のほほん異世界暮らし

帰ってから苗を植える準備をする

家に帰り着く頃には、日はすっかり傾き始めていた。市場での活気や行商人たちとのやりとりを思い返しながら、魔力トラックをゆっくりと農場の倉庫へ停める。助手席に座っていたシャズナが軽やかに飛び降り、「にゃあ」と一声挨拶代わりに鳴いた。続いてルシファンも勢いよく飛び降り、周囲をくるくると走り回る。その小さな体が嬉しそうに跳ねる姿は、なんとも微笑ましい。

「さて、苗を植える準備をしないとな」と僕が呟くと、ルシファンがすぐに「ちち！」と声を上げて駆け寄ってきた。まるで「僕も手伝う！」と言いたげなその姿に、思わず笑ってしまう。一方のシャズナは、少し距離を取った場所で涼しい顔をして毛づくろいをしている。彼女の態度はいつもどおりだけど、そのしっぽがわずかに揺れているのを見ると、興味がないわけではなさそうだ。

夕暮れの涼しい風が心地よく、僕たちは農場の一角に魔法茶の苗を植えるための新しい畑を整え始めた。朝からの作業で体は少し疲れているものの、このひとときは妙に満たされた気持ちにさせてくれる。クワを手に土を掘り返していると、ルシファンがそばに寄ってきて、小さな足で土を掻き分けるような仕草をする。

「おいおい、そこはまだ掘らなくていいんだ」と軽く注意すると、「ち！」と声を上げて、まるで「わかった」とでも言うように僕を見上げる。その愛らしい仕草に、思わず作業の手を止めてしまった。

一方、シャズナはというと、少し離れたところから僕たちを見つめている。彼女は手を貸すことはないが、ルシファンの一挙一動に時折「ふん」と鼻を鳴らしている。きっと彼女なりの方法で僕たちを見守っているのだろう。

畑の準備が整い、魔法茶の苗を慎重に植えた後は、水やりだ。夕陽が赤く染める空の下、じょうろで苗に水を注ぐ。シャズナがそばにやってきて、前足を軽く伸ばして土を嗅ぎながら、「にゃ」と小さく鳴く。その声はどこか満足げで、植えた苗を気に入ってくれたようだ。

「これから育つのが楽しみだな」と僕が呟くと、ルシファンがまた「ちち！」と賛同するような声を上げる。僕たちの作業を見届けたあと、二匹はそろって庭の方へ走り去っていった。その後ろ姿を見送りながら、僕も軽く伸びをして、今日の充実感を体全体で味わう。

家に戻ると、シャズナとルシファンはすでに自分たちのお気に入りの場所でくつろいでいた。シャズナは窓際で外を見つめながら毛づくろいをし、ルシファンは僕の足元で丸くなって眠り始めている。その静かな時間が、今日という一日の終わりを心地よく締めくくってくれる。

台所では、夕食の準備を進めながら市場で購入した新鮮な食材を眺める。これからどんな料理を作るか考えるのもまた楽しいひとときだ。シャズナとルシファンの存在が、どんなに普通の一日でも特別なものにしてくれる。彼らとの暮らしの中で、小さな幸せが積み重なっていくのを感じながら、僕は明日への期待を胸に秘めていた。