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137話
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当たり前のことを聞くんだね。
すると今度はサクヤが尋ねてくる。
「ところで、あなたたちは何をしにここに来たんですか?」
サクヤの質問に答えたのはお姉ちゃんだ。
「俺たちはある人に頼まれてお前を助けに来たんだよ」
「僕を助ける?なんでですか?」
「お前が俺の妹に似ているからだよ」
「僕のことが、妹さんに似てるってことですか?」
「ああ、それに俺はその妹を探しているんだ」
「その人は今どこにいるんですか?」
「それは言えない。だが絶対に見つけ出してみせる!俺は約束を守る人間になる為に旅をしていてな。そいつとの約束を守りたいんだ。必ず会えると信じて俺は今まで頑張ってきた。その思いに嘘はつけない。たとえどんな手段を使ったとしても俺はあいつを見つけ出す!」
なんか変なスイッチ入っちゃったな。でも、いつものお姉ちゃんとは違う感じで少しだけカッコいいと思ってしまったのは内緒である。
こうして私たちは三人一緒に暮らすことになったのであった。
「ふぁ~よく寝たな」
目が覚めると窓から光が差し込んでくる。時計の針はまだ午前の10時を指していた。
まだ起きるのには早いと思い、もう一度眠ろうと横になる。
すると布団の中で何かがモゾモゾ動いている。不思議に思って手を入れると誰かの身体に触れていた。そしてその感触は柔らかかった。
一体何だろう? 恐る恐る手を引っ張り出してみる。
それは少女のようで髪の色は黒だった。
その姿を見てみるとどこかで見たことがあるような顔立ちをしているが誰なのか思い出せない。
「あれ、ここはどこだ?私は誰?」
そう呟いているが俺は誰だと聞かれても答えられるわけがない。というよりこの子がなぜ俺の隣で寝ているのかも謎なのだ。俺は起き上がるとその子の頬を軽く突いてみた。ぷっくりと柔らかい頬は弾力がありいつまでも触れていたい気持ちになるが今は状況を確認しなければならない為、仕方なく離すことにした。この子が起きればわかるはずだろう。そうして待つこと数秒。
突然目を開け俺の顔を見ると驚いた顔をした。
「え?あれ?」
「おはよう。気分はどうだい?」
「え、あ、えっと……」
困惑しているようだ。俺も正直困惑しているがな。さっきからずっと黙ったまま俺を見つめている。俺もじっと見返していると段々と赤くなり、俯いてしまった。そのまま動こうとしないから、とりあえず声をかけてみる。
「あのー、お名前は?」
「わ、わたしは……由紀」
名前を聞いてもいまいちピンとこない。そもそもこんな美少女と知り合いだっただろうか。もしかして夢を見ているのかもしれない。俺は自分の腕をつねってみたけど痛みを感じた。
じゃあやっぱり現実?いやでもこの状況は……うん、考えるのは止めよう。とにかくこの子に話を聞いてみないと何も始まらない。まずは情報を集めるのが大事だ。
由紀ちゃんが落ち着いたところで色々聞き出した。
・どうして家にいたの?
「私にも分からない。気がついたらここに居たの」
・年齢は?
「十歳だよ」
「え!?俺と同い年?」
「え?君、私の事いくつだと思ったの?」
「小学生か中学生ぐらいかなって」
「それなら私の方がお姉ちゃんだね!」
・お姉ちゃんってどういう意味?
