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二章・魔界ファーステリア編

魔法の知識

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「さ、さてお主らに頼みたいことだが、ここから北に向かい魔力暴走をした輩をここまで連れてきて欲しい」

「魔力暴走?」

「あー、わからないのか……ならば先に教えなくてはな」

 黒紫のワンピースをふわりと踵を返すのと同時に多少舞わせて近くにあったボロボロの棚から一つの二つのコップを取り出し、今にも壊れそうなボロボロの机に置きます。

「主ら魔法のことは知っておるか?」

 というリィールの問に答えたのは唯一魔法を使いこなす鈴ただ一人。他の人は見たことあるだけで使ったことは一切なく知らないと答えるほかありません。

「……なるほどな。では最初から説明しよう。まず魔法。魔法にはいくつかの階級がある。それは追々話すとして、次は魔力……まぁ言わば術者の気力とか血とかそこら辺なのだが、それを消費し魔法を使うことができると把握しておれば良い。魔法の唱え方 は基本的には呪文を唱えることが普通だ。だが熟練者ともなると……ほれ」

 リィールと彼らの間に机があるという状態で魔法の説明が始まり、透き通った肌の華奢な手をコップの上にかざすと小さな魔法陣と共にコップ並々まで水が注がれた。

「この様に無詠唱もできるという訳だ。そして今のは初級のーー」

「水魔法、ウォーターか」

「うむ、まさにその通り。ってお主魔法のことは見たことしかないのではなかったのか?」

「いや、初級っていったし水だからって適当に言ったんだが」

「そ、そうか……まぁよい。して次は魔力の器に関してだ。魔力をその身に溜め込むことができることを言うのだがこれが無ければ魔法は使えん。そしてある者は魔力の器がなく、ある者は魔力の器が底なしの入れ物になっているなど、器は人によっては様々。ここまでは良いか?」

 中々に短な説明ですが、とてもわかりやすい説明。更には水を一杯に入れたコップとからのコップを魔力の器に見立ているかのように説明してるため更にわかりやすい説明となってました。

 だからこそ説明を聞いていた三人は質問なくただ無言でコクリと頷きます。

「物わかりが良くて助かるぞ。……それで本題の魔力暴走だがここまで聞いていたら何となくわかるだろう?」

「……魔力、器、超過……または枯渇」

「正確には超過だ。魔力が超過すると高確率で魔力暴走が始まる。だが普段超過することなどありえない。この言葉の意味がわかるか?」

「つまり魔力が超過するのは誰かが意図を持ってやって成立するってことですか?」

「その通りだ。誰かが魔力をこうして増幅させ器から超過し魔力暴走が起きる。これが魔力暴走の仕組みだ」

 水が一杯に入ったコップに、こぼれる前提で魔法で出てくる水を注ぎ、そう説明します。

 言葉だけでなくこうして見立てて説明するからこそ魔力暴走がどういう事なのかはわかりやすく彼らに伝わります。

「して、この対応だがーー」

 とそれからも魔力暴走の事について説明を受けた後、北の方角へと向かいました。ただ向かったのは陸斗と鈴のみ。乃亜とリィールはボロ家に留まり、魔人のスクルドと龍人のドランは別件があると言ってその場を後にしていました。

「さて北って言ってたけどどこに居るんだ?」

 それから暫くリィールが言っていた通り北に進む彼らですが、ただただ紅く、黒く不気味に笑っているかのような木があちらこちらに生え、今にも動き……いや、本当に不気味な木が動いていました。

 所謂トレントという木の魔物でしょうが、勿論彼等にはわかりません。わかるとするならそこが不気味だという事だけです。

「なんか不気味だな……」

「……いかにも、でそう、土、草生えるゴンドラ?」

「ゴンドラは植物じゃねぇって!それにそれは多分マンドラゴラな!」

 と鈴がいつもの冗談を言ってツッコミが入った時でした。トレントの影からのしり、のしりとゆったりとした歩みで彼らの目の前に現れ、止まることを知らず、まるでゆっくりと獲物を狙う蜘蛛のように陸斗達に向かって歩いていました。

 しかしそれは十メートル以上離れたトレントの影からでてきたモノ。遠くから見るそれはゆっくりと歩く何かにしか見えません。ですがここが魔界という事とその歩みがふらついていることからゾンビではないかと暫定することに。

「マンドラゴラじゃないけどゾンビっぽいのが出てきたな……なんだあれ」

「……ゾンビ……ゾンビ?ゾンビー……」

「ダジャレかなんか考えなくてもいいからな!?」

「……確か、ゾンビ、目からゾンビーム、放つ」

「待て待て、ゾンビームってなんだよ!?てか目からビームを撃つゾンビなんて聞いたこーー」

 と、いつものようなやり取りをしていると“緑の光”が目の前に見えたと思うとヒュッと風を切る音と共に緑色の光線が彼の横を貫きました。

 幸い鈴にも当たることなく怪我はありませんでしたが、後ろにいたトレントの上が焼き切られてるのを見て相当な威力だと見て取れます。

「本当に撃ってきた!?」

「……ちなみにゾンビームに、当たるとゾンビになる」

「そんなこと言ってる場合か!?」

 ゾンビだと思っているモノがいる方向から来たのはすぐわかりましたが、また光が見えたと同時に光線が今度は頭上の空気を貫きます。それもあと数センチ下ならば顔に当たってしまうほどの際どいところを貫いたのです。

 流石に食らってはまずいと逃げの構えを取りつつ様子を伺っていると、陸斗は一つ異変に気づきました。

 それは先ほど現れたゾンビが消えて無くなっていたこと。

 つまりは緑色の光線はゾンビームでもゾンビから発せられたなにかでもなくまた別の者が撃ってきた……と彼は見た瞬間にそう推測していました。

「な、なぁこれは逃げた方が良くないか……?」

「……そうだね」

 流石の威力に当たると死しかないとわかった今、戦わずに逃げようと構えますが、その間にまた一発、また一発と緑色の光線が彼の横や頭上を通り過ぎていきました。

 それでもなおその場から離れる事はできたものの、ビームを撃つ謎のモノは見つけた獲物を絶対に仕留めたいのかビームを撃ちつつ彼等の後をついて行きます。

 一方乃亜はーー
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