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外伝・キャラクターストーリー(スコルVer)(完)

スコル②

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 山の中を駆け抜けること数十分何事もなく無事に山を抜けることができたが森は未だに続いており一向に出口は見えない。
 途中、二メートル程異常に伸びた背の高い草むらに差し当たるのだが最短で獣人の町に行くにはそこを通るしかなく、立ち止まらずそのまま背の高い草むらの中を突き進む。
「もうそろそろかな?」
 突如として足を止めて耳を澄ます。
 狼の聴覚は約半径十六キロ先、森の中ならば約半径十キロ先の音を聞き分けると言われている。それは狼の獣人も同じである。
 そして彼女の耳に届いたのはふわりと優しく流れる風が草木を攫うことで生まれる自然の楽器の音。その中にザクッザクッと何かが枝や落葉の上を踏んでいる音も遠くに聞こえる。
 彼女が警戒しているのはその足音の主。
 その主はこの森の主で熊を催す大きな魔物。ちゃんとした道を通れば主には出会うこともないが、彼女のように背の高い草が生えた茂みを通ろうとすると本能からなのか自身のテリトリーに入ってきた侵入者のところに向かって歩く、そのためテリトリーに入ると必ず出くわしてしまうと言われている。
 そして大きな図体をしているからなのかビックリするくらいタフ、瀕死するほどダメージを与えても数ヶ月後には何事もなかったかのようにピンピンしているのである。
 しかし彼女の耳が、人狼の耳があれば足音を聞き分け主との遭遇を回避することが可能、だからこうして耳を澄ますのだ。
「よし……距離もあるしそのままここ抜けよっと……」
 すっと右足を後ろにやり。
「加速《アクセラレート》!」
 そう唱えると右足に白色の魔法陣が幾つも展開され始め、ぐっと土を踏んで勢いよく地面を蹴る。
 たったそれだけでその場に土煙を舞い上がらせあたかも転移したかのように一瞬にして背の高い草むらを駆け抜け森を抜けた。
 今のは魔法と呼ばれるもの。魔法は色んな種類が存在し今となっては生活に欠かせないと言われている程だが、中には犯罪に使われるような魔法も存在する、しかしそれに対抗するべく動く組織も存在するため治安は悪くは無いのだ。
「うひゃあっ!?」
 突如としてまたその場から彼女が消える。
 と言うより森を抜けてすぐの地面がぬかるんでおり、それによって足を取られてズザザザと音を出しながら滑ったのだ。
 加速《アクセラレート》によりかなりのスピードが出ていたため滑ったことで宙に浮きその勢いで数メートル程綺麗に飛んでいく。
 直後地面に背中を強打しつつ着地するのだが、奇跡的に背中を強打した以外は怪我を負わなかった。
「痛ててて……雨でも降ってたのかな?」
 背中に手を当て起き上がり、周囲の土や草の状態を見る。
 しかし周辺の土は乾いており滑るほど柔らかくはなく雑草しか育たないような質の悪い固い土、草はその土の質からか花という花は咲いていなく雑草のみでこれまた濡れてはいない。
 では一体何故滑ったのか、それを確かめるべく滑った所へと戻る。
「な、なにこれ……」
 そこにあったのは匂いもない半透明の白っぽい液体。近くにあった枝でそれを触ってみるとかなりドロッとそしてねばっとしていることが分かる。
 更にその液体があるところに生えていたであろう草はない。今は効力を失くしているがこの液体は酸性で物を溶かす性質があるようだが、液体でできたスライムはここまで粘ついておらず白くはない。
 一体なんの液体なのかそれはすぐわかることとなった。
「ぐわぁぁぁぁーー!!」
「なに!?」
 男性の悲鳴が森の中ではない別の場所から響き彼女の耳に届き、それと同時に錆びた鉄の様な臭いも彼女の鼻を刺激する。
 直ぐにその臭いを辿り歩みを進めるが、辿っていくにつれて錆びた鉄の様な臭いはどんどん強くなっていく。
 暫く歩みを進めていると、
 グチャッ
 ベチャッ
 ボキッ
 というなんとも不快な音が聞こえ始め吐き気がしてしまう程臭いも酷くなっていた。更に血溜まりと先程足を取られた液体が近くにあり、その血と液体が同じ方向に向かって点々と落ちていた。
 恐る恐る辿ると小さな山に出来た洞窟にたどり着く、先程から彼女の耳に届く不快な音もここから聞こえていた。
 ゴキゴキッグチャバリーー
 眼鏡をかけるほどではないが視力は悪く、暗い所はあまり見えない。そのため中を覗いても何も見えないが、耳に伝わるその不快音から中の状況を確認することはできた。
「捕食……てことはこの臭いは……血?とにかく見つかる前にここから離れよう」
 洞窟の中じゃ一人でどうにもできないと判断し踵を返す。だが、天が彼女を見放したのか運悪く落ちていた枝を踏み折り、その音で焦りが生じ転倒してしまう、それでも何とか持ち直しすぐ近くの大岩に隠れることにした。
 転倒した際に大きな音が出ているためそれにより洞窟の中にいた物は直ぐに捕食を止め外にでてくると思ったからである。
 直後その読みは現実となった。
 洞窟からずしりずしりと重たい音が聞こえ始めたのである。
「あれ……この足音森の中で聞いたのと同じ……?」
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