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136話

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俺達が帰ってきたことに気づいて声をかけてくれる。
「あぁ、ただいま」
「ただいま」
俺とサクヤがそれぞれ挨拶をする中、俺の後ろにいたサクヤの姿を見た瞬間、驚いた表情をした。
「あなた、サクヤちゃんなの?」
そう言われるとサクヤは恥ずかしそうにする。
「久しぶり、お姉さん」
サクヤのお姉さん? 俺は気になってサクヤの顔を見ると少しだけ嬉しそうな顔をしていた。どうやら本当のようだ。するとサクヤはいきなり頭を下げた。俺はその光景に驚いてしまう。
「……ごめんなさい!」
……えっ、なんで謝ってんの? 俺は訳がわからず戸惑っているとお姉さんと呼ばれた人が口を開いた。
「気にしないで、私が悪いんだから。私があなたのお父さんを止めていればこんな事にはならなかったんだから」
サクヤのお母さんの話によるとサクヤが産まれてすぐにこの里を襲った悲劇が起きたらしい。
なんでも俺の父親、ガルダが突然暴走してしまい、そのせいで他の仲間も巻き込んで殺してしまった。その結果里が滅び、生き残りは母親と二人だけの状況になってしまったのだ。
そして里を再建するまでの間は母親が一人でサクヤを育てていたという。その話を聞いていたサクヤは悲痛の面持ちになり、俺の母親は目に涙を浮かべながら静かに聞いていた。俺はそんなサクヤを見つめることしか出来なかった。
それからサクヤは家に帰ってくるなり部屋に閉じこもってしまった。俺は心配になった為、様子を見に行くことにした。部屋に入るなりサクヤの姿を確認してから俺は部屋の扉を閉めた。サクヤは自分の体を抱きしめながら泣いており、その姿があまりにも辛く見えた。
俺は何を言えばいいのかわからずにいると後ろから声をかけられた。
「あの子の父親は、ガルダはどうしてあんなことをしたんだろうね」
そこにはサクヤの姉が腕を組みながら立っていた。どうすれば良いのかわからなかった俺は思わず尋ねてしまう。
「どうしたら、どうしたら父さんの目を覚ますことが出来るんだ?」
すると彼女は真剣な顔つきで言った。
「それは分からない、でも私は諦めるつもりはないよ。だからこれからは三人で生きていこう」
「そうだな、俺がもっと強くなるから安心してくれ」
「期待してるね」
そう言うと彼女も去っていった。

***
あれから一週間後、俺とサクヤは森にいた。理由は簡単、修行の為だ。サクヤの両親からは魔法を教わっていたらしく、ある程度の知識はある為、教えてもらった方が効率的だろうと言うことで修行することになった。
最初は嫌々だったが今は乗り気でやってくれるようになっていた。というのも真紅郎に褒められたことが嬉しいみたいだ。
「じゃあ始めるか」
俺がそういうとサクヤは小さく首肯すると杖を構えて詠唱を始める。
すると足元に青い魔方陣が展開された。そこから炎が吹き上がるとサクヤの体にまとわりついていく。
「<水霊術-激流弾>」
水の塊がいくつも同時に発射される。だがその攻撃は全て空振りしてしまう。なぜなら俺は全ての攻撃を難なく避けたからだ。
俺の反応速度を見てサクヤは悔しそうにしている。俺としては結構ギリギリだけどね!でも当たらないんだよ。すると今度は連続で同じスキルを使ってきた。俺はそれを避けようとするが、ふとある考えを思いつくと足を止める。そして迫り来る水の弾丸に向かって拳を突き出した。
<衝撃強化I><打撃強化II>発動。
そのまま勢いよく殴りつけると弾丸が砕け散った。
「嘘……」
まさか自分の魔法が簡単に壊されるとは思っていなかったのか、サクヤは驚いて固まっている。その隙に近づきデコピンをした。
「いったぁ!?」
