のほほん異世界暮らし

みなと劉

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秋の陽ざしが斜めに傾く午後。

王都からの視察が去って数日。僕とカイルは、倉庫の軒先でアークミントの乾燥具合を確かめながら、黙って作業を続けていた。シャズナは足元で丸まり、うとうとしている。

風が吹き抜け、乾いたミントの香りがふわりと舞った。

「なあ、カイル」
「うん」
「……王都の話、どうする?」

彼はしばらく黙っていたが、やがて作業の手を止めて、天を仰いだ。

「断ろう。俺はやっぱり、ここがいい」

僕は頷いた。言葉にしなくても、気持ちは同じだった。

この土地で育ててきた畑、村の人たちとの繋がり、季節の巡りを肌で感じられる毎日。そして――この穏やかで確かな日々のなかに、僕たちの“正解”がある。

「王都で評価されるのは嬉しいけど、あっちで“もっと”を目指すより、ここで“ちゃんと”やっていきたい」
「うん。俺たちにとっての“豊かさ”って、きっと違うんだよな」

シャズナが小さく「にゃ」と鳴いて、体を伸ばす。
リッキーが茂みから飛び出してきて、草の実を鼻にくっつけたまま駆け回り、ルシファンはそれを冷めた目で見つめている。

でも――その瞳の奥には、静かな安心があった。

「シャズナも、王都じゃ日なたぼっこする屋根がなくなるもんな」
「リッキーは人の多いとこ苦手だし、ルシファンは……移動の馬車で酔うだろ、絶対」

ふたりで笑った。

どんなに立派な申し出であっても、この小さな命たちと過ごす日々を揺るがすものではない。
それを僕たちは、誰よりもわかっている。

その夜。

ミュリィのもとへ足を運び、王都の申し出を丁寧に断る旨を伝えた。ミュリィは少し寂しそうな表情をしたあと、すぐにいつもの笑顔でうなずいた。

「そうなると思ってたよ。でも、それでいいと思う。あんたたちが誇れるものは、王都に行かなくたって、ちゃんとここにあるから」

彼女の言葉に、胸が少し熱くなった。

翌朝。
また陽が昇り、いつもと変わらぬ農園の一日が始まる。
リッキーが畑を飛び跳ね、ルシファンが魔力石を丁寧に点検し、シャズナは屋根の上でまぶたを閉じる。

畑には、次の作物の芽が小さく顔を出している。

未来は、ここにある。
王都よりも、ずっと近くで、土の上に。

僕たちは今日も、この場所で生きていく――。
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