として覚醒したんだな……リリア)
「ふぅ~やっと戻れたよ。やっぱりこっちのほうがいいな。じゃあ、とりあえずお前には消えてもらう。暗黒魔法 ブラックノヴァ!!」
黒い球が出現しそれが一気に膨張しそして爆発した。
「グワァー!!!!」
魔王は叫び声を上げながらも再生を繰り返していた。
(すごい、どんどん治っていく。これがリリアの力なんだ)
「くそ……調子に乗るなよ……」
魔王は怒り狂った表情をしていた。
そして次の瞬間、魔王は目の前まで迫ってきていた。
「は?」
「お前が私より速いわけがないだろうがぁ!!!」
魔王は僕の顔を掴みそのまま持ち上げてきた。
「うっ、離せよ!」
僕はなんとか抵抗したが魔王の握力は想像以上に強かった。
「くらえ!」
そして魔王はそのまま握りつぶしてきた。
メキッ
「ぐはぁ!」
「ふははは!どうだ!このままお前を砕いてやる!」
「させるか!」
「何!?」
僕はとっさにリリアの能力を使いリリアの刀を作り出しそれを手に取った。
「これでお前を倒す!」
僕はその剣に全力の魔力を込めた。
するとその刀は赤く光輝きだした。そしてその剣で僕は魔王を斬りつけた。すると魔王の体を綺麗に斬ることができた。
(やった!これならいける!!)
そして僕は連続で魔王を切り刻んでいった。
しかし魔王はすぐに再生してしまった。
だが魔王が再生している部分が前よりも少ない。
「何故だ!?何故再生が鈍る」
魔王が焦りながらそう言ってきた。
(そうか、あいつはリリアと同じ能力を持っていたけどリリアの方が上だった。つまりあいつは僕の力を完全に使いこなすことができていないんだ。だからこんなにも差が出てしまうんだ)
僕はそこで気づいた。
(よし……ならばもっと強くすればいいだけの話だ)
「くそ、くそ、くそ、なぜ貴様如きに私が押されているのだ!」
魔王が喚いていた。
(ごめんな……だけど僕には君を殺すことはできない。君のことを仲間だと思ってしまうから)
「爆炎魔法 メガフレア!」
「暗黒魔法 ブラックホール!」
お互いの魔法がぶつかり合ったが威力はほぼ互角だった。
「くそ、ならば、雷鳴魔法 サンダーボルト!!」
「暴風魔法 ストームバースト!」
どちらも相殺に終わった。
(まずいな、このままだとジリ貧になってしまう)
僕は必死になって考えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
魔王の方もだいぶ疲労が見えてきたようだ。
(ここが勝負どころだな)
僕は最後の賭けに出ることにした。
「おい!魔王!」
僕は呼びかけた。
「何の用だ!人間風情が!我の敵などではない!すぐにでも消し去ってやる」
「やってみろよ」
僕は魔王を挑発した。
すると案の定、簡単に乗っかってくれた。
「後悔するなよ」
そう言うと再び魔王はこちらに向かってきた。今度は拳を構えていた。そしてそれを勢いよく振り抜いてきた。
(かかった)
僕も同じように拳を構えた。そして拳と拳がぶつかった。
すると、魔王の腕が粉々になりその場に落ちた。
「な、なんだと!?」
魔王は動揺していた。それもそうだ。なにせ魔王は自らの肉体を犠牲にして僕を殺そうとしていたのだろう。そして魔王の思惑通り、僕の拳は魔王の拳を打ち破ったのだ。
(さて、仕上げだ)
「爆音魔法 ハウリング」
僕はそう言い放った。
「うぉ!耳が!鼓膜が!やめ!やめて!お願い!助けて!」
どうやら上手く行ったみたいだ。
「じゃあ、とどめだ」
僕はその一言と共に魔王の体に向けて刀を突き刺した。
「ぐはぁ!」
魔王は吐血しその場で倒れてしまった。
(死んだのか?)
僕は魔王の元へ近寄った。
「まだ……生きているのか?」
魔王はかろうじて生きていた。
「うっ……頼む……命だけは……見逃してくれ……私はもう……何もしたくない……」
魔王は泣いていた。
「お前は……なんで……こんなことをしたんだ?」
「それは……」
魔王は僕が近づくと掌を返し
「ハーハハハ!これでお前も……ぐああ!」
僕を掴んできたがすぐに苦しみ出した。
「うっ……なんだ……体が焼けるように痛い……」
(これは……まさか!)