サクヤは額を抑えながら涙目になっている。ちょっと強くやり過ぎたかな?すると次はサクヤも接近戦を仕掛けてきた。
剣を取り出して切りつけてくる。
それを素手で受け止めると蹴りを入れてきた。
それを軽く受け流すと同時に手を掴んで動きを止めてからデコピンをしてやった。またサクヤが痛みに耐えかねて額を抑える。俺達はしばらくこんな感じのやり取りをしていた。
そして日が落ち始めた頃、お互いに疲れてその場に座り込んだ。サクヤはまだ不満そうだった。
「なんで当てられないのさ」
「そりゃ反応速度が早いからだろ」
「でも魔法は簡単に破壊出来るじゃないか」
「それはお前の使う魔法のレベルが低いからだな」
「どういうこと?」
「例えばこの前使ってた火の玉ならそこまで難しいことじゃない。魔力を込めて投げ飛ばすだけだし、多分誰にだってできる。だけどその次に使った水流の操作とかは難しいはずだぞ。それに今朝言ってたけど複合技って難易度が高いんだ。そんなのをポンポン使える時点でかなりの実力者だよ」
実際、サクヤの両親は相当な手練れだったんだと思う。だからこそ里が滅んでしまった。まぁ、そこは俺の父さんが悪いんだけどな。
俺の話を聞いてサクヤは考え込むと納得してくれたのか大きく首を縦に振ってくれた。とりあえず修行はこれぐらいにして帰ろう。
「ほら、帰るぞ」
俺が立ち上がってからサクヤに手を差し出すとサクヤは笑顔を浮かべて俺の手を握って立ち上がる。そして一緒に帰路に着いた。その時に俺はサクヤにあることを提案することにした。
「サクヤ、今日から俺と一緒に寝るか?」
サクヤの過去を知ってからというもの、なんだかほっとけないんだよな。俺が提案するとサクヤは戸惑うことなく即答した。
「いいの?ありがとう!」
サクヤは喜んで承諾してくれる。俺もサクヤが了承してくれて安心していた。するとサクヤはある事を思い出したように聞いてくる。
「あ、でもお父さんはいいの?」
「父さんの事は心配するなって、母さんがなんとかするって言ってくれてるから」
父さんの件については問題ないだろう。俺とサクヤのことを信頼してるみたいだし、それになにより……
「俺がサクヤを一人にはしないよ」
俺はサクヤを守ると決めたんだ。父さんの代わりとして、姉のように。
するとサクヤは俺の顔を見ると、頬が少し赤くなっていた。
「どうした?」
「いや、何でもない」
そう言うと顔を背けてしまう。なんか変なこと言ったかな。でも嬉しかったみたいなことを言われた気がするから良しとしよう。
こうして俺達は家に帰って晩御飯を食べた後にそれぞれの部屋に戻って眠りについた。
翌朝、俺は目を覚ますと起き上がり窓の外を眺める。
外を歩いている人はいない。まるで世界に自分しかいないような錯覚を覚えてしまうほど静寂に包まれていた。いつもより早く起きた俺はサクヤを起こして修行をする為に外へと出かけた。するとサクヤは眠そうに目を擦りながら欠伸をしている。俺はサクヤを励ますために背中を叩いて元気付けた。するとサクヤは気合いが入ったのかやる気を見せてくれた。俺はそれが嬉しいと思いながら歩き続けていると森の中へ入っていく。
「ここで良いか」俺がそう呟くとサクヤも同意した。
「うん、良い場所だね」
それから早速、修行を開始した。
まずはサクヤの攻撃を避け続ける。最初は攻撃することに慣れていないからなのか上手くいかないみたいだ。
「よし、次だ」
今度は俺が攻撃する番だ。
拳を突き出して蹴りを放つ。それをサクヤは全て回避していく。俺は何度も繰り返していった。サクヤはそれを見つめている。
「避けるんじゃなくて受け流せ!反撃のチャンスを見逃すな!相手の意表をつくんだ!あと動きに無駄があるぞ!それだと隙だらけになるぞ!もっと周りを見ろ!」
サクヤにアドバイスをしながら戦い続けた。すると次第に慣れてきたのか余裕が出てきたのか、避けたり、防御したり出来るようになってきた。俺の動きを見て真似てみようとしているようだ。そしてサクヤは徐々に攻撃出来るようになってきていたが、俺はあることを感じていた。
