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第4話 戦乙女の秘密
しおりを挟む砦での訓練がひと段落し、アルフレッドはようやく束の間の休息を得た。広場の片隅に腰を下ろし、ふぅと息を吐きながら空を見上げる。青空に浮かぶ雲はどこまでも穏やかで、ここが戦乱の時代であることを一瞬忘れさせる。
「こんな平和な時間が続けばいいんだけどな」
独り言を呟いたその時、後ろから声がした。
「何をしている? 訓練をさぼる気か?」
振り返ると、シルフィアが腕を組んで立っていた。その凛とした姿は相変わらずで、しかしどこか以前より柔らかさを感じさせる。
「さぼってるんじゃないさ。ただ、少し休みたかっただけだ」
アルフレッドが肩をすくめて答えると、シルフィアはため息をつきながら彼の隣に座った。その意外な行動に、アルフレッドは少し驚いた。
「珍しいな。お前が座るなんて」
「私だって休みたい時はある。それに……」
そこで言葉を切り、シルフィアは空を見上げた。その横顔はどこか儚げで、いつもの威厳ある表情とは違う雰囲気を漂わせている。
「それに?」
アルフレッドが促すと、シルフィアは小さく息を吐き、ぽつりと言った。
「お前と話がしたかっただけだ」
その言葉に、アルフレッドは目を丸くした。冗談めかして笑おうとしたが、彼女の真剣な表情を見て口を閉ざす。
「……俺と?」
「ああ。お前は不思議だ。他の人間とはどこか違う。試練を乗り越えたことだけが理由ではない。お前の剣の向こうにあるものが、どうしても気になってしまう」
シルフィアの言葉には真摯な思いが込められていた。それを聞いたアルフレッドは少しだけ頬を掻きながら答える。
「大したもんじゃないさ。ただ、生きるために剣を振ってきただけだ。それ以外は……何もない」
「それでもいい。お前は偽りを口にしない。それが、私にとっては十分な理由だ」
その瞬間、シルフィアの唇がわずかに緩み、柔らかな微笑みが浮かんだ。それは戦乙女という仮面を脱いだ、ひとりの女性の表情だった。
アルフレッドは不意に心臓が跳ねるのを感じ、慌てて視線を逸らす。
「お前、意外と笑うんだな。少しびっくりしたよ」
「笑うことがそんなに珍しいか?」
「いや、いつも真面目だからな。その笑顔、悪くないと思う」
からかうつもりで言った言葉だったが、シルフィアはむしろ堂々とした態度で答えた。
「そうか。それなら、これからもっと笑う機会を作ってくれ」
彼女の真っ直ぐな瞳に、アルフレッドはしばらく言葉を失った。そして小さく笑い返しながら呟く。
「その言葉、後悔するなよ?」
こうして二人の距離はまた少し近づいた。穏やかな時間が流れる中、二人の心には、言葉にはできない何かが芽生え始めていた。
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