のほほん異世界暮らし

363 夏祭りの終わりと静けさ共に

夏祭りの賑やかな夜も終わりが近づいてきた。広場の提灯が次々と消され、屋台の片付けが始まる。あんなに賑わっていた場所が少しずつ静寂に包まれていくのを感じると、何とも言えない寂しさが胸に広がる。シャズナとルシファンも同じように感じているのか、足元でじっと僕の動きを見上げている。

「さあ、そろそろ帰ろうか」と声をかけると、シャズナはいつものように優雅な足取りで僕のそばを歩き始めた。一方、ルシファンは少し名残惜しそうに周囲を見回している。きっと、あの賑やかな音や眩しい光が心に焼き付いているのだろう。

魔力式トラックに戻り、エンジンをかける。周囲にはほとんど人影もなくなり、夜風がひんやりと心地よい。窓を少し開けると、花火の残り香や祭りの余韻を感じさせる甘い匂いが漂ってきた。シャズナは助手席で丸くなり、うっすらと目を閉じている。ルシファンは僕の膝に飛び乗って、トラックの窓から外をじっと見ていた。その小さな瞳には、静まり返った祭りの跡が映り込んでいる。

帰り道は静かで、時折虫の鳴き声が耳に届く。賑やかな祭りの喧騒が嘘のような夜の静けさに、少しずつ心が落ち着いていくのを感じた。シャズナはリラックスした様子で体を預け、ルシファンはトラックの振動に身を委ねながら眠たそうにまばたきをしている。

家に着くと、シャズナが先にトラックから降り、静かな庭を軽やかに歩いていく。ルシファンは僕の肩に飛び移り、そのまま一緒に玄関へ向かった。家に入ると、静かな空間が僕たちを迎えた。靴を脱ぎながらふと祭りの光景を思い出す。笑顔が溢れたあの時間が、すでに少し懐かしく感じられた。

シャズナはリビングのソファに優雅に腰を下ろし、ルシファンはその横に小さく丸くなった。僕は少しお湯を沸かし、冷たい麦茶を飲みながらふたりの姿を眺める。さっきまでの賑やかな夜とは対照的な、静かで穏やかな時間が広がっている。

「また来年も行こうな」と、ぽつりと言うと、シャズナは目を細めてしっぽを軽く揺らし、ルシファンは小さく体を伸ばしてくれた。その何気ない仕草に、ふたりと過ごす日常の幸せを改めて噛み締める。

夏祭りの夜が終わり、静寂が訪れるたびに思う。この瞬間もまた、かけがえのない思い出になるのだと。祭りの余韻を胸に、僕はそっと部屋の明かりを落とし、ふたりと共に穏やかな夜へと身を任せた。