「えっと、私が先に目覚めたから」
「じゃあ妹がいるの?」
「妹はいないよ」
「じゃあお母さんは?」
そう聞くと彼女は寂しそうな表情で首を横に振った。どうやらいないというわけではないらしい。これ以上は聞かない方がいいのかなと思っていると、今度は彼女から聞いてきた。
「ねぇ……ここはどこなの?」
彼女の質問にどう答えるべきか迷ったが本当のことを言った方が良いと思い全てを話すことに決めた。信じてもらえないかもしれないけど、俺はありのままを伝えた。
「ここは俺の家だよ」
「あなたの、家?」
「そうだよ。それで俺は佐藤悠太っていうんだ」
「……本当に私のこと覚えてないの?」
「う、ごめん。実は君のこと知らないんだ」
「……そっか」
彼女は残念そうな様子だったが、しばらくすると落ち着きを取り戻してきた。
「あのさ、もし良かったらだけど。行くあてがなければうちで暮らしても良いよ」
「いいの!?」
「あ、でもお父さんと相談してからじゃないとダメかな」
「ありがとう!」
こうして彼女と一緒に住むことになった。ちなみに彼女の服を買わないとと思い服屋さんに行って女の子用の可愛い服を着せる。それから街へと出かける準備をする。俺は自分の部屋に戻り外出の準備を始めた。財布をポケットに入れようとした時に中に入っている物を見て俺は愕然とする。
なんとそこには札束が入っていたのだ。しかも五万円ほどあるみたいだ。俺は慌ててリビングに戻るが誰もいない。急いで外に出るとちょうど買い物を終えた彼女が歩いてきていた。
「あっ、どこ行ってたの?」
「いや、えっと」
まさかこれの出所を尋ねるのは無理だな……。
「なんでもない。ちょっと散歩してただけだ」
「ふ~ん」
納得してくれたみたいだ。俺はほっとして歩き出すと彼女に話しかけられた。
「そういえばお姉ちゃんはどこ行ったの?」
そう聞かれたがなんて説明すれば良いかわからない。それにお姉ちゃんと呼ばれてもしっくりこないしな。とりあえず適当に答えておくか。
「ああ、なんか疲れちゃったから家で休んでるって言ってたかも」
「そっか。大丈夫なのかなぁ……」
由紀が心配している。やはり本当のことは言わなくて正解だったのかもしれない。俺たちは家に帰ってきた。するとすぐに彼女は自分の部屋に戻ろうとする。俺が「待ってくれ」と呼び止めるとこちらを振り向いてくれた。俺は「これを」と言って封筒を手渡す。中には二万円入っているはずだ。これで好きなものをたくさん食べて欲しい。そう伝えて家に帰ろうとしたが最後に「何かあったら遠慮なく言ってほしい」と言うと笑顔で返事が返ってきた。俺が「行ってくる」と言い扉に手をかけると後ろから「いってらっしゃい」という声が聞こえてきた。こうして俺は初めてのアルバイトへ出発したのであった。
***
アルバイトが終わり夕方頃に帰宅すると、リビングで由紀がソファーに座っていた。どうやら暇を持て余していたようだ。
俺に気付いたのか立ち上がると「おかえり」と言ってくれた。
「ただいま」
そう返すと彼女は嬉しそうにしている。そんな様子を見ていると思わず頭を撫でてしまった。すると彼女は顔を赤く染めながらもじもじしている。それが可愛くてもう一度撫でてしまうと、由紀は恥ずかしさに耐えられなくなったようで走ってどこかに去ってしまった。
怒らせてしまったのかと思い少しだけ反省した。そうして夜ご飯を作り終え二人で食卓を囲む。
今日のメニューはオムライスである。我ながら上手くできたと思う。
由紀は美味しい!と喜んでくれていた。作った甲斐があるってもんだ。
食後は風呂に入りベッドに入ると眠気が襲ってきていつの間にか寝ていた。
明日も早いので早く寝ることにしたのである。そして次の日の朝、いつものように起きてから歯磨きや着替えを済ませていると、由紀がやけにもじもじとしている。一体どうしたというのだろうか。
不思議に思いつつも「どうかした?」と聞いてみた。すると由紀は自分の胸を指差すとこう言った。
「ここが苦しいの」
どうやら胸に詰め物をしていて息苦しかったらしい。
どうしたものかと悩んでいると由紀が突然こんなことを言い出した。
「私に、その、えっちなことをしてください!」
「……はい?」
俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。しかし彼女は続ける。
「だから……私を……抱いてください」
彼女は今、何と言った?
