のほほん異世界暮らし

みなと劉

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――そして、春祭りの夜がやってきた。

村の広場に焚き火が灯され、炎の明かりがゆらゆらと空へ踊る。昼間の喧騒とはまた違った、穏やかで幻想的な雰囲気に包まれていた。音楽も少しトーンを落とし、木笛や弦の音が静かに夜を彩っている。

僕たちの屋台もひと段落し、カイルと一緒に少し腰を下ろして夜風にあたっていた。

「ふう、よく売れたな。完売だよ」

「うん。みんな楽しそうだったね」

焚き火のそばでは、子どもたちが光る石を拾っては笑い合っている。魔力石の欠片が混ざった小石が光るのは、春祭りの夜だけの不思議な現象だ。地面から湧き上がる魔力のせいだと、昔から言われている。

ふと気づくと、シャズナが膝の上に乗っていた。昼間あれほど遊びまわっていたはずなのに、まるで別猫のように静かで、ぽんと僕の膝に収まって眠っている。ほんのり温かい。

ルシファンはカイルの肩に乗っていて、じっと焚き火の炎を見つめていた。耳と尻尾が揺れて、なにか言葉にできない感情を感じているようにも見える。

リッキーはというと、少し離れた花壇の中で丸くなっていた。鼻をひくひくさせながら、花の香りを味わっているらしい。角の飾りは少し歪んでいたけど、本人(本兎?)はまったく気にしていないようだ。

「来年も、またこうしてみんなで来たいな」

僕がそうつぶやくと、シャズナがふにゃっと甘えるように身体を押しつけてきた。言葉はなくても、きっと通じている。

春の夜風がそっと吹き抜けて、焚き火の火が小さく揺れた。

世界は静かで優しくて、まるで夢のように満ちていた。

――そのときだった。

「……あれ? 誰か……いる?」

カイルが急に顔を上げた。焚き火の向こう、広場の端に立つ一本の桜の木の下に、誰かの影が見えたような気がした。人影。でも見慣れない姿――長いマントを翻し、動物を連れていたようにも見える。

シャズナがぴくりと耳を動かし、ルシファンも背を伸ばした。リッキーもこちらに戻ってきて、じっとそちらを見つめている。

「……今、誰かいたよな?」

「うん。でも……消えた?」

風が吹き、桜の花びらがひとひら、空を舞った。

祭りの夜。静かに始まる、ちいさな謎の気配――。

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