のほほん異世界暮らし

みなと劉

文字の大きさ
556 / 945

寒さ残る春の朝

しおりを挟む
春の足音が近づいてきているとはいえ、朝の空気にはまだ冬の名残が感じられる。起き抜けに窓を開けると、ひんやりとした風が頬を撫で、思わず首をすくめてしまった。外の畑には霜がうっすらと降りており、土はまだ冷たそうだ。

コートを羽織り、マフラーを巻いて庭に出る。シャズナが「にゃー」と小さく鳴きながら後ろをついてくる。リッキーはいつものように跳ね回り、ルシファンは慎重に足元を確認しながら歩いていた。

「今日はまだコートが手放せないな。」

そう呟きながら、庭先のプランターを確認する。先日蒔いた早春の種から、いくつかの芽が出始めているのを見つけ、心がほっと温かくなった。春の訪れを待ち焦がれつつも、寒さと向き合いながら少しずつ季節が移ろうこの時期が好きだ。


---

市場での再びの出会い

朝食を済ませた後、再び市場に向かうことにした。今日は生活用品を買い足すつもりだが、もし面白いものがあればそれも手に入れるつもりだった。魔力式トラックに乗り込むと、シャズナが助手席に飛び乗り、ルシファンとリッキーも後ろに収まる。

道中、田園地帯を抜けるころには陽射しが少しずつ暖かさを増してきた。それでも風は冷たく、車の窓を少し開けると、シャズナが「にゃん」と不満そうに鳴いた。

市場に到着すると、冬物の厚手のコートやマフラーを手にした人々が行き交い、その中で行商人たちの活気ある声が響いていた。ふと目に留まったのは、珍しいハーブの種を売る小さな店だった。店先には「雪見草のハーブ」と書かれた札が立てられ、香りのよいサンプルが並べられている。

「これも春先に植えるといいのかい?」

行商人はにこやかに頷き、使い方や効能について丁寧に説明してくれた。料理にも使えるという話に惹かれ、いくつかの種を購入した。


---

帰り道と冬の名残

買い物を終え、帰り道を走るころには日が高く昇り、空気は少しだけ柔らかくなっていた。それでも、影の多い小道にはまだ雪が残り、鳥が羽ばたく音が静かな田園地帯に響いていた。

道端で二匹の鹿が草をついばむ姿を見かけ、トラックを少し減速させる。後ろでリッキーが「ぴっ」と短く鳴き、シャズナが助手席から好奇心いっぱいの眼差しで鹿を見つめる。ルシファンは窓に前足をかけて「ちち!」と控えめに鳴いた。

家に帰り着くと、トラックのエンジン音を聞きつけた三匹は大興奮でドアの前に集まった。僕がドアを開けるやいなや、勢いよく部屋の中に突進していく。

「お前らは仲がいいな、本当に。」

微笑みながら荷物を降ろし、家の中に戻ると、三匹はそれぞれの居場所でくつろぎ始めていた。


---

春への準備と変わらぬ寒さ

その夜、家の中では暖かなストーブの火が揺れ、僕は買ってきたハーブの種を見ながら来週の予定を立てていた。春野菜の世話や、種まきのタイミングを考えるだけで、自然と気持ちが前向きになる。

けれども、夜に窓の外を見ると、月明かりに照らされた雪がまだ庭の隅に残っていた。冬はそう簡単には去らないらしい。

「もう少し寒さが続くけど、春もすぐそこだな。」

布団の中に潜り込むと、シャズナがすぐ隣に寄り添い、リッキーは足元で丸くなった。ルシファンは頭の上のクッションに陣取っている。三匹に囲まれながら、僕は静かに目を閉じた。冬の名残を感じつつも、確実に近づく春の気配に心を馳せるのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...