「………………いやいやいやいや、えっ?」
驚きのあまり聞き間違いであって欲しいと思い何度も聞き直してしまった。だが彼女の言葉は変わらない。どうやら本気のようだ。これは困ったぞ。まさか俺のことを好きだとは思ってなかったが、まさかそういう対象に見られてるとは……
俺には既に心に決めた人がいるのだ。ここで断らないといけないだろう。俺は勇気を出して口を開く。
「悪いけどそれはできないよ」
俺ははっきりと答えた。すると由紀は俯いて「そっか……」と言っている。断られたことに対して落ち込んでいるようだった。その姿を見た途端罪悪感に襲われてしまい思わず抱きしめてしまった。彼女は驚いていたが拒絶することはなかったためしばらくこのままにしてあげることにした。すると彼女は「ありがとう」とお礼を言った後に続けてこういった。
「じゃあキスだけでもして欲しいなぁ」……まだ諦めていなかったらしい。まあ、それだけなら別にいいかと思って軽く了承してしまう。
「わかった。それで許してくれる?」
「もちろん」
そう言うと由紀の顔が近付いてきたので目を瞑る。それからすぐに柔らかいものが唇に触れてきたのを感じ取った。数秒程経ってからようやく離れたようなので目を開けると、そこには頬を赤らめた彼女がいた。「ふふふ、これで満足だよ」
彼女は嬉しそうに微笑んでいた。どうやら機嫌を損ねずに済んだようだ。俺は安堵してほっと溜息をつく。するといきなり扉が開くとそこに美奈が現れた。彼女は俺たちを見ると顔を真っ青にする。
「ちょ、ちょっと悠太!?あなたって実はそっちだったの?」
どうやら勘違いされたらしい。急いで否定しようとしたらそれを遮るようにして由紀が大声で叫び始めた。
「違うよ!私は男の子の方が好きなの!」
そう言って俺の腕を掴むと豊満な胸へと押し付けてくる。それを聞いて今度は彼女が慌てた様子になった。
「え!?本当にそうなの?」
「そうだよ!」
二人は興奮した状態で話し始めた。まずいと思った俺は急いで彼女を引き剥がす。
「ほら、とりあえず落ち着こう。な?」
なんとか説得しようとするがなかなかうまくいかない。俺は最終手段に出ることにした。二人を部屋へと連れていき強制的に大人しくさせるのだ。幸いなことにどちらも素直に従ってくれたので楽だった。こうして二人の誤解を解くことに成功したのである。……そういえばこの前、由紀の下着を洗うときに見たんだけど、サイズが俺と同じなんだよね。ということはもしかして……。そんな考えが頭を過るが、今は気にしないでおこうと思うのであった。
***
翌朝、俺は今日も学校に行く準備をしていると扉の向こう側から声をかけられた。
「ねぇー、起きてる?一緒に学校に行こう?」
どうやら由紀が起きていたようだ。
「ああ、今行くよ」と答えると俺はすぐに制服に着替え始める。
しばらくしてから鞄を持って玄関まで向かうと、既に靴を履いて待っていた彼女と目が合う。そのまま外に出ると歩き出す。隣には由紀がぴったりとくっついて歩いている。なんでこんなことに、と思っていると彼女は俺の手を握ってくる。すると俺もそれに応えるように手を繋ぐ。すると彼女は笑顔になって「これ好き」と言ってくれる。その笑顔は可愛くてつい見惚れてしまった。そんなことをしているうちに学校にたどり着く。手を離そうとするが、由紀はまだ繋ぎたいらしく放してくれなかった。仕方なくその状態のまま教室に入ると、クラスメイトたちが一斉にこちらを見つめてくる。由紀は相変わらず人気者だ。そんな彼女に羨望の眼差しを送っている男子たちを見て俺は苦笑いをするしかなかった。そうしていると一人の女子生徒が話しかけてきた。どうやら由紀の友人らしい。「あの……その子は?」
俺は聞かれたことに答えるべく自己紹介をした。
「えっと……俺は佐々木です」
