のほほん異世界暮らし

37 秋の始まりと行商人

暑さが和らぎ、秋の気配が少しずつ村に広がり始めた。青々としていた木々も、ところどころ赤や黄色に色づき、村全体が新しい季節を迎える準備をしているようだった。秋は収穫の季節でもあり、村の畑はどれも実りを迎え、穂が風に揺れている。

ある日、いつものように畑で作業をしていると、村の外れから見慣れない荷車がこちらに近づいてくるのが見えた。荷車を引いているのは旅装束を身にまとった行商人で、少しぼさぼさの髪に日焼けした顔が特徴的だった。

「やあ、こんにちは。ここで農業をしているのは君かな？」と、行商人が陽気に声をかけてきた。

「こんにちは。そうだよ、僕はこの村で畑をやっているんだ」と僕も笑顔で答えた。

行商人は名を「ラルク」と名乗り、遠くの町々を旅しながら、各地の特産品や珍しい道具を売り歩いていると言う。ラルクの荷車には様々な品が並べられており、どれも僕にとっては見たことのないものばかりだった。

「今日は秋の収穫が始まる頃だから、良い道具や種があるんじゃないかと思って、寄らせてもらったんだ」とラルクが笑みを浮かべながら話す。

「それは助かるな。ちょうど秋に向けて新しい種や道具が欲しかったんだ」と僕も期待を込めて荷車を見つめた。

ラルクは荷車の中からいくつかの道具や種を取り出し、一つ一つ説明してくれた。中でも目を引いたのは、「オータムアップル」と呼ばれる新しい果物の苗だった。ラルクによれば、この果物は秋に収穫でき、甘酸っぱい味が特徴で、村人たちにも人気があるという。

「オータムアップルか…。なんだか美味しそうだね。ぜひ育ててみたいな」と僕が苗を手に取りながら言うと、ラルクは嬉しそうに頷いた。

「きっと君の畑なら、立派なオータムアップルが育つよ。これからの季節にぴったりだしね」とラルクは自信満々に言った。

さらに、ラルクは「秋の収穫祭」にぴったりの道具も勧めてくれた。収穫祭では村の人々が一堂に会して、お互いの農作物を見せ合いながら料理を振る舞う風習がある。この祭りの準備に役立つ道具や、装飾用の布も取り揃えていた。

「今年の収穫祭、楽しみだね」とラルクが言う。

「うん、毎年楽しみにしている行事だから、今年も張り切って準備しなきゃ」と僕も笑顔で答えた。

その後、僕はラルクからオータムアップルの苗や、収穫祭で使えそうな道具をいくつか購入した。ラルクとの会話はとても楽しく、彼が旅先で見た風景や出会った人々の話も興味深かった。村にいると知ることのない、広い世界の話が次々と飛び出してきて、僕も夢中で耳を傾けた。

「また、旅の途中でこの村に寄らせてもらうよ」とラルクが別れ際に言った。

「ぜひ来てほしい。また色々な話を聞かせてくれ」と僕も手を振って見送った。

ラルクが去っていった後、僕は購入したオータムアップルの苗を丁寧に畑に植え、秋の始まりを実感した。この果物が無事に育ち、村の収穫祭で皆に喜ばれることを想像すると、自然と笑みがこぼれる。

こうして、新しい季節の始まりと共に、村の生活はさらに豊かで賑やかなものになっていった。秋風が吹く中、僕はラルクとの出会いに感謝しつつ、また新たな日々への期待を胸に抱いた。