満月を見たら思い出せ

みなと劉

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「俺……魔法使いになろうと思うんだ」
するとカドルは大きく目を見開いて驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になると、
「頑張れよ」
と言った。その目には涙が浮かんでいるような気がしたが、それはきっと気のせいだろう。
「ありがとう」
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「うん。ちょっと用事があってね」
俺はそう言うと、カドルを残して学校の外へと飛び出したのだった……。

***

***
学校を出た俺は、真っ先に自分の席へと向かった。
「おはよう、ナオキ」
「おはよう。今日は遅かったな?」
「ああ、ちょっと用事があってね」
俺はそう答えると、すぐに隣の席に座ることにした。
「それで?話ってなんだ?」
「ああ、実はな……」
俺はそこで言葉を区切ると、大きく息を吸うと覚悟を決めた様子で口を開いた。
「俺……魔法使いになろうと思うんだ」
するとカドルは大きく目を見開いて驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になると言った。
「頑張れよ」
「ありがとう」
俺が礼を言うと、カドルはすぐにまた尋ねてきた。
「じゃあ、いってきますの噂は本当なのか?」
「ああ、本当だ」
「そうか……」
俺が答えると、カドルは少しだけ悲しそうな顔をした。そしてすぐに顔を上げると、いつも通りの口調で話しかけてくる。
「なるほどな。じゃあ俺もナオキと同じ学校に行けば良いのか」
「いや、お前は俺と一緒に来なくても大丈夫だぞ?」
「どうしてだ?」
「俺と一緒にいたらカドルにまで迷惑がかかるだろ?」
俺が尋ねると、カドルは何も言わずに黙り込んでしまった。そしてしばらくの間の後、ポツリと呟くように言った。
「……わかった。じゃあ俺一人で行くよ」
「カドル……」
「俺だってもうガキじゃない。自分のことは自分で決めるさ」
カドルはそう言いながら立ち上がると、そのまま立ち去ろうとした。
「カドル!」
俺は思わず呼び止める。カドルは振り返ると、少し困った顔をした。そしてゆっくりとこちらへと戻ってくると、俺の前に座り直した。
「ごめん。何か勘違いさせたみたいだな……」
カドルの言葉を聞いて、俺もようやく自分の早とちりに気付いた。
「いや、こっちこそ悪かったな……」
「別にいいけど……それで?俺には言えないことか?」
「ああ、実はな……」
俺が説明しようとすると、カドルが手で制止してきた。どうやら説明するまでもなく察してくれたようだ。
「そうか……まあ、なんとなく予想はしてたよ」
「えっ?どういうことだ?」
「つまり、その噂のせいでお前は周りから変な目を向けられているんだろう?」
「……」
俺は驚いて何も言えなかった。だがカドルは気にせず言葉を続ける。
「確かにその気持ちはわかる。俺も同じ立場なら同じことをしていたかもしれない。だけど……」
「わかってるよ。お前にそこまでしてもらう義理はない」
「違う!俺はそんなことが言いたいんじゃなくて……俺はただナオキと対等な関係になりたいんだよ」
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