すると彼女は「そうじゃないわ」と言ってからこう言った。
「あなたのことを教えて欲しいの」
俺は少し悩んだ後、正直に話すことにした。由紀が信用できると言っていたからだ。
俺のことを全て伝えると何故か驚かれたあと「ごめんなさい」と言われた。何故謝られたのかわからないので首を傾げていると続けて質問をされる。
「ねえ、由紀とはどこまで進んでるの?」
答えられる範囲でいいと言われたので、嘘をつかずに答えることにした。
「……キスくらいかな」
「そっか、まだ付き合ってはいないんだね?」
「うん、でも由紀の方から告白してきたんだ」
すると今度はサクヤが尋ねてくる。
「ところで、あなたたちは何をしにここに来たんですか?」
サクヤの質問に答えたのはお姉ちゃんだ。
「俺たちはある人に頼まれてお前を助けに来たんだよ」
「僕を助ける?なんでですか?」
「お前が俺の妹に似ているからだよ」
「僕のことが、妹さんに似てるってことですか?」
「ああ、それに俺はその妹を探しているんだ」
「その人は今どこにいるんですか?」
「それは言えない。だが絶対に見つけ出してみせる!俺は約束を守る人間になる為に旅をしていてな。そいつとの約束を守りたいんだ。必ず会えると信じて俺は今まで頑張ってきた。その思いに嘘はつけない。たとえどんな手段を使ったとしても俺はあいつを見つけ出す!」
なんか変なスイッチ入っちゃったな。でも、いつものお姉ちゃんとは違う感じで少しだけカッコいいと思ってしまったのは内緒である。
こうして私たちは三人一緒に暮らすことになったのであった。
「ふぁ~よく寝たな」
目が覚めると窓から光が差し込んでくる。時計の針はまだ午前の10時を指していた。
まだ起きるのには早いと思い、もう一度眠ろうと横になる。
すると布団の中で何かがモゾモゾ動いている。不思議に思って手を入れると誰かの身体に触れていた。そしてその感触は柔らかかった。
一体何だろう? 恐る恐る手を引っ張り出してみる。
それは少女のようで髪の色は黒だった。
その姿を見てみるとどこかで見たことがあるような顔立ちをしているが誰なのか思い出せない。
「あれ、ここはどこだ?私は誰?」
そう呟いているが俺は誰だと聞かれても答えられるわけがない。というよりこの子がなぜ俺の隣で寝ているのかも謎なのだ。俺は起き上がるとその子の頬を軽く突いてみた。ぷっくりと柔らかい頬は弾力がありいつまでも触れていたい気持ちになるが今は状況を確認しなければならない為、仕方なく離すことにした。この子が起きればわかるはずだろう。そうして待つこと数秒。
突然目を開け俺の顔を見ると驚いた顔をした。
「え?あれ?」
「おはよう。気分はどうだい?」
「え、あ、えっと……」
困惑しているようだ。俺も正直困惑しているがな。さっきからずっと黙ったまま俺を見つめている。俺もじっと見返していると段々と赤くなり、俯いてしまった。そのまま動こうとしないから、とりあえず声をかけてみる。
「あのー、お名前は?」
「わ、わたしは……由紀」
名前を聞いてもいまいちピンとこない。そもそもこんな美少女と知り合いだっただろうか。もしかして夢を見ているのかもしれない。俺は自分の腕をつねってみたけど痛みを感じた。
じゃあやっぱり現実?いやでもこの状況は……うん、考えるのは止めよう。とにかくこの子に話を聞いてみないと何も始まらない。まずは情報を集めるのが大事だ。
由紀ちゃんが落ち着いたところで色々聞き出した。
・どうして家にいたの?
「私にも分からない。気がついたらここに居たの」
・年齢は?
「十歳だよ」
「え!?俺と同い年?」
「え?君、私の事いくつだと思ったの?」
「小学生か中学生ぐらいかなって」
「それなら私の方がお姉ちゃんだね!」
・お姉ちゃんってどういう意味?
