死に場所を求めていたら異世界に来ました 〜なんか少女になったりしてるけど、仕方ないのでここで良い死に場所を探します〜

芹澤©️

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上手く死んだ筈……だった

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飼っている猫が死んだ。



それはペットを飼っているならば誰もが避けては通れない事態であり、人の程度によっては日常生活に支障が出る程に悲しみ、嘆く。

しかし、今崖の上から愛猫の遺骨を海へと撒いている清水千秋しみずちあきは、ぼんやりとした視線を海へと向けているものの、その口元は薄らと笑みを浮かべていた。

見晴らしが有名なこの崖には彼女しかいない。それは、シーズンオフというのもあるし、観光するには遅い夕方というのもある。日は海へと沈み薄い線となり、後数分で辺りは真っ暗な闇へ包まれるだろう。そんな時分に観光客などいる筈もない。
彼女は、昼からぼんやりとこの地で過ごし、人が捌けるのを待っていた。ここは馴染みの場所だから、いつ人が居なくなり、関係者が見回りに来るかも大体だが分かっている。

(ばいばい、チー。よく頑張ったね)

人の遺骨ならいざ知らず。ペットの遺骨を撒くには咎められないとはいえ、関係の無い人に迷惑をかける訳にはいかない。そうして、観光客が居なくなる時間まで待って散骨しているのだ。チーと名付けた茶トラの猫で撒くのは5匹目。墓は持たず、行政にも頼まず、亡くなる度にペット専門の火葬場へ行き、骨はここで撒いていた。住んでいた所からは大分距離があるが、絶対ここでと決めていた。

そして今日。

彼女は予め仕事を辞め、部屋を引き払い、荷物を売り、売れない残りをゴミへと出して、幾ばくかの現金と縄、薬と酒をリュックに押しやり、遺骨を大事に持ってここまでやって来た。

ここまでが長かった。遂に、やっと。

(ゴミはごめんなさいね)

買い込んだ酒の一部を飲み干して、座っている所へ置く。既に睡眠導入剤は一箱飲み切った。最後の晩餐は酒とカツサンドだ。酒だけでも良かったのだが、空腹で薬と酒を煽り、吐き戻しては堪らない。それに、カツサンドはまあまあの好物だった。


何故人気のない所でこんな事をしているのかと言うと……端的に言えば、千秋は人生に疲れていた。


(あー、そろそろ良い感じかも? )

だから、生きるのを諦めた。死ぬ事はずっと昔から考えていたが、そこに苦しみや悲壮感などは全く無い。いつも死ぬ手段を考えていた。けれど、何故か猫を拾ってしまう運命にあるのか、千秋の傍には間を開けず猫が居て、死ぬ事は出来なかった。猫は可愛いし、自分が拾った命をおいそれと他人にお願い出来ないし、そもそも千秋は他人を信用していない。なので、飼っている猫を看取ったら……と思い早5匹。まあ、彼女、彼等が幸せであったなら……生きた甲斐もあるというもの。

そうして、千秋はまた帰りに猫を拾ってしまわない様、全てを引き払って今日を迎えた。願わくば、同じ場所へ行けなくとも猫達に一目会えたらと期待を込めて。



ぐらぐらと揺れていた頭が海へと前のめりになった時点で、彼女の意識はそこでぶつんと途切れた。





✴︎





がさがさと近くで草の音がする。

(……? )

未だ微睡む意識の中で、千秋は周囲の音を無意識に知覚し……

「?! 」

驚きのあまり顔を上げた。

「きゃっ! 」

「ちっ、起きやがった」

うつ伏せ状態であまり顔を上げられず、それでも目一杯頭上を見上げると、自分を見下ろす男と女……いや、少女がいた。

(え、待って、嘘でしょ)

2人が何か言っているが、千秋には関係ない。失敗だ。死ぬ事を失敗してしまったのだ。これ程動揺する事は無い。

(あのまま後ろへ倒れてしまったとか? )

確かに崖すれすれに腰掛けていた筈。手摺りは遙か後ろだった。どう転んでも海へ落ちる算段だったのに、何故自分は無事なのか。そして、辺りを見回す千秋は自分の姿にぎょっとする。

「は? 」

もし、勇気が出ずに投身自殺が駄目ならと持って来ていた首吊り用の縄で、彼女は手足を縛られていたのだ。


(えー……意味が分からない……)

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