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第一幕・擬態者の核を砕け

Full Moon Night(後編)

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「スコルさん、ハティさんって本当にお酒苦手とかじゃないよね……?」

「苦手じゃないけどね~でも久々に見れるから私は止めないよ~」

「見れるって何を!?」

 金色の液体を嫌そうに眺めているハティを見たエリスは改めてハティが酒を嫌いではないのかとスコルに問う。しかし返ってきた返事はとても意味深なもので何を見れるのかと驚いていると、ガタッという音が部屋に響いた。

 音がしたのはハティの方から。目線をずらしているうちに目の前にあった金色の酒を飲み干し急に立ち上がっていたのだ。

「エリエリ~言うの忘れてたけど覚悟しておいた方がいいよ~」

「何を!?」

 とスコルがまたも意味深な事を言うと同時に何かに押されたかのごとくその場に倒れて……いや、何かではない。急に立ち上がっていたハティが猛烈な速さでスコルに近づき押し倒したのだ。

「スコル大好きだよ!」

「わかってるよ~ハティ~」

 ふわっとした黒尻尾をパタパタと激しく振りつついつも丁寧な口調で話すハティから思わぬ言葉が発せられていた。

 というのも実はハティは酒には弱く、一杯だけで酔ってしまい本来の自分をさらけ出している状態になってしまったのだ。

 故なのか昼頃スコルとエリスがハティにやった事ーーつまり獣耳や尻尾をわしゃわしゃとされども優しくもふりと弄り始める。勿論普段のハティならば決してやらないだろう。それがたとえ周りに人が居なくても。

 もはや今のハティは全くの別人だと、酒を飲ませたエリスが思った瞬間、今度はエリス自身が押し倒されていた。

「えっ……ええぇ!?」

「エリス……可愛い」

「えっちょっ!ふぁっ!?」

 驚いていたエリスを横目で捉えたハティが、すかさずスコル弄りからエリスにスイッチーー切り替えると押し倒した直後ぺろりと彼女の顔を、耳を舐め始めた。

 だがその行為は動物本来の本能ならではのことで犬や猫はこうして毛繕いをする。

 しかし彼女は動物と言うより獣人。人の心もあるため普通は毛繕いのために舐めることなど一切ない。だが舐めることを決して止めることは無く顔や耳以外にも喉や腕など他の場所も舐め続けていた。

 もはや人狼というよりは完全に犬だ。

「ひっあ……くすぐったーーひゃっ!?」

 やろうとすれば抵抗もできるだろうが、急な出来事故か力が入らず、なすがままに舐められ続け、数分の時が経つと興味がなくなったもののようにピタッと舐めることを止め、飽きたからと捨てるかのように涎でベタベタになったエリスを置いてスコル弄りに再び切り替えた。

「はぁはぁ……ま、まさかお酒飲ませたら野生の本能が目覚めるなんて…………でも可愛い獣人が舐めてくれた……いやでもベタベタだし……」

 何かに目覚めかけてるエリスではあるが、彼女にそんな趣味はない。強いて言うならば獣人や動物などモフモフしている物が大好きなだけである。

「ひゃっあっ!ハティ、そこはっぁ!」

 モフモフモフモフモフモフモフモフっと酔ったハティの餌食となっているスコルは先程よりも激しく尻尾や耳、頭を撫でくりまわされ、モフモフな耳をかぷっと甘噛みされていた。

 その結果、滅多に聴けないであろうスコルの色っぽい声が家の中に木霊することとなった。

「スコル~!可愛い~!モフモフ~!大好き~!」

「ハティ~前よりも……酒癖が酷くなってるよ~?」

「そんなことないもん!スコルが可愛いからいけないんだもん!」

「だからって……甘噛みしな……あっやっ!」

「な、なんかこの場がカオスに……」

 双子獣人のハティとスコルがじゃれつ……イチャイチャしてる光景を眺め、エリスは改めてハティには酒を飲ませないと後悔することとなった。

 それから数時間後はしゃぎ疲れたのか、もみくちゃにし茶色の髪の毛やふわふわだった茶色の尻尾が乱れまくっているスコルを、力一杯抱きしめた状態でハティは熟睡していた。

「……エリエリ~ハティにお酒飲ませるとこうなるから気をつけてね~」

「先に言って欲しかったよ……とりあえずベッドまで運ぶよ」

「その前に私を助けて~抜け出せないから~」

 ハティの腕拘束から抜け出せないスコルを助け出した後ハティを二人がかりで寝室のベッドへと運び終わると、精神的にも肉体的にも疲れているはずなのに二人はちょっとした宴会化となった部屋を片付ける。

 終わる頃には星空に浮かぶ満月が天高く上り、日が変わっていることはたしかだった。それ故にその日エリスはハティ宅に泊まっていくこととなるのだった。
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