「えっと、私が先に目覚めたから」
「じゃあ妹がいるの?」
「妹はいないよ」
「じゃあお母さんは?」
そう聞くと彼女は寂しそうな表情で首を横に振った。どうやらいないというわけではないらしい。これ以上は聞かない方がいいのかなと思っていると、今度は彼女から聞いてきた。
「ねぇ……ここはどこなの?」
彼女の質問にどう答えるべきか迷ったが本当のことを言った方が良いと思い全てを話すことに決めた。信じてもらえないかもしれないけど、俺はありのままを伝えた。
「ここは俺の家だよ」
「あなたの、家?」
「そうだよ。それで俺は佐藤悠太っていうんだ」
「……本当に私のこと覚えてないの?」
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「……そっか」
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「あのさ、もし良かったらだけど。行くあてがなければうちで暮らしても良いよ」
「いいの!?」
「あ、でもお父さんと相談してからじゃないとダメかな」
「ありがとう!」
こうして彼女と一緒に住むことになった。ちなみに彼女の服を買わないとと思い服屋さんに行って女の子用の可愛い服を着せる。それから街へと出かける準備をする。俺は自分の部屋に戻り外出の準備を始めた。財布をポケットに入れようとした時に中に入っている物を見て俺は愕然とする。
なんとそこには札束が入っていたのだ。しかも五万円ほどあるみたいだ。俺は慌ててリビングに戻るが誰もいない。急いで外に出るとちょうど買い物を終えた彼女が歩いてきていた。
「あっ、どこ行ってたの?」
「いや、えっと」
まさかこれの出所を尋ねるのは無理だな……。
「なんでもない。ちょっと散歩してただけだ」
「ふ~ん」
納得してくれたみたいだ。俺はほっとして歩き出すと彼女に話しかけられた。
「そういえばお姉ちゃんはどこ行ったの?」
そう聞かれたがなんて説明すれば良いかわからない。それにお姉ちゃんと呼ばれてもしっくりこないしな。とりあえず適当に答えておくか。
「ああ、なんか疲れちゃったから家で休んでるって言ってたかも」
「そっか。大丈夫なのかなぁ……」
由紀が心配している。やはり本当のことは言わなくて正解だったのかもしれない。俺たちは家に帰ってきた。するとすぐに彼女は自分の部屋に戻ろうとする。俺が「待ってくれ」と呼び止めるとこちらを振り向いてくれた。俺は「これを」と言って封筒を手渡す。中には二万円入っているはずだ。これで好きなものをたくさん食べて欲しい。そう伝えて家に帰ろうとしたが最後に「何かあったら遠慮なく言ってほしい」と言うと笑顔で返事が返ってきた。俺が「行ってくる」と言い扉に手をかけると後ろから「いってらっしゃい」という声が聞こえてきた。こうして俺は初めてのアルバイトへ出発したのであった。
***
アルバイトが終わり夕方頃に帰宅すると、リビングで由紀がソファーに座っていた。どうやら暇を持て余していたようだ。
俺に気付いたのか立ち上がると「おかえり」と言ってくれた。
「ただいま」
そう返すと彼女は嬉しそうにしている。そんな様子を見ていると思わず頭を撫でてしまった。すると彼女は顔を赤く染めながらもじもじしている。それが可愛くてもう一度撫でてしまうと、由紀は恥ずかしさに耐えられなくなったようで走ってどこかに去ってしまった。
怒らせてしまったのかと思い少しだけ反省した。そうして夜ご飯を作り終え二人で食卓を囲む。
今日のメニューはオムライスである。我ながら上手くできたと思う。
由紀は美味しい!と喜んでくれていた。作った甲斐があるってもんだ。
食後は風呂に入りベッドに入ると眠気が襲ってきていつの間にか寝ていた。
明日も早いので早く寝ることにしたのである。そして次の日の朝、いつものように起きてから歯磨きや着替えを済ませていると、由紀がやけにもじもじとしている。一体どうしたというのだろうか。
不思議に思いつつも「どうかした?」と聞いてみた。すると由紀は自分の胸を指差すとこう言った。
「ここが苦しいの」
どうやら胸に詰め物をしていて息苦しかったらしい。
どうしたものかと悩んでいると由紀が突然こんなことを言い出した。
「私に、その、えっちなことをしてください!」
「……はい?」
俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。しかし彼女は続ける。
「だから……私を……抱いてください」
彼女は今、何と言った?