それは、あまりにも動きが素人すぎることだ。
剣を振る時も動きがぎこちないし、剣の扱い方もまだまだ甘い。おそらくだが今まで剣を使って戦うという経験が無かったのだろう。俺の場合は毎日、母さんと戦わされて嫌でも覚えさせられたから。そう思うと、なんで父さんはこんな幼い子を一人で放置したんだろうか、不思議でならない。そう考えると怒りを覚える。今度父さんにあったら説教をしてやる!と決意を固めたその時、突然後ろを振り向いたサクヤが声を上げる。
「あれ!?どうして!?」
その言葉を聞いた俺は慌てて振り返るといつの間にか囲まれていた。数は十匹ぐらい、しかも全員がゴブリンで手には剣を持っていた。恐らくこの辺りに住んでいる魔物達が集まってきたのか、もしくは餌を探しに来たのどちらかだと思う。
「おい、サクヤ」
「な、なに?」
「ここは俺に任せてくれないか?」
「え、どういう……」
俺はそれだけを言うと前に出る。サクヤは困惑していたが、俺は気にせずに構えを取る。
「俺の大事な妹に怪我させた罪は重いぞ?」
そう呟いてから目の前の敵を睨む。
「かかってこいよ」
そう言ってニヤリと笑った。
<視点:四葉由紀>
私は今、とても不機嫌です。
何故ならお兄ちゃんが居なくなったからだ。昨日の夜にお母さんからお話を聞いてから私とお姉ちゃんはすぐに寝ることにした。そして朝起きると隣に寝ていたはずのお兄ちゃんの姿がなかった。
そこですぐに探しに行くことになったけど、どこを探してみても見つからない。まさかと思ったけど森に入るのを躊躇ってしまう。だけどお姉ちゃんは迷うことなく森の中へと入って行った。
私も後を追いかけて走り続けると森の中にポツンと家があった。
お兄ちゃんの匂いはこの家からする。でも何の音もしない。本当にここなの?不安になりながらも扉を開くと中は真っ暗だった。明かりをつけると中にはベッドの上で寝息を立てている女の子が居た。
私は警戒しながら近づき、その子に触ろうとしたらお姉ちゃんが私の手を掴んで止めた。どうやら起こさないように静かにしているみたいだ。
そしてしばらく見ていると彼女はゆっくりと目を開けた。
寝ぼけ眼のまま周囲を確認すると徐々に意識がはっきりしてきたのかこちらを見ると飛び跳ねるように起き上がった。
「あなた達は誰?」
怯えた様子だったけど、私たちが敵意がないとわかると落ち着いてくれたようだった。
それからお互いに自己紹介を終えると彼女も名乗り始める。
「僕はサクヤと言います。」
「え!?男の子!?」
「はい。僕は男です」
サクヤは女の子に見えるけど男の子だったのだ。私は驚いた。だってどう見ても女の子でしょ?でもサクヤは自分は男だと言っている。じゃあどうやって確認しようかな。そうだ!胸とか触れば男の人か女の人の区別がつくよね。よし、そうと決まれば早速……
「あの、なにしているんですか?」
「ちょっとごめんね?」
そう言うとサクヤの服を剥ぎ取ろうとした。しかし私がやろうとする前にサクヤは素早く動いて服を着直していた。
「なにするんですか!」
「あ、やっぱり男なんだ」
「なんでわかったんですか!?」
「勘かな」
「そんなことでわかられたくなかった!」
サクヤは落ち込んでいた。
とりあえずサクヤから話を聞ける程度に落ち着くと私たちは家の外に出ることにした。外は既に明るくなっており鳥が飛んでいた。
サクヤの話によると、ここに居る理由がわからないらしい。ただ、記憶喪失になったのだけは覚えているみたいだ。だから自分のことをあまり覚えていないらしい。
すると、お姉ちゃんが話しかけてきた。
「それで、四葉はこれからどうするんだ?」
「もちろん!連れて帰るよ!」
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