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外伝・キャラクターストーリー(スコルVer)(完)

スコル④

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「な、なななななな、なんかくっついてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
 涙目になりながらもわたわたとその場を走り回りつつ腕を縦に激しく振り生々しい肉をなんとか取っ払う。
 その間におぞましいモノはまた攻撃しようと腕を振り上げるが、ちょこまかと走り回る彼女に狙いが定まらず揚げ句のはてには彼女がいないところに腕を振り下ろし地面を叩きつけた。
 無論それによりまたも地面が大きく揺れ彼女は転んでしまう。
 直後揺れは止み彼女は我に返った。
「き、気持ち悪かった……てかいつの間に肉とれたんだろ……」
 直ぐに体制を整え今度は腕ではなく本体の足を狙い攻撃を繰り出す……のだが足も腕と同様に柔らかくまたもや拳がめり込んでしまう。
 二回目だからこそ不思議なことに疑問を抱く。こうして拳が肉にめり込んでいるというのにも関わらずおぞましいモノは一切悲鳴をあげないのだ。
 逆に最初洞窟から出てきたときよりも少しだけサイズが小さくなっているような……そんな疑問を彼女は抱く。
「またぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 本日二度目の彼女の悲鳴が周囲に響き渡る。かといって下級の魔物や人を呼び寄せるみたいなことはないのだが。
 その後先ほどと同じ現象が起こり今度は腕を大きく振り下ろしてその遠心力でくっついた生々しい肉を剥がす。
 そしてまた地面を揺らしと一連の行動がまるで作業ゲームのように暫く続いた。
 ーーしかしこのときはまだ目の前にいる悍ましいモノの力と恐ろしさのことを彼女は知らずにいた。
 約十分程度たった頃おぞましいモノに変化が見えた。
「グルァァァ!!」
 とおぞましいモノが鳴いた瞬間彼女の近くの地面が何故か一瞬で小さなクレーターすなわち穴ができていた。
 更にもう一つ、またもう一つと穴を作っていく。
 よくよく見ればおぞましいモノは最初の頃よりも肉がなくなり細身になっていた。
 さらには周りにおぞましいモノに付いていたであろう継ぎ接ぎの肉片が転がっている。まさにアーマーブレイクといったところだ。
「ちょっ!これは本当に受けたらやばいよぉ!?」
 勢いとパワーが最初よりも格段に上がっているからこそ、おぞましいモノの攻撃は一度当たれば確実に死に至ると悟ってしまう。
 それもそのはず、おぞましいモノの振り下ろす腕の重さは細身なのにも関わらず一トン以上、さらに速度も時速百メートル以上はある。そんなものが地面を叩けばクレーターができて当然というものだ。
「どうにかできないかな……っとと!」
 この状況を打開するべくと考えていると急に接近されおぞましいモノの腕が振り下ろされる。油断すればするほど危険となる攻撃なのだが彼女は余裕な表情を浮かべ、まるでこの状態を楽しんでいるかようにすっと素早い攻撃を躱し距離を置いていた。
 というのも彼女はおぞましいモノが素早く振り下ろす腕を数回見たところで見切り始めていたのである。
 そのため余裕な表情を見せつつ更にはおぞましいモノをナメているように別のことを考えているという事だ。
「これ以上早くなられると流石に追いつくのも難しいし……だからといって数少ない精力使うのもなぁ……放っておくのも怖いし……ええい!ままよ!一閃一打セルト!」
 ぐっと右手を握りしめなにか吹っ切れたかのように大声で言い放った。
 ただ加速アクセラレートとは違い魔法陣は出現しない、その代わりに握りしめた右手が赤く……否青く、否緑ーーともかく右手が虹色に淡く光っているのだ。
 そしてその刹那、彼女は自殺行為と思われるような行動に打って出る。
 おぞましいモノの腕の間合いに自ら向かって行ったのだ。
 もちろんおぞましいモノも向こうから間合いに入ってきたからにはと背中から生えた腕を思い切り振り上げ構えている、そしてグググッとめいいっぱいに力を溜めて腕を震わせていた。
「まずはーー」
 それがわかった途端キュッと突き進むのをやめその場に止まる……かと思いきやすっとしゃがみ姿勢を低くし何かを待つ。
 直後ドッという重いものが風を切る音たて何があったのか一瞬にして砂埃が舞い上がる。
 風が吹き砂埃がなくなる頃、砂埃に包まれた彼女、おぞましいモノが見えてくるのだが何やら様子がおかしい。
 おぞましいモノの動きが完全に停止しているのだ。しかし絶命したわけではない。完全に自身が持てるスピードとパワーを乗せ直撃コースで振り下ろした腕が無くなっていることに思考が追いついていないのだ。
 逆に彼女は淡く光っている右手を上へと突き出しているだけ。
 そして完全に砂埃が収まった瞬間彼女は下に落ちているおぞましいモノの腕をみてニヤけ。
「一本!」
 と大きく言いもう一度右手を構え直した。
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