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第一幕・擬態者の核を砕け
魔石
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「うう~まだベタベタする~」
それから数分後、荷物からフードポンチョと衣類を抜き取り木陰でササッと着替えていた。
フードポンチョはパーカーと同じく目立たない灰色だが、下がハーフズボンからスカートへと変わっている。さすが乙女……いや否だ。近場に水場もないため、スライムの粘液はある程度手で落とすしかない。そのため未だにベタっとした感触が常に感じられる。故に女性ならではの開放感がある、その衣服を選んだのだ。
「着いたら直ぐにお風呂ですね……その為にも早く行きましょう」
直後まるで徒競走をするかのように急に走り始めた。
それも開放感のあるスカートを履いているにも関わらずだ。それだけスライムの粘液を早く落としたいのだろう。
「あの双子、元気いいなぁ……」
と妖精が二人の走る速さに合わせて飛行し呟いた途端、急に彼女等の足が止まった。
走ってまだ数メートル程なのだが、不思議と宝石のように透き通った綺麗な石が彼女達の足元に転がっていたのだ。
勿論普通ならばそんな石ころというふうに思うかもしれないが石ころという雰囲気ではなくもっと別な強力な何かが感じ取れるほど周りの石とは違うと見ただけで知らされる。
「急に止まったかと思ったら……魔石ね」
「魔石?」
「魔物が偶に落とす、命の結晶みたいなもの……って本当に何も知らないのね……」
獣人の森の外の世界の事を本当に知らないという事実を改めて知らされることとなり、短く溜息を放つ。
しかしそれはよく知られた魔物を殆ど認知していない時に分かりきっていること、毎回呆れても意味が無い。
だからこそ考えを改め、今一度外の世界をゼロから教えるかのように魔石の説明をし始める。
「魔石の中には魔物の魔力が込められてるの。……なんでここにあるのかは知らないけど案外貴重な物だから持っておいて損は無いよ」
そう言われ彼女等は恐る恐る魔石を拾う。だが触れただけでは何も起きず、ほっとし魔石を荷物の奥底へとしまうのだった。
「そう言えば遠目に見えるあの街がそうだよね~?」
「そうですよ。人の街、ミズガルズ……懐かしいですね」
「そうだねぇ~」
「街の名前は覚えてるのね」
「一度だけ来たことがありますから……」
ふと街に向かう前にあたりを見渡すと、遠くに街があることが遠目ながらも見て取れる。
距離は約三十キロと言ったところか。
しかし、彼女等は人の街ーーミズガルズに行くのは初めてではない。過去に実の母親が人の手により殺されてしまうところを、その地で見ているからだ。だが彼女等は人を恨まない。母親が亡くなりその後にいなくなった父親が人を恨むな、恨めばそれは自身に帰ってくるとしつこく言っていたからだ。
とは言うものの喪失感や悲しみ、怒りは隠せない。だからこそミズガルズを見ると暗い表情を見せてしまうのだ。
ならば何故ミズガルズに引っ越す必要があるのか、疑問になることだろう。
その理由はハティ、スコル二人が母親から受け継いだ意志『人狼を信用させる』ーーつまり人と人狼の仲を深め、人が人狼を殺さない世界を作るという目的があってこそ。勿論それ以外にも亡くなった母親を近くに感じたいという理由で引越しを決断したのだ。
「そういえば〈擬態〉って魔法どんな魔法なんでしょうか?」
「〈擬態〉……まぁ名前の通りよ。人の姿や身体の一部を背景に溶け込ませる魔法よ」
「なるほど、便利な魔法ですね!ミズガルズにもうそろそろ着きますし、念の為使っていいですね」
そう言ってパラッとページを捲ると空白だったはずの三ページ目にはぎっしりと文字が刻まれており〈擬態〉の詠唱文が載っていた。それ以外にも解説やらなんやらも書いてあり、もはや魔導書と言うより教科書。だがそれら全てが解読しないと読めないような難解な文字で書かれている。結果、詠唱文を唱えようとしても詠唱ができない状態になってしまっていた。
「ま、まさか、省略詠唱も知らないの!?」
「省略詠唱……ですか?」
「いや、もう……えぇ……フェンリルは何も教えなかったのね……」
「なんですか、省略詠唱は基本だって言うんですか?じゃなくて省略詠唱を知らないからってそんなに引かなくてもいいじゃないですか。というかなんでそんなに離れるんですか!」
一から教えなければという決意をしていた妖精だが、まさか絶対に習うはずの基礎中の基礎である省略詠唱を、彼女は知らず呆れを越し妖精は一メートル程距離を置きつつ引いてしまっていた。
「……あ、ハティ~私の耳と尻尾が透明になるようなイメージして~そのカリフラワーを唱えてみて~」
「カリフラワー!?まあ、言っていることはわかりましたけどカリフラワーは唱えませんよ!?」
「え~」
「って何で、スコルが省略詠唱知ってるの!?」
「だって基礎中の基礎でしょ~っていうのは嘘で多分詠唱なんてしないで気持ちを込めればいけるんじゃないかな~って思っただけ?」