「魔王……お前……まさか!?」
魔王は息も絶え絶えになっていた。
「そうだよ……これは私の能力の暴走だ……」
魔王は自分の心臓を握りしめていた。
(やはりそうだったか……)
「『消滅しろダウンセル』」
魔王は自らの手で自分の胸を潰そうとしていたが
「やめろ!!」
僕は慌てて止めた。
「放せ!こうしなければ……この能力は……世界を滅ぼそうとする!!」
魔王は苦しんでいた。
(なんとかできないか……)
僕は思考を巡らせた。
(そうだ!)
僕はリリアの力を使った。
「ユニゾン・イン!!」
そして僕はそのままリリアの中に入った。
(やっぱりリリアはすごいな)
僕の中に入るとリリアの力が増大していった。
(よし……これなら)
僕は心の中で念じた。
(リリア……今こそ力を貸すよ……リリアが今まで使わなかった本当の能力を使うんだ)
(ありがとう優斗……分かった……やって見せる)
「暗黒魔法ダークネスノヴァ!!」
リリアの声と同時に黒い光がリリアの身体から放出された。
そしてその光に触れたものはまるで存在そのものが抹消されたかのように消滅して行く。
「うっ、あ、熱い!苦しい!助けてくれ!誰か!私を救ってください!勇者様ぁー!」
「大丈夫だよ」
僕はそう呟いた。
「君は救われる」
「ぐっ……ありがと……」
そして次の瞬間
魔王は消滅した。
笑顔浮かべて安心した表情で消えていった。
こうして魔王は消え
俺たちは世界をある意味の形で救ったと言える。
世界の入口から異界へ戻り
この世界の国王に魔王消滅を伝えた。
それから
3年の月日が流れた。
~3年後~
僕は王宮に来ていた。
僕は国王との面会を求めてきた。
そして謁見の間へと通された。
そこには既に国王が座っていた。
「久しぶりだな、勇者よ」
「えぇ、ご無沙汰しております。国王様」
「ふむ、少し見ない間にずいぶん成長したようだな」
「いえ、そんなことはありません」
「謙遜するでない。それにお主はまだ18であろう?まだまだ成長期だ。これからさらに伸びるぞ」
「は、はい」
「して、今日は何用だね?」
「実は……」
僕がそう言おうとした時
「父上!」
一人の女性が声を上げた。
すると彼女はこちらへ駆け寄り 僕の腕に抱きついてきた。
(父上!?……僕は……結婚してないし……それに僕が好きで付き合ってるのは零くんだし……男だから……産んですらいない……誰この子?)
僕は状況が理解できなかった。すると
「こら、リリア何をしているんだ!」
王様はリリアという女性に対して怒ってるようだった。
しかし、僕の方はというと
(あれ?この人……どこかで見たことあるような……)
「ごめんなさい……だって久しぶりにパパにあったんだもん」
「まったく、はしたないだろう」
そこでようやく僕は気づいた。
(この人は……あの時の女の子だ!)
そう僕はやっと思い出した。あの時、魔族によって消されてしまった少女だったのだ。しかもその正体は魔王だったわけだ。
(なんだよ……そういうことだったのか……それじゃあ僕は……勘違いをしてたのか)
「あの、失礼ですが……」
僕は思い切って聞いてみることにした。
「あなたは……誰なんですか?」
「ん?」
そう聞くと彼女はこちらを見て言った。
「私はこの国の女王ですよ」
「はい、そうですね」
僕は苦笑いしながら答えた。
「ところで……」
彼女が何か言いかけたその時
「女王よ」
「はい、なんでございましょう」
「勇者殿には後ほど話すことがある故今は席を外してもらえぬか?」
「承知しました」
そう言うと彼女は部屋から出ていった。
僕は彼女に聞こえないように小さな声で言った。
「リリア……ありがとう」
僕は彼女の力のおかげで世界を救うことができた。
「いえ、どういたしまして」
どうやら僕の心を読んで返事をしているようだった。
「それで、話とは?」
僕は改めて聞いた。
「単刀直入に申せば魔王討伐の協力を願いたいのです」
「協力ですか……」
「はい、もちろん報酬は与えます」
「それはどんなものでしょうか」
「それは……我が国の王になっていただきたいと」
「王!?」
僕は驚きの声を上げた。
それはそうだ。僕は魔王を討伐はしたがあくまでそれは個人的なことだと思っていた。
(でも僕はこの世界にいていいのか……?)
