のほほん異世界暮らし

みなと劉

文字の大きさ
374 / 945

午後の穏やかな時間

しおりを挟む
クッキーを食べ終えたルシファンは、満足げにお腹を撫で回すように前足で毛づくろいを始めた。その姿はなんとも言えず微笑ましい。彼の小さな体がぽんと座布団の上に埋もれている様子を見ると、思わず笑みがこぼれてしまう。

一方のシャズナは、僕が差し出したクッキーを全て食べ終わると、何事もなかったかのようにそっと立ち上がり、窓際へ向かって歩き出した。彼女はクッキーを楽しんだ後も、どこか上品な雰囲気を崩さない。窓の外に広がる庭の風景を眺めながら、尾をゆったりと揺らしている。その仕草が、まるで「ありがとう。でも、もう少しここで優雅に過ごすわ」という言葉を伝えているように感じられた。

ルシファンもシャズナを追うように窓辺へ向かうと、彼女の隣で器用に立ち上がり、窓から外を覗き込む。小さな手で窓枠を掴み、しきりに外の景色を見ているその姿は、まるで冒険を夢見る少年のようだ。

「二人とも、外がそんなに気になるのか?」と僕が声をかけると、ルシファンが振り返り、「ち!ちち!」と軽く鳴く。その声にはどこか期待感が混じっていて、僕は思わず苦笑した。「今日は午後から予定が空いているし、庭で少し遊ぶのも悪くないかもしれないな」とつぶやきながら、キッチンを片付ける手を早める。

片付けが終わり、玄関の扉を開けると、シャズナとルシファンが我先にと飛び出していく。庭の柔らかな芝生の上を、ルシファンはまるで小さな弾丸のように駆け回り、シャズナはその後ろを優雅に追いかける。その姿を見ていると、二匹の性格が対照的でありながら、絶妙に調和しているのを改めて感じる。

ルシファンが勢い余って小さな石に躓き、コロンと転がった瞬間、シャズナがすぐに駆け寄り、彼を優しく見守る。その光景は、まるで姉が弟を気遣うような愛情に満ちていた。ルシファンも特に気にした様子はなく、立ち上がるとまた芝生の上で転げ回り始める。

僕は縁側に腰を下ろし、そんな二匹の様子を眺めながら一息つく。「お前たち、本当に楽しそうだな」とぼそりとつぶやくと、まるでその声が届いたかのように、ルシファンが駆け寄ってきて膝の上に飛び乗った。彼はくるくると尾を振りながら「ち!」とひと鳴きし、そのまま僕の膝の上で丸くなる。その重みと温もりに、僕の心も自然と穏やかになる。

シャズナもその様子を見ていたのか、ゆっくりと近づいてきて僕の隣に腰を下ろした。彼女は鼻先で軽く僕の腕を突き、「次は私の番よ」とでも言いたげな顔をしている。僕は笑いながら彼女の頭を優しく撫で、言葉にせずとも伝わる彼らの愛情に心を満たされるのを感じていた。

午後の穏やかな時間、シャズナとルシファンとの何気ないひととき。そんな小さな幸せが、僕の世界を照らしてくれているのだと、改めて思い知らされた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...