その言葉を聞いたハティと妖精は「えっ?」といわんばかりにキョトンとした顔を浮かべ、スコルを見つめ、まさかと思いつつ彼女が言ったようにハティは省略詠唱を始めた。
それから数分後、荷物からフードポンチョと衣類を抜き取り木陰でササッと着替えていた。
フードポンチョはパーカーと同じく目立たない灰色だが、下がハーフズボンからスカートへと変わっている。さすが乙女……いや否だ。近場に水場もないため、スライムの粘液はある程度手で落とすしかない。そのため未だにベタっとした感触が常に感じられる。故に女性ならではの開放感がある、その衣服を選んだのだ。
「着いたら直ぐにお風呂ですね……その為にも早く行きましょう」
直後まるで徒競走をするかのように急に走り始めた。
それも開放感のあるスカートを履いているにも関わらずだ。それだけスライムの粘液を早く落としたいのだろう。
「あの双子、元気いいなぁ……」
と妖精が二人の走る速さに合わせて飛行し呟いた途端、急に彼女等の足が止まった。
走ってまだ数メートル程なのだが、不思議と宝石のように透き通った綺麗な石が彼女達の足元に転がっていたのだ。
勿論普通ならばそんな石ころというふうに思うかもしれないが石ころという雰囲気ではなくもっと別な強力な何かが感じ取れるほど周りの石とは違うと見ただけで知らされる。
「急に止まったかと思ったら……魔石ね」
「魔石?」
「魔物が偶に落とす、命の結晶みたいなもの……って本当に何も知らないのね……」
獣人の森の外の世界の事を本当に知らないという事実を改めて知らされることとなり、短く溜息を放つ。
しかしそれはよく知られた魔物を殆ど認知していない時に分かりきっていること、毎回呆れても意味が無い。
だからこそ考えを改め、今一度外の世界をゼロから教えるかのように魔石の説明をし始める。
「魔石の中には魔物の魔力が込められてるの。……なんでここにあるのかは知らないけど案外貴重な物だから持っておいて損は無いよ」
そう言われ彼女等は恐る恐る魔石を拾う。だが触れただけでは何も起きず、ほっとし魔石を荷物の奥底へとしまうのだった。
「そう言えば遠目に見えるあの街がそうだよね~?」
「そうですよ。人の街、ミズガルズ……懐かしいですね」
「そうだねぇ~」
「街の名前は覚えてるのね」
「一度だけ来たことがありますから……」
ふと街に向かう前にあたりを見渡すと、遠くに街があることが遠目ながらも見て取れる。
距離は約三十キロと言ったところか。
しかし、彼女等は人の街ーーミズガルズに行くのは初めてではない。過去に実の母親が人の手により殺されてしまうところを、その地で見ているからだ。だが彼女等は人を恨まない。母親が亡くなりその後にいなくなった父親が人を恨むな、恨めばそれは自身に帰ってくるとしつこく言っていたからだ。
とは言うものの喪失感や悲しみ、怒りは隠せない。だからこそミズガルズを見ると暗い表情を見せてしまうのだ。
ならば何故ミズガルズに引っ越す必要があるのか、疑問になることだろう。
その理由はハティ、スコル二人が母親から受け継いだ意志『人狼を信用させる』ーーつまり人と人狼の仲を深め、人が人狼を殺さない世界を作るという目的があってこそ。勿論それ以外にも亡くなった母親を近くに感じたいという理由で引越しを決断したのだ。
「そういえば〈擬態〉って魔法どんな魔法なんでしょうか?」
「〈擬態〉……まぁ名前の通りよ。人の姿や身体の一部を背景に溶け込ませる魔法よ」
「なるほど、便利な魔法ですね!ミズガルズにもうそろそろ着きますし、念の為使っていいですね」
そう言ってパラッとページを捲ると空白だったはずの三ページ目にはぎっしりと文字が刻まれており〈擬態〉の詠唱文が載っていた。それ以外にも解説やらなんやらも書いてあり、もはや魔導書と言うより教科書。だがそれら全てが解読しないと読めないような難解な文字で書かれている。結果、詠唱文を唱えようとしても詠唱ができない状態になってしまっていた。
「ま、まさか、省略詠唱も知らないの!?」
「省略詠唱……ですか?」
「いや、もう……えぇ……フェンリルは何も教えなかったのね……」
「なんですか、省略詠唱は基本だって言うんですか?じゃなくて省略詠唱を知らないからってそんなに引かなくてもいいじゃないですか。というかなんでそんなに離れるんですか!」
一から教えなければという決意をしていた妖精だが、まさか絶対に習うはずの基礎中の基礎である省略詠唱を、彼女は知らず呆れを越し妖精は一メートル程距離を置きつつ引いてしまっていた。
「……あ、ハティ~私の耳と尻尾が透明になるようなイメージして~そのカリフラワーを唱えてみて~」
「カリフラワー!?まあ、言っていることはわかりましたけどカリフラワーは唱えませんよ!?」
「え~」
「って何で、スコルが省略詠唱知ってるの!?」
「だって基礎中の基礎でしょ~っていうのは嘘で多分詠唱なんてしないで気持ちを込めればいけるんじゃないかな~って思っただけ?」
その言葉を聞いたハティと妖精は「えっ?」といわんばかりにキョトンとした顔を浮かべ、スコルを見つめ、まさかと思いつつ彼女が言ったようにハティは省略詠唱を始めた。
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