僕の存在は異物のようなものだ。本来ここに居てはいけない人間であるはずだと僕は思った。
「それは……」
「まぁ無理にとは言えませんが……」
「少し考えさせてください」
僕は考えた末にそう伝えた。
その後、僕は自室に戻った。
(まさかこんな展開になるとは……どうしよう)
そんなことを悩んでいるとコンコンとノックの音がした。
扉を開けるとそこにはさっきの女性がいた。
僕はその顔を見るや否やドアを閉めた。
「ちょっと待ってください!いきなり閉めないでください!酷いじゃないですか」
「なにしに来たのかな……?」
僕は恐る恐る聞いた。
「先ほどの話の続きをしようと思って来ました」
「僕は王になんてなりたくないんだけど」
「別に王が務まるかとかそういう話ではないんですよ」
「じゃあ何?」
「ただ私と結婚してほしいだけなんです」
「結婚……って本気なのかな……君も僕のことは知ってるんだろ?」
僕はリリアのことは伏せておいた。余計なことは知らない方がいいだろうと思ったからだ。
「えぇ、優斗さんのことは調べさせて頂きました。あなたはこの世界に来る前の世界では普通の男性だった。だけどあることをきっかけにあなたの心の中にはもう一人人格ができてしまった。そして今はその人格と共存関係にある。ここまで合ってますよね?」
彼女は僕のことについて全て知っているみたいだった。僕は素直に認めることにした。
「えぇ、あっています」
「そして優斗さんは自分のことを『普通じゃない』と思い込んでいる……違いますか?」
「どうしてそれを……」
「私の力であなたの心を覗かせていただきました」
「なるほど……そこまで分かってるなら話が早いですね。僕に王は向いていません。僕は勇者の力を持ちながら人を傷つけることに躊躇う……臆病者ですからね」
僕は自分で言ってて情けなくなった。
「優斗さんが臆病者だというのは嘘でしょう?」
彼女は笑顔を浮かべていた。
「なぜそう思うんだい?」
「簡単ですよ、あなたが勇者であることを否定することでしか自分の存在意義を見出すことができないから……そうでしょう?勇者様」
図星だった。僕は自分を否定することで自分を保つことができる。だが、同時に自己嫌悪に陥ることもあった。
(本当に自分は勇者なんかじゃない……僕は……ただ……)
すると彼女は急に頭を下げてきた。
「どうか、私の伴侶になっていただけないでしょうか」
その言葉を聞いて僕は胸が苦しくなった。今まで自分が否定してきたものを目の前の少女が肯定してくれたような気がした。僕が悩んでいたこともこの少女はお見通しなんじゃないかと思えた。
「僕には心に決めた人がいますなのでお受けすることは出来ないんです」
「それは『零』という名前の方ですか?確かあなたがこの世界に来る直前にできた人格だそうですね」
「はい、僕は彼をとても愛しています。彼と一緒にいると僕は僕自身でいられるんです。僕は彼が僕を救ってくれたと思っている。彼は僕にとって必要な存在なんだ。僕は彼に幸せになって欲しい、そのために僕は彼のそばにずっといたいし守っていたい。僕自身も強くありたいんだ」
いつの間にか涙が出ていた。彼女に対してではなく零くんに対してだ。
すると、彼女は優しい口調で言った。
「分かりました」
それからしばらく沈黙が続いた後、彼女は口を開いた。
「今日はこれで失礼します。それと私はいつでもあなたの味方になりますので何かあれば遠慮なくおっしゃってください」
(零くん……僕はどうすればいいんだ)
すると
僕の身体から光が出てきて
光が収まるとそこには『零』くんがいた
(う、うそ!?)
「優斗!……うそだろ……優斗が目の前にいる」
「僕がいる……?」
僕は混乱していた。僕自身がそこに存在しているのだ。
「あぁ……あぁ……」
零は泣き出してしまった。
僕はどうしたらいいのか分からなかった。しかし、今はこうやって会えただけで嬉しい。そう思った。
「僕は君の前から消えるべきなのか……」
僕は不安だった。今の僕はどう考えても異常なのだ。
零くんが僕を抱きしめてきた。
「馬鹿野郎!俺はお前が好きなんだ!消えるなんて許さないぞ」
零くんの目から涙が零れていた。
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