「………………いやいやいやいや、えっ?」
驚きのあまり聞き間違いであって欲しいと思い何度も聞き直してしまった。だが彼女の言葉は変わらない。どうやら本気のようだ。これは困ったぞ。まさか俺のことを好きだとは思ってなかったが、まさかそういう対象に見られてるとは……
俺には既に心に決めた人がいるのだ。ここで断らないといけないだろう。俺は勇気を出して口を開く。
「悪いけどそれはできないよ」
俺ははっきりと答えた。すると由紀は俯いて「そっか……」と言っている。断られたことに対して落ち込んでいるようだった。その姿を見た途端罪悪感に襲われてしまい思わず抱きしめてしまった。彼女は驚いていたが拒絶することはなかったためしばらくこのままにしてあげることにした。すると彼女は「ありがとう」とお礼を言った後に続けてこういった。
「じゃあキスだけでもして欲しいなぁ」……まだ諦めていなかったらしい。まあ、それだけなら別にいいかと思って軽く了承してしまう。
「わかった。それで許してくれる?」
「もちろん」
そう言うと由紀の顔が近付いてきたので目を瞑る。それからすぐに柔らかいものが唇に触れてきたのを感じ取った。数秒程経ってからようやく離れたようなので目を開けると、そこには頬を赤らめた彼女がいた。「ふふふ、これで満足だよ」
彼女は嬉しそうに微笑んでいた。どうやら機嫌を損ねずに済んだようだ。俺は安堵してほっと溜息をつく。するといきなり扉が開くとそこに美奈が現れた。彼女は俺たちを見ると顔を真っ青にする。
「ちょ、ちょっと悠太!?あなたって実はそっちだったの?」
どうやら勘違いされたらしい。急いで否定しようとしたらそれを遮るようにして由紀が大声で叫び始めた。
「違うよ!私は男の子の方が好きなの!」
そう言って俺の腕を掴むと豊満な胸へと押し付けてくる。それを聞いて今度は彼女が慌てた様子になった。
「え!?本当にそうなの?」
「そうだよ!」
二人は興奮した状態で話し始めた。まずいと思った俺は急いで彼女を引き剥がす。
「ほら、とりあえず落ち着こう。な?」
なんとか説得しようとするがなかなかうまくいかない。俺は最終手段に出ることにした。二人を部屋へと連れていき強制的に大人しくさせるのだ。幸いなことにどちらも素直に従ってくれたので楽だった。こうして二人の誤解を解くことに成功したのである。……そういえばこの前、由紀の下着を洗うときに見たんだけど、サイズが俺と同じなんだよね。ということはもしかして……。そんな考えが頭を過るが、今は気にしないでおこうと思うのであった。
***
翌朝、俺は今日も学校に行く準備をしていると扉の向こう側から声をかけられた。
「ねぇー、起きてる?一緒に学校に行こう?」
どうやら由紀が起きていたようだ。
「ああ、今行くよ」と答えると俺はすぐに制服に着替え始める。
しばらくしてから鞄を持って玄関まで向かうと、既に靴を履いて待っていた彼女と目が合う。そのまま外に出ると歩き出す。隣には由紀がぴったりとくっついて歩いている。なんでこんなことに、と思っていると彼女は俺の手を握ってくる。すると俺もそれに応えるように手を繋ぐ。すると彼女は笑顔になって「これ好き」と言ってくれる。その笑顔は可愛くてつい見惚れてしまった。そんなことをしているうちに学校にたどり着く。手を離そうとするが、由紀はまだ繋ぎたいらしく放してくれなかった。仕方なくその状態のまま教室に入ると、クラスメイトたちが一斉にこちらを見つめてくる。由紀は相変わらず人気者だ。そんな彼女に羨望の眼差しを送っている男子たちを見て俺は苦笑いをするしかなかった。そうしていると一人の女子生徒が話しかけてきた。どうやら由紀の友人らしい。「あの……その子は?」
俺は聞かれたことに答えるべく自己紹介をした。
「えっと……俺は佐々木です」
すると彼女は「そうじゃないわ」と言ってからこう言った。
「あなたのことを教えて欲しいの」
俺は少し悩んだ後、正直に話すことにした。由紀が信用できると言っていたからだ。
俺のことを全て伝えると何故か驚かれたあと「ごめんなさい」と言われた。何故謝られたのかわからないので首を傾げていると続けて質問をされる。
「ねえ、由紀とはどこまで進んでるの?」
答えられる範囲でいいと言われたので、嘘をつかずに答